ケガニ

甲殻類・軟体動物

ケガニは、北日本からベーリング海にかけての冷たい海底で暮らす、全身を短い毛に覆われたカニです。北海道の代表的なカニですが、成長が遅いため甲長8cm以上のオスだけが水揚げされます。

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  1. 分類と学名
    1. 分類階層
    2. 和名・英名
    3. 和名も英名も「毛」に由来
  2. 大きさ・分布などの基本データ
  3. 全身を覆う「毛」は、甲羅から生えた剛毛
    1. 哺乳類の毛とは別の構造
    2. 毛が生えている理由には複数の説
  4. オスは縦長、メスは丸い甲羅
    1. 甲長12cmほどの、ずんぐりした体
    2. 甲羅の形で分かるオスとメス
    3. オレンジ色から、次第に黒ずむ殻
  5. 水温15℃以下の砂泥底で、海底の小動物を食べる
    1. 冷たい海の砂や泥の上
    2. ゴカイや貝を食べ、春には共食いも
    3. オオカミウオやミズダコに狙われる
  6. 漁獲サイズまで5〜6年、ゆっくり育つ
    1. ゾエアからメガロパを経て、海底へ
    2. 脱皮は1年目に最も多く、年を追って減る
      1. 飼育では満4年で甲長82mm
      2. 天然ではさらに遅く、満5〜6年以上
  7. 交尾から子がかえるまで2年以上かかる繁殖
    1. 交尾と産卵は別の時期
    2. 卵を抱く1年余り、メスは脱皮しない
      1. 3万〜6万粒の卵を腹に抱える
      2. 飼育下で見た交尾・産卵・脱皮の周期
  8. 甲長8cm以上のオスだけを獲るケガニ漁
    1. メスと小さなオスは海へ戻す
    2. かごの網目11.5cm、稚ガニを逃がす漁具
    3. 季節ごとに産地が移る漁期
    4. 肥料から缶詰、そして高級食材へ
  9. クリガニとの見分け方と、水族館で見られる姿
    1. 五角形に近い甲羅なら、クリガニ
    2. 北の海を扱う水族館の水槽で
    3. ズワイガニ、タラバガニと並ぶ北のカニ
  10. 参考
  11. 画像出典

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目 Decapoda
  • 下目:短尾下目(カニ下目) Brachyura
  • 科:クリガニ科 Cheiragonidae
  • 属:ケガニ属 Erimacrus
  • 種:ケガニ Erimacrus isenbeckii (J. F. Brandt, 1848)

和名・英名

  • 和名:ケガニ(毛蟹)
  • 別名:オオクリガニ(大栗蟹)
  • 英名:Horsehair crab/Hair crab

和名も英名も「毛」に由来

和名は、体に短い毛が密に生えることに由来します。英語でも毛に着目して、horsehair crab(馬の毛のカニ)や hair crab と呼ばれます。ケガニ属に含まれるのは、世界でこの1種だけです。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ甲長(甲羅の縦の長さ)は最大約12cm。オスのほうが大きい
重さ大きな個体は1kgを超えることがある
分布日本海と茨城県以北の太平洋から、オホーツク海・ベーリング海西部を経てアラスカ沿岸まで
生息環境水深30〜200mほどの砂や砂泥の海底。水温15℃以下の冷たい海
食べ物ゴカイの仲間・貝・ほかの甲殻類・小魚など、海底の小動物
天敵オオカミウオ、ミズダコなど
成長天然では甲長8cmになるまで満5〜6年以上かかる
保全状況IUCN:未評価(NE)

全身を覆う「毛」は、甲羅から生えた剛毛

哺乳類の毛とは別の構造

ケガニの甲羅と脚には、短い毛と棘がびっしり並びます。この毛は甲殻類の体の表面から生えた突起で、専門用語では setae(剛毛)と呼ばれます。皮膚の毛根から伸びる哺乳類の毛とは、でき方が全く違います。剛毛は殻の一部なので、脱皮のときには古い殻と一緒に脱ぎ捨てられます。

水槽の中のケガニを斜めから見た姿。脚にも短い毛と棘が密に生えている
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

毛が生えている理由には複数の説

ケガニになぜ毛があるのかは、はっきり分かっていません。「水の流れを感じ取るため」や「保護色で外敵から身を守るため」など、いくつかの説があります。

甲殻類の剛毛には、一般に水の振動や流れを感じる働きがあるとされます。水に溶けたにおいや味を捉える毛もあります。ただし、ケガニの毛のどれが何を感じているかを確かめた研究は多くありません。

オスは縦長、メスは丸い甲羅

甲長12cmほどの、ずんぐりした体

成体の甲長は10〜12cmほどで、甲羅は大人の手のひらほどの大きさです。わずかに縦長の円形の甲羅には、のこぎりの歯のような棘が並びます。棘の数は両眼の間に4本、側面に7本です。

歩くための脚(歩脚)は太く、甲羅と同じく毛と棘に覆われます。はさみのある脚(鋏脚)も歩脚と同じくらいの太さで、長さは歩脚より短めです。脚の長いズワイガニやタラバガニと比べると、脚が短く胴の詰まった体つきをしています。

かごの中のケガニを真上から見た姿。丸みのある甲羅と太く短い脚がわかる
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

甲羅の形で分かるオスとメス

オスの甲羅が縦長の楕円形なのに対し、メスの甲羅は幅が広く円形に近く、背中側も強く膨らみます。体の大きさでは、オスがメスを上回ります。

オレンジ色から、次第に黒ずむ殻

生きたケガニの体は、淡い赤褐色からオレンジ色をしています。脱皮の後は、時間がたって体の回復が進むにつれて殻が黒ずみます。

甲羅が硬く、身の詰まった個体は「堅ガニ」と呼ばれます。ケガニの漁獲量が日本一とされる北海道枝幸町の漁では、この堅ガニだけを選んで出荷しています。

水温15℃以下の砂泥底で、海底の小動物を食べる

冷たい海の砂や泥の上

ケガニは、水深30〜200mほどの砂や砂泥(泥の混じった砂)の海底で暮らします。北海道では水深150mより浅く、水温15℃以下の場所に多く分布します。

暮らす深さは地域で変わり、岩手県沖では水深150〜300mに生息しています。冬から春は水深170m付近を境に、オスが浅い側に、メスが深い側に分かれます。交尾の時期が近づくと、雌雄は同じ深さに集まります。

砂の上を歩くケガニ。背後をエビが泳いでいる
harum.koh from Kobe city, Japan, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

ゴカイや貝を食べ、春には共食いも

食性は肉食で、ゴカイの仲間(多毛類)や貝、ほかの甲殻類や小魚など海底の小動物を捕らえます。10〜12時間のうちに3〜4回食事をするという観察があります。春には共食いもよく起こります。

オオカミウオやミズダコに狙われる

天敵には、オオカミウオやミズダコが挙げられます。どちらも北の冷たい海の底で暮らす、大型の捕食者です。

オオカミウオ
オオカミウオは、北太平洋の冷たい海に生息する体長1m前後の大型底生魚です。学名は Anarhichas orientalis。スズキ目オオカミウオ科オオカミウオ属に分類され、鋭い犬歯と頑丈な臼歯を組み合わせた強力な歯で貝類・ウニ・甲殻類を砕...
ミズダコ
ミズダコは、世界でいちばん大きなタコです。腕を広げると3〜5mに達し、北の冷たい海に暮らします。その名は、柔らかく水っぽい身にちなむそうです。日本では北海道を中心に、刺身やたこしゃぶなどで親しまれる食材でもあります。分類と学名分類階層界:動...

漁獲サイズまで5〜6年、ゆっくり育つ

ゾエアからメガロパを経て、海底へ

ケガニの子は、北海道では春の4月ごろに卵からかえります。かえったばかりの幼生はゾエアと呼ばれ、大きさは1mmもありません。海中を漂いながら脱皮を重ね、6月までにカニの形に近いメガロパ幼生へ姿を変えます。

メガロパがもう1回脱皮すると、親と同じ形の稚ガニになります。7月上旬には甲の長さ5mmほどの子ガニとなって、海底での暮らしを始めます。噴火湾のホタテの養殖かごで見つかる小さなケガニは、この時期のものです。

脱皮は1年目に最も多く、年を追って減る

※ 脱皮成長とは、硬い殻を脱ぎ捨て、新しい殻が固まる前に体を大きくする育ち方です。カニやエビは、脱皮のたびに段階的に大きくなります。

飼育では満4年で甲長82mm

北海道には、稚魚や稚ガニを育てる栽培センターがあります。そこでの飼育では、甲長4.5mmの子ガニが1年目だけで8回脱皮し、36mmに達しました。2年目からは脱皮の回数が減り、4年目に82mmまで育っています。漁獲できる甲長80mm以上になるまでに、13回以上の脱皮が必要だった計算です。

天然ではさらに遅く、満5〜6年以上

海で育つケガニは飼育個体より成長が遅く、満4年で甲長73mmほどです。満5年を過ぎると脱皮は2年に1度となり、漁獲サイズに届くまで満5〜6年以上かかります。本州の沿岸に多いガザミ(ワタリガニ)と比べても、かなり遅いとされます。岩手県沖で調べられた年齢と大きさは、次のとおりです。

年齢甲長体重
3歳5.5cm82g
4歳6.5cm135g
5歳7cm180g
6歳7.5cm250g
水槽の石の上に並ぶ2匹のケガニ
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

交尾から子がかえるまで2年以上かかる繁殖

交尾と産卵は別の時期

タラバガニは交尾と産卵を同時に行いますが、ケガニは交尾の8〜10か月後に産卵します。メスは脱皮した直後に交尾し、オスから受け取った精子を体内の袋(貯精嚢)に蓄えておきます。

釧路や十勝の海では、8月から2月にかけて雌雄が抱き合ったままの姿がよく見られます。8〜11月に抱かれているのは産卵を経験した年長のメスで、12〜2月は初めて産卵する若いメスです。

卵を抱く1年余り、メスは脱皮しない

3万〜6万粒の卵を腹に抱える

卵は1回に3万〜6万粒で、メスは腹の脚(腹肢)に抱えて守ります。産卵から約1年4か月後の4月に、卵はかえります。

飼育下で見た交尾・産卵・脱皮の周期

飼育下の観察では、生後2年11か月ごろの1月に脱皮したメスが、すぐに初めての交尾をします。その年の11〜12月に産卵し、抱いた卵がかえると、1〜5か月のうちに再び脱皮して2回目の交尾に進みます。1回目から2回目の交尾までの2年2〜6か月、メスは脱皮しません。

雌雄とも、甲長5cmほどになる2〜3歳ごろから繁殖に加わります。ただしメスは卵を抱えている間に脱皮できないため、オスより成長が遅れます。

甲長8cm以上のオスだけを獲るケガニ漁

メスと小さなオスは海へ戻す

北海道でも岩手県でも、メスと小型のオス(甲長8cm未満、岩手県は8cm以下)の漁獲が禁じられています。

成長が遅く、メスは一度の産卵に2年以上をかけるため、獲りすぎると数が回復しにくくなります。この規制により、海にいるケガニの量(資源)を残せただけでなく、水揚げ金額も増えたとされます。

かごの網目11.5cm、稚ガニを逃がす漁具

ケガニ漁の主な漁具は、「けがにかご」と呼ばれるかごです。稚ガニを守るため、かごの網目は3寸8分(11.5cm)以上と決められています。餌にはスルメイカや、キュウリウオという魚が使われます。

オホーツク海の枝幸町では、1隻が約1,500個のかごを沈めます。揚げたケガニは船の上で選別されます。メスや小さなカニ、殻の柔らかいカニは、その場で海へ戻されます。

季節ごとに産地が移る漁期

漁期は地域ごとに決まっており、北海道全体ではほぼ一年中どこかで水揚げがあります。

地域漁期
宗谷2〜5月
網走(オホーツク海)3〜8月
胆振(噴火湾)6〜8月
十勝・釧路1〜3月、8〜12月
日高12月〜翌4月
岩手県12月〜翌3月

オホーツク海では、流氷が去る3月中旬の「海明け」を待って漁が始まります。この海域では、水産試験場の調査をもとに漁獲量の上限が決められています。

函館朝市の生け簀に入れられた生きたケガニ
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

肥料から缶詰、そして高級食材へ

1910年代の日本では、ケガニは漁獲されても食べられず、肥料にされていました。1930年代に缶詰への加工が広まると、食用としての価値が高まりました。

漁獲量は1950年代に2万7,000トンの最盛期を迎えました。その後は減り続け、2003年には最盛期の10分の1以下の2,000トンになりました。資源を支えるため、卵を抱えたメスからかえした子を稚ガニまで育てて放流する取り組みも行われています。

クリガニとの見分け方と、水族館で見られる姿

五角形に近い甲羅なら、クリガニ

ケガニとよく似たカニに、同じクリガニ科のクリガニがいます。大きさや毛の生えた姿は似ていますが、甲羅の形で見分けられます。

ケガニクリガニ
甲羅の形わずかに縦長の円形両側が横に尖り、五角形に近い
暮らす深さ水深30〜200mほどケガニより浅い海
メスの漁獲禁止メスも食用にされる

クリガニは朝鮮半島の東岸や北海道東部から、アメリカのカリフォルニア州沿岸まで分布します。浅い海で暮らすため、餌を入れたかごを投げ入れて、しがみついた個体を獲る漁法もあります。

北の海を扱う水族館の水槽で

生きたケガニは、北の海を扱う水族館で展示されることがあります。福島県のアクアマリンふくしまでは、「親潮アイスボックス」の展示の生き物として紹介されています。水槽では、淡い赤褐色の体に並ぶ毛と棘がよく目立ちます。

水槽の石の上で脚を広げる生きたケガニ
Searobin, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ズワイガニ、タラバガニと並ぶ北のカニ

ケガニは、ズワイガニやタラバガニと並ぶ北の海の重要なカニです。タラバガニはカニと呼ばれますが、分類上はヤドカリの仲間に当たります。

ズワイガニ
松葉ガニ・越前ガニと呼ばれるズワイガニは、ヤドカリに近いタラバガニと違い正真正銘のカニ。脚が10本の理由、オスとメスで名前が変わるわけ、深海での暮らしまで。
タラバガニ
「カニの王様」タラバガニは、実はカニではなくヤドカリに近い仲間。あしが8本に見える理由、ズワイガニとの違い、アブラガニとの見分け方まで。
カニ【総合】
横歩きや大きなはさみで知られるカニの仲間を、まとめて紹介します。10本のあし・エラ呼吸・脱皮などの体のしくみから、カラッパ・ワタリガニ・シオマネキなど科ごとの代表種、タラバガニがヤドカリの仲間である話まで、日本のカニを図鑑としてまとめます。

参考

画像出典

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