ハリモグラは、背中がトゲでおおわれた、オーストラリアなどで暮らす哺乳類です。カモノハシと同じく、哺乳類でありながら卵を産む、めずらしい「単孔類」の仲間です。歯のない細い吻から長い舌をのばし、アリやシロアリをなめとって暮らします。危険がせまると、体を丸めてトゲのボールになったり、地面にもぐったりして身を守ります。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:単孔目 Monotremata
- 科:ハリモグラ科 Tachyglossidae
- 属:ハリモグラ属 Tachyglossus
- 種:ハリモグラ Tachyglossus aculeatus
和名・英名
- 和名:ハリモグラ(針土竜)
- 英名:Echidna(Short-beaked echidna)
名前の由来
和名の「ハリモグラ」は、背中の「針(トゲ)」と、モグラのように土を掘る前足や顔つきを合わせた名前です。実際にはモグラの仲間ではありませんが、土を掘って暮らすようすがよく似ています。ただし、モグラのように、一生を地中だけで過ごすわけではありません。英名の「エキドナ(Echidna)」は、ギリシャ神話に出てくる半人半蛇の怪物の名にちなむとされます。分類上の「単孔類」という名は、ふんや尿、卵をすべて一つの穴から出すことに由来します。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約30〜45cm(体重 約2〜8kg) |
|---|---|
| 分布 | オーストラリア・ニューギニア |
| 生息環境 | 森林・山地・岩場・砂地など、はば広い環境 |
| 食べ物 | アリとシロアリ。ミミズなども |
| 寿命 | 野生でも40年をこえる例がある、長生きの動物 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念) |

針におおわれた体
トゲと毛と細い吻
ハリネズミに似た針
ハリモグラの背中とわき腹は、するどいトゲでびっしりとおおわれています。このトゲは、毛が変化して硬くなったものです。トゲとトゲのあいだには、黒っぽい体毛も生えています。全長は30〜45センチメートルほどで、丸みのあるずんぐりとした体つきです。目は小さく、顔の先が細くとがっています。見た目はハリネズミによく似ていますが、まったく別の仲間の動物です。トゲは、進んで敵に立ち向かうためではなく、身を守るための道具です。ハリモグラの仲間には、吻の長いミユビハリモグラもいて、ニューギニアの森で暮らしています。
歯のない口と長い舌
顔の先には、管のように細長い吻がつき出ています。この吻の先に小さな口があり、歯は一本もありません。そのかわり、細長い舌をもち、口から18センチメートルほどものばすことができます。舌はねばりけのある唾液でおおわれ、小さなアリをからめとるのに向いています。この舌をすばやく何度も出し入れして、たくさんのアリをなめとります。アリ塚の細いすきまにも、舌を差しこんで虫をとらえます。
ハリネズミ・ヤマアラシとの違い
トゲをもつ動物のうち、ハリネズミやヤマアラシはよく知られていますが、これらはハリモグラとはまったく別の仲間です。ハリネズミはモグラに近い仲間、ヤマアラシはネズミの仲間ですが、ハリモグラは卵を産む単孔類です。ハリネズミやヤマアラシと違い、ハリモグラはオーストラリアやニューギニアにしかいません。同じように見えるトゲが、別々の系統の動物に、それぞれ身を守る道具として生まれました。見た目が似ていても、体のつくりや子の育て方はまったく違います。

アリを舐めとる暮らし
舌でアリやシロアリを
18センチのびる舌
ハリモグラの食べ物は、おもにアリとシロアリです。細長い舌をすばやく出し入れして、巣穴の奥にいる虫をなめとります。歯がないため、飲みこんだ虫は、口の中や胃の中ですりつぶされます。ミミズなど、ほかの小さな生きものを食べることもあります。野生では、オオトカゲやディンゴ、ワシなどに狙われることがあります。
爪でアリ塚をこわす
前足には、太くてじょうぶな爪がそなわっています。この爪で、硬いアリ塚・シロアリの巣・朽ち木などをこわして、中の虫をあばき出します。掘る力はとても強く、土の中へすばやくもぐることもできます。においや、吻の先の感覚をたよりに、獲物のありかをさぐります。なお、オスの後ろ足には距(きょ)と呼ばれる突起がありますが、カモノハシと違って毒はありません。後ろ足の爪の一本は長くのび、トゲのあいだの毛づくろいに使われます。

卵を産む哺乳類
カモノハシと同じ仲間
一個の卵を袋で温める
ハリモグラは、哺乳類でありながら卵を産む、めずらしい動物です。卵を産む哺乳類は、ハリモグラのなかまとカモノハシしかいません。メスは、直径1.5センチメートルほどの小さな卵を、ふつう1個だけ産みます。産卵は年に一度で、繁殖の時期にかぎられます。卵を温め、子を育てるのは、すべてメスの役目です。オスは繁殖にかかわるだけで、子育てにはたずさわりません。この卵を、おなかにできる「育児嚢(いくじのう)」という袋に入れて、体で温めます。卵で子を残すやり方は、大昔の哺乳類のなごりを伝えるものと考えられています。単孔類は、ほかの哺乳類ととても早い時代に分かれた、古いグループとされます。
乳首がなく乳がにじむ
卵の中の子は10日ほどで育ち、小さなくちばしのような突起で殻を破って出てきます。生まれたばかりの子は「パグル」と呼ばれ、しばらく袋の中で育ちます。単孔類には、ほかの哺乳類のような乳首がありません。そのかわり、おなかの皮膚のある部分から乳がにじみ出し、子はそれをなめて育ちます。パグルは、トゲが生えはじめるころに、母親の袋から出ます。そのあとは、母親が掘った巣穴で、さらに数か月のあいだ育てられます。ひとり立ちするまでには、一年ほどかかるとされます。
体温が低く、冬眠もする
ハリモグラの体温は、30〜32度ほどと、多くの哺乳類より低めです。まわりが寒くなると、体温もさらに下がり、動きが鈍くなります。体温は、ときに5度近くまで下がることもあるとされます。寒さのきびしい地域では、冬眠をすることも知られています。夏の暑さがきびしいときにも、活動をおさえて休むことがあるとされます。こうした低めの体温は、少ない食べ物でも生きていくのに役立つと考えられています。

丸まって身を守る
トゲのボールになる
ハリモグラは、走るのが速くなく、するどい牙ももちません。そのかわり、危険がせまると、体を丸めてトゲのボールになります。柔らかいおなかは内側に隠れ、外からはトゲだけが見える姿になります。地面が柔らかければ、垂直に土を掘って、トゲの生えた背中だけを地表に残します。体全体を土にうずめることもあります。この守り方のため、多くの外敵は手を出しにくいとされます。

ハリモグラの豆知識
オスがつらなる「エキドナ・トレイン」
繁殖の季節には、一匹のメスのあとを、複数のオスがつらなって歩く行列が見られることがあります。この行列は「エキドナ・トレイン」と呼ばれ、オスがメスを追ってできるものです。長いときには十匹ほどのオスが、数週間にわたってメスのあとを追うこともあるとされます。ふだんは一匹で暮らすハリモグラが、群れのように見える数少ない場面です。
日本の動物園でも会える
ハリモグラは、日本のいくつかの動物園でも飼育・展示されています。夜行性のため、昼は寝ていることが多いものの、動きまわる姿が見られる園もあります。オーストラリアでは身近な動物で、5セント硬貨の絵柄にも使われています。ただし、国内で飼育している動物園は多くありません。泳ぐのも得意で、野生では川をわたる姿が見られることもあります。長い舌でアリを食べる姿は、ふだんはなかなか見られません。
関連記事

参考
- ウィキペディア「ハリモグラ」(分類・形態・食性・繁殖・単孔類)
- IUCN Red List「Tachyglossus aculeatus」(保全状況=軽度懸念)
- 各種の学術記事(単孔類の繁殖・体温・生態)
画像出典
- アイキャッチ・全身:Short-beaked echidna — Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 針と吻:Short-beaked echidna — benjamint444, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- 土を掘る姿:Short-beaked echidna — Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 歩く姿:Eastern short-beaked echidna — Elspeth Swan, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- 身を低くした姿:Short-beaked echidna — Calistemon, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 自然のなかで:Tachyglossus aculeatus (Healesville Sanctuary) — Ymblanter, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


