クサガメは、日本の池や水田で最もよく見かける在来的な淡水ガメで、幼体は古くから「ゼニガメ」の名で親しまれてきました。甲羅に走る3本の隆起と、外敵に襲われたとき臭腺から出す独特のにおいが特徴です。ただし日本のクサガメが本当の在来かどうかについては、近年疑問が投げかけられています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:カメ目 Testudines
- 科:イシガメ科 Geoemydidae
- 属:イシガメ属 Mauremys
- 種:クサガメ Mauremys reevesii(Gray, 1831)
和名・英名
- 和名:クサガメ(臭亀)
- 幼体の販売名:ゼニガメ
- 英名:Chinese Pond Turtle/Reeves’s Turtle
名前の由来と臭腺
「クサガメ」の名は「臭亀」と書き、四肢の付け根にある一対の臭腺に由来します。外敵に襲われたときや、人が捕まえたときに黄色い分泌液を出し、独特のきつい臭いを放って身を守るとされます。同様の化学防御はイシガメ属の他種にも見られ、クサガメだけの特殊な性質ではないとされます。英名の Reeves’s Turtle は、19世紀に本種の標本を英国に紹介した博物学者ジョン・リーブス(John Reeves)にちなみます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲長 最大約30cm(メス)/オスは最大約20cm。孵化時 甲長約3cm |
|---|---|
| 原産地 | 中国東部〜南東部・韓国・台湾(日本は移入起源説が有力) |
| 日本での分布 | 本州・四国・九州の広い範囲/北海道南西部にも生息/池沼・水田・用水路まで身近 |
| 生息環境 | 流れの緩やかな河川・池沼・水田・用水路。泳ぎはあまり得意でない |
| 食性 | 雑食(水生植物・魚・エビ・貝・水生昆虫・動物の死骸まで) |
| 繁殖 | 6〜8月に1〜14個の卵を1〜3回に分けて産卵。孵化は約2か月後 |
| 寿命 | 飼育下で20〜30年。南方熊楠が長年飼育した個体では60〜100年超の説も |
| 保全状況 | IUCNレッドリスト:EN(絶滅危惧)/ワシントン条約 附属書III/韓国・中国・台湾で保護対象 |
姿の特徴と甲羅のキール

クサガメの見た目でまず目に入るのは、背甲を縦に走る3本の細い隆起です。この「キール」と呼ばれる構造がイシガメ科の中でもとくにはっきりしていることが、本種の同定の第一歩になります。
背中に走る3本のキール
甲羅の中央(椎甲板)と左右(肋甲板)に、それぞれ1本ずつの筋状の隆起が走ります。中央のキールは幼体の段階から明瞭に突出しており、成長後もつねに識別点として機能します。頭部から首にかけては暗い緑褐色の地に黄色い波状の模様が入り、体色は全体に黒〜暗褐色でおさまっています。腹側の甲羅(腹甲)は各板の中心が黒く縁が黄色いことが多く、腹側から見ると格子状に見えます。
成体の雄は全身が黒くなる
黒化するメラニズム
クサガメの雄は成長にともなって全身が徐々に黒くなり、成熟した個体では甲羅・頭部・四肢・虹彩まで真っ黒に染まります。首や頬にあった黄色い模様も消え、若い個体とは別種のように見えることがあります。この現象はメラニズム(黒化)と呼ばれ、イシガメ属や近縁のクロハラガメでも観察されています。理由ははっきりしていませんが、雌へのアピールや紫外線対策と関連するとの仮説があります。
雌雄の見分け
雌は成体でも黄色い頭部模様が残ることが多く、ここで雌雄が見分けられます。加えて雄は尾が太く長く、総排出腔(尾の付け根の開口部)が甲羅の縁より外側に位置するのに対し、雌は尾が短く総排出腔が甲羅の縁より内側に来ます。成体の甲長は雌の方が大きく、最大で30cmに達するとされます。
ゼニガメと呼ばれた幼体

「ゼニガメ」という愛称は、クサガメの幼体を指す商品名として日本で長く使われてきました。100円玉ほどの丸みのある姿から呼び名がついたとされ、縁日や熱帯魚店の定番として親しまれています。
幼体販売名としての「ゼニガメ」
本来「ゼニガメ」はクサガメの幼体を指す呼び名でしたが、市場ではニホンイシガメの幼体も「ゼニガメ」の名で流通することがあり、成長後に別種と判明する例もあるとされます。1990年代以降は中国で養殖されたクサガメの幼体が主流となり、日本の縁日で売られていた在来クサガメの幼体は市場から姿を消しつつあるとされます。
飼育の実情
クサガメは幼体こそ小さいものの、雌は最大30cm・寿命は数十年に及ぶ大型の淡水ガメです。幼体で入手された個体が数年で水槽に収まらなくなり、飼育放棄の遠因になってきたと指摘されています。放流は在来ニホンイシガメとの交雑や遺伝的攪乱を招くため、飼育文化の側でも成体サイズの周知が課題とされています。
淡水で暮らし、水田で子を残す

クサガメが好むのは、流れの緩やかな川・池・用水路・水田といった浅い淡水域です。泳ぎはあまり得意ではなく、水底を歩くように移動する場面がよく観察されます。日中は水面の丸太や石の上で日光浴(バスキング)をし、夜間や気温の低い時期は水底の泥にもぐって過ごします。
食性と獲物
雑食性で、水生植物・落ちた果実・小魚・エビ・水生昆虫・貝類・動物の死骸まで、水辺で得られるものを幅広く食べます。大型の雌は水底の貝を強い顎で砕くこともあります。冬は水底の泥に潜って冬眠に入り、水温が10℃を下回るころに活動を止めるとされます。
水田で産む卵
産卵期は6〜8月で、雌は水辺から離れた乾いた土や砂地に穴を掘り、1回に1〜14個の卵を産みます。年に1〜3回産卵することもあり、卵は約2か月で孵化します。日本では水田の畦や、河川の砂利敷きの護岸が産卵場所として使われてきました。近年は都市化と水田の減少で、産卵に適した場所そのものが減ってきているとされます。
「在来のようで在来ではない」問題

クサガメは古くから日本人の生活に近い場所にいたため、疑うことなく日本の在来種として扱われてきました。しかし2010年代以降の研究で、日本のクサガメは大陸から人為的に持ち込まれた個体群である可能性が高いことが分かってきました。
化石記録の欠如と江戸期の記録
日本列島の第四紀の化石記録の中に、クサガメと明確に同定できる資料は見つかっていません。文献の上でも、クサガメが「和亀」として書物に記録されるのは江戸時代の中期以降で、それより前の時代に本種を指したと確認できる記録はほとんどないとされます。
朝鮮半島からの移入という説
遺伝子解析の傍証
近年のミトコンドリアDNA解析では、日本のクサガメ集団は朝鮮半島の集団と遺伝的にきわめて近いことが示されており、少なくとも江戸期以降に大陸から持ち込まれた個体群を起源とする可能性が指摘されています。研究者によっては本種を日本国内では「外来種」として位置づけるべきとする意見もあるとされます。
ニホンイシガメとの雑種「ウンキュウ」
日本のクサガメは、在来のニホンイシガメ(Mauremys japonica)と自然に交雑することが分かっており、両種のあいだに生まれる交雑個体は古くから「ウンキュウ」と呼ばれます。ウンキュウは繁殖能力を持ち、世代を重ねるうちに在来のイシガメの遺伝子が薄まっていく可能性が指摘されています。ニホンイシガメがすでに個体数を減らしている現状と重なり、保全上の課題としても取り上げられています。
近縁種との識別

日本の池では、クサガメ・ニホンイシガメ・ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)の3種が混同されやすい代表です。それぞれ決まった識別点が知られています。
アカミミガメとの識別点
頭部の斑紋
ミシシッピアカミミガメは、頭側面の鮮やかな赤斑が識別点とされます。クサガメには赤い斑はなく、頭部の模様は黄色の細い曲線で描かれています。アカミミガメは北米原産の特定外来生物で、日本の池で今最も個体数が多いカメがこの種になっているとされます。
背甲の色と質感
背甲もアカミミガメが緑色から黒緑色でつるつるしているのに対し、クサガメは3本のキールがはっきりと出て、色も暗褐色寄りに落ち着いています。老成した雄のクサガメではほぼ全身が黒くなり、若いアカミミガメの明るい緑とは見間違えようがないほど姿が変わります。
ニホンイシガメとの識別点
ニホンイシガメは、背甲の後縁がノコギリ状にギザギザ加工されたように見える点が最大の特徴で、キールは中央の1本だけがはっきり見えます。体色は明るい黄褐色から橙褐色で、クサガメの暗い色合いより温かみのある印象です。頭部には斑紋がほとんど入りません。両種は自然下で交雑するため、「クサガメとイシガメの中間の姿」で見分けが難しい個体(ウンキュウ)もいます。
関連ページ

参考
- IUCN Red List Mauremys reevesii(EN評価・脅威と分布)
- CITES Appendices Mauremys reevesii(附属書III掲載・国際取引の管理)
- Wikipedia (ja)「クサガメ」(形態・分布・移入起源説とウンキュウ)
- Wikipedia (en)「Chinese pond turtle」(原産地の生態・メラニズム)


