ベニザケは、産卵期に全身が真っ赤に染まるサケです。緑がかった頭と、濃い紅色の体。その姿から「紅鮭(べにざけ)」の名で呼ばれ、切り身の色の濃さでも知られます。サケの仲間のなかでも、とりわけ色の印象が強い魚です。
ベニザケには、ほかのサケにない特徴があります。稚魚が湖で育つため、湖につながる川でなければ繁殖できません。さらに、海へ下らずに一生を湖で過ごす「ヒメマス」も、同じ種類です。湖と切り離せない一生を送るサケです。
分類と学名
分類階層
ベニザケは、サケ目サケ科サケ属に入る魚です。学名は Oncorhynchus nerka といいます。同じ属には、日本でサケと呼ばれるシロザケやギンザケ、カラフトマスがいます。ベニザケは、湖と川と海の三つをつないで生きる魚です。北太平洋の北側を中心に、アラスカやカムチャツカ、カナダの川に多く帰ります。
- 目:サケ目
- 科:サケ科
- 種:ベニザケ(Oncorhynchus nerka)
- 分布:北太平洋北部。日本の川へ帰ることはまれ

名前と「紅鮭」
名前の「ベニ」は、産卵期の体の色からきています。切り身として売られるときも「紅鮭」と書かれ、身の紅色の濃さが特徴です。英語では「レッドサーモン」とも呼ばれます。色そのものが名前になった、分かりやすい呼び名です。北の海に暮らす人びとにとっては、古くから欠かせない魚でもありました。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約60〜80cm/体重 2〜4kgほど(陸封型のヒメマスは20〜40cm) |
|---|---|
| 分布 | 北太平洋北部とその川・湖(アラスカ・カムチャツカなど) |
| 生息環境 | 稚魚は湖。成長すると海。産卵は湖につながる川 |
| 食べ物 | 動物プランクトンが中心。ほかに小さなエビや小魚 |
| 婚姻色 | 体は紅色、頭は緑。オスは背が盛り上がる |
| 陸封型 | ヒメマス。海へ下らず一生を湖で過ごす |
真っ赤に染まる体
海にいるあいだのベニザケは、ほかのサケと同じ銀色をしています。ところが産卵のために川へ入ると、その姿は別の魚のように変わります。

婚姻色
緑の頭と紅の体
川に入ったベニザケは、体じゅうが濃い紅色に変わります。頭だけは緑がかった色になり、赤との対比が際立ちます。この色変わりは、オスにもメスにも起こります。サケの仲間のなかでも、これほど鮮やかに赤くなる種類はほかに知られていません。赤い色のもとは、身に蓄えていたアスタキサンチンです。産卵期が近づくと、この色素は筋肉から皮膚へ移るとされます。そのぶん身の色は薄くなり、川で捕れたベニザケの身は白っぽくなります。
オスは背が盛り上がる
オスの変化は、色だけにとどまりません。背中が大きく盛り上がってこぶのようになり、口の先はかぎ形に曲がります。歯も鋭く伸び、ほかのオスと張り合う姿になります。この派手さは、メスに選ばれ、争いに勝つためのものだと考えられています。

湖で育つ子
湖がないと育たない
稚魚は湖で1〜2年過ごす
ほかの多くのサケは、生まれてまもなく海へ下ります。ベニザケの稚魚は、まず湖へ移り、そこで1〜2年を過ごします。そのため、産卵する川は湖につながっていなければなりません。湖のない川に、ベニザケは帰ってきません。北アメリカでは、川が赤く見えるほどの数が押し寄せる場所も知られています。
プランクトンを食べて育つ
湖での主な食べ物は、水中を漂う動物プランクトンです。昼は深いところ、夜は浅いところと、餌を追って上下に動きます。海へ出たあとも、プランクトンや小さなエビをよく食べます。この食べ方が、身の色に深く関わっています。
身がいちばん赤いサケ
餌が作る紅色
サケの身が赤いのは、アスタキサンチンという色素によるものです。この色素は、餌となる小さなエビやプランクトンから取り込まれます。プランクトンを多く食べるベニザケは、その色素をたくさんため込みます。切り身の紅色がサケの仲間でもっとも濃いのは、この食べ方の結果です。同じ紅鮭でも、育った海や餌によって色の濃さは変わります。
海へ下らないヒメマス
ベニザケには、海へ出ずに一生を湖で終えるものがいます。それが「ヒメマス」です。別の魚のようですが、分類のうえではベニザケと同じ種類にあたります。

同じ種の二つの生き方
阿寒湖から各地へ
日本のヒメマスは、もともと北海道の阿寒湖とチミケップ湖にいたものです。そこから支笏湖や十和田湖、中禅寺湖などへ移されて広まりました。海へ出ないぶん体は小さく、全長は20〜40cmほど。産卵期には、ベニザケと同じように体が赤く染まります。水温が低くプランクトンの多い湖でよく育ち、釣りの対象としても人気があります。
クニマスという近い仲間
ヒメマスによく似た魚に、クニマスがいます。秋田県の田沢湖だけにすみ、1940年ごろに絶滅したとされていました。ところが2010年、山梨県の西湖で生き残りが見つかります。かつて田沢湖から西湖へ卵が送られており、それが残っていたとみられます。見つかったのは、湖の深い場所で産卵する一群でした。ベニザケに近い仲間で、分類上の扱いには議論も残ります。絶滅とされた種が、別の水域で確認された例です。
シロザケとの違い
色と育ち方
日本でサケといえばシロザケですが、ベニザケとはいくつも違いがあります。もっとも目立つのは産卵期の色。シロザケが緑や紫のしま模様になるのに対し、ベニザケは全身が紅色に染まります。身の赤さもベニザケのほうが濃く、これは食べているものの違いによります。さらにベニザケは稚魚が湖で育つため、湖につながる川しか使えません。日本の川へ帰るのがシロザケ中心なのは、この条件の違いも関わっています。
一生と産卵
一度きりの産卵
海で3〜5年を過ごしたベニザケは、生まれた川へ帰ってきます。一匹のメスが産む卵は、2000〜4000個ほどです。川に入ると餌をとらず、蓄えた力だけで上流をめざします。メスは湖の岸や川底の砂利に穴を掘り、卵を産みます。そして産卵を終えた親は、まもなく死にます。ほかのサケと同じく、一生に一度きりの繁殖。その体は分解され、川や湖の栄養となります。

人とのかかわり
日本の川へ帰るベニザケは、ごくまれです。店に並ぶ紅鮭のほとんどは、アラスカやロシアからの輸入品です。塩鮭や缶詰として広く親しまれ、身の色の濃さから好まれてきました。缶詰の材料としても重要で、北の海の漁業を長く支えてきた魚です。一方、ヒメマスは十和田湖や支笏湖などで釣りや料理の対象になり、地域の名物として知られています。
どこで会えるか
日本でベニザケそのものに出会う機会は多くありません。かわりに、陸封型のヒメマスなら各地の湖で見られます。十和田湖や中禅寺湖では、秋に産卵のため岸へ寄る姿が観察されています。赤く染まったヒメマスが浅瀬に集まる時期です。湖畔の店では、ヒメマスの塩焼きなどが名物として出されます。水族館では、北の魚を集めた水槽で展示されることがあります。ふ化場や資料館で、卵や稚魚の展示が行われることもあります。

参考
- Wikipedia「ベニザケ」「ヒメマス」「クニマス」「Sockeye salmon」
- Alaska Department of Fish and Game「Sockeye Salmon」ほか
- クニマスの再発見に関する報告(2010年・西湖)ほか
画像出典
- David Menke / U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons
- U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons
- gailhampshire, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- Brad R. Torgersen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons




