タツノオトシゴは、馬のような頭を持ち、体を立てて泳ぐ変わった魚です。うろこの代わりに骨の板をまとい、巻きつく尾で海草につかまって暮らします。もっとも知られているのが、メスではなくオスが子を産むという不思議な習性です。竜の落とし子という名のとおり、その姿は昔から縁起のよい生きものとして親しまれてきました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:条鰭綱 Actinopterygii
- 目:トゲウオ目 Syngnathiformes
- 科:ヨウジウオ科 Syngnathidae
- 属:タツノオトシゴ属 Hippocampus
- 種:タツノオトシゴ Hippocampus mohnikei(日本の代表種)
和名・英名
- 和名:タツノオトシゴ(竜の落とし子)
- 英名:Seahorse
名前の由来と「何類」なのか
属名の Hippocampus は、ギリシャ語で「馬」と「海の怪物」を合わせた言葉です。馬に似た頭の形が、そのまま名前になっています。和名の「竜の落とし子」も、伝説の竜の子を思わせる姿に由来します。見た目からは想像しにくいものの、タツノオトシゴは背骨を持つれっきとした魚の仲間です。同じヨウジウオ科には、細長いヨウジウオや、海藻そっくりのシードラゴンも含まれます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約1.5〜35cm(種によって差が大きい) |
|---|---|
| 分布 | 世界の暖かい浅い海(日本では各地の沿岸) |
| 生息環境 | 海草の茂み・サンゴ礁・岩場など |
| 食べもの | 小さな甲殻類(アミやプランクトンなど) |
| 寿命 | およそ1〜5年(種による) |
| 仲間の数 | タツノオトシゴ属で約46種 |
魚には見えない体

立って泳ぐ変わった魚
馬のような頭と直立の姿勢
タツノオトシゴは、頭を体と直角に曲げ、まっすぐ立った姿勢で過ごします。ほかの魚のように横向きではなく、縦になって泳ぐのが大きな特徴です。この立ち姿は、細長い海草の茂みにまぎれて身を隠すのに向いています。左右の目は別々に動き、あちこちを同時に見張れます。まるでカメレオンのような目。長い管のような口を海中に向け、じっと獲物を待ちかまえます。獲物を見つけると、口をすばやく振り上げて一瞬で吸い込みます。
尾びれのない遅い泳ぎ
多くの魚が持つ尾びれを、タツノオトシゴは持っていません。その代わり、背中の小さなひれを1秒間に30回以上もふるわせて進みます。胸のわきのひれで向きを変えますが、泳ぐ速さはとてもゆるやかです。世界でもっとも泳ぎの遅い魚の一つとされ、嵐の日に疲れ果てて命を落とすこともあります。
うろこのない鎧と巻きつく尾
骨の板でできた輪
タツノオトシゴの体には、ふつうの魚のようなうろこがありません。代わりに、骨でできた硬い板が輪のように並び、鎧のように体を守ります。この輪の数は種によって決まっていて、見分ける手がかりにもなります。頭の上には冠のような突起があり、これも種ごとに形が異なります。この硬い体は乾かしてもくずれにくく、昔から標本や飾りにも使われてきました。
尾で海草につかまる
尾の先には、ものに巻きつけられる力がそなわっています。泳ぎが苦手なぶん、海草やサンゴに尾を巻きつけて体を固定します。潮に流されないよう、しっかりとつかまって獲物を待つのが日々の暮らしです。巻きつく力は強く、流れの速い場所でも同じ海草に何日もとどまります。ときには相手と尾を絡め合い、はぐれないようにする姿も見られます。
色を変えて隠れる
タツノオトシゴは、周りの色に合わせて体の色を変えられます。海草の茂みでは緑がかり、サンゴのそばでは赤や黄に近づけます。住む場所に合わせて、体のトゲを伸ばしたり縮めたりする種も知られています。泳ぎが遅いぶん、見つからないことが身を守る何よりの手立てになっています。
歯も胃もない食べ方
タツノオトシゴには歯がなく、獲物を口で吸い込んでまるのみします。小さな甲殻類やプランクトンを、長い口でストローのように吸い上げます。胃を持たないため食べたものは早く通り抜け、栄養をためておけません。小さな体でも一日に何千匹ものアミを食べることがあり、たえず食べ続けなければ生きていけない体です。
オスが出産する(育児嚢)

メスがオスに卵を預ける
オスの腹にある育児嚢
タツノオトシゴのオスは、腹に「育児嚢」という袋を持っています。繁殖のとき、メスはこの袋の中に卵を産みつけます。オスは袋の中で卵に精子をかけ、そのまま体の中で育てます。卵には酸素や栄養が送られ、まるで母親の子宮のように守られていきます。メスが卵づくりに力を注ぎ、オスが子を守る役目を担うことで、より多くの子を残せると考えられています。
稚魚を「産む」オス
およそ2〜4週間たつと、オスは袋を収縮させて稚魚を外へ産み出します。生まれてくるのは、親を小さくしたような姿の稚魚です。一度に数百から、多いときには千匹をこえる子が放たれます。出産の多くは夜に起こり、オスは数時間のうちに次の卵を受け取ることもあります。生まれた稚魚は、しばらく海面近くを漂って広い海へ散らばります。しかし外にはたくさんの天敵がいて、生き残っておとなになれるのはごくわずかです。
毎朝あいさつを交わすつがい
多くのタツノオトシゴは、決まった相手と長くつがいを組みます。毎朝、つがいはたがいに体の色を変え、尾を絡めて泳ぎ回ります。この短いあいさつのようなふるまいが、二匹の結びつきを保つと考えられています。産卵の前には、数時間から半日にもおよぶ長い求愛のダンスがくり広げられます。
いろいろなタツノオトシゴ(種類)

小さなものから大きなものまで
タツノオトシゴの仲間は、世界に約46種が知られています。もっとも小さなピグミーシーホースは、体長1.5cmほどしかありません。サンゴの小さな突起にまぎれ、色や形までそっくりに似せて身を隠します。あまりに小さく擬態も巧みで、専門家でも見つけるのが難しいほどです。いっぽう、オオウミウマのように35cm近くに達する大型の種もいます。
日本で見られる仲間
日本の沿岸にも、数種のタツノオトシゴが住んでいます。単にタツノオトシゴと呼ばれる種のほか、大型のオオウミウマなどが知られています。よく似た仲間には、細長い体のヨウジウオもいます。海藻そっくりのリーフィーシードラゴンも同じ科の魚で、飾りのような突起で藻に化けます。
人とのかかわり
縁起物と、お守りの意味
「竜の落とし子」の名を持つタツノオトシゴは、古くから縁起物として大切にされてきました。オスが子を産む姿から、安産や子宝のお守りにされることもあるほどです。西洋でも、幸運や忍耐の象徴として、船乗りや装身具のモチーフに使われてきました。海の竜の子という名が、めでたいイメージを長く支えてきました。
漢方薬としての需要
いっぽうで、乾かしたタツノオトシゴは、漢方薬の材料として使われてきました。乾燥したものは高値で取り引きされ、重さあたりで金にも迫るとされます。この需要のために、世界では年に数千万匹ものタツノオトシゴが捕られています。薬用だけでも、年に2000万匹ほどが捕られているという推計もあります。観賞用や土産物としても、多くが海から持ち出されてきました。
数を減らす海の妖精
捕りすぎに加え、海草の茂みが減ったことも数を脅かしています。多くの種が数を減らし、2002年からは輸出入がワシントン条約で見張られるようになりました。飼育もできますが、繊細で餌の世話も難しい魚です。近年は卵から育てる養殖も進み、野生に頼らない道が探られています。
参考
- Wikipedia(英語版)「Seahorse」― 分類・形態・遊泳・食性・オスの妊娠・保全の各節
- Wikipedia(日本語版)「タツノオトシゴ」ほか― 日本産の種と生態
- 各水族館・海洋保全団体の解説― 育児嚢での出産・漢方需要とワシントン条約


