ガブリエラウミウシ

ガブリエラウミウシの上からの姿・暗緑地に大きな黄斑と羽状鰓 ウミウシ類

ガブリエラウミウシは、体長45mmになる熱帯西太平洋の裸鰓類です。暗緑色から黒に近い体地色に大小の鮮やかな黄色斑を散りばめ、黄色い触角と羽状の二次鰓を持つ、色彩コントラストの強い種です。学名は Tambja gabrielae。2005年、スペインのマルタ・ポラ/フアン・ルーカス・セルベラ/アメリカのテレンス・ゴスライナーの3名が、インドネシアのレンベ海峡とバンダ海で採集した個体をもとに新種として記載しました。種小名 gabrielae は記載者マルタ・ポラの姪ガブリエラ(Gabriela)への献名です。日本では奄美・沖縄などの南西諸島で観察例が報告されているニシキリュウグウウミウシ属の中〜大型種です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:フジタウミウシ科 Polyceridae
  • 亜科:Nembrothinae
  • 属:ニシキリュウグウウミウシ属 Tambja
  • 種:ガブリエラウミウシ Tambja gabrielae

和名・英名

  • 和名:ガブリエラウミウシ
  • 別名:ガブリエラリュウグウウミウシ(属名から派生した通称)
  • 英名:学名 Tambja gabrielae で呼ばれることが多い

別名と名前の由来

和名の「ガブリエラ」は学名の種小名 gabrielae をそのままカタカナ表記した呼び名で、2005年の新種記載時に付けられた学名を和名として採用したパターンの命名です。種小名 gabrielae は記載者マルタ・ポラ(Marta Pola)の姪ガブリエラ・ポラ(Gabriela Pola)への献名で、家族の名前を種名として残した命名です。属名 Tambja はブラジル・トゥピ語(Tupi)由来と言われる語で、「切り抜かれたもの」「まだらな石」など解釈に諸説があり、いずれも鮮やかな色斑の切り抜きのような配色を思わせる語源とされます。1962年にオーストラリアの海洋動物学者ロバート・T・バーン(Robert T. Burn)が設立したニシキリュウグウウミウシ属には約20種が含まれ、いずれもフジタウミウシ科 Nembrothinae 亜科に属する中〜大型の色鮮やかな種です。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約4〜4.5cm(最大45mm程度)
体色暗緑色〜黒に近い地色/背面と体側に大小の鮮やかな黄色(時に橙色)の斑が散在/体の周囲に幅広い黄色帯
触角・鰓触角(rhinophore)は鮮やかな黄色/二次鰓は3本の羽状で黒地に内外の軸が黄色
形態細長い紡錘形/後足は長く尖る/口触手と足底も黄色
分布熱帯西太平洋/インドネシア(タイプ産地レンベ海峡・バンダ海)/スラウェシ/フィリピン/パプアニューギニア/日本(南西諸島)
生息環境サンゴ礁の礁縁・礁斜面/マクロダイビングポイントで観察/水深20m前後
食性コケムシ食(ニシキリュウグウウミウシ属の一般的な食性)
寿命数か月〜約1年(裸鰓類全般)
保全状況IUCN未評価。分布域では観察例があるものの、決して普通種ではない
ガブリエラウミウシの側面・橙色の斑が強い個体
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

暗緑色地に切り抜きのような黄色斑

大小の黄色斑がランダムに散る配色

地色は暗緑〜ほぼ黒

体の地色は暗い緑色から、ほぼ黒に近い深い色まで個体差があります。この暗い地色に鮮やかな黄色(時に橙色に近い)の斑が大小さまざまに散らばる配色が最大の特徴です。斑の大きさや位置は個体によってランダムで、同じ配色パターンを持つ個体は見つかりにくいほど個体差の大きな種です。

体の周縁を黄色帯が縁取る

体の外套膜の周縁に沿って幅広い黄色の帯が走り、頭部から後足の先端まで途切れずに黄色の枠が続きます。この周縁の黄色帯が、暗緑色の背面の黄色斑と連続することで「切り抜き」のような視覚効果を生み、属名 Tambja の由来にも通じる配色です。

触角と3本の羽状鰓も黄色を配する

触角と口触手は鮮やかな黄色

頭部から立ち上がる1対の触角(rhinophore)は根元から先端まで鮮やかな黄色一色で、体色との対比が強い感覚器官です。触角の側面には細かなひだが並び、水中の化学物質を感じ取る化学受容器として働きます。頭部の両側から張り出す口触手(oral tentacle)も同じく黄色で、餌のコケムシを探索する感覚器の役割を担います。

二次鰓は3本、内外の軸が黄色い

体の後方に開く二次鰓(gill)は3本の羽状で、それぞれの葉が黒地に内外の軸が黄色く縁取られる独特の配色です。3本という少なさは属の特徴で、危険を感じるとすばやく体内に引き込める構造です。羽根状に大きく開いた鰓と体色の対比が水中でよく目を引きます。

ガブリエラウミウシの側面・砂地の全身
Rickard Zerpe, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

コケムシ食のニシキリュウグウウミウシ属

ガブリエラウミウシはニシキリュウグウウミウシ属(Tambja)の一員で、他のTambja属と同じくコケムシ(Bryozoa)を選択的に食べるコケムシ食性です。近縁のアカフチリュウグウウミウシ Nembrotha kubaryana などフジタウミウシ科 Nembrothinae 亜科の裸鰓類は、餌のコケムシから取り込んだ二次代謝物質を体内に蓄え、外敵に食べられにくくする化学防御を持つことが知られています。派手な暗緑と黄色のコントラストも、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と考えられる配色です。

2005年に記載された比較的新しい種

Tambja属の再検討研究のなかで新種記載

ポラ・セルベラ・ゴスライナーの3名による命名

本種が科学的に記載されたのは2005年で、裸鰓類としては比較的新しい種です。スペインのマルタ・ポラ(Marta Pola)とフアン・ルーカス・セルベラ(Juan Lucas Cervera)、アメリカのテレンス・ゴスライナー(Terrence M. Gosliner)の3名が Tambja 属の分類学的再検討を行った研究の中で新種として記載しました。

タイプ産地はインドネシアのレンベ海峡とバンダ海

タイプ産地はインドネシアのレンベ海峡(Lembeh Strait)およびバンダ海(Banda Sea)で、いずれもマクロダイビングの観察記録が多い海域です。ダイバーの目にはそれ以前から留まっていた種ですが、正式に学名が与えられたのは21世紀に入ってからの種にあたります。

ガブリエラウミウシがバブルコーラルに載る(インドネシア Lembeh)
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(インドネシア Lembeh)

雌雄同体でコケムシ群体に卵を産む

裸鰓類の例にもれず、ガブリエラウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時にはリボン状の卵塊を、餌のコケムシ群体や近くの岩の表面に貼り付けます。孵化した幼生(ベリジャー幼生)は数週間プランクトンとして海中を漂ったのち、餌のコケムシに近い場所に着底して稚ウミウシに変態するのが基本の発生様式です。寿命は短く、レンベ海峡やバンダ海のマクロダイビングポイントで年間を通じて成体が入れ替わりつつ観察されるのがガブリエラウミウシの生活史です。

南西諸島と東南アジアのマクロダイビングで会える

インドネシア・フィリピンから日本の南西諸島まで

本種の分布はタイプ産地のインドネシア(レンベ海峡・バンダ海・スラウェシ)を中心に、フィリピンやパプアニューギニアなど熱帯西太平洋のサンゴ礁域に広がります。日本近海では奄美大島・沖縄本島・八重山諸島など南西諸島の亜熱帯海域で観察例が報告されるものの、決して普通に見つかる種ではなく、南西諸島でも観察例は限られます。

日本近海に数種が分布するニシキリュウグウウミウシ属

ニシキリュウグウウミウシ属(Tambja 属)にはインド太平洋を中心に約20種が知られ、いずれも中〜大型で色彩の派手なフジタウミウシ科の裸鰓類です。日本近海では本種のほかに、青地に橙帯のニシキリュウグウウミウシ Tambja verconis や青紫地に黄色斑のクレナイニシキウミウシ Tambja affinis などが分布します。色彩パターンで種ごとに識別できます。同じ亜科 Nembrothinae にはアカフチリュウグウウミウシ Nembrotha kubaryana など Nembrotha 属も含まれ、いずれもコケムシ食で似た化学防御戦略を持つグループです。

ガブリエラウミウシの側面・緑の海藻地の姿
Bernard DUPONT, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

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参考

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