サケは、川で生まれて海で育ち、また生まれた川へ帰ってくる魚です。日本で「サケ」といえば、ふつうはシロザケという種類を指します。秋になると、群れをなして川をさかのぼる姿が各地で見られます。切り身や塩ざけ、イクラとして、食卓にもなじみ深い魚です。
数年を海で過ごしたあと、生まれた川へ正確に戻る性質は、古くから研究の対象になってきました。川と海を行き来できる体のつくりも、この魚の特徴です。
分類と学名
分類階層
サケは、サケ目サケ科に入る魚です。日本でサケと呼ばれるシロザケの学名は、Oncorhynchus keta といいます。同じ仲間には、ベニザケやギンザケ、カラフトマスなどがいます。サケ科には、海へ出ずに川だけで一生を過ごす種類もいます。北の海を中心に、日本からアラスカまで広く分布しています。日本の川に帰るサケのほとんどは、このシロザケです。

- 目:サケ目
- 科:サケ科
- 種:シロザケ(Oncorhynchus keta)
- 分布:北太平洋。日本では北海道・東北を中心に川へ帰る

サケとマス、サーモン
「サケ」と「マス」の区別は、分類上のはっきりした線引きではありません。海へ下る大きなものをサケ、川に残る小ぶりなものをマスと呼び分けてきた、古い習わしに近いものです。また、生で食べられる「サーモン」の多くは、養殖されたニジマスやタイセイヨウサケです。天然のシロザケは、寄生虫のおそれから、生では食べないのがふつうでした。同じ「サケ」の名でも、指しているものが違う場合があります。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約70〜80cm/体重 3〜5kgほど(1mに近づくものも) |
|---|---|
| 分布 | 北太平洋とその周りの川(日本・ロシア・アラスカなど) |
| 生息環境 | 生まれてしばらくは川。成長すると海。産卵期にまた川へ |
| 食べ物 | 海ではオキアミや小魚など。川へ入るとほとんど食べない |
| 一生 | 3〜5年ほど。産卵は一生に一度 |
| 卵 | 川底の砂利に産む。イクラ・筋子として知られる |
生まれた川へ帰る
サケの一生でもっとも知られているのが、生まれた川へ戻る性質です。「母川回帰(ぼせんかいき)」と呼ばれ、多くの個体が自分の生まれた川、それも同じ支流まで正確に帰りつきます。

母川回帰
川のにおいを覚える
手がかりの一つは、においだと考えられています。稚魚が海へ下るころ、自分の育った川の水のにおいを覚えるとされます。川の近くまで戻ると、その記憶を頼りに、目当ての川を選び分けているという見方です。実験でも、においを感じられなくすると、川を選べなくなることが示されてきました。帰りつくのは、川で泳ぎ出した稚魚のうちのごくわずかです。ごく一部は生まれた川以外へ入ることもあり、それが分布を広げる役に立つとみられています。
広い海での道しるべ
ただし、においが届くのは川の近くだけです。何千キロも離れた海のまん中から、どうやって方角を知るのかは、まだはっきりしていません。生まれた場所の地磁気を覚えていて、それを頼りに戻るという説があります。においと地磁気を、遠近で使い分けているという見方です。いずれも仮説の段階で、母川回帰のしくみが完全に解明されたわけではありません。
川と海を行き来する体
多くの魚は、淡水と海水のどちらか一方でしか生きられません。塩分の違う水では、体の水分の出入りが逆になってしまうからです。サケは、その両方を行き来できる、珍しい体をもっています。
塩分に合わせて切りかえる
スモルトという変身
川で育った稚魚は、海へ下る前に体を作りかえます。体色は銀白色に変わり、海水に耐えられる体へと整えられます。この変化は「スモルト化」と呼ばれ、海へ出る準備そのものです。生まれた川のにおいを覚えるのも、ちょうどこの時期だとされます。海に出たサケは、北の海を大きく回りながら、数年かけて育ちます。

えらの細胞がはたらく
切りかえの中心は、えらにある特別な細胞。淡水では、薄い水から塩分を取りこみ、余った水を尿として出します。海水では逆に、塩分をくみ出して水を保ちます。同じえらで、出し入れの向きを反対にできるところが、この魚の強みです。
赤いのに白身魚
身の色はえさ由来
アスタキサンチンという色素
サケの切り身は、鮮やかな紅色をしています。この色のもとは、アスタキサンチンという色素。サケ自身が作るのではなく、海でオキアミなどを食べて取りこんでいます。えさの少ない環境で育つと、身の色が薄くなることも知られています。養殖されるサーモンでは、餌にこの色素を混ぜて身の色を整えています。
赤身・白身の区分では白身
魚を赤身と白身に分けるとき、目安になるのは筋肉に含まれる色素タンパクの量です。マグロやカツオの赤身は、この色素タンパクが多いために赤くなります。サケの身は赤く見えても、その量は少なく、赤身・白身の区分では白身魚に入ります。見た目の色と、呼び名がすれ違う珍しい例です。
一生に一度の産卵
川での変化
婚姻色と鼻曲がり
川に入ったサケは、姿を大きく変えます。銀色だった体に、緑や紫のしま模様が浮かび上がります。オスは口の先が大きくかぎ形に曲がり、歯も鋭く伸びます。この「鼻曲がり」は、ほかのオスと張り合うための姿だと考えられています。

産卵を終えた親は死ぬ
川へ入ったサケは、ほとんど餌を食べません。蓄えた力だけで流れをさかのぼり、産卵にすべてを使いきります。メスは川底の砂利に尾で穴を掘って卵を産み、オスが精子をかけ、上から砂利をかぶせて守ります。一匹のメスが産む卵は、3000個ほどにもなります。そして産卵を終えた親は、数日から数週間のうちに死にます。一生に一度きりの繁殖。
力尽きた親の体は、川や森にとどまり、やがて分解されて栄養になります。その栄養は、次の世代の稚魚が食べる小さな生きものを育てます。海で得た栄養が親の体によって川へ運ばれ、流域の生きものを支えているとみられています。クマや鳥も、この時期のサケを目当てに川へ集まります。

人とのかかわり
サケは、古くから北の地方の暮らしを支えてきた魚です。塩ざけや新巻ざけは冬の保存食となり、卵はイクラや筋子として親しまれています。北海道や東北では、卵を人の手でふ化させ、稚魚を川へ放す取り組みが続いてきました。いま日本の川に帰るサケの多くは、この放流から育ったものだとされます。秋に帰るシロザケは「秋鮭」と呼ばれ、季節の魚として扱われてきました。近ごろは川へ帰る数が減っており、海水温の上昇との関わりが指摘されています。
どこで会えるか
サケの姿がもっとも見やすいのは、秋から初冬の川です。北海道や東北の川では、遡上を見学できる場所が設けられています。水族館でも、川をさかのぼるようすや稚魚の展示が行われています。ふ化場では、卵から子が出てくる場面を見られることもあります。産卵を終えて力尽きた親の姿も、この季節の川で見られる光景です。遡上の時期には、川岸に見物の人が集まる場所もあります。

参考
- Wikipedia「シロザケ」「Chum salmon」
- サケの母川回帰に関する研究(嗅覚の刷り込み・地磁気説/Scientific Reports ほか)
- 水産庁・北海道のふ化放流資料、Alaska Department of Fish and Game ほか
画像出典
- Focus Saranpat Ouilapan, CC0, via Wikimedia Commons
- Timothy Knepp / U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons
- Roger Tabor / U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons
- David Csepp, NMFS/AKFSC/ABL (NOAA), Public domain, via Wikimedia Commons
- K. King / U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons



