ミツクリザメは、深海で暮らすサメです。世界各地で記録がありますが、その多くは日本の海から得られています。獲物に近づくと、あごが口から前へ飛び出します。飛び出す速さは秒速3mで、あごの突出としては魚類で最も速いとされています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:軟骨魚綱 Chondrichthyes
- 目:ネズミザメ目 Lamniformes
- 科:ミツクリザメ科 Mitsukurinidae
- 属:ミツクリザメ属 Mitsukurina
- 種:ミツクリザメ Mitsukurina owstoni
和名・英名
- 和名:ミツクリザメ(別名:テングザメ/漢字表記:箕作鮫)
- 英名:Goblin shark
名前の由来
和名は、箕作佳吉に捧げられた名前です。箕作は東京大学三崎臨海実験所の初代所長を務めた動物学者でした。学名の Mitsukurina owstoni も、箕作の名と、標本を採集したアラン・オーストンの名を合わせたものです。
英名の Goblin shark は、日本での別名テングザメを訳した名前です。突き出た長い吻を天狗の鼻に見立てた呼び名が、英語では西洋の妖怪ゴブリンに置きかわりました。日本語で「悪魔のサメ」と紹介されることがあるのは、この英名からの訳です。漢字では箕作鮫と書きます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 最大全長 推定540〜617cm |
|---|---|
| 分布 | 世界各地でとびとびに記録。ただし記録のほとんどが日本(駿河湾・相模湾) |
| 生息深度 | 30〜1,300m以深 |
| 食べもの | 深海の甲殻類・頭足類・硬骨魚・ほかのサメ |
| 繁殖 | 卵食型と予想されている/成熟サイズはオス264cm・メス335cm |
| 近い仲間 | ミツクリザメ科はミツクリザメ属1属、現生種は本種のみ |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念) |

秒速3mで飛び出すあご
パチンコ式摂餌
引っ込んだ口と、その射出
普段のミツクリザメの顔は、長い吻の下に口が引っ込んだ形をしています。獲物に近づくと、この口が一瞬で前方へ突き出します。あごごと射出されるような動きで、吻の先に迫るほどの位置まで届きます。
この捕食のしかたは、2008年と2011年に撮影された映像から明らかになりました。世界で初めてのミツクリザメの捕食映像です。沖縄美ら島財団の総合研究センターがNHKと共同で解析し、その結果を2016年に発表しました。研究グループはこの行動を slingshot feeding(パチンコ式摂餌)と名づけています。
魚類で最速とされる突出
解析で測られたあごの突出速度は、秒速3.14mでした。沖縄美ら島財団の解説では、秒速3メートルと紹介されています。魚類のなかでは現時点で最も速い数字です。
突出する距離も全長の9%に達し、サメ類では最大とされています。全長3mの個体なら、27cmほど前へあごが伸びる計算になります。

遅い泳ぎを補う仕掛け
ミツクリザメは、泳ぐ速度が非常に遅いサメと考えられています。体つきは細く柔らかく、ホホジロザメのように水を切って追いかける形ではありません。
追いつけないぶんを、あごの速さで補っているとみられます。研究グループは、素早く突出するあごを、餌の少ない深海で確実に餌を捕らえるための適応と考えています。

長い吻と、ピンク色の体
刃のように平たい吻
ロレンチーニ瓶が並ぶ先端
頭の先に長く伸びた吻は、刃のように平たい形をしています。吻を支える軟骨は柔軟で、よく曲がります。
この吻には、ロレンチーニ瓶という器官が多数備わっています。生き物が出すわずかな電気を感じ取るセンサーです。前へ長く伸びた平たい吻は、その全体が受信面になっています。
海底を探る使い方
この吻は、海底の餌を探すのに役立つとされています。センサーの並んだ面を体の前方へ差し出す形になり、自分が近づく前に周囲を探れると考えられます。
泳ぎの遅いミツクリザメにとって、餌の位置を早く知ることには意味があります。吻で探り、あごを射出して捕らえます。

前と後ろで形の違う歯
口の前半分に並ぶ歯は、細長くとがっています。表面はなめらかで、内側に向かって曲がっています。獲物を突き刺して引っかける形です。
口の後ろ半分の歯は、それより短くなります。カニなどの硬い殻は、この奥歯で噛み砕きます。
ピンク色に見える理由
生きているミツクリザメの体は、薄いピンク色をしています。体色の正体は皮膚そのものの色ではありません。
皮膚がやや透明で、その下を走る血管が透けて見えています。深い海に赤い光はほとんど届かないため、この色が水中で目立つことはないと考えられます。水揚げされた個体の写真で見られる灰色がかった姿は、生きているときの色とは異なります。

分かっていない繁殖
卵食型という予想
ネズミザメ目のサメは、母親の子宮の中で胎仔が未受精卵を食べて育ちます。卵食型と呼ばれる方式で、この目で基本とされる育ち方です。ミツクリザメも卵食型と予想されています。
ただし、これは同じ目のサメからの推測にとどまります。妊娠したミツクリザメが見つかること自体、めったにありません。2023年6月に台湾の宜蘭県沖で捕獲された全長4.7m・800kgのメスからは、胎仔6尾が確認されました。こうした記録が少しずつ積み重ねられている段階です。
成熟までの大きさ
成熟する大きさは、オスで全長264cm、メスで335cmとされています。最大の記録は540〜617cmという推定です。生まれたばかりの個体や、育つ速さについては、ほとんど分かっていません。

相模湾で見つかった「箕作鮫」
1898年の記載
オーストンと箕作佳吉
最初の標本は、相模湾を航行していたアラン・オーストンが採集しました。オーストンは横浜に住み、日本の生き物の標本を扱っていたイギリス人です。標本は三崎臨海実験所へ寄贈されました。
これを新種と確認したのは、アメリカの魚類学者デイビッド・スター・ジョーダンです。発表は1898年でした。学名には、標本を採ったオーストンと、実験所を率いた箕作佳吉の両方の名が残りました。
記録のほとんどが日本
ミツクリザメは世界各地の海でとびとびに報告されます。ただし記録の数でいえば、ほとんどが日本のものです。とくに駿河湾と相模湾では、比較的よく見つかります。
生息水深は30〜1,300m以深とされ、深海の魚としては浅い層にも現れます。沖縄美ら海水族館は、生息深度を水深300〜1,000mと紹介しています。
13匹が網に入った日
2013年11月、相模湾の長井沖でミツクリザメ13匹が刺し網にかかりました。普段は1匹見つかるだけでも珍しいサメです。
このうち11匹が八景島シーパラダイスへ運ばれ、生きた個体の展示が試みられました。しかし11月18日までに、すべての個体が死んでいます。最も長く生きた個体でも5日ほどでした。
水族館で見られる姿
沖縄美ら海水族館は「深海への旅」の水槽で、ミツクリザメの標本を展示しています。2016年に静岡県の焼津沖で漁獲された、全長2.2mのオスです。同館の生き物図鑑は、この種の希少度を5段階の最高に位置づけています。

白亜紀の姿を残すサメ
ミツクリザメは、白亜紀に生きていたスカパノリンクスというサメと、非常によく似た形をしています。長い吻とあごの骨格は、化石に見られる特徴を今も残しています。古いサメの姿を残すことから、生きた化石と呼ばれることもあります。
ミツクリザメ科で現在も生きているのは、ミツクリザメ1種だけです。属するネズミザメ目には、ホホジロザメやウバザメ、メガマウスザメが含まれます。
関連記事



参考
- 沖縄美ら島財団「ミツクリザメの摂食行動の謎解明」(顎の突出速度・パチンコ式摂餌。Nakaya et al. 2016, Scientific Reports の解説)
- 沖縄美ら海水族館 美ら海生き物図鑑「ミツクリザメ」
- IUCN Red List「Mitsukurina owstoni」(LC=軽度懸念)
- ウィキペディア「ミツクリザメ」(分類・形態・発見の経緯・捕獲記録)
画像出典
- JLplusAL, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ)
- Dianne Bray / Museum Victoria, CC BY 3.0 AU, via Wikimedia Commons(あごを突き出した頭部の標本)
- Peter Halasz (Pengo), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(ウィーン自然史博物館の展示標本)
- Kurzon, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(大きさくらべの図版)
- Public domain, via Wikimedia Commons(あごの突出と普段の状態の標本)
- Dianne J. Bray / Museum Victoria, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons(幼魚の標本)
- Peter Halasz (Pengo), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(博物館の展示模型)
- Yzx, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(分布図)


