ニホンイシガメは日本にだけ住む淡水のカメです。甲羅の長さは最大で21センチほどになり、幼い個体は古くから「ゼニガメ」と呼ばれてきました。かつては水田や川で普通に見られましたが、2026年の環境省レッドリストで絶滅危惧種と評価されています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:カメ目 Testudines
- 科:イシガメ科 Geoemydidae
- 属:イシガメ属 Mauremys
- 種:ニホンイシガメ Mauremys japonica
和名・英名
- 和名:ニホンイシガメ
- 別名:イシガメ、ゼニガメ(幼体の呼び名)
- 英名:Japanese pond turtle
学名と「ゼニガメ」の由来
種小名の japonica は「日本の」を意味します。この種は日本列島にしかいない固有種で、名前がそのまま産地を示しています。
別名のゼニガメは幼体の姿に由来しています。生まれたばかりの子ガメは甲羅が平たく丸みを帯びており、その形が昔の硬貨である「銭」に見立てられました。
大きさ・分布などの基本データ
| 甲長(甲羅の長さ) | 雌 最大21cm/雄 最大14.5cm |
|---|---|
| 孵化直後の甲長 | 2.5〜3.5cm |
| 卵の大きさ | 長径 約3.6cm/短径 約2.2cm |
| 分布 | 本州(秋田・宮城以南)・四国・九州とその周辺の島々(日本固有種) |
| 生息環境 | 川・湖沼・池・湿原・水田。やや流れのある水域を好む |
| 食べもの | 魚・カエル・昆虫・エビ・カニ・巻貝・ミミズ・植物・藻類など |
| 保全状況 | 環境省レッドリスト:絶滅危惧II類(VU)/ワシントン条約 附属書II |
| 記載 | 1838年(Temminck & Schlegel) |
甲長21センチの体と、背中を走るキール
A4用紙の短い辺ほどの甲羅
体の大きさには雌雄で差があり、雌のほうが大きく育ちます。

雌21センチ・雄14.5センチ
雌は甲長が最大21センチに達します。A4用紙の短いほうの辺が21センチなので、大きな個体はほぼ同じ長さです。雄は最大でも14.5センチどまりで、雌との差がはっきりしています。
甲羅の形にも違いが出ます。雌の成体は背中がややドーム状に盛り上がって幅広く、雄と幼体は平たい形です。雄は尾が太くて長く、この点でも見分けられます。
個体で変わる甲羅の色
背中側の甲羅は橙褐色・黄褐色・褐色・灰褐色・暗褐色と、個体による違いが大きく現れます。黄色や橙色の斑紋が入るものもいます。一方で腹側は黒か暗褐色の一色で、こちらは変異がほとんどありません。
背中の中央にはキールと呼ばれる盛り上がった筋が縦に走ります。幼体では3本ありますが、成長するにつれて消えていきます。甲羅の後ろの縁はやや鋸のように尖り、年老いた個体では目立たなくなります。
指の先まで届く水かき
四肢は細めで、指と指の間には水かきが発達します。この水かきは指の先端まで達しており、泳ぐ力の源になっています。前脚の前面には丸みを帯びた大きな鱗が重ならずに並びます。
頭部はやや小さく、鼻先がわずかに突き出しています。頭の色は黄褐色や暗い黄色で、側面には輪郭のはっきりしない黒い斑紋が入ります。尾は長く、幼体では体の割に特に目立ちます。
きれいな流水を好む半水棲の暮らし
クサガメより澄んだ水を好む性質
川・湖沼・池・湿原・水田などに生息し、なかでもやや流れのある水域を好みます。同じ場所で見かけるクサガメと比べると、きれいな水質を好む傾向があります。

水温3〜5度でも続く活動
寒さへの耐性が強いカメです。水温が3〜5度という冷たい環境での活動が観察されています。半水棲で水中での生活が中心ですが、夏には陸を伝って複数の水場を行き来することもあります。
落ち葉の下で越す冬
冬になると水中の穴や石の下、積もった落ち葉の中などで冬眠します。護岸工事で川べりがコンクリートに変わると、こうした場所は失われます。生息数の減少には冬眠場所の消失も関わっているとみられます。
果実から他のカメの卵まで及ぶ食性
食性は雑食で、口に入るものを幅広く食べています。魚・カエルとその卵や幼生・昆虫・エビやカニ・巻貝・ミミズのほか、動物の死骸や水草、藻類も食べます。採食は水中でも陸上でも行われます。
農耕地では地面に落ちた柿やトマト、ウリ類を食べることもあります。ほかのカメが産卵している最中に、その卵を食べてしまう例も知られています。同種の卵も食べます。
前肢を振る求愛と、70日で孵る卵
顔の前で手を振る雄
繁殖に関わる行動は冬眠の時期を除く9月から翌年4月にかけて見られます。
雄は雌の顔の前に回り込み、前脚の手のひらを外側へ向けて左右交互に振ります。雌がこれを受け入れると、雄が背に乗って交尾に至ります。手を振るしぐさはイシガメ科のカメに共通しています。
年1〜3回に分けて産む卵
産卵は6月から8月にかけて行われます。
8〜10センチの穴
雌は陸に上がり、深さ8〜10センチの穴を掘って産卵します。1回に産む卵は1〜12個で、これを年に1〜3回に分けます。産卵の間隔は10日から15日ほどです。卵は長径3.6センチほどの楕円形で、ウズラの卵を一回り大きくした程度になります。
500円玉ほどの子ガメ
卵は約70日で孵化します。生まれたばかりの子ガメは甲長2.5〜3.5センチです。500円玉の直径が2.65センチなので、それに近い大きさになります。この時期の姿が「ゼニガメ」の呼び名を生みました。産卵場所の温度は孵化する子の性別に影響するため、日当たりの変化が性比を偏らせる可能性も指摘されています。

クサガメとの見分け方
クサガメにある首の黄色い線
同じ水域にいるクサガメとはいくつかの点で区別できます。クサガメの首には黄色や緑色の細い線が何本も走りますが、ニホンイシガメの頭部にそうした縞模様はありません。
甲羅の背中側ではクサガメが3本のはっきりしたキールを保つのに対し、ニホンイシガメは成長とともにキールが目立たなくなります。甲羅の後ろの縁が鋸状に尖る点も、本種を見分ける手がかりになります。
遺伝子が示すクサガメとの近さ
見た目の違いとは別に、遺伝子を調べた研究は近い関係を示しています。遺伝子は細胞の核のほか、ミトコンドリアという小さな器官にもあります。その両方を調べた解析では、本種がイシガメ属のほかの種よりクサガメやハナガメに近縁という結果が出ました。
この近さは後述する交雑の問題にもつながります。系統が近いために、両種の間で子が生まれてしまうためです。
2026年に絶滅危惧種となった日本固有種
環境省が新たに評価した理由
環境省は2026年に第5次レッドリストを公表しました。ニホンイシガメはこのとき、新たに絶滅危惧種と評価されました。区分は絶滅危惧II類。
環境省は公表にあたり、ハマシギと本種を例に挙げています。かつて全国の干潟や水田に広く分布していた種が、環境の消失や悪化を受けたためという説明です。

アカミミガメとの競合とクサガメとの交雑
減少の要因として挙げられてきたのは、生息地の破壊と水質の悪化です。森林の伐採や護岸の整備が生息地を狭め、ペット用の乱獲も重なりました。
近年はこれに加えて、クサガメやハナガメとの交雑による遺伝子の混ざり合いが問題になっています。北米原産のミシシッピアカミミガメとは生息場所や餌をめぐって競合します。アライグマによる捕食も報告されています。
捕獲をめぐる法律
レッドリストは絶滅のおそれを科学的に評価したもので、それ自体が捕獲を禁じる法律ではありません。捕獲を規制するのは種の保存法で、国内希少野生動植物種に指定された種が対象になります。
環境省の一覧を見ると、イシガメ科でこの指定を受けているのはリュウキュウヤマガメだけです。ニホンイシガメは指定されていません。ただし2013年にワシントン条約の附属書IIへ掲載されました。輸出入に許可が必要な区分で、国際的な取引には規制がかかっています。地域によっては条例で採捕を制限している場合もあります。
シーボルトが持ち帰った図と、移った「ゼニガメ」の名
川原慶賀が描いた1820年代の姿
この種が学問の世界に知られたのは、長崎の出島を通じてでした。オランダ商館に滞在したシーボルトは、日本の動植物を大量に収集しています。その記録を担ったのが長崎の絵師の川原慶賀でした。
慶賀が1820年代に描いた水彩画には、成体と幼体のニホンイシガメが並んでいます。画中には「Emys vulgaris japon:」と記されました。1838年の記載でこの種に与えられた名は Emys vulgaris japonica で、絵に添えられた文字とほぼ一致します。

クサガメの幼体へ移った「ゼニガメ」の名
ゼニガメという呼び名はもともと本種の幼体を指す言葉でした。江戸時代以前からペットとして飼われてきた歴史があり、幼体はこの名で売られていました。
近年、店頭でゼニガメの名がつくのはクサガメの幼体であることが多くなっています。ニホンイシガメの数が減り、繁殖させやすいクサガメが代わりに流通したためです。
関連ページ


参考
- 環境省「第5次レッドリスト(鳥類及び爬虫類・両生類)の公表について」2026年(本種が新たに絶滅危惧種と評価された経緯と、その理由の説明)
- 環境省「国内希少野生動植物種一覧」(種の保存法による捕獲規制の対象種。イシガメ科の指定はリュウキュウヤマガメのみ)
- 日本語版Wikipedia「ニホンイシガメ」(形態の計測値・繁殖行動・分子系統による近縁関係・ゼニガメの呼称の変遷)


