タイワンガザミは、西太平洋の暖かい内湾の砂泥底で暮らすワタリガニの仲間です。オスは青紫色の地に白い模様、メスは地味な緑灰色と、オスとメスで体の色が大きく違います。ガザミと同じく「ワタリガニ」の名で売られ、食用にされます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 下目:短尾下目(カニ下目) Brachyura
- 科:ワタリガニ科 Portunidae
- 属:ガザミ属 Portunus
- 種:タイワンガザミ Portunus pelagicus (Linnaeus, 1758)
和名・英名
- 和名:タイワンガザミ(台湾蝤蛑)
- 別名:ワタリガニ
- 英名:Blue swimmer crab/Flower crab
- 沖縄での呼び名:スーミチャー、チヌガニ
- 他の呼び名:アオデ(青手)、オイラン(花魁)、オドリガニ(踊り蟹)など
京都府の紹介では、「タイワン(台湾)」の名は、主に東南アジアなど南の暖かい海に住むことを表すものとされます。台湾では、青い甲羅から「藍花蟹」とも呼ばれます。
2010年に4種へ分けられた「タイワンガザミ」
かつては、インド洋から太平洋に広く住む1種とされていました。2010年に発表された研究がこれを見直し、4つの種に分けています。新しく別種とされたのは、次の3種です。
- インド洋西部の P. segnis
- インド洋東部の P. reticulatus
- オーストラリアの多くの海域に住む P. armatus
日本や東南アジアのカニは、元の学名 Portunus pelagicus を引き継いだ種にあたります。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の幅は最大15cmほど(大人の手のひらを広げたほど) |
|---|---|
| 分布 | 東南アジアからオーストラリア北西部、西太平洋から日本まで。日本では相模湾より南 |
| 生息環境 | 内湾の砂泥底(砂と泥が混じった海底)。浅瀬から水深50mほどまで |
| 食べ物 | 貝やゴカイの仲間、小さな甲殻類、魚など |
| 保全状況 | IUCN:未評価(NE) |
オスとメスで違う色と、ガザミとの違い
白い雲模様のオスと、地味なメス
オスの甲羅は鮮やかな青紫色で、白い雲のような模様がはっきり浮かびます。脚もはさみも青く、遠くからでもよく目立ちます。メスは地味な緑灰色で、雲模様が無いか、あってもぼんやりしています。
近い仲間のガザミはオスもメスも薄緑色で、外見から性別を見分けるのは困難です。京都府の海洋センターの資料では、タイワンガザミは色だけで雌雄の判断がつき、買う側にも分かりやすいとされます。


横長の甲羅と、先が交差するはさみ
両脇の棘と、ガザミとの見分け方
甲羅は横長の六角形に近く、左右の端が大きく尖っています。縁には歯のような突起が並び、左右の側にはそれぞれ9本あります。ガザミとよく似たメスを見分けるときは、甲羅の前の縁の歯と、はさみの節の突起の数を比べます。
| 見る場所 | タイワンガザミ | ガザミ |
|---|---|---|
| 甲羅の前の縁の歯 | 4本(内側の2本が小さい) | 3本(真ん中が大きい) |
| はさみの付け根側の節(長節)の前の縁の突起 | 3本 | 4本 |
アサリの殻を割る強いはさみ
はさみの力は強く、アサリなどの殻を割って中身を食べることができます。はさみの先は交差する形になっています。漁師が刺し網(海中に張って魚介をからませる漁具)から外すときに挟まれると、強い痛みがあるといいます。

オールのような脚で泳ぎ、砂に潜る
最後の1対は泳ぐための脚
はさみの後ろの3対は歩くための脚ですが、最後の1対はひれのように平たくなっています。この脚をボートのオールのように動かして、水中を自由に泳ぎます。

昼と冬は砂泥の中、満ち潮で餌を探す
普段は砂や泥に潜っていることが多く、特に昼間と冬はその傾向が強いとされます。満ち潮になると外に出て、二枚貝や魚を中心に、僅かながら海藻も食べます。
泳ぎは得意ですが、同じワタリガニ科のノコギリガザミと違い、水の外では長く生きられません。

河口で育ち、深場で冬を越す
浅い海でかえり、河口へ運ばれる
卵がかえる前、メスは浅い海へ移動して幼生を放します。かえったばかりのゾエア幼生は、親と似ても似つかない姿で水中を漂います。河口へ入って微小なプランクトンを食べ、約8日で4段階の脱皮を終えます。次は大きなはさみで獲物を捕らえるメガロパ幼生の時期で、4〜6日ほどで小さなカニの姿に変わります。
カニになった後も、しばらくは河口で身を隠しながら育ちます。ただし稚ガニは、塩分の薄い水に長く耐えられません。熱帯の産地で、雨季に稚ガニが河口から海へ一斉に出ていくのは、このためと考えられています。
精子を蓄えたまま越冬するメス
産卵は、住む場所によって多少ずれますが、春から秋にかけて行われます。交尾を済ませたカニは、冬には深い場所へ移ります。メスは受け取った精子を体の中に蓄えて越冬し、翌年に卵を産みます。
天敵と、食べられにくい大きさ
天敵と共食い
天敵はタコや魚で、幼生の頃から仲間同士の共食いも起こります。この共食いは、稚ガニを大量に育てるうえでの課題になっています。
フグと同じ水槽に入れた試験
沖縄県水産試験場は、放流した稚ガニがオキナワフグやクサフグに食べられる様子を観察しました。そこで、魚と稚ガニを同じ水槽に入れて、どの大きさなら食べられにくいかを調べています。
甲羅の幅1〜2cm(1円玉以下)の稚ガニは、66.7〜92.9%が食べられました。3cm以上(500円玉より一回り大きい)になると、食べられる割合は27.3%以下に下がっています。狭い水槽での試験なので、海の中よりは食べられやすかった可能性もあるとされています。
食用のカニとしての利用
丹後では夏、沖縄では冬が食べ頃
京都府の丹後地方では、久美浜湾・阿蘇海・舞鶴湾など、夏に水温が高くなる内湾に多くいます。7月ごろから刺し網で獲られ、出荷されます。この時期のメスは産卵の直前で、卵のもと(内子)が詰まっています。
ワタリガニは、身や内子の詰まり具合から、メスのほうがオスより高く取引されます。沖縄では蒸しガニやみそ汁にして食べられ、冬が特においしいとされます。アジア各地では、脱皮直後の殻の柔らかいカニ(ソフトシェルクラブ)も珍重されています。

沖縄での稚ガニの放流
沖縄県栽培漁業センターは1984年から稚ガニを育て、県内各地の海に放流してきました。2004年には316万匹の稚ガニを生産し、甲羅の幅1cmほどで出荷しています。放流の希望が減ったため、2009年度で生産を終えました。

参考
- 京都府「丹後の海の生き物(タイワンガザミ)」
- 沖縄県「種苗生産対象種の紹介」
- 沖縄県水産試験場「捕食されにくいタイワンガザミの大きさ」
- Raffles Bulletin of Zoology 58巻, 2010「Portunus pelagicus SPECIES-COMPLEX」
- Wikipedia(英語版)「Portunus pelagicus」
- Wikipedia(日本語版)「タイワンガザミ」


