シリケンイモリ

両生類

シリケンイモリは、奄美群島から沖縄諸島の湿った森林や湿地に暮らす、全長14〜18cmほどの日本固有のイモリです。背中は黒く、腹側は鮮やかな橙色から赤色に黒斑が散る、色の対比のはっきりした姿が特徴。名前の「尻剣」は、繁殖期のオスの尾が縦に幅広く伸び、剣のような形になることに由来します。近縁のアカハライモリと同じくテトロドトキシンを皮膚に持ち、防御に使います。生息地は奄美・沖縄に限られ、開発による生息地分断とペット目的の乱獲で個体数は減り続けており、環境省レッドリストの準絶滅危惧(NT)に指定されています。飼育下では40年近く生きる長寿の記録もあり、身近ながら独特の性格を持つ両生類です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:両生綱 Amphibia
  • 目:有尾目 Caudata
  • 科:イモリ科 Salamandridae
  • 属:イモリ属 Cynops
  • 種:シリケンイモリ Cynops ensicauda(Hallowell, 1861)

和名・英名・亜種

  • 和名:シリケンイモリ(尻剣井守)
  • 英名:Sword-tail newt
  • 亜種:アマミシリケンイモリ Cynops ensicauda ensicauda(奄美群島)/オキナワシリケンイモリ Cynops ensicauda popei(沖縄諸島)
  • 方言:アカワター・ソージムヤー(沖縄)

名前の由来 ―「剣の尾」

「シリケン」の由来は、種小名 ensicauda(ラテン語で「剣の尾」)に対応する日本語の「尻剣」です。繁殖期のオスの尾が縦に薄く広がり、剣のような形になる姿を映した名前です。他のイモリ類にも尾の側扁は見られますが、シリケンイモリではとくに顕著で、和名の直接の理由になっています。英名 Sword-tail newt もそのまま「剣尾のイモリ」の意で、命名者たちが共通して尾に目を引かれたことがうかがえます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長オス 約14cm、メス 約18cm(メスの方が大きい)/頭胴長 4.6〜8.5cm
分布日本固有/奄美群島(奄美大島・請島・加計呂麻島・与路島)と沖縄諸島(沖縄本島・慶良間・渡嘉敷など)
生息環境湿度の高い森林・草原・流れの緩い水辺
寿命野生では不明、飼育下で36年以上の記録(オキナワシリケンイモリ)
保全状況IUCN:VU(危急種)/環境省RL:NT(準絶滅危惧)/沖縄県RL:準絶滅危惧

姿と体のつくり

落ち葉の上のシリケンイモリ・赤い腹
Simon Speich, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

黒い背中と赤い腹

変異の大きい背中の模様

シリケンイモリの背面は基本的に黒色で、そこに地衣類のような明色の斑紋や、正中線に沿った橙色の筋模様が入ることがあります。この模様の入り方には個体差・地域差が大きく、後述するアマミとオキナワの2亜種を分ける判断材料にもなっています。皮膚は湿りけがあり、細かなイボが並ぶ質感で、乾いた質感のトカゲやカナヘビとは触った印象がまったく違います。

腹側の鮮やかな警告色

お腹側は鮮やかな赤色・橙色・黄色を基調とし、不規則な黒斑が散る派手な配色です。指先や趾(あし)の腹面も同じく橙色〜黄色で、地味な背中とのコントラストが強く、身を守る警告色として働いていると考えられています。捕食者が上から見て地味な背中を見過ごしても、いざ襲うと反り返って鮮やかな腹を見せ、有毒の合図として印象づける仕組みです。

繁殖期のオスは「剣の尾」に

繁殖期になると、オスの尾は縦に平たく幅広くなり、薄く延ばした剣のような形状に変化します。この尾を使って水中で振るう「求愛ダンス」でメスにアピールし、フェロモンを尾の動きに乗せて広げるとされます。ふだんは丸みのある尾との差が印象的で、種の名前が「尻剣」に決まった直接の理由になった形態の特徴です。

アカハライモリとの見分け方 ―姉妹種の対比

水槽で向き合うシリケンイモリ
ゆうき315, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

分布と大きさで見分ける

本州から九州に暮らすアカハライモリ Cynops pyrrhogaster とは、同じ属の姉妹種です。もっとも簡単な見分けポイントは分布です。アカハライモリは本州〜九州、シリケンイモリは奄美・沖縄に分かれており、両者の分布は完全に離れています。次に体格で、シリケンイモリの方が一回り大きくなります。メスは18cm近くに達し、アカハライモリ(成体で10cm前後)と並べれば明確な差が出ます。腹側の赤色はアカハライモリの方が広く鮮やかで、シリケンイモリでは黒斑の入り方に強い個体差があります。

尾の形と繁殖期の姿

繁殖期のオスの尾はアカハライモリでは青紫の光沢がわずかに乗る程度ですが、シリケンイモリでは形が変わるほど側扁が強くなります。名前どおり「剣」の形を見せるのはシリケンイモリの特徴で、これがアカハライモリと分ける決定打になります。詳しくはアカハライモリの記事にまとめていますので、興味のある方はそちらも合わせて参照してください。

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アマミとオキナワ ―2つの亜種

斑紋のあるシリケンイモリ(オキナワ亜種の型)
Gorira-takun, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

斑紋の割合が違う

アマミシリケンイモリ ―斑紋のない個体が多い

基亜種の Cynops ensicauda ensicauda が奄美群島に分布するアマミシリケンイモリです。背中に地衣類状の斑紋が入る個体は全体の4〜11%程度と少なく、多くは黒一色の背中を持つのが特徴です。奄美大島・請島・加計呂麻島・与路島の湿った森を主な生息地として暮らしています。

オキナワシリケンイモリ ―斑紋が多い派手な姿

沖縄諸島に分布する亜種が Cynops ensicauda popei、オキナワシリケンイモリです。こちらは背中に地衣類状の斑紋が入る個体が71〜91%と多く、暗い背中に明るい斑がぱらつく派手な姿が目立ちます。沖縄本島・慶留間島・渡嘉敷島・浜比嘉島などが主な分布地で、飼育下で36年の長寿記録もこの亜種の個体で確認されています。

皮膚の毒 ―テトロドトキシン

シリケンイモリは皮膚からテトロドトキシン(TTX)を分泌します。フグと同じ神経毒で、少量でも神経の伝達を止めるため、口に含んだ相手の動きを止める強い防御毒として働きます。人が手で触る分にはほぼ影響ありません。ただし触った手で目や口の粘膜・傷口をこすると、強い痛みや炎症を起こすことがあり、触った後の手洗いが基本の作法として知られます。腹の警告色と組み合わさって「食べたら痛い目にあう」ことを覚えさせる、両生類の代表的な防御戦略です。

繁殖と成長

水草に貼りつけられたシリケンイモリの卵
J-Moss, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

冬から春にかけて水辺で産卵

12月から翌5月にかけての繁殖期

繁殖期は12月から翌5月にかけての冬〜春が中心で、地域によっては夏〜秋にも産卵が観察されます。多くのカエル類の春〜夏繁殖とはずれた季節をとる点で、南西諸島の温暖な気候に合った繁殖リズムを持つ生きものです。

水中・水際・陸上まで産む幅の広さ

産卵場所は流れの緩い水路や池・湿原などです。環境によっては水中の水草だけでなく、水際の落葉や水場から1mほど離れた陸上のスギゴケ類にまで卵を貼りつけます。同じ種で水中・水際・陸上まで産卵場所の幅を持つのは、有尾類のなかでも珍しい部類とされます。

3〜4か月で幼生から幼体へ

卵から孵化した幼生は水中で外鰓(そとえら)を使って呼吸し、3〜4か月かけて変態して幼体に姿を変えます。上陸したあとは陸上で暮らし、変態から2年以上かけてようやく成体に達するゆっくりした成長です。産卵場所の幅の広さと変態後の長い成長期間は、島という限られた生息地でも生活環を保つための戦略とみられます。

36年生きるイモリ ―驚異の長寿

両生類全般に長寿の傾向がありますが、シリケンイモリはとくに長生きの記録が知られています。オキナワシリケンイモリの飼育研究では36年以上生存した個体が報告されており、しかも高齢個体でも生殖能力を保っていたことが2023年の学会誌で示されています。両生類がここまで長い時間を生き、なお繁殖能力を保つ例は、有尾類の生理研究のなかでも注目されている題材です。野生下での寿命は正確に分かっていませんが、飼育下の記録から見て、身近な両生類のなかでも際立って長い時間軸を持つ生きものだといえます。

準絶滅危惧 ―なぜ減っているか

島の限られた環境に暮らすシリケンイモリは、開発による生息地・繁殖地の減少で数を落としてきました。道路脇のU字溝に落ちて上がれず滑落死する事例が多く、生息地の細切れ化も進んでいます。加えてペット目的の乱獲も一部で報告されており、島ごとに孤立した個体群のリスクは高まっています。IUCNレッドリストでは危急種(VU)、環境省と沖縄県のレッドリストでは準絶滅危惧(NT)に指定されており、身近な両生類のなかでは保護の優先度が高い種のひとつです。

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参考

  • IUCN SSC Amphibian Specialist Group. 2021. Cynops ensicauda. IUCN Red List of Threatened Species(VU指定)
  • 太田英利「シリケンイモリ」『レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物 3』環境省, 2014
  • 富永篤「シリケンイモリ」『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版 動物編』2017
  • Shiroma, H. et al. 2023. Long-Term Rearing of Two Cynops Species and Fertility of Old Cynops ensicauda popei. Current Herpetology 42(2)(36年の飼育記録)
  • Wikipedia(日本語版):シリケンイモリ(形態・亜種・分布)

画像出典

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