ジョウビタキは、体長14cm前後のスズメ目ヒタキ科の小鳥です。オスは頭が銀白色・顔と喉が黒色・胸から腹がオレンジ色という三色の派手な配色を持ち、翼には白い斑(バッジ)が入ります。学名は Phoenicurus auroreus。日本には冬鳥として全国に渡来し、平地や低山の明るく開けた林、都市の公園や庭でよく見られる冬の代表的な小鳥です。
「ヒッ/ヒッ」「カッ/カッ」という独特の鳴き声と尾羽を小刻みに上下に振る仕草が識別の目印になります。近年は長野県や北海道など日本国内でも繁殖が確認されるようになり、渡り鳥から一部が留鳥化する変化が観察されている種でもあります。名前の「ジョウ」はオスの銀白色の頭を翁(じょう=老人)の白髪に見立てた命名で、日本の野鳥の名前の中でも由来がはっきり分かる例の1つです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:スズメ目 Passeriformes
- 科:ヒタキ科 Muscicapidae
- 属:ジョウビタキ属 Phoenicurus
- 種:ジョウビタキ Phoenicurus auroreus
和名・英名
- 和名:ジョウビタキ(尉鶲)
- 英名:Daurian redstart(ダウリアン・レッドスタート)
別名と名前の由来
- 和名「ジョウビタキ(尉鶲)」:「ジョウ(尉)」は能楽の翁の面や、老人の白髪を指す古語で、オスの銀白色の頭を白髪に見立てた命名です。「ヒタキ(鶲)」は火打ち石を打ち合わせるような「カッ/カッ」の鳴き声から来ています。
- 英名「Daurian redstart」:「ダウリア地方(シベリア南東部のバイカル湖東岸〜モンゴル北部)」+「redstart(赤い尾)」の意味です。ダウリアはロシアの地名で、本種の繁殖地の1つ。redstart は「red(赤)+stert(古英語で尾)」の合成で、橙色の尾を指します。
- 属名 Phoenicurus:ギリシャ語で「赤い(phoinix)+尾(oura)」の意味を持つ、赤い尾を持つヒタキのなかまの属名です。
- 種小名 auroreus:ローマ神話の暁の女神「アウローラ(Aurora)」に由来します。夜明けの空のような橙色に染まる本種の胸から腹の色にちなむとされます。
大きさ・生息などの基本データ
| 大きさ | 全長 約13.5〜15.5cm(スズメよりわずかに小さい)/翼開長 約22cm/体重 約13〜20g |
|---|---|
| 体色 | オス=頭上が銀白色/顔と喉が黒色/胸から腹・尾が橙赤色/背は黒/翼に白い斑(バッジ)/メス=全身が淡褐色/翼に白斑/尾が橙色 |
| 分布 | 繁殖地:チベット高原〜中国東北部・モンゴル・ロシア極東・朝鮮半島/越冬地:日本・中国南部・インドシナ半島北部/日本には10月〜11月に渡来し、3月ごろまで滞在 |
| 生息環境 | 平地から低山の明るく開けた林/農地/公園/庭/宅地/河川敷/冬には都市部の緑地でもよく見られる |
| 食性 | 昆虫食が中心(甲虫・チョウ・カメムシなど)/クモも捕食/冬期はピラカンサ・ナンテン・ハゼノキなどの木の実も食べる |
| 繁殖 | 4〜7月に大陸で繁殖/1回に5〜7個の卵/メスが13日ほど抱卵/巣立ちまで約15日/近年は日本国内(長野・北海道・兵庫・岡山など)でも繁殖例が確認されている |
| 寿命 | 野生でおよそ2〜5年 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念)/日本では冬鳥として全国的に普通 |

オスの銀白の頭×黒顔×橙腹と、メスの淡褐色
銀白・黒・橙赤の三色配色
頭は銀白、顔と喉は黒
ジョウビタキのオスは、頭のてっぺんから後頭部にかけて銀白色の帽子をかぶったような姿になります。目のまわりから喉、頬までは真っ黒に染まり、この「白い頭×黒い顔」のコントラストが遠くからでも目を引きます。頭上の銀白色と顔面の黒とのコントラストが強く、日本の野鳥の中でも識別しやすい姿の1つとされます。
胸から腹はあざやかな橙赤色
喉から下の胸・腹・脇・尾はあざやかな橙赤色(オレンジ)で染まり、頭部の黒白との対比が鮮明な三色配色を作ります。翼は黒く、風切羽(かざきりばね)の中央に白い斑(バッジ)が入り、これも識別の重要な目印です。翼を閉じても、翼を広げて飛んでも白斑がよく見えます。
メスは全身が淡い褐色
メスはオスとまったく違い、全身が淡褐色(ベージュ)の地味な色合いです。ただし尾の付け根と胸腹側にわずかにオレンジがかかり、翼には小さな白斑が入るため、この2点でメスと同定できます。遠目にはスズメと似ますが、ヒタキ科らしい丸い体型と大きな目、そして尾を上下に振る仕草で見分けが可能です。

「ヒッ」「カッ」の鳴き声と、尾振り習性
「ヒッ」の高音と「カッ」の打撃音
自転車のブレーキ音のような「ヒッ/ヒッ」
ジョウビタキの声は独特で、初めて聞いた人でも「ヒッ/ヒッ」「キッ/キッ」という自転車のブレーキを短く鳴らしたような澄んだ高音で識別できます。この「ヒッ/ヒッ」を単独で連発するのがジョウビタキの典型的な声で、留鳥の他の小鳥にはあまり似た声がないため、冬の庭や公園でこの声が聞こえたら本種の可能性が高いとされます。
火打ち石のような「カッ/カッ」
もう1つの声が、乾いた「カッ/カッ」という打撃音です。火打ち石を打ち合わせたような硬い音で、和名「ヒタキ(鶲)」の由来にもなっています。警戒や威嚇のときによく発せられます。「ヒッ/ヒッ」と組み合わせて「ヒッ/ヒッ/カッ/カッ」と鳴き交わすこともあります。
尾羽を上下に振る「尾振り」の仕草
ジョウビタキは枝や地面にとまるとき、尾羽を上下に小刻みに振る独特の仕草を見せます。おじぎをするように体を前後に揺らしながら尾を振ることもあり、この動きは同種同士の縄張り主張や、他個体への警戒信号として機能すると考えられています。冬の公園で「小さな鳥が尾を振っている」と気づいたら、まずジョウビタキを疑う場面が多くなります。
中国・シベリアから渡ってくる冬鳥
繁殖地は大陸の北部
チベット高原・中国東北部・シベリア
ジョウビタキはユーラシア大陸の中央部から東部で繁殖する渡り鳥です。主な繁殖地は次の通りです。
- チベット高原の山岳地帯
- 中国東北部(内モンゴル・黒龍江省など)
- モンゴル北部・ロシアのダウリア地方(シベリア南東部)
- ロシア極東(アムール地方・沿海地方)
- 朝鮮半島北部
越冬地は日本・中国南部・東南アジア
越冬地は日本のほか、中国南部・インドシナ半島北部(ラオス・ベトナム北部)・台湾に及びます。日本には毎年10月〜11月に渡来し、翌年3月ごろまで越冬します。北海道から沖縄までの広い範囲に来ますが、九州・本州の平野部で最もよく観察されます。

近年の日本国内繁殖例─留鳥化の兆し
2010年代から国内繁殖の報告が増加
従来ジョウビタキは日本で越冬するだけの冬鳥とされてきましたが、2010年代以降、日本国内で夏に留まって繁殖する例が複数の地域で確認されるようになりました。おもな繁殖記録の地点は次の通りです。
- 長野県諏訪郡・八ヶ岳周辺
- 北海道上川町
- 兵庫県内陸部
- 岡山県北部
- その他、標高のある地域を中心に散発的な記録
気候変動と分布拡大の関係
これらの繁殖例は、冬鳥だったジョウビタキが日本で一部繁殖するようになった変化を示しています。日本野鳥の会や研究者による観察では、大陸の繁殖地の気候変化や、標高の高い日本の内陸部が本種の繁殖に適する条件を持つことなどが背景として指摘されています。夏の日本の高原でオスの縄張りソングが聞かれる地域が今後さらに広がるかどうかは、日本の鳥類相の変化を追う上で今後の観察課題の1つとされます。

越冬地で単独縄張りを守る
オスもメスも別々の縄張りを持つ
ジョウビタキは越冬地でも縄張り意識が強い鳥で、オスもメスもそれぞれ別々の縄張りを構えます。渡来してすぐの秋、公園や庭にジョウビタキが同一個体として毎日決まった場所に現れることが多いのは、この縄張り習性のためです。1つの縄張りは数十m四方ほどで、他個体が侵入すると尾を振りながら追い払います。
同一個体が毎冬同じ庭に渡来する事例
都市部や住宅地では、ジョウビタキが特定の家の庭を縄張りに選ぶことがあり、毎冬同じ場所で観察されることも珍しくありません。ピラカンサ・ナンテン・ハゼノキなどの赤い実を好むため、庭にこれらの木が植えられていると訪れる確率が高くなります。冬の庭木に橙色の小鳥がやってくる姿は、日本の冬の代表的な野鳥の一種として広く記録されてきました。
観察環境と識別の手がかり
主な観察地
ジョウビタキは冬の日本で観察しやすい野鳥の1つです。次のような環境で普通に見られます。
- 都市の公園・大きな緑地
- 住宅地の庭(庭木のある家)
- 河川敷・農地の周囲
- 神社林・寺院の境内林
- 低山の登山道・キャンプ場
発見の手がかり
本種を発見する主な手がかりは以下の通りです。
- 「ヒッ/ヒッ」のかん高い声
- 「カッ/カッ」の打撃音
- 尾羽を小刻みに上下に振る仕草
- 庭木や公園の低木にとまる橙色の小鳥(オスは頭が銀白)
- 翼の白斑(オス・メスとも)

関連






参考
- Wikipedia日本語版: ジョウビタキ
- IUCN Red List: Phoenicurus auroreus (LC)
- eBird: Daurian Redstart Phoenicurus auroreus
- 日本野鳥の会


