ベタは、鮮やかな色と大きなヒレをもつ、東南アジア原産の小さな魚です。オスどうしが激しく争うことから「闘魚(とうぎょ)」と呼ばれます。えら以外でも空気を吸える特別な器官をもち、酸素の少ない水でも生きられることで知られます。
分類と学名
ベタは、キノボリウオ科に含まれる淡水魚です。グラミーなどと同じ仲間で、水面の空気を利用できる魚のグループに属します。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:条鰭綱 Actinopterygii
- 目:キノボリウオ目 Anabantiformes
- 科:キノボリウオ科 Osphronemidae
- 属:ベタ属 Betta
- 種:ベタ Betta splendens
和名・英名
- 和名:ベタ
- 英名:Siamese fighting fish、Betta
名前の由来
英名の Siamese fighting fish は、「シャム(タイの古い呼び名)の闘う魚」という意味です。オスどうしを戦わせる遊びが、古くからタイでおこなわれてきたことにちなみます。和名の「ベタ」は属名の Betta からきていますが、その語源については諸説あります。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約6〜8cm |
|---|---|
| 分布 | 東南アジア(タイ・カンボジア・ラオス・ベトナムなど) |
| 生息環境 | 水田・湿地・氾濫原などの浅い止水 |
| 食べ物 | 水生昆虫の幼虫・小さな甲殻類など(肉食) |
| 寿命 | 2〜3年ほど |
| 保全状況 | 野生種は IUCN: VU(危急) |
闘う魚「闘魚」
ベタを語るうえで欠かせないのが、オスどうしの激しい争いです。全長は6〜8cmほどで、手の指くらいの小さな魚です。この気性が、闘魚としての歴史や、今の姿につながっています。

オスどうしの争い
オスは強い縄張り意識をもち、ほかのオスを見つけると激しく争います。相手に出会うと、ヒレやえらぶたを大きく広げて体を大きく見せ、威嚇します。それでも引かないときは、たがいにかみつき合います。ヒレやえらぶたを広げるこの威嚇は、フレアリングと呼ばれます。鏡に映った自分の姿にも反応してヒレを広げることが知られ、飼育下では、健康を保つための運動として使われています。この気性の強さから、水槽ではオスを一匹だけで飼うのがふつうです。
闘魚から観賞魚へ
600年以上の闘魚の歴史
タイでは、オスを戦わせて勝ち負けを競う遊びが、600年以上前からおこなわれてきました。この試合は、古くから賭けの対象にもなってきたものです。強い個体を選んでかけ合わせるうちに、争いに強い系統が生まれたとされます。こうした闘魚用のベタは、野生のものより攻撃的とされます。
色とヒレを競う品種へ
20世紀に入ると、強さではなく美しさを競う繁殖がさかんになりました。1927年には、長く流れるようなヒレをもつ品種がドイツで紹介されています。今では、色やヒレの形の異なるさまざまな品種が生み出されています。ベタはタイを代表する魚として親しまれ、2019年には国の魚に定められました。
水面の空気を吸う魚
ベタは、ふつうの魚とは違うしくみで呼吸できます。この体のつくりが、浅く濁った水でも生きられる理由になっています。

ラビリンス器官で空気を吸う
えら以外の呼吸のしくみ
ベタは、頭の中に「ラビリンス器官」という空気を取り込む部分をもっています。この器官は内部が迷路のように入り組んでいることから、ラビリンス(迷宮)器官と呼ばれます。水面に口を出して空気を吸い、ここで酸素を取り込みます。えらだけにたよらないため、酸素の少ない水の中でも生きられる魚です。生まれたばかりの稚魚にはこの器官がまだなく、成長にあわせて発達します。そのため稚魚は、水面の近くで過ごすとされます。
浅い水田でも生きられる
野生のベタは、水田や湿地の浅い水に住んでいます。こうした場所は水温が高く、酸素が少なくなりがちです。空気を吸えるベタは、ほかの魚が苦しむような水でも暮らせます。雨の少ない乾季に水が減り、小さな水たまりに取り残されても、空気を吸って生きのびられます。この丈夫さが、飼いやすさにもつながっています。
泡の巣で子を守る
オスがつくる泡の巣
繁殖期になると、オスは水面に泡をたくさん吹き、泡の巣をつくります。巣は、水草の陰など波の立ちにくい水面につくられます。空気を含んだ泡は、酸素の少ない水面でも卵に酸素を届ける役目をもっています。一度の産卵で生まれる卵は、数十から数百にもなります。産卵のときには、オスがメスに体を巻きつけるようにして卵を産ませます。メスが産んだ卵を、オスは口で運んでこの巣へ入れます。
卵と稚魚を守るオス
卵を巣に入れたあとも、オスは巣のそばを離れません。落ちた卵を口で拾い、巣へ戻すこともあります。卵は一日ほどでかえり、しばらくのあいだオスが稚魚の世話を続けます。やがて泳げるようになった稚魚は、巣を離れて独り立ちします。魚のなかでは、オスが子を守る珍しい例の一つです。
いろいろなベタ
店で見かける色鮮やかなベタは、長い品種改良の結果です。野生のベタの姿とは、大きく違います。

ヒレと色の品種
観賞用のベタには、たくさんの品種があります。半月のように尾ビレが大きく開く「ハーフムーン」、ヒレのふちがとげのように分かれる「クラウンテール」、ヒレが長く垂れる「ベールテール」などが知られています。尾が二つに分かれる「ダブルテール」や、ヒレの短い「プラカット」など、形の系統もいろいろです。色も、赤・青・白・黒のほか、金属のように光るものや模様の混じるものもあります。オスは特にヒレが大きく、色も派手です。尾ビレ・背ビレ・尻ビレが大きく広がるため、素早く泳ぐよりも、水中を漂うように動きます。口は上を向いていて、水面のえさや空気を取りやすいつくりです。

野生のベタは地味
野生のベタは、緑や茶、灰色をした地味な体色をしています。ヒレも短く、店で売られている個体とは見た目がかなり違います。争いも、観賞用のように長くは続かないとされます。派手なベタは、人が長い時間をかけてつくり出した姿だといえます。いっぽう野生のベタは、汚れた水や生息地の減少によって数を減らし、危急(VU)に分類されています。
ベタの仲間たち
ベタ属には70種以上が知られ、その多くは東南アジアに住みます。泡の巣をつくる種のほかに、口の中で卵や稚魚を守る「口内保育」をする種もいます。観賞魚として広まったベタ・スプレンデンスは、泡の巣をつくる代表的な種です。
飼い方の基本
ベタは、少ない水でも飼えることから、初めて魚を飼う人にも親しまれています。いっぽうで、その気性や体のつくりに合わせた世話を必要とする魚でもあります。
一匹ずつ飼う
オスは、ほかのオスと同じ水槽に入れると激しく争います。そのため、オスは一匹ずつ分けて飼われるのがふつうです。水面で空気を吸うため、ふたと水面までの空間があるところで飼われます。熱帯の魚のため、水温は25℃前後が適しているとされ、冬は水をあたためて飼われます。水草や隠れ家のある環境を好み、そうした場所では落ち着いて過ごします。メスどうしや、おとなしい別の魚となら、いっしょに飼われることもあるとされます。
餌と寿命
ベタは肉食で、野生ではボウフラ(蚊の幼虫)などをよく食べます。飼育下では、ベタ用の人工フードやアカムシなどが餌に使われます。食べ残しは水を汚すため、餌は控えめに与えられます。水が汚れるとヒレが溶けるように傷む病気にかかりやすく、水のきれいさが健康を左右するとされます。寿命は2〜3年ほどで、水の状態によって元気に過ごせるかどうかが変わります。値段は品種によって幅があり、身近な色の個体は数百円ほどで売られています。
参考
- Siamese fighting fish(en.wikipedia.org)分類・ラビリンス器官・闘魚の歴史・品種・繁殖
- IUCN Red List「Betta splendens」野生個体の保全状況(危急)
- Vidthayanon, C. (2011) ベタの分布・生息環境と脅威
画像出典
- アイキャッチ:Iluminaticharon, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(Siamese fighting fish betta)
- 華やかなオス:Henryk Niestrój, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(Bojownik syjamski)
- 争う二匹:Smrithy Raj, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(Betta splendens fighting)
- 泡の巣:ErgoSum88, Public domain, via Wikimedia Commons(Betta splendens male with bubble nest)
- メスの写真:Bernard Ladenthin, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(Siamese fighting fish female)


