ヤマメ

ヤマメ・体側のパーマークと背中の黒点 硬骨魚類

ヤマメは、体側に楕円形の暗い斑(パーマーク)が並ぶ、日本の渓流を代表するサケ科魚類です。学名は Oncorhynchus masou masou。体長20〜30cm前後、冷たく澄んだ川の上流部にすみます。

海に降りて大型化する「サクラマス」と同じ種の別型で、川に残る個体がヤマメ・海に降りて成長する個体がサクラマスと呼ばれます。北海道から九州の冷水河川に広く分布する渓流釣りの人気ターゲットで、外来のニジマス放流やイワナとの交雑(カワサバ)など、在来個体群の保全が課題となっている種でもあります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:条鰭綱 Actinopterygii
  • 目:サケ目 Salmoniformes
  • 科:サケ科 Salmonidae
  • 属:サケ属 Oncorhynchus
  • 種:サクラマス Oncorhynchus masou
  • 亜種:ヤマメ Oncorhynchus masou masou(河川残留型)

和名・英名

  • 和名:ヤマメ(山女/山女魚)
  • 降海型の和名:サクラマス(桜鱒)
  • 英名:Masu salmon(マス・サーモン)/Cherry salmon(チェリー・サーモン)

別名と名前の由来

  • 和名「ヤマメ(山女)」:山の川に住み、姿が美しいことから「山の女性」に例えた命名です。地方によっては「ヤマベ」「エノハ」「ヒラベ」などの呼び名でも呼ばれます。
  • 降海型「サクラマス」:産卵期にオスの体が桜色(赤紫)に染まることから「桜鱒」の名がつけられました。海で銀色に育った個体が川に戻り、桜の咲く4〜5月に遡上する時期とも重なります。
  • 属名 Oncorhynchus:ギリシャ語で「かぎ状の吻(ふん)」の意味で、繁殖期のオスが顎を鉤(かぎ)状に発達させる、サケ属全体の特徴に由来する属名です。
  • 種小名 masou:日本語の「マス」に由来する種小名です。1856年にフランスの動物学者アシル・ヴァランシエンヌ(Achille Valenciennes)が Salmo masou として日本産の標本をもとに記載しました。
  • 英名「Cherry salmon」:日本名の「桜鱒」を直訳した英名で、桜との関係を海外にも伝える呼び名になっています。

大きさ・生息などの基本データ

大きさヤマメ(河川残留型):全長 約20〜30cm(大型で40cm前後)/サクラマス(降海型):全長 約50〜70cm・体重 約2〜5kg
体色ヤマメ:背は青緑〜暗褐色/体側は銀白/体側中央に楕円形の暗色斑「パーマーク」が7〜11個並ぶ/背中と尾びれに小さな黒点/繁殖期のオスは体側が桃〜赤紫に染まる/サクラマス:全身が銀白色でパーマークは薄い(海で獲得する銀化色)
分布日本:北海道/関東以北の太平洋岸/日本海側全域/九州(瀬戸内海側を除く)/神奈川県が太平洋岸の南限とされる/海外:朝鮮半島東岸/極東ロシア(沿海地方・カムチャツカ)/樺太
生息環境河川の上流〜中流の冷水域/水温24℃以下(26℃で死亡)/澄んだ流れの淵・落ち込み・岩陰
食性肉食性/カゲロウ・カワゲラ・トビケラなど水生昆虫の幼虫が主/陸生昆虫(水面に落ちたクモや甲虫)/小型甲殻類/稚魚期には藻類も少量
繁殖9〜11月に河川の上流部で産卵/メスが砂礫底を掘って産卵床(redd)を作る/1腹200〜400粒/河川残留型は死亡せず翌年も産卵可能/降海型は多くが産卵後に死亡(一部生存)
寿命ヤマメ:野生で3〜5年/サクラマス:3〜4年(降海期を含む)
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/地域個体群では絶滅危惧種指定あり(茨城県の無斑型ヤマメが絶滅危惧IA類など)
ヤマメの全身・水族館の水槽個体
Gaeho77, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(韓国・タニュリ水族館の飼育個体)

体側のパーマークと背中の黒点で見分ける

楕円形の「パーマーク」が並ぶ

成魚まで残る7〜11個の楕円斑

ヤマメの最大の識別点は、体側の中央に沿って並ぶ「パーマーク」と呼ばれる楕円形の暗色斑です。7〜11個ほどが等間隔に並び、木の葉や小判に似た形をしています。ニジマスなど他のサケ科では成魚になるとパーマークが消えるのに対し、ヤマメは河川残留型のため成魚でもパーマークがはっきり残り、識別の決め手になります。

大型化するとパーマークは薄れる

体長30cmを超える大型のヤマメや、ダム湖に落ちて成長した「湖沼型」の個体では、パーマークが薄くなり全体が銀色に近づきます。海に降りたサクラマスではパーマークがほぼ消え、全身が銀白色になります。生活史の型と成長段階で色柄が変わります。

背中と尾びれの黒点

背中側と尾びれには細かい黒点が散らばりますが、ニジマスと違って腹側や尾びれの下部までは黒点が及ばず、上半身にとどまります。この「黒点が背中側のみ」がニジマスとの決定的な違いの1つで、渓流釣りでも見分けの手がかりとして重視されます。

サクラマスとの関係─海に降りるか川に残るか

ヤマメとサクラマスは同じ種の別型

河川残留型(ヤマメ)と降海型(サクラマス)

ヤマメとサクラマスは、生物学的には同じ種 Oncorhynchus masou で、生活の仕方が違う2つの型に過ぎません。稚魚のあいだは全個体が川で過ごし、川に残って一生を過ごす個体が「ヤマメ」、海に降りて成長する個体が「サクラマス」になります。降海するかどうかは遺伝的な素因と、川の水温・餌の量など環境条件の組み合わせで決まると考えられています。

海で銀化してから川に戻る

降海する個体は「スモルト」と呼ばれる銀色の稚魚に変化してから海へ下ります。海で1〜2年を過ごすと体長50〜70cm・体重2〜5kgに成長し、桜が咲くころ生まれた川へ遡上して産卵します。1匹の重さがヤマメの10倍以上になるため、姿はまったく別の魚に見えます。

ヤマメの銀化した若魚(スモルト)・降海直前の姿
Apple2000, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons(降海直前のスモルト・銀白色に変化した若魚)

ニジマス・アマゴ・イワナとの見分け

渓流の主要4種を並べて比較

日本の渓流で釣り上がる主要なサケ科魚類との違いを表にまとめます。

種名パーマーク/黒点/体側の特徴
ヤマメパーマーク明瞭(成魚でも残る)/黒点は背中側のみ/体側は銀白
アマゴパーマーク明瞭/体側に赤い小点が散る(ヤマメには無い)/黒点あり
ニジマスパーマーク薄く成魚では消える/体側中央に虹色の縦帯/全身(尾びれ含む)に黒点/外来種
イワナパーマーク薄い/体側に白い小点が散る(黒点ではなく白点)/背は暗緑色

ヤマメとアマゴは非常によく似ていますが、アマゴには体側に赤い小点が散らばる特徴があり、この1点でヤマメと区別できます。アマゴは中部地方以西の太平洋岸に自然分布する亜種で、ヤマメと生息域を分けています。

冷水域に暮らす肉食性の生態

警戒心が強く釣り難い

水温24℃が生息の上限

ヤマメは冷水性の魚で、水温が生息のカギを握ります。生息の上限とされる水温は24℃前後で、これを超えると餌を食べなくなり、26℃で死亡するとされます。夏に水温が上がりやすい下流部では暮らせないため、標高が高く冷たい上流部の淵や落ち込みに集まる習性を持ちます。

全長30cmを超える「尺ヤマメ」

ヤマメは警戒心が非常に強く、少しの物音や影に反応して淵の奥へ逃げ込みます。この「釣り難さ」と姿の美しさから、対比的に「渓流の王様」と呼ばれるイワナと並んで「渓流の女王」の異名で知られます。全長30cm(1尺)を超える「尺ヤマメ」は大型個体の指標とされ、フライフィッシングやテンカラ釣りの主要な対象魚に位置付けられます。

水生昆虫を中心にした肉食

食性は肉食で、川底や岩の下に住むカゲロウ・カワゲラ・トビケラなどの水生昆虫の幼虫を主食とします。水面に落ちてきたクモや甲虫も食べ、成長したヤマメは小魚も捕食します。この食性が渓流釣りの餌選び(毛鉤・ミミズ・ブドウ虫・イクラなど)と直結しています。

北海道のヤマメ個体
Tim, CC BY 4.0, via iNaturalist / Wikimedia Commons(北海道で観察された個体)

秋の産卵と、産卵後も生き残る特性

秋の産卵と、複数回繁殖できる特徴

ヤマメの産卵期は9月から11月ごろ。メスが河川上流の砂礫底を尾びれで掘り、深さ数十cmの産卵床(redd・レッド)を作ります。1腹200〜400粒の卵を産み、産卵直後にオスが精子をかけて受精させます。他のサケ属(シロザケ・ベニザケ等)が産卵後に一斉に死ぬのに対し、河川残留型のヤマメは産卵後も生き残り、翌年以降も繁殖できる特徴を持ちます。ニジマスと同じくサケ属では珍しい性質です。

雑種「カワサバ」と交雑問題

ヤマメとイワナは通常は生息域を分けていますが、近年の放流や自然環境の変化で両種が同じ川に共存することが増え、雑種の「カワサバ」が生まれる例が報告されています。カワサバはヤマメとイワナの中間的な色柄を持ち、両種のパーマーク・白点が入り混じります。在来個体群の遺伝的攪乱(かくらん)の一例として、渓流生態系の保全上の課題になっています。

渓流釣りと食用利用

渓流釣り解禁は3月〜9月が中心

ヤマメの釣りは各都道府県の内水面漁業調整規則で厳しく管理され、多くの地域で3月から9月の解禁期間内でのみ釣りが認められます。産卵期の秋〜冬は禁漁で、遊漁券(1日券・年券)の購入が必要です。管理釣り場(有料の渓流釣り場)ではニジマスと並んでヤマメが放流されており、初心者でも比較的釣り上げやすい環境が用意されています。

食用としての塩焼き・甘露煮

塩焼き・甘露煮・燻製の調理法

釣り上げたヤマメは、塩焼き・甘露煮・唐揚げ・燻製など多様な調理で利用されます。とくに串を打って炭火で塩焼きにした「ヤマメの塩焼き」は、川沿いの茶屋や渓流沿いの民宿の定番料理で、小型のため頭部・骨まで加熱調理で可食となります。身は淡白な白身で、川魚特有のクセが少ないとされます。

ヤマメの塩焼き・串焼きの定番料理
MaedaAkihiko, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(塩焼きにされたヤマメ)

茨城県の絶滅危惧種「無斑型ヤマメ」

パーマークを持たない特殊個体群

ヤマメには通常パーマークがあるのに対し、茨城県では体側にパーマークをまったく持たない「無斑型ヤマメ」の個体群が生息することが知られています。この個体群は久慈川の源流域などに局所的に分布し、他のヤマメとは遺伝的に異なる集団と考えられ、茨城県のレッドデータブックで絶滅危惧IA類(もっとも絶滅の危険が高いカテゴリー)に指定されています。放流ヤマメとの交雑や源流域の環境変化によって数を減らしており、県内の水産試験場や大洗のアクアワールドで飼育・研究が進められています。

茨城県の無斑型ヤマメ・パーマークを持たない特殊個体
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(アクアワールド・大洗の飼育個体)

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参考

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