ヒレナガゴンドウ

鯨偶蹄目(クジラ・ウシなど)

ヒレナガゴンドウは、名前どおり非常に長い胸びれを持つマイルカ科の大型種です。姉妹種のコビレゴンドウ(Globicephala macrorhynchus)と比べて、胸びれが体長の2〜3割にも達するのが最大の識別点となります。雄で体長7.6m・体重4.5トンに達し、マイルカ科のなかではシャチに次ぐ2番目の大きさです。北大西洋と南半球の冷温帯外洋に分布し、日本近海には現在は生息しません。過去には日本近海にも第3の亜種が生息していたと考えられていますが、8〜12世紀の間に絶滅したとされています。フェロー諸島の伝統的追い込み漁「グリンダドロプ」の主要対象種としても知られる、大型のイルカ類です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
  • 下目:ハクジラ下目 Odontoceti
  • 科:マイルカ科 Delphinidae
  • 属:ゴンドウ属 Globicephala
  • 種:ヒレナガゴンドウ Globicephala melas

和名・英名

  • 和名:ヒレナガゴンドウ/鰭長巨頭
  • 英名:Long-finned pilot whale / Pothead whale

別名・学名の由来

属名 Globicephala はラテン語で「丸い頭」を意味し、丸く膨らんだメロン器官の額に由来します。種小名 melas はギリシャ語で「黒」を意味し、全身の黒っぽい体色を表す命名です。英名「Pilot whale」は、群れの先頭を先導する個体(Pilot=水先案内人)がいるという古い観察に由来する呼び名です。「Pothead whale」(壺頭クジラ)は、丸い額が黒い調理鍋(Pot)を思わせることからついた俗称で、姉妹種のコビレゴンドウにも同じ呼び名が使われます。和名の「ヒレナガ」は、姉妹種コビレゴンドウとの対比で名付けられた特徴で、胸びれ(前ヒレ)が体長の18〜27%と長いことに由来します。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 雄 最大7.6m・雌 最大6m/体重 雄 最大4,500kg・雌 最大2,500kg
体色全身が黒〜暗灰色/喉と腹に淡灰色の錨形マーク/背びれ後ろに鞍模様
胸びれ体長の18〜27%と長い/カーブした鎌型
歯数各顎8〜13本(コビレゴンドウより多め)
分布北大西洋(G. m. melas)/南半球の冷温帯(G. m. edwardii)/日本近海には現生しない
生息環境冷温帯の外洋・水深200m以上/夏はやや高緯度へ移動
群れの大きさ20〜150頭が典型/時に1,000頭超の大群
食性頭足類(イカ・タコ)中心/魚類(ニシン・ハダカイワシ)も
繁殖雌8歳・雄12歳で性成熟/妊娠期間12〜16ヶ月/出産間隔3〜6年
寿命雄およそ35〜45年/雌およそ60年
保全状況IUCN:軽度懸念(LC・2018評価)/CITES附属書II

姿の特徴

体長の2〜3割にもなる胸びれ

マイルカ科でシャチに次ぐ2番目の大型

ノルウェー・アンデネス沖に浮上したヒレナガゴンドウ(丸い額と黒い体)
Bouke ten Cate, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ヒレナガゴンドウは、雄で体長7.6m・体重4.5トンに達する大型種です。マイルカ科のなかではシャチ(Orcinus orca)に次いで2番目に大きな種にあたります。雌はやや小さめで最大6m・2.5トンほどですが、それでもゴンドウ属としては大型の部類です。全身は黒〜暗灰色で覆われ、喉と腹に淡灰色の錨形マークが入ります。背びれの後ろには白っぽい鞍模様が入る個体も多く、目の後ろに斜め上へ伸びる細い縞が見られることもあります。名前に「クジラ」がついた種と混同されがちですが、分類上はシャチと同じマイルカ科の一員です。

コビレゴンドウとの見分け

もっとも近縁のコビレゴンドウとは、名前どおり胸びれの長さで区別します。ヒレナガゴンドウの胸びれは体長の18〜27%と長く、大人だと1〜2mにも達します。コビレゴンドウでは体長の約1/6(16%前後)と短めで、これがフィールド識別の第一の手がかりです。歯数もヒレナガは各顎8〜13本と多く、コビレの各顎7〜9本より若干多くなります。分布域は寒暖で棲み分けており、ヒレナガは冷温帯(北大西洋・南半球)を主体とし、コビレは熱帯・亜熱帯が中心です。両種は分布域が一部重なる海域では海上での識別が困難で、目視観察だけでは種を確定できない例もあります。

「深海の司令塔」──母系家族の社会

ノルウェー・アンデネス沖を泳ぐヒレナガゴンドウの群れ(母系の家族群)
Bouke ten Cate, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ヒレナガゴンドウはきわめて社会性が強い種で、通常は20〜150頭の群れで行動します。時に1,000頭を超える大群が形成されることもあります。長期の追跡調査からは、8〜12頭ほどの母系の小社会単位(マトリライン)が組み合わさって群れをつくることが分かってきました。子は雌雄ともに一生を通じて母親のもとに残り、他の群れとの交尾は繁殖期に群れどうしが出会ったときに一時的に行われます。この仕組みが近親交配を避けるうえで役立ってきたと考えられています。仔の世話(アロペアレンタル・ケア)を雄の個体が担う例も報告されており、ハクジラ類の子育て研究のなかでも独特な事例として知られてきました。

ヒトの2倍近くのニューロン

ヒレナガゴンドウの脳は、これまで研究された哺乳類のなかでもっとも多くの新皮質ニューロン(大脳皮質の神経細胞)を持つことが分かっています。その数はヒトのおよそ2倍近くにも達すると報告されており、鯨類の高い認知能力を象徴する形質として注目されてきました。皮膚にも独特の特徴があり、表面には目に見えないほど細かなナノスケールの畝(うね)が並びます。この構造はフジツボの幼生などが付着しにくい効果を生む「自己洗浄」の仕組みと考えられ、生体材料の研究にも応用が期待されています。

シャチとの複雑な関係

シャチを追い払う稀有な種

ヒレナガゴンドウは、鯨類のなかでもきわめて珍しく「シャチを追い払う」行動が観察される種として知られています。アイスランド沖やジブラルタル海峡では、ヒレナガゴンドウの群れがシャチを長距離にわたって追い立てる例が繰り返し報告されてきました。この行動の理由については、餌となる魚やイカをめぐる競合を排除する説と、シャチによる捕食を先手で防ぐ対捕食者行動の説の両方が議論されています。近年アイスランド沖では、シャチの雌がヒレナガゴンドウの新生仔を寄り添って連れている場面も観察され、両種の関係が単純な捕食・被捕食にとどまらない可能性も指摘されています。魚を食べるシャチと哺乳類を食べるシャチで対応が違うという研究も出ており、シャチの生態型の識別能力も本種にはあると考えられています。

2亜種の分布──北大西洋と南半球

赤道で分断された2亜種と絶滅した第3亜種

ヒレナガゴンドウには2つの亜種が知られています。北大西洋亜種(G. melas melas)は米国東岸・カナダ・アゾレス諸島・フェロー諸島・ヨーロッパ西岸〜ジブラルタル・北アフリカ沿岸に広く分布します。南半球亜種(G. melas edwardii)は南緯19〜60度の広大な範囲を回遊し、南極収束線付近まで、南極大陸の海氷近くにも出没する例もあります。2つの亜種は赤道を挟んで分断され、遺伝的にも形態的にも分化が進んでいます。かつては第3の亜種が日本近海の北西太平洋に生息していたと考えられていますが、8〜12世紀の間に絶滅したとされ、化石が北海道・利尻島や千葉県で見つかっています。この空白は、現在ではコビレゴンドウが埋めている状況です。

集団座礁とフェロー諸島の追い込み漁

世界でもっとも座礁しやすい種

ヒレナガゴンドウは、集団座礁(マスストランディング)を起こしやすい鯨類の代表格です。ニュージーランドを中心に、北欧・北米大西洋岸・南米・南部アフリカなど世界各地で大量座礁が繰り返し記録されてきました。過去最大は1918年のチャタム諸島の1,000頭、2017年2月にはニュージーランドのフェアウェル・スピットで600頭超が座礁しました。強い群れの絆が原因の一つと考えられており、一頭が座礁すると仲間が追随してしまう傾向が指摘されています。

フェロー諸島のグリンダドロプ

スペイン領カナリア諸島ラ・パルマ沖のヒレナガゴンドウ群(北大西洋亜種の分布域)
Syrio, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

デンマーク領フェロー諸島では、10世紀ごろから続く伝統的な追い込み漁「グリンダドロプ(Grindadráp)」の主な対象がヒレナガゴンドウです。年により変動しますが、平均して数百頭が捕獲され、地域の食料資源として利用されてきました。近年は国際的な動物福祉団体との議論が続いており、捕獲頭数の記録・調査体制の整備・水銀汚染の健康リスク周知などが進められてきました。フェロー諸島の統計は世界でもっとも詳細な鯨類捕獲データの一つとして、ヒレナガゴンドウの個体群動態や遺伝構造の研究にも活用されています。

保全状況

IUCNレッドリストでは軽度懸念(LC・2018評価)に分類されています。世界の総個体数は北大西洋だけで78万頭前後と推定されていますが、コビレゴンドウとの識別が海上で難しいため、正確な内訳は分かっていません。ワシントン条約(CITES)では附属書IIに掲載されています。主な脅威は、フェロー諸島などでの追い込み漁による捕獲や漁具への混獲です。ほかにも海洋汚染の生物濃縮や船舶衝突などが挙げられます。頂点捕食者として水銀やPCBが組織に蓄積しやすい種でもあり、これが食用にした人体への健康影響として長年議論の対象となってきました。

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参考

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