オニイトマキエイ

魚類

オニイトマキエイは、体の横幅が6mほどになる世界最大のエイです。外洋を回遊し、深さ1,000mを超えて潜ります。沖縄美ら海水族館では「ジャイアントマンタ」の名前で展示されています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:軟骨魚綱 Chondrichthyes
  • 亜綱:板鰓亜綱 Elasmobranchii
  • 目:トビエイ目 Myliobatiformes
  • 科:イトマキエイ科 Mobulidae(トビエイ科に含める資料もある)
  • 属:イトマキエイ属 Mobula
  • 種:オニイトマキエイ Mobula birostris (Walbaum, 1792)

和名・英名

  • 和名:オニイトマキエイ(鬼糸巻鱝)
  • 英名:Giant oceanic manta ray/Giant manta ray
  • 通称:マンタ、ジャイアントマンタ
  • 沖縄での呼び名:ガマーカマンタ

頭の左右に突き出た「糸巻き」

イトマキエイという名は、頭の左右に突き出たひれが糸巻きを連想させることに由来します。このひれは頭鰭(とうき)と呼ばれ、コウモリの耳のような形をしています。英名の devil fish は、胸びれを広げた姿から付きました。

オニイトマキエイは、これに大きなものを指す「鬼」が付いた名前です。ただし「鬼」が何を指すのかをはっきり書いた辞典や論文は見つかりません。

オーストラリア博物館に展示された若いオニイトマキエイの標本。頭の左右に頭鰭が突き出る
Xyxyzyz, CC0, via Wikimedia Commons

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体盤幅(体の横幅)は最大約7m。910cmという報告もある
体重記録された最大は約3トン
生まれたとき体盤幅1.2〜2m
分布世界の熱帯から温帯の外洋。日本では南日本の沿岸と小笠原諸島
生息環境外洋の表層が中心。1,246mまで潜った記録がある
食べ物動物プランクトン。餌の多くは深い層に由来する
繁殖卵胎生(卵が母親の体内でかえる)。1回に1尾を産む
成熟・寿命メスは推定8.6歳で成熟。最大45年と推定されている
保全状況IUCN:EN(危機)。ワシントン条約の附属書II

体の横幅7m、世界でいちばん大きなエイ

大人4人が横に並んだくらいの幅

IUCNの評価書は、オニイトマキエイを現生で最大のエイとし、体盤幅は最大700cmとしています。910cmという報告も残っていますが、こちらは逸話的な記録の扱いです。体盤幅7mは、身長170cmの大人が4人、横に寝て並んだ長さにあたります。

体重は、記録された最大が約3トンです。軽自動車3台分ほどの重さです。オスは体盤幅350〜400cm、メスは380〜500cmで大人になります。

ダイバーと並んで泳ぐオニイトマキエイ。人の何倍もの体盤幅がある
Elias Levy, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

前を向いた口と、水を集める頭鰭

多くのエイは口が体の下面にありますが、マンタの仲間は頭の前端に口が開きます。泳ぎながら餌を取る暮らしに合った形です。

口の両側にある頭鰭は、普段は巻いた状態で、餌を取るときに広がります。フロリダ自然史博物館は、この頭鰭が水とプランクトンを口へ導くと説明しています。長さは、付け根の幅の2倍ほどです。

下あごにだけ並ぶ18列の歯

歯は下あごにだけ、18列ほど並びます。餌を噛むためではなく、交尾のときにオスがメスの胸びれをくわえるのに使われます。

刺す棘を持たない尾

エイには、尾に鋭い棘を持つ種類が多くいます。沖縄美ら海水族館によると、オニイトマキエイとナンヨウマンタには、その棘が突き出ていません。尾の付け根の膨らんだ部分に痕跡が残るだけで、体の外には出ていないとされます。

深さ1,246mまで潜り、深い層のプランクトンを食べる

鰓で漉し取るプランクトン食

餌は小さな動物プランクトンで、時には小魚も食べます。口を開けて泳ぎ、鰓に並ぶ櫛状の器官で水から餌を漉し取ります。プランクトンが濃く集まる場所には、50個体ほどが集まることもあります。

餌が多い場所では、同じ所で宙返りをするように回りながら食べ続けます。

腹側から見たオニイトマキエイ。5対の鰓孔と、体に付いたコバンザメが見える
Alicia Christman, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

餌の73%が深い層から来る

体の成分から食べ物をたどった研究があります。筋肉に含まれる炭素には、重さの違う種類(同位体)があります。その割合は、海面近くのプランクトンだけを食べた場合と合いませんでした。

計算では、餌のうち表層のプランクトンが平均27%、中深層に由来するものが73%を占めました。昼間に海面で群れを見かける魚が、食事の多くを暗い深さに頼っていることになります。

記録された最深は1,246m

発信器を付けた調査で、オニイトマキエイは1,246mまで潜った記録があります。ナンヨウマンタの最大記録は672mなので、その倍近い深さです。普段は表層で過ごし、500mを超える潜水は特別な行動として扱われます。

深い所は水温が下がり、体温も奪われます。それでも潜るのは、深い層の餌と関わりがあると考えられています。

外洋を回る暮らしと、1尾だけ産む繁殖

1,151kmを泳いだ追跡記録

メキシコ沖で行われた衛星追跡では、1個体が発信の止まるまでに1,151kmを泳ぎました。追跡できた個体の平均は368kmです。一方で、標識を付けた場所から離れた距離は最大116kmでした。

広い範囲を動きながらも、同じ海域に長く留まる個体もいます。

外洋の青い水の中を泳ぐオニイトマキエイ
Dan Bender, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

腹の斑点で個体を見分ける

腹側には黒い斑点が散らばり、その並び方は個体ごとに違います。八重山諸島や小笠原諸島では、ダイバーの写真をもとに、この斑点で個体を識別する調査が行われてきました。写真から個体を見分ける方法は、各国の研究で広く使われています。

1尾だけ産み、育つまでに10年近くかかる

体盤幅1.2〜2mで生まれる子

卵は母親の体内でかえり、子は育ってから生まれます。この産み方は卵胎生と呼ばれます。生まれる子は1回に1尾で、そのときの体盤幅は1.2〜2mです。

メスが8.6歳で成熟し、寿命は45年の推定

メスが大人になる年齢は、推定で8.6歳です。餌の量によっては、初めての妊娠が4年ほど遅れることもあります。寿命は最大45年、世代の長さ(親になる平均の年齢)は29年と見積もられています。

これらの数値は、近縁のナンヨウマンタの調査をもとにした推定です。オニイトマキエイ自身を長く追った実測ではありません。

体に残るサメの噛み痕

大きさと泳ぐ速さのため、成魚を襲える相手は多くありません。イタチザメやシロシュモクザメ、オオメジロザメ、シャチなどが捕食者として挙げられます。命に関わらない噛み傷はよく見られ、大人の個体の多くが襲われた痕を残しています。

ナンヨウマンタとの見分けと、2010年の和名変更

口の色と背中の模様で見分ける

日本の海には、マンタと呼ばれる大型のエイが2種います。沖縄美ら海水族館は、水槽の2種を見分ける手掛かりを3つ挙げています。

見るところオニイトマキエイナンヨウマンタ
体の横幅最大6mに達する最大4m
口の周りの色黒い白い
背中の模様T字型V字型
海面近くを泳ぐオニイトマキエイを背中側から見たところ。肩に白い模様がある
ecovore, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

2種を並べて見られる水族館は多くありません。美ら海水族館は2020年の記事で、2種のマンタを同時に展示しているのは当館だけだとしています。

水族館の「マンタ」が2種に分かれた日

2009年、海外の研究者がマンタを2種に分ける論文を発表しました。これを受けて沖縄美ら海水族館と大阪海遊館は、採集記録の35個体を調べ直しました。調べたのは、斑紋のパターン・口の周りの色・歯の並び・楯鱗(じゅんりん)と呼ばれる皮膚の鱗の形です。その結果、日本の南の沿岸に2種がいると確かめられました。

2010年、この調査に加わった研究者らが、小さいほうに「ナンヨウマンタ」という和名を提唱します。同じ年の8月、海遊館は飼育中の個体の名前をオニイトマキエイからナンヨウマンタへ変えました。美ら海水族館とエプソン品川アクアスタジアムも同じ変更を行っています。

2017年に消えた「オニイトマキエイ属」

学名のほうは、その後さらに動きました。ミトコンドリアDNAと核DNAを調べた2017年の研究が、その引き金です。マンタ2種を含めないイトマキエイ属は、まとまりとして不自然だと分かりました。2種はイトマキエイ属 Mobula に移され、Manta という属名は使われなくなりました。

鰓板の取引と、87年で半分以下になった個体数

IUCNはEN(危機)と評価

IUCNは2020年の評価で、オニイトマキエイをEN(危機)としました。3世代にあたる87年の間に、個体数が50〜79%減ったと推測しています。

※ IUCNレッドリストとは、世界の野生生物の絶滅のおそれを評価した国際的なリストです。ENは、絶滅のおそれが2番目に高い区分にあたります。

1990年代から増えた鰓板の需要

マンタの仲間は、肉や皮・肝油のほか、鰓板を目当てに漁の対象とされてきました。鰓板は、餌を漉し取る鰓の器官を乾かしたものです。1990年代以降にこの需要が伸び、各地で漁が増えたと報告されています。

漁のほかに、まぐろ漁などの網にかかる混獲も減少の要因です。成熟が遅く、1回に1尾しか産まない繁殖では、減った分を取り戻すのに長い時間がかかります。

取引の規制と、生きたマンタの価値

2013年3月のワシントン条約締約国会議で、マンタ類を附属書IIに載せることが決まりました。附属書IIは、国際的な取引に許可が必要な種のリストです。18か月の準備期間を置き、2014年9月14日から実際の規制が始まっています。渡りをする動物を守るボン条約でも、2011年からリストに掲載されています。

生きたまま見せる観光の価値も試算されています。世界のマンタ観光で、潜水事業者が得る直接の収入は年7,300万ドル以上と見積もられました。周辺の支出まで含めると、年1億4,000万ドル規模の産業になります。

日本で会えるのは沖縄の海と水族館

「黒潮の海」大水槽の4.6mの個体

沖縄美ら海水族館は、2018年11月15日に「黒潮の海」大水槽でオニイトマキエイの展示を始めました。翌2019年2月には健康管理のため展示を中止し、海上のいけすで飼育を続けています。2020年に展示を再開し、そのときの個体は横幅4.6mでした。

沖縄周辺と小笠原諸島の海

野生の個体は、沖縄周辺や小笠原諸島でダイビングの対象になっています。美ら海水族館の生き物図鑑は、外洋性で沖縄沿岸での発見例は少なく、生態や繁殖の知見もほとんどないとしています。日本の海で確実に会える魚ではありません。

ナンヨウマンタ
ナンヨウマンタは、太平洋やインド洋の熱帯・亜熱帯のサンゴ礁で暮らす、体盤幅3〜3.5mの大型のエイです。日本の水族館で「マンタ」として展示されているのは多くの場合この種で、沖縄の八重山諸島でもダイビングで出会える機会の多い、南の海を代表する...

参考

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