ヤシガニ

エビ・カニ類(十脚類)

ヤシガニは、陸で暮らす生きもののなかで世界最大の節足動物です。強力なはさみで硬いヤシの実を割ることから、この名がつきました。カニと呼ばれますが、その正体はヤドカリの仲間で、幼いころは貝殻を背負って育ちます。日本では沖縄など南の島々にすみ、夜になると木に登って餌を探します。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目 Decapoda
  • 科:オカヤドカリ科 Coenobitidae
  • 属:ヤシガニ属 Birgus
  • 種:ヤシガニ Birgus latro

和名・英名

  • 和名:ヤシガニ(椰子蟹)
  • 英名:Coconut crab

名前の由来と「カニ」ではない話

和名も英名も、ヤシの実を割って食べる姿に由来します。名前に「カニ」とつきますが、分類のうえではカニではありません。ヤシガニが属するのはオカヤドカリ科で、オカヤドカリと同じ陸のヤドカリの仲間です。ヤシガニ属はこの一種だけで成り立ち、近い姿の仲間はほかにいません。細長い脚を広げた姿は、大きなクモを思わせることもあります。同じ科のオカヤドカリは一生を貝殻とともに過ごしますが、ヤシガニはその何倍も大きく育ちます。赤道に近い暖かい島々を中心に、広く散らばって暮らしています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長 最大約40cm・脚を広げると約1m・体重 最大約4kg
分布インド洋〜太平洋の島々(日本では沖縄など南西諸島)
生息環境海に近い森や岩場(夜行性)
食べもの雑食(果実・木の実・種・動物の死骸など)
寿命非常に長く、60年をこえるとされる
保全状況IUCN: 危急(VU)

世界最大の陸のハンター

大きなはさみを持つヤシガニ
Drew Avery, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

巨大な体と強いはさみ

脚を広げると1mをこえる

ヤシガニは、陸に暮らす節足動物のなかで最も大きい種です。体長は40cmほど、脚を広げると1mをこえる個体もいます。体重は4kg近くに達し、大人が持ち上げるほどの重さになります。体の色は生息地によって差があり、青みがかった紫や、赤褐色の個体も見られます。十脚目の名のとおり10本の脚を持ち、いちばん前の一対が大きなはさみです。大きく育ったヤシガニには、人のほかに天敵はほとんどいません。

ヤシの実も割る力

ヤシガニの大きなはさみは、甲殻類のなかでも屈指の力を持ちます。研究では、その挟む力は3000ニュートンをこえると測られました。これは、およそ30kgの重さを受け止められるほどの強さです。ヤシの厚い殻を割れる甲殻類は、ほかにほとんど知られていません。硬いヤシの実の繊維を少しずつ引きはがし、殻の弱い部分をたたいて割ります。高い木からヤシの実を落とし、地上で時間をかけて割ることも知られています。指をはさまれれば大けがをするため、野生の個体には不用意に近づけません。外敵に出会うと、このはさみを高くかかげて身を守ります。

木に登り、においで探す

ヤシガニは木登りが得意で、幹を登って果実や若い実を手に入れます。においを嗅ぎ分ける力がすぐれ、遠くの死骸や熟した果実も探し当てます。この鼻の役割をになうのは、昆虫と似たしくみの、空気のにおいを感じる器官です。腐った肉のにおいなら、数百m先からでも気づくとされます。食べものはえり好みせず、木の実や種、動物の死骸まで口にします。ときには弱った小動物や、ほかのカニを襲うこともあります。昼は岩のすきまや穴に潜み、夜になると活発に動き回ります。

正体はヤドカリの仲間

木を登るヤシガニ
Neisyaranifauzia, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

幼いころは貝殻を背負う

子どものころはヤドカリそのもの

ヤシガニは、生まれてまもないころはふつうのヤドカリと同じ姿です。柔らかいおなかを守るため、巻き貝の殻を見つけて背負います。成長して合う殻がなくなると、ヤシの殻のかけらを使うこともあります。この時期は、海辺の砂地で暮らす小さなヤドカリです。

おとなは殻を捨てて体を硬くする

やがて体が大きくなると、ヤシガニは貝殻を背負うのをやめます。かわりに、おなかの外側を硬い殻で覆い、自らの体で身を守ります。炭酸カルシウムを蓄えて硬く仕上げた、いわば自前のよろいです。脱皮のたびに、この腹の殻を固め直して丈夫にしていきます。殻を探す手間から解き放たれ、陸の上で大きく育つ道が開けました。

泳げない体と陸の呼吸

えらが変わった肺で息をする

ヤシガニは、水の中のえらではなく、空気を吸う特別な器官で呼吸します。えらのある部屋が変化した「鰓葉肺」と呼ばれるつくりで、空気から酸素を取り込みます。この器官は湿っていないとうまく働かないため、乾いた場所は苦手です。海の生きものから、陸で息をする体へと進化したあかしです。

水に落ちると溺れる

おとなのヤシガニは泳ぐことができず、水の中では長く生きられません。深い水に落ちると、1時間ほどで溺れてしまうとされます。台風などで海に流されると、命を落とすこともあります。海のそばに暮らしながら、その海にはもう戻れない体になっています。陸に上がりきった一生を送る、変わったヤドカリの仲間です。

海と陸をめぐる一生

海に放たれる幼生

おとなは陸で暮らしますが、卵は海へ返されます。メスは満潮の夜に海辺へ下り、卵から出た幼生を波打ちぎわで放ちます。一度に放たれる幼生は数万にもなりますが、育つのはごくわずかです。幼生は3〜4週間ほど、プランクトンのように海を漂う日々を送ります。やがて小さな貝殻を見つけて海底に落ち着き、少しずつ陸へと上がっていきます。この上陸のころは、ちょうどヤドカリのように小さな貝殻に入って過ごします。いったん陸に上がると、二度と海の中では暮らせません。

ゆっくり育ち、長く生きる

ヤシガニは成長がとてもゆっくりで、大人になるまで5年ほどかかります。脱皮を繰り返しながら、何十年もかけて大きな体になっていきます。十分に育つまでに、実に数十回もの脱皮を重ねます。脱皮のときは無防備になり、穴にこもって数週間もじっとしています。脱ぎ捨てた古い殻は、貴重な栄養として食べてしまいます。寿命は長く、60年をこえて生きる個体もいるとされます。ゆっくり育つぶん、数が減ると回復に長い時間がかかる生きものです。

人とのかかわり

地上を歩くヤシガニ
Drew Avery, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

食用と、減っていく数

ヤシガニは、南の島々で古くから食べられてきた食材です。身は美味とされ、沖縄などでは料理として出す店もあります。ゆでるとカニのようなうまみに、ヤシの香りが加わるとも言われます。しかし成長が遅いため、とりすぎるとすぐに数が減ってしまいます。太平洋のクリスマス島には世界最大の個体群が残る一方、多くの島では姿が見えにくくなりました。IUCNは危急種に分類し、一部の地域では捕獲を制限する動きも広がっています。

食べるときの注意

ヤシガニを食べるときには、まれに中毒が起こることが知られています。毒を持つ植物や生きものを食べた個体では、その毒が体にたまることがあるためです。国の天然記念物ではありませんが、身近な数が減り、大切に扱うべき生きものになっています。実際に、地域によっては条例で捕獲が制限されています。見かけても、むやみに捕まえないことが各地で呼びかけられています。

飼うのが難しい理由

大きくて力の強いヤシガニは、家庭での飼育がとても難しい生きものです。湿り気のある環境や身を隠せる穴、飲み水などがそろわないと、うまく育ちません。寿命が数十年と長いため、飼うには一生ぶんの世話が必要になります。数が減っていることもあり、野生の個体を安易に捕ることは各地で戒められています。

関連ページ

ヤドカリ【総合】
ヤドカリは貝殻を背負って暮らす甲殻類の仲間。成長に合わせた「宿替え」や殻の奪い合い、殻を捨てて育ったヤシガニ・タラバガニ、イソギンチャクとの共生まで。

参考

  • Wikipedia(英語版)「Coconut crab」― 分類・形態・はさみの力・呼吸・生活史・保全の各節
  • IUCN レッドリスト「Birgus latro」― 分布・保全状況(危急VU)
  • 各水族館・沖縄の自然の解説― ヤシガニの生態と保護の取り組み

画像出典

サムネイル画像: Drew Avery, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

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