ミアミラウミウシ

ミアミラウミウシの側面・紫赤黄緑の派手な体色と瘤状突起 ウミウシ類

ミアミラウミウシは、体長70mmになる熱帯・亜熱帯インド西太平洋の裸鰓類です。紫・赤・青・緑・黄が複雑に混じり合う派手な体色と、背中に並ぶ大きな瘤状突起を持つイロウミウシ科の中大型種です。学名は Miamira flavicostata。1940年、日本を代表する裸鰓類学者の馬場菊太郎博士が熊本県天草諸島で採集された個体をもとに新種として記載し、種小名 flavicostata はラテン語で「黄色い肋を持つ」を意味する背面の黄色い隆起線に由来する命名です。日本近海では奄美・沖縄などの南西諸島から伊豆半島まで観察例があり、水中写真の被写体としても取り上げられることの多い種です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:イロウミウシ科 Chromodorididae
  • 属:ミアミラウミウシ属 Miamira
  • 種:ミアミラウミウシ Miamira flavicostata

和名・英名

  • 和名:ミアミラウミウシ
  • 英名:Yellow-ridged nudibranch(黄色い肋のあるウミウシ)
  • 旧学名:Ceratosoma flavicostatum(一時期この属に移されていた時代の学名)

別名と名前の由来

和名の「ミアミラ」は属名 Miamira のカタカナ表記で、属名がそのまま和名として定着した命名です。学名の種小名 flavicostata はラテン語 flavus(黄色)と costatus(肋のある)を組み合わせた造語で「黄色い肋を持つ」を意味し、背面の中央を走る黄色い隆起線(肋)に由来します。属名 Miamira 自体はギリシャ神話由来の造語とされ、他のイロウミウシ科とは形態が異なる本属のグループを表す名前です。1940年、日本を代表する裸鰓類学者の馬場菊太郎(Kikutaro Baba)博士が熊本県天草諸島で採集された個体をもとに新種として記載しました。その後は分類学的検討の中で Ceratosoma 属(ニシキウミウシ属)に移された時期もありました。2010年代の分子系統解析でイロウミウシ科の再検討が行われた際に本種は Miamira 属に戻され、現在に至っています。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約4〜7cm(最大70mm・大型個体では10cmに達することもある)
体色変異に富み紫・赤・青・緑・黄が複雑に混じる/個体差が大きく同じ地域でも色合いが異なる
形態背面正中線上に隆起線があり、数か所が瘤状に大きく膨らむ/二次鰓前方の突起が特に大きい/外套膜の縁は淡黄色
触角・鰓触角(rhinophore)は赤〜橙色/二次鰓は赤色を基調に外側の軸が白色
分布インド西太平洋/日本(南西諸島〜伊豆半島)/熊本県天草諸島(タイプ産地)/南アフリカ/紅海/オーストラリア/インドネシア/パプアニューギニア
生息環境サンゴ礁や岩礁の礁縁/水深5〜30m前後
食性カイメン食(イロウミウシ科の一般的な食性)
寿命数か月〜約1年(イロウミウシ科全般)
保全状況IUCN未評価。分布域では観察例が報告されるものの、決して普通種ではない
ミアミラウミウシの別カット(色バリエ)
Taso Viglas, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

紫赤青緑が混じる派手な体色と瘤状突起

背面を走る黄色い隆起線と瘤

正中線に沿った瘤状の隆起

ミアミラウミウシの背面には、体長方向に走る中央の隆起線(正中線上の隆起)があり、その線上の数か所が瘤状に大きく膨らみます。特に二次鰓の前方にある瘤がもっとも大きく、遠くから見ても本種と分かる目印になります。他のイロウミウシ科の平らな外套膜とは大きく異なる立体的な形状で、本属の識別ポイントです。

黄色の隆起線が種小名の由来

背面の隆起線と体側の隆起は黄色く縁取られ、これが種小名 flavicostata(黄色い肋)の直接の由来です。黄色い隆起が体表を放射状に走る様子は本属を特徴づける模様で、色調のバリエーションが大きい本種の中でも安定して観察できる識別特徴です。

個体差の大きい体色バリエーション

紫・赤・青・緑が混じる複雑な配色

体色は個体によって紫・赤・青・緑・黄が複雑に混じり合い、同じ地域でも色合いが大きく異なる種です。深場の個体は暗い紫赤系、浅場の個体は明るい緑系を帯びる傾向があり、餌となるカイメンの種類や個体の年齢によっても色調が変化すると考えられています。同じ種とは思えないほど姿が違って見える個体差の大きさが本種の特徴の1つです。

赤い触角と白軸の二次鰓

頭部から立ち上がる1対の触角(rhinophore)は鮮やかな赤〜橙色で、体色との対比が強い感覚器官です。体の後方に開く二次鰓(gill)は赤色を基調としつつ外側の軸が白色になる配色で、羽状に開く葉の1枚1枚に赤と白のコントラストが入ります。派手な体色に加えて触角と鰓のアクセントが本種の視覚的な情報量を増やします。

ミアミラウミウシの別カット
Taso Viglas, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

1940年に馬場菊太郎博士が天草で記載

日本の裸鰓類学の父による命名

熊本県天草諸島のタイプ産地

本種は1940年、日本の裸鰓類分類学の第一人者である馬場菊太郎(Kikutaro Baba)博士が熊本県天草諸島で採集された個体をもとに新種として記載しました。馬場博士は日本近海の裸鰓類の分類学的基礎を築いた研究者で、本種以外にも多数のウミウシに学名を与えた「日本の裸鰓類学の父」と呼ぶべき存在です。タイプ産地の熊本県天草諸島は現在も本種の観察地の1つとして知られています。

Ceratosoma属からMiamira属へ復帰

本種は当初 Miamira flavicostata として記載された後、分類学的検討の中で一時 Ceratosoma flavicostatum(ニシキウミウシ属)に移されました。しかし2010年代のイロウミウシ科分子系統解析(Johnson & Gosliner 2012 ほか)で属の再編成が行われ、本種は Miamira 属に戻される結果となりました。Commons上のファイル名などに旧属名 Ceratosoma flavicostatum の表記が残る画像は、この分類変更前に登録されたものです。

ミアミラウミウシの全身
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

インド西太平洋の広域に分布

本種の分布はインド洋から西太平洋に広がる汎存的なパターンで、南アフリカ・紅海・オーストラリア・インドネシア・パプアニューギニア・日本など広範囲から観察例が報告されています。イロウミウシ科の中でも特に分布が広い種の1つで、地域による色調バリエーションを持つ点でも汎存種の特徴を示します。日本近海では熊本県天草諸島のタイプ産地のほか、奄美大島・沖縄本島・八重山諸島などの亜熱帯サンゴ礁域から伊豆半島など温帯の岩礁域まで幅広く観察されています。

ミアミラウミウシ(静岡県伊豆の観察例)
Izuzuki Diver, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons(静岡県伊豆)

カイメン食のイロウミウシ科大型種

ミアミラウミウシはイロウミウシ科の一員として、サンゴ礁や岩礁のカイメン(海綿)を食べて暮らします。餌のカイメンから取り込んだ二次代謝物質を体内に蓄え、瘤状に大きく膨らむ背中の突起が「危険な餌」を強調するように働く化学防御を持つと考えられています。極端に派手な体色と瘤状突起は、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と見られる姿で、色鮮やかなイロウミウシに共通する戦略に沿った配色です。水深5〜30m前後の岩の側面やサンゴ礁の礁縁で、餌のカイメン周辺で観察されます。

雌雄同体で白い螺旋卵塊を産む

裸鰓類の例にもれず、ミアミラウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には天草諸島〜南西諸島の礁縁に白いリボン状の卵塊を渦巻状に貼り付け、瘤状の派手な外見に反して卵塊は他のイロウミウシと大差ない地味な白色です。孵化したベリジャー幼生は数週間漂流した後、水深5〜30mのサンゴ礁縁で着底し、稚ウミウシは瘤状突起がまだ低く、体色の紫赤青緑黄の複雑な混色は成長とともに徐々に現れます。寿命は短く、水深5〜30mの礁縁で個体差の大きい色姿を1年ほど見せた後に姿を消すのがミアミラウミウシの生活史で、同じ地域でも観察のたびに色合いが違う個体に出会える一因になっています。

背に瘤状突起を並べるミアミラウミウシ属の近縁種

ミアミラウミウシ属(Miamira 属)はインド太平洋を中心に約10種が知られる小さなグループで、いずれも背面に瘤状の突起を持つ立体的な形態が共通します。日本近海には本種のほかにミアミラ・シヌアタ Miamira sinuata(旧 Ceratosoma sinuatum、日本の古い図鑑では「ミアミラウミウシ」の和名で呼ばれた時代あり)や、Miamira magnifica などが分布します。本種は黄色い隆起線と紫赤緑の複雑な体色の組み合わせで、属内でも識別しやすい種です。

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Johnson & Gosliner (2012) 改訂と瘤状突起に集まる防御物質

Chromodorididae の分子系統に基づく属の並べ替え

本種を含むイロウミウシ科(Chromodorididae)は、外套膜の派手な色柄をもつ種を数多く抱えるグループですが、色柄が似ているために古くは属分けが混乱していました。Johnson と Gosliner による2012年の研究(Zoological Journal of the Linnean Society 掲載)では、ミトコンドリアDNAと核DNAを併用した分子系統解析に基づいて Chromodoris や Glossodoris に混在していた系統が整理され、複数の属が新たに立てられました。この改訂により Ceratosoma 属や Miamira 属を含む諸属の分子系統上の位置づけも見直され、以後の図鑑や論文で用いられる分類配列に影響を与えたとされます。

notal ridge に集中する消化腺と防御物質

体表に並ぶ瘤状の突起(notal ridge)は単なる装飾ではなく、内部に消化腺の分岐と防御物質を蓄える細胞群が集まっていると考えられています。イロウミウシ類は餌の海綿から取り込んだテルペン系化合物を体内に転流し、外套膜辺縁の細胞塊(mantle dermal formations, MDF)に集約する仕組みが知られていますが、Miamira 属や Ceratosoma 属では突起部そのものが天敵に対する「差し出し口」となり、噛みつかれても本体への被害が最小限で済むよう働くとする見方も示されています。派手な体色は、この突起部の化学防御に対する警告色として説明されるのが一般的です。

参考

画像出典

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