モズ

小型陸鳥

モズは、日本ではスズメより少し大きな身近な鳥です。秋の空に響く「高鳴き」と、獲物を枝先に突き刺す「はやにえ」で古くから知られ、地名や古墳の名にも残ります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 亜目:スズメ亜目 Oscines
  • 科:モズ科 Laniidae
  • 属:モズ属 Lanius
  • 種:モズ Lanius bucephalus

和名・英名

  • 和名:モズ(百舌・百舌鳥・鵙)
  • 英名:Bull-headed shrike

名前の由来 ―「百の舌」と「牛の頭」

和名の「モズ(百舌・百舌鳥)」は、さまざまな鳥の鳴き声を真似る性質に由来します。「も」は百(もも)を、「ず」は舌を指し、あわせて「百の鳥の声を持つ鳥」という意味あいになります。

学名の種小名 bucephalus は「牛の頭」を意味します。頭頂部の赤みを帯びた褐色が赤毛の牛を思わせるためではないかとされますが、はっきりしません。属名 Lanius は「屠殺者・引き裂くもの」の意で、鋭い嘴で獲物を仕留め、はやにえで枝に串刺しにする習性からきています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約19〜20cm(スズメより一回り大きい)/翼長 雄84〜92mm・雌80〜87mm
分布東アジア(中国東部から沿岸南部・朝鮮半島・ウスリー南部・樺太・日本列島)
生息環境開けた森林・林縁・河畔林・農耕地。見通しのきく低木や電線を好む
食性動物食(昆虫・小型爬虫類・両生類・小魚・小型鳥類・小型哺乳類など)
繁殖2〜8月に樹上や茂みで皿状の巣を作り、4〜6卵。抱卵14〜16日/巣立ちまで約14日
保全状況IUCN:LC(低危険種/2024年)、環境省RLでは指定なし(都道府県では準絶滅危惧の指定あり)

姿と体のつくり

枝に止まるモズのオス・秋の姿
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

大きさとシルエット

スズメより一回り大きく、頭が大きめでずんぐりして見える一方、尾が長いのが特徴です。全長のうち尾が3分の1近くを占め、電線や梢の先で尾を上下に振る姿がよく目撃されます。

嘴は先が鋭くカギ状に曲がり、小さな体に対しては不釣り合いなほど強そうに見えます。この形はワシタカ類と同じ「肉食の嘴」で、モズが小鳥のなかまでも異端の狩人であることを物語ります。

過眼線と季節による色の変化

枝先のモズ ―太い過眼線と赤褐色の頭部
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

顔にはっきりした太い黒帯(過眼線)が走り、その上に細い眉線が乗ります。全身は赤褐色を基調にしますが、背は灰色・翼は黒っぽく・腹は白っぽいクリーム色と、部位ごとの色分けがはっきりしています。

雄は季節でも色が変わります。春から夏はやや淡く黄みを帯び、秋になると全体が赤みを増して色が濃くなるとされます。これは羽の生え換わりで一枚一枚に斑紋が出るためで、秋のモズは胸にうっすら横縞が見えることがあります。

オスとメスの見分け方

横縞の目立つモズのメス
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

雄と雌は色柄で見分けられます。雄は過眼線が太く黒く、翼の初列風切基部の白い斑(翼鏡)が飛翔時に目立ちます。雌は全体に色が均一で赤褐色寄り、過眼線が茶色っぽくて目立ちません。腹や脇に細かな横縞が年中残るのが雌の目印です。

狩りをする小鳥 ―スズメ目の異端児

ミミズをくわえて枝で食べるモズ
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

スズメ目は種の数がもっとも多いグループで、多くは小さな昆虫や種子を食べます。そのなかでモズ科は、脊椎動物までを襲う肉食性へ進化した独特のグループです。モズもその一員として、小鳥のなかでは異端の狩人といえます。

待ち伏せ型の狩り

木の上から地面をうかがうモズのオス
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

狩り方はワシやタカのような空中からの襲撃ではなく、見通しのよい枝先や電線から地面をうかがう「待ち伏せ型」です。獲物を見つけると急降下して捕らえ、再び高い場所に戻って処理します。

ワシタカ類と違ってモズの足の力は弱く、獲物を掴んで押さえこむことはできません。そのため小枝や棘に固定して食べる、独特の処理方法を身につけました。これが後述するはやにえにつながります。

何を食べているか

脊椎動物まで襲うと聞くと猛々しい印象があります。しかし静岡県のペリット(吐き戻した消化残渣)を分析した研究では、実際の主食は昆虫で、なかでもゴミムシ類を好むとされます。年間を通じてバッタ・クモ・トカゲ・カエル・小鳥・ネズミ類まで、季節と地域に応じて幅広く食べます。

秋から冬は木の実もつつきますが、これは一時的な補助で、基本は動物食から離れません。消化しきれない骨や毛は、他の肉食鳥と同じくペリットにまとめて吐き戻します。

はやにえ ―獲物を枝に突き刺す習性

幼虫をくわえるモズ ―獲物処理の場面
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

「早贄」という字の由来

モズは捕らえた獲物を、木の枝や棘、鉄条網などに突き刺したまま残す習性を持ちます。これを「モズのはやにえ(早贄)」といい、秋の季語にもなっています。刺されるのはバッタ・カエル・トカゲ・小鳥・ネズミなどさまざまで、稀に刺されたばかりで動いているものも見つかります。

「秋に初めての獲物を生け贄として捧げた」という伝承から「早贄」の字が当てられました。はやにえはモズだけでなくモズ属全体で見られる行動で、機能をめぐって古くから複数の仮説が立てられてきました。

冬の保存食としてのはやにえ

かつては疑われていた「保存食説」

もっとも古くからある説が、餌の少ない冬に備えた保存食だ、というものです。かつては「刺したまま放置される例が多い」との観察から否定的にも扱われてきました。

冬に集中して食べられていた

近年の詳細な追跡では、はやにえの多くが消費され、しかも気温の低い時期に集中して食べられていることが明らかになりました。冬の食料として実際に機能していると考えられています。

雌の配偶者選択と栄養状態(2019 大阪市立大・北海道大)

2019年の共同研究が示したもの

はやにえの機能をめぐる大きな転機が、2019年の大阪市立大学と北海道大学の共同研究です。冬から春先にはやにえを多く消費した雄ほど、繁殖期の歌の質が高まり、雌との「つがい成立」が早いことが示されました。

歌を底上げする栄養補給の貯蔵庫

雄はさえずりの複雑さと速さで雌に選ばれるため、栄養状態を高めておく必要があります。はやにえは、繁殖のシーズンに歌の魅力を底上げする「栄養補給の貯蔵庫」として機能していると位置づけられました(Nishida & Takagi 2019, Animal Behaviour)。

そのほかの仮説と「積雪量の風説」

他にも、足の力が弱いモズが小枝や棘を「フォーク代わり」にして食べるための固定手段だ、という説があります。空腹満腹に関係なく獲物を見つけると本能的に捕らえる習性があり、その場で枝に刺しておく、という説明も立てられています。

民間には「はやにえの位置が高い年は積雪が多く、低い年は少ない」という積雪予測の風説もあります。福井県などで低い位置に刺された例が新聞に取り上げられることもありますが、モズが積雪量を予測する仕組み自体は科学的には検証されていません。

高鳴き ―秋の空に響く縄張り宣言

口を開けて鳴くモズのオス
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

秋の高鳴き ―単独越冬のための争い

秋、9月から11月ごろにかけて、モズは「キィーキィーキィッ」と鋭く連続する声を張り上げます。これが「モズの高鳴き」と呼ばれる声で、秋の到来を告げる季節の風物として古くから親しまれてきました。

高鳴きの中心は、繁殖期を終えた成鳥や巣立ったばかりの若鳥による縄張り争いです。モズは冬を単独で越すため、この時期に自分だけの越冬エリアを確保する必要があります。声で他個体を追い出し、勝った個体はその範囲を単独で守り抜きます。

春の高鳴き ―繁殖前の宣言

春先にも縄張りをめぐる高鳴きが聞かれますが、こちらは繁殖に向けたパートナー探しの意味合いが強いとされます。同じ「高鳴き」でも、秋と春では役割が少し違います。

鳴きまねの名手 ―ホーホケキョまで真似る

混ぜて歌う ―ウグイスからシジュウカラまで

モズは自分の声とは別に、他の鳥の鳴き真似を織り交ぜたさえずりでも知られます。ウグイスの「ホーホケキョ」・メジロ・ツバメ・シジュウカラなど、身近な鳥の声を器用に混ぜて歌います。

「百舌勘定」の由来

「モズ=百の舌」という和名は、この性質が由来です。他人にばかりお金を出させる勘定を「百舌勘定」と呼ぶ表現も、他の鳥の声を真似るモズの生態から生まれたといわれます。

繁殖 ―雌雄で作る皿状の巣

皿状の巣と4〜6個の卵

営巣と産卵

繁殖期は主に2〜8月です。樹上や茂み・笹薮のなかに、細い枝を組んだ皿状の巣を雌雄が協力して作ります。年に2回繁殖することもあり、産卵数は4〜6個です。

抱卵・育雛と雛への給餌

抱卵するのは雌のみで、抱卵期間は14〜16日。孵化した雛は約14日で巣立ちます。育雛期には雄が積極的に餌を運び、獲物にはバッタ・イモムシ・小魚・トカゲなど多様な動物が含まれます。

カッコウの托卵を受ける宿主

モズはカッコウに托卵されることでも知られる種のひとつです。カッコウの雛はモズの雛より早く孵り、宿主の卵や雛を巣外に押し出してしまうため、被托卵はモズの繁殖成功に直接影響します。

分布と季節の移動

モズの分布図(東アジア)
Scops, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

東アジアに広がる分布

モズは東アジアの鳥です。分布は中国東部から沿岸南部・朝鮮半島・日本列島・樺太などにおよびます。日本では北海道から九州まで広く見られ、多くの個体は年間を通じて同じ地域にとどまる留鳥です。

秋の南下と町での目撃

ただし北部の個体群や山地の個体群は、秋になると低地や南方へ移動して越冬します。南西諸島には冬鳥または旅鳥として飛来するのみで、周年生息はしません。「秋になると町の公園でもモズを見るようになる」という現象は、こうした地域内の移動によるところが大きいと考えられます。

人との関わり ―百舌鳥古墳と地名

モズは古くから人の暮らしのそばにいた鳥で、地名や慣用句にも姿を残しています。大阪府堺市の「百舌鳥(もず)」の地名と、その一帯に広がる百舌鳥古墳群は、日本書紀に伝わる仁徳天皇の伝承がもとになっています。

伝承では、造成中の陵墓に向かって突進してきたシカが目の前で絶命し、その耳のなかからモズが飛び立ったといいます。それにちなんで一帯は「百舌鳥耳原」と呼ばれ、仁徳天皇陵(大仙陵古墳)は宮内庁により「百舌鳥耳原中陵」に治定されています。世界最大級の墳墓の名にモズの名が残る珍しい例です。

「モズの巣」=寝ぐせの表現

寝起きに髪がぼさぼさに絡まった状態を「モズの巣(モンズの巣)」と呼ぶ方言があります。モズの巣は細い枝や枯れ草を無造作に組み上げたように見えるため、乱れた髪の姿になぞらえたものです。

大阪府と堺市の鳥

百舌鳥古墳群の逸話にちなみ、モズは大阪府の鳥および堺市の鳥に指定されています。大阪府の公式マスコット「もずやん」のモチーフでもあります。

宮本武蔵の水墨画『枯木鳴鵙図』や、明治の花鳥画家・渡辺省亭の作品にもモズが描かれ、日本美術のなかにも小さな存在感を残しています。

保全状況

IUCNと国内評価

IUCNレッドリスト(2024年評価)ではLC(低危険種)で、種としての絶滅懸念はありません。ただし推定生息数は減少傾向にあるとされ、国内でも東京都で準絶滅危惧、神奈川県で県独自ランクに指定されています。

里山と狩り場

身近な鳥ではありますが、狩り場となる林縁や河川敷、農地の草地が失われると急速に姿を消します。里山の草木のバランスがモズの暮らしを支えているといえます。

参考

画像出典

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