オトヒメウミウシ

オトヒメウミウシの上からの姿・紫斑と青ハロー ウミウシ類

オトヒメウミウシは、体長3.5〜7.5cmの熱帯・亜熱帯インド太平洋の裸鰓類です。淡黄〜赤褐色の体地に紫色の斑点と青いハローを散らし、外套膜の縁を紫と白の帯で二重に縁取る華やかな色使いから、日本では浦島太郎の乙姫(おとひめ)の衣装に見立てて名付けられた大型のイロウミウシになります。学名は Goniobranchus kuniei。1930年、フランスの海洋生物学者アリス・プリュヴォ=フォル(Alice Pruvot-Fol)がニューカレドニアのイル・デ・パン(Île des Pins・松の島)で採集された個体をもとに Chromodoris kuniei として記載し、種小名 kuniei は同島のカナック先住民の呼び名「Kunié」に由来します。移動時に紫縁の外套膜を上下に波打たせる特徴的な動きが、水中写真の被写体としても取り上げられています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:イロウミウシ科 Chromodorididae
  • 属:Goniobranchus 属
  • 種:オトヒメウミウシ Goniobranchus kuniei

和名・英名

  • 和名:オトヒメウミウシ(乙姫海牛)
  • 英名:Kuni’s chromodoris
  • 旧学名:Chromodoris kuniei(2012年まで)

別名と名前の由来

和名の「オトヒメ(乙姫)」は、外套膜の紫色の縁取りと豊かに広がる体形を、浦島太郎の物語に登場する乙姫の衣装に見立てた命名です。紫と青と黄の複雑な色帯と、ゆったり波打つ外套膜の動きが、竜宮城の姫のイメージに重ねられた呼び名になっています。学名の種小名 kuniei はタイプ産地であるニューカレドニアのイル・デ・パン(Île des Pins)を指すカナック先住民の呼び名「Kunié」(クニエ)に由来し、同島で採集された個体をもとに命名された経緯を残しています。属名 Goniobranchus はギリシャ語の gonio(角張った・角のある)と branchus(鰓)を組み合わせた造語で、鰓の構造に由来する属名です。もともとイロウミウシ属 Chromodoris に含められていましたが、2012年の分子系統解析で Chromodoris 属が複数の属に分割された際、本種は Goniobranchus 属に再分類されました。1930年、フランスの海洋生物学者アリス・プリュヴォ=フォル(Alice Pruvot-Fol)が Chromodoris kuniei として記載した種です。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約3.5〜7.5cm(最大75mm前後)
体色中央は淡黄〜赤褐色/体表全体に暗紫色の斑点が散在し、それぞれ淡い青のハローに囲まれる/外套膜の縁は紫と白の二重帯
触角・鰓触角(rhinophore)は淡黄〜白色で先端が黄色/二次鰓は淡黄色〜白色の羽状
分布インド太平洋/ニューカレドニア(タイプ産地イル・デ・パン)/オーストラリア/クリスマス島/フィリピン/グアム/マーシャル諸島/トンガ/日本(南西諸島〜伊豆)
生息環境サンゴ礁の礁縁・礁斜面/岩の側面やオーバーハングの下/水深10〜30m
食性カイメン食(イロウミウシ科の一般的な食性)
寿命数か月〜約1年(イロウミウシ科全般)
保全状況IUCN未評価。分布域では観察例が多く、個体数は安定と見られる
オトヒメウミウシの側面全身(インドネシア Wakatobi)
q phia, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(インドネシア Wakatobi)

紫斑と青ハロー、外套膜の紫と白の二重縁

暗紫色の斑を淡青のハローが取り囲む

体表全体に散る紫斑と青の光輪

体地色は中央部が淡い黄色〜赤褐色で、その上に暗紫色の斑点が体表全体にランダムに散らばります。斑点の1つ1つが淡い青色の細いハロー(光輪)に取り囲まれる独特のパターンで、他のイロウミウシ科との区別が容易な識別点です。青ハローは水中でよく目立ち、遠くからでも本種を見分ける手がかりになります。

個体差の大きい体色バリエーション

体地色は個体によって淡黄から濃い赤褐色まで幅があり、斑点の密度も密〜疎までさまざまです。若い個体は淡い黄色寄り、成長するにつれて褐色味が増す傾向があり、同じダイビングポイントでも色合いの異なる個体が並んで観察されることもあります。

外套膜の縁を紫と白が二重に縁取る

最外周に濃い紫色の細帯

外套膜の最外周には濃い紫色(深い菫色)の細い帯が走り、体全体の輪郭をはっきり縁取ります。この紫色の縁が乙姫の衣装の帯に見立てられた和名の直接の由来で、暗い体色の場合でも紫色の縁で本種と識別できます。

紫の内側に白帯が続く二重構造

紫色の細帯の内側にはさらに白い帯が続き、紫と白の二重縁取りが本種の見た目を印象づけます。この白帯は光の反射で青みを帯びることもあり、体表の青ハローと呼応した色使いになっています。イロウミウシ科の中でも外套膜の色帯構造がとくに複雑な種の1つです。

オトヒメウミウシの側面・外套膜のフリル
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

紫縁の外套膜を上下に波打たせて移動する

本種の観察でもう1つの見どころが、移動時に外套膜の縁を上下に大きく波打たせる特徴的な移動様式です。紫色の縁がゆったりと持ち上がっては降りる動きを繰り返しながらサンゴ礁の岩の上を這い、静止時と移動時で外見の印象が大きく変わります。この波打ちは体表の呼吸を助ける役割や、外敵に体を大きく見せる威嚇の役割を持つと考えられています。静止した個体を発見したあとに移動を待つと、本種の動作を観察できます。

オトヒメウミウシの側面・別角度
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ニューカレドニアのイル・デ・パンで発見

1929年にプリュヴォ=フォルが採集

1929年採集・1930年記載のタイプ産地イル・デ・パン

タイプ産地はニューカレドニア南部のイル・デ・パン(Île des Pins・フランス語で「松の島」)で、1929年にフランスの海洋生物学者マダム・アリス・プリュヴォ=フォル(Mme. A. Pruvot-Fol)が採集した個体をもとに翌1930年に新種として記載されました。イル・デ・パンはカナック(Kanak)先住民の呼び名で「Kunié」(クニエ)と呼ばれる島で、種小名 kuniei はこの現地名に由来する命名です。

2012年に Goniobranchus 属へ再分類

本種はもともと Chromodoris 属(イロウミウシ属)に含められていましたが、2012年に分子系統解析(Johnson & Gosliner 2012)で Chromodoris 属が複数の属に分割された際、本種は Goniobranchus 属に再分類されました。旧学名 Chromodoris kuniei は現在もシノニム(同種異名)として通用し、日本の古い図鑑や英語圏の記事では旧属名で表記されることもあります。

オトヒメウミウシの全身・紫縁と青ハローの配色
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

サンゴ礁のカイメンを食べる大型ドリス

オトヒメウミウシはイロウミウシ科の一員として、サンゴ礁の海綿(カイメン)を食べて暮らします。餌のカイメンから取り込んだ二次代謝物質を体内に蓄え、紫斑を囲む青いハローの独特な色柄と合わせて捕食者に「食べても味が悪い」と伝える化学防御を持つと考えられています。紫斑と青ハローの配色も、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と見られる色使いで、他のイロウミウシ科に共通する戦略に沿った配色です。水深10〜30mのサンゴ礁の礁縁で、餌のカイメンが張り付く岩の側面やオーバーハングの下などで観察されます。

オトヒメウミウシが餌のカイメンを食べる様子
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(餌のカイメンを食べる姿)

雌雄同体で白い螺旋卵塊を産む

裸鰓類の例にもれず、オトヒメウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時にはオーバーハングの下や岩の側面など日陰になる場所を選んで白いリボン状の卵塊を貼り付け、成体と同じく直射日光を避けて発生が進みます。孵化したベリジャー幼生は数週間漂流した後、水深10〜30mの礁斜面や岩の側面のカイメン上に着底し、まだ紫斑がまばらな半透明の稚ウミウシから成長を始めます。寿命は短く、水深10〜30mの日陰を選んで成長・産卵し、1年前後で世代を切り替えていくのがオトヒメウミウシの生活史です。

沖縄・伊豆・小笠原の水深10〜30mに分布する

南西諸島から伊豆半島まで広く分布

日本近海では沖縄本島・八重山諸島・奄美大島などの南西諸島から、小笠原諸島、伊豆半島南部(大瀬崎・IOP)まで温帯〜亜熱帯の広い範囲で観察されます。伊豆半島でも夏〜秋の水温が上がる時期に観察例が報告されており、黒潮に乗って北上した個体が越夏していると考えられています。イロウミウシ科の中でも大型で目立つ体格を持ち、水中では遠くからでも識別しやすい種です。

約60種のGoniobranchus属で紫斑+青ハローが識別点

Goniobranchus 属はインド太平洋を中心に約60種が知られる大きなグループで、いずれも派手な色彩の中型ドリスです。日本近海には本種のほかにコイボウミウシ Goniobranchus reticulatus やモンジャウミウシ Goniobranchus geometricus など多数の種が分布し、体色パターンで種ごとに識別できます。オトヒメウミウシは紫斑+青ハロー+紫縁の組み合わせがユニークで、属内でも識別しやすい配色を持つ1種です。

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参考

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