ゾウアザラシはアザラシの仲間でもっとも大きくなる2種をまとめた呼び名です。オスは長い鼻から低い声を出して順位を決め、その間は3か月も何も食べません。名前は体の大きさと、この鼻に由来します。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:アザラシ科 Phocidae
- 属:ゾウアザラシ属 Mirounga
- 種:キタゾウアザラシ Mirounga angustirostris / ミナミゾウアザラシ Mirounga leonina
和名・英名
- 和名:ゾウアザラシ(キタゾウアザラシ=北象海豹/ミナミゾウアザラシ=南象海豹)
- 英名:Northern elephant seal / Southern elephant seal
名前の由来はゾウの2つの特徴
ゾウアザラシ属にはキタゾウアザラシとミナミゾウアザラシの2種だけが置かれています。名前がゾウに由来するのは、体が大きいことに加えて、大きな鼻を持っているからです。
この鼻は繁殖期に大きな音を出すために使われます。
大きさ・分布などの基本データ
| ミナミ(オス) | 体長 4.2〜5.8m/体重 1,500〜3,700kg(最大は体長6.85m・5tの記録だが、体重の確かな計測例は乏しい) |
|---|---|
| ミナミ(メス) | 体長 2.5〜3.6m/体重 350〜900kg |
| キタ(オス) | 体長 4〜5m/体重 1,500〜2,300kg(最大 3,700kg) |
| キタ(メス) | 体長 2.5〜3.6m/体重 400〜900kg |
| 分布 | キタは北太平洋の東側/ミナミは南極周辺の海 |
| 生息環境 | 繁殖期は島や海岸の砂浜、それ以外は外洋 |
| 生息数 | ミナミ 約60万頭/キタ 20万頭超(2005年は約17万1千頭) |
| 食べ物 | 深海の魚やイカ |
| 寿命 | メス 平均14年/オス 20年 |
| 性成熟 | メス 3〜4歳/オス 5歳(ハーレムを持てるのは早くて8歳) |
| 天敵 | シャチ・ホホジロザメ(狙われるのは子や若い個体) |
| 保全状況 | IUCN ミナミ VU(危急・2026年評価)/キタ LC(軽度懸念・2015年評価) |
※寿命と性成熟は、2種を分けずゾウアザラシ属としてまとめられた数値です。
体で勝るミナミと鼻で勝るキタ

食肉目でいちばん大きい種
ミナミゾウアザラシはアザラシやアシカの仲間で最大の種です。イヌやネコ、クマまで含む食肉目の中でも、体がいちばん大きい種です。キタゾウアザラシはそれに次ぐ2番目です。
象鼻が大きいのは小さいほうのキタ
ゾウアザラシの特徴である象鼻は、体の小さいキタゾウアザラシのほうが大きく育ちます。
キタが住むのは北太平洋の東側、ミナミは南極を取り巻く海で、両者の生活圏は重なりません。
メスの3〜5倍あるオス

最大で5tに達したとされるオス
オスとメスで体の大きさがまるで違う点もこの動物を特徴づけています。ミナミのオスは体長4.2〜5.8m、体重1,500〜3,700kgほど。記録には体長6.85m、体重5tという個体もあります。6.85mは軽自動車を2台、縦に並べた長さにあたります。ただし巨大なオスの体重が実際に量られた例は少なく、確かな数字ではありません。
一方のミナミのメスは体長2.5〜3.6m、体重350〜900kgほどです。オスはメスの4倍から5倍の重さになり、この差は哺乳類の中で最も大きいとみられています。キタでは3倍から4倍で、ミナミほどの開きはありません。
8〜9歳でそろう胸板と鼻
オスは8歳から9歳になる頃、皮膚が厚くなって胸板ができ、鼻がはっきりと長くなります。
オスが性成熟するのは5歳ですが、自分のハーレムを持って実際に繁殖できるのは早くて8歳です。繁殖の中心になるのは9歳から12歳の間とされています。
鼻から出す声で順位が決まる

巨体同士がぶつかれば、勝ったほうも傷つきます。1.8トンを超えるオスたちは、血を流す戦いで浜の主を決めます。武器は体重と犬歯。ただし毎回そこまで至るわけではありません。ゾウアザラシのオスはその前に、声で相手を確かめています。
ディジュリドゥを叩いたような音
オスが出すのは鳥のさえずりのような節のある声ではありません。短い音を連ねたパルス状の声で、研究者はオーストラリアの楽器ディジュリドゥを叩いたときの音にたとえています。
この声はリズムと音色に個体ごとの癖が出ます。カリフォルニア州のアニョヌエボ州立公園では、研究チームが数か月かけて1頭ずつの声を録音しました。
ライバルの声を覚えている
浜には最上位のオスがいて、その下に順位の付いたオスが並びます。研究チームは群れの上下関係を把握したうえで、録音した声を再生する実験を行いました。
順位の低いオスは上位のオスの声を聞くと逃げ出しました。誰の声かが分かれば、勝てない相手との戦いを避けられます。
テンポを変えると反応が変わった
研究チームは声のテンポを変えて反応を比べました。わずかに変えた声でも下位のオスはそれまでと同じように逃げました。ところが大きく変えると逃げなくなり、知らない相手の声として扱われました。音色でも同じでした。
人以外で知られている唯一の例
この研究は2017年に学術誌カレントバイオロジーで報告されました。音のリズムのパターンを記憶して社会的な判断に使える動物は、人間のほかにゾウアザラシしか知られていません。研究者はこの発見が、人が音楽を持つに至った道筋を考える手がかりになるとみています。
※ ディジュリドゥとは、オーストラリアの先住民が使ってきた木の管の楽器です。低く唸るような音が出ます。
3か月食べずに浜を守る

40頭から50頭のハーレム
春になると、オスが先に繁殖地へ上がります。できるだけ多くのメスと交尾するため、餌を食べるのをやめて浜に居座ります。
強いオスが1回の繁殖期に妊娠させるメスの数は、ミナミで40頭、キタで50頭に達します。オス同士は鳴き合いや小競り合いで優劣を決め、時には体を起こして胸や牙をぶつけ合います。
絶食は3か月に及ぶ
浜に上がったオスは3か月も絶食します。メスも交尾の時期の5週間は食べません。体に蓄えた脂肪だけで、この期間を乗り切ります。
浜を離れれば縄張りを守れないため、オスは食べずに居座り続けます。
子の大半を産む少数の母

毎年12月に3,000頭が上陸する浜
アニョヌエボ州立公園の浜には、毎年12月に3,000頭を超えるキタゾウアザラシが上がってきます。約680kgの母親が子に乳を与えるのは4週間だけです。メスはこの間を含む5週間、餌をとらずに過ごします。
子の死亡率は高く、捕食されたり飢えたり、親とはぐれたりします。多くのメスは数頭しか子を残さないまま死んでいきます。
次の世代を支える一部のメス
ところが長期の調査では、ごく一部のメスが子の大半を産んでいることが分かりました。研究チームはこれを「スーパーマム」と呼んでいます。
そうしたメスは平均の4歳よりやや遅れて出産を始め、その分だけ体が大きくなっています。母親が大きく経験を積んでいるほど、子は生き延びやすくなります。この調査はカリフォルニア大学サンタクルーズ校のバーニー・ル・ブフらが数十年にわたって続けてきたものです。
1,500mまで潜る非繁殖期の海
20分潜って3分の息継ぎ
繁殖期を離れると、ゾウアザラシは深い海で暮らします。オスが普段潜るのは水深300mから800mほどで、1,500mまで達することもあります。1,500mは東京スカイツリーを2本つないでも届かない深さです。
1回の潜水は平均20分ほど続きます。その後、水面で必要な息継ぎは3分程度に過ぎません。
メスは深くまで潜らない
体の小さいメスはオスほど深くは潜りません。潜水時間もオスより少し短くなります。
成獣を襲える相手は少ない
成長した個体を襲える相手は多くありません。シャチやホホジロザメに狙われるのは、主に子どもや若い個体です。

絶滅寸前から回復した2種の今
ゾウアザラシは体から採れる油のために狙われ、19世紀末までに2種とも絶滅の一歩手前まで減りました。その後は保護によって数が戻っています。
約60万頭まで回復したミナミ
ミナミゾウアザラシの生息数は現在およそ60万頭ですが、近頃は減少の傾向にあります。
2026年に付いた「危急」の区分
ミナミゾウアザラシは、国際自然保護連合(IUCN)が2026年に出したレッドリストで「危急」に分類されました。減っている理由ははっきりしていません。狩猟の禁止で急激に増えすぎ、その海が支えられる数を超えてしまった結果ではないか、という見方もあります。
※ IUCNレッドリストとは、世界の野生生物の絶滅リスクを評価した国際的なリストです。「危急」は絶滅のおそれがある区分にあたります。
2005年に17万頭となったキタ
キタゾウアザラシは一時、20頭から40頭まで減ったとみられています。1884年には絶滅したと考えられていましたが、1892年にグアダルーペ島で8頭が見つかりました。
その後の保護で生息数は戻り、2005年には約17万1千頭、現在は20万頭を超えたとされます。カリフォルニアでは今も年6%ほどのペースで増え続け、新しい繁殖地もできています。増加を抑えているのは、陸に上がって休める場所の広さだとみられます。
人の前に現れるとき

パトカーに頭を乗せた2トンのオス
2025年5月27日の早朝、南アフリカのゴードンズベイに体重約2トンのミナミゾウアザラシが現れました。ケープタウン近郊の住宅街を、まだ若いオスが進んでいきました。
警察は車で囲んで動きを止めようとしました。この個体は大きな頭をパトカーのボンネットに乗せ、別の車を半分乗り越えかけてから抜け出しました。最後は海洋生物の専門家と市の獣医が眠らせ、輸送用のトレーラーで近くの湾へ戻しています。
生息地を大きく外れて現れる
ミナミゾウアザラシが普段暮らすのは南極周辺の海で、南アフリカの海岸は本来の生息地ではありません。それでもまれに、単独の個体が沿岸へ迷い込むことがあります。多くは若いオスです。
北太平洋に住むキタゾウアザラシでも、生息地を大きく外れた記録があります。1989年に伊豆諸島の新島でオスが、2001年に千葉県館山市の波左間付近で幼い個体が確認されました。2017年10月16日には山形県の海岸でメスが見つかっています。日本はキタゾウアザラシの繁殖地からも遠く離れた場所です。
日本で会えた時代と今

冷凍船で運ばれてきた4頭
日本でのミナミゾウアザラシの飼育は、1958年に上野動物園で始まったという記録があります。1964年4月20日には、日本水産の冷凍船が幼獣4頭を載せて晴海埠頭に着きました。サウスジョージア島の捕鯨基地を使っていた船です。
このうち2頭が上野動物園へ、残る2頭が江の島水族館へ渡り、後者はオスの「大吉」とメスの「お宮」として飼育されました。
飼育下で世界最大だった「大吉」
大吉は飼育時の体長4.61m、全長5.41m、体重3tに達しました。飼育されている個体としては世界最大です。梯子をかけて飼育係が餌を与える写真が、動物図鑑の図版に使われています。
1995年からは、同じ水族館でオスの「みなぞう」が飼育されました。青いバケツを持つ姿や芸で人気を集め、2005年10月4日まで生きています。
加茂水族館の「なおみ」
2017年に山形県の海岸で保護されたキタゾウアザラシは、鶴岡市立加茂水族館へ運ばれました。生息地の集団から遠く離れた日本で放すのは適切でないと判断され、そのまま飼育が続きます。
この個体は「なおみ」と名付けられ、2018年3月17日から一般公開されました。2022年6月28日に死亡し、水族館は国立科学博物館つくば研究所で病理解剖を行ったと公表しています。剥製標本にして国立科学博物館に保管する予定とされました。
2026年現在は展示施設が無い
2026年現在、日本でゾウアザラシを展示している施設はありません。かつては上野動物園や江の島水族館で見ることができました。

関連ページ

参考
- Wikipedia「ゾウアザラシ属」
- Wikipedia「ミナミゾウアザラシ」
- Wikipedia「キタゾウアザラシ」
- Wikipedia「Southern elephant seal」(英語版)
- Wikipedia「Northern elephant seal」(英語版)
- IUCN Red List「Mirounga leonina」(2026年評価)
- National Geographic「Elephant Seals Recognize Their Rivals’ Voices—Hear Their Calls」
- National Geographic「Tiny number of elephant seal ‘supermoms’ produce most pups」
- CBS News「2-ton elephant seal takes “unexpected journey” into residential area in South Africa before safely returning to sea」
- 鶴岡市立加茂水族館「キタゾウアザラシ「なおみ」死因について」
- GBIF「Mirounga leonina」
画像出典
- Grendelkhan, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ)
- Antoine Lamielle, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Sastognuti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Mike Baird from Morro Bay, USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- Antoine Lamielle, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Rhododendrites, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Frank Schulenburg, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Antoine Lamielle, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


