アイアイ

哺乳類

アイアイは、マダガスカル島だけに住む夜行性の霊長類です。細長い中指で木の幹を叩き、その反響で中に潜む虫の幼虫を探しあてます。日本では童謡の題名になっていますが、飼育している施設は上野動物園だけです。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:霊長目 Primates
  • 亜目:曲鼻猿亜目 Strepsirrhini
  • 下目:アイアイ下目 Chiromyiformes
  • 科:アイアイ科 Daubentoniidae
  • 属:アイアイ属 Daubentonia
  • 種:アイアイ Daubentonia madagascariensis

和名・英名

  • 和名:アイアイ(別名:ユビザル)
  • 英名:Aye-aye

名前の由来と別名

属名の Daubentonia は、フランスの博物学者ルイ=ジャン=マリー・ドバントンにちなんだ名前です。種小名の madagascariensis は「マダガスカル産の」を意味します。

和名アイアイの由来には諸説あります。現地の言葉で「知らない」を意味する「heh heh」を、住民が呼び名と取りちがえたという説があります。鳴き声からついたという説もあり、どちらとも決まっていません。

別名のユビザルは、中指の細長さから付きました。ドイツ語の Fingertier(指の動物)、中国語の指猴も、同じところに目を留めた名前です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ頭胴長 約36〜44cm/尾長 約44〜61cm(尾のほうが胴より長い。資料により幅があります)
体重約2〜3kg(実測値は2.5〜2.8kgの報告)
分布マダガスカル島の北部・東部・中西部(固有種)
生息環境熱帯雨林・広葉樹林・乾燥林・マングローブ林・二次林
活動時間夜行性(昼は木の上の球形の巣で休む)
食べもの昆虫の幼虫・カンラン科の果実の胚乳・タビビトノキの花の蜜・樹皮・キノコ
繁殖妊娠 約172日/1回に1頭/出産間隔 2〜3年/授乳は早くて生後7か月まで
保全状況IUCN:EN(絶滅危惧)/ワシントン条約 附属書I
枝の上のアイアイ。細長い指が見える
Tom Junek, derivative work: WolfmanSF, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

木を叩いて虫を探す中指

骨のように細い第3指

筋肉のない指

アイアイの手は、5本の指がどれも細長く伸びています。なかでも第3指、つまり中指は際立って細く、ほとんど骨と皮だけでできています。指を動かす筋肉のふくらみがそこにはなく、枯れ枝のような見た目です。

この指は付け根にボールソケット型の関節を持ちます。人の肩と同じつくりで、指の関節としては変わっています。おかげで中指だけを、あらゆる方向へ自在に回せます。

霊長類では珍しいかぎ爪

サルの仲間の爪は、ふつう平たい爪です。人の爪と同じ形で、指先を支える板の役目をします。アイアイの指先に付いているのは、ネコや鳥のように曲がったかぎ爪です。

門歯で開けた穴に中指を差しこむと、この爪が奥をかき回します。曲がった先端に虫が引っかかり、そのまま外へ運び出されます。

打診から掘り出しまでの手順

1秒に8回のノック

アイアイは中指で木の幹を、1秒あたり最大8回の速さで叩きます。叩いた音は幹の中で反響し、空洞のある場所では響き方が変わってきます。この違いを大きな耳が聴き分け、幼虫の潜む位置が絞りこまれる仕組みです。耳は前へ向けて音を集めます。

耳の内側には細かい隆起が並んでいます。この構造も集音に関わると考えられています。木を叩いて中を探るこの方法は打診採餌と呼ばれ、餌探しにかける時間の5〜41%を占めるという報告があります。

穴を開ける門歯

場所を突きとめると、次は前歯の出番です。硬い樹皮でも門歯で削って穴を開けます。マンゴーの繊維質やココヤシの殻にも、同じやり方で穴を通します。

穴が開いたら、そこへ細い中指を差しこんで幼虫を掻き出します。探す・掘る・取り出すという3つの仕事を、1本の指と2本の前歯だけでこなす形です。

2019年に見つかった「6本目の指」

手首にある小さな突起

2019年、アイアイの手首に小さな6本目の指があると報告されました。骨と軟骨でできた突起で、3つの筋肉が付いています。研究チームはこれを擬似親指(pseudothumb)と名づけました。

人の親指と同じように複数の方向へ動き、体重の半分近い力を出せるとされます。5本の指が細長くなりすぎて枝をつかみにくくなった分を、埋め合わせているという見方です。霊長類で余分な指が見つかったのは、この報告が初めてでした。

パンダの親指との共通点

論文の題は「パンダの親指を持つ霊長類」でした。ジャイアントパンダも、手首の骨が伸びた突起を使って竹をつかみます。系統のまったく違う2種が、同じ解決策にたどりついた例です。

アイアイの顔。大きな耳とオレンジ色の目
Frank Vassen from Brussels, Belgium, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ネズミの仲間とされていた歯

一生伸び続ける門歯

犬歯のない18本の歯

アイアイの歯は全部で18本です。内訳は門歯が上下に2本ずつ・小臼歯が上あごに2本・大臼歯が上下に6本で、犬歯はありません。門歯には根がなく、一生伸び続けます。

硬い木をかじって先が削れても、その分だけ後ろから伸びてきます。犬歯がないため、門歯と臼歯の間には大きなすき間が空いています。この歯並びは、ネズミやリスのものとよく似た形です。

リス属として記載された過去

1780年に見つかったとき、学者たちが注目したのもこの歯でした。伸び続ける門歯を持つ霊長類は、アイアイだけです。当時の学者はこれを齧歯目の証と受け取り、リス属(Sciurus)の一種として記載しました。

誤りに気づいたのは、それから80年ほど後です。子どもの標本を調べたところ、乳歯はキツネザルと同じつくりだと分かりました。アイアイが霊長目に移されたのは1863年です。

血縁でなく暮らし方の一致

歯がネズミに似たのは、近い親戚だからではありません。硬い木をかじって中身を食べるという同じ課題に、別々の系統がそれぞれ答えを出した結果です。こうした現象は収斂進化と呼ばれます。

収斂進化とは、血縁の遠い生き物どうしが、似た暮らし方をするうちに似た形になることです。イルカとサメの体形も同じ例です。

森の倒木の上にいるアイアイ
Tom Junek, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

キツツキのいない島

マダガスカルの森と夜

アイアイはマダガスカル島だけに住む固有種です。分布は島の北部・東部・中西部にかけての範囲です。熱帯雨林・乾燥林・マングローブ林から、人の手が入った二次林まで幅広く暮らします。

夜行性で、昼は木の上に作った球形の巣で眠ります。巣の材料は葉・枝・つるです。夜になると単独で動きまわり、木から木へ移りながら餌を探します。アイアイは、世界最大の夜行性霊長類とされています。

空いていた「キツツキの席」

マダガスカルには、木を叩いて中の虫を掘り出すキツツキがいません。木の中の幼虫は栄養があるのに、島ではそれを利用する動物が少ないままでした。アイアイはこの空いた席に入りこんだ動物です。

叩いて探し、穴を開け、細い指で取り出します。この手順は、キツツキがくちばしと舌でやることとほぼ同じです。道具立ては違いますが、森の中で果たす役割は重なります。

木にしがみつくアイアイの全身
Tom Junek, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

童謡のアイアイと、現地での評判

1962年の童謡

日本でアイアイの名が広まったきっかけは、1962年に発表された童謡『アイアイ』です。相田裕美が詞を書き、宇野誠一郎が曲を付けました。

歌詞は舞台を南の島とし、アイアイを猿と呼び、尾の長さと目の大きさにふれます。マダガスカルは南半球のインド洋に浮かぶ島なので、南の島という点は合っています。尾が長いという点も、胴より尾が長い実物と一致します。一方で、細い中指・大きな耳・伸び続ける前歯といった特徴は、歌からは伝わりません。

悪魔の使いという評判

マダガスカルには、アイアイを縁起の悪い動物とみなす地域があります。悪魔の使いとされ、見つけしだい殺されることも珍しくありません。サカラバの人々には、アイアイが家に忍びこんで眠る人を殺すという言い伝えも残っています。

ココヤシ・マンゴー・ライチを食い荒らす害獣とみなされ、駆除される例もあります。日本では歌で親しまれる一方、現地では駆除の対象になっています。

減り続ける数

木材の採取で森が減り、そこへ駆除と食用の狩猟が重なりました。IUCNの評価では、36年(3世代分)で個体数が50%以上減ったと考えられています。気候変動によって、2000年から2080年の間に分布域が43%縮むという推定もあります。

IUCNレッドリストの評価は EN(絶滅危惧)です。1975年のワシントン条約発効時から附属書Iに載り、商業目的の国際取引は禁じられています。2016年から2020年にかけては、世界で最も絶滅が心配される霊長類25種にも挙げられました。

花に顔を寄せて採食するアイアイ
Tom Junek, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

上野動物園のアイアイ

2001年に来園

日本でアイアイを飼育している施設は、東京の上野動物園だけです。2001年にマダガスカルから来園しました。同園は1999年から、マダガスカル国立チンバザザ動物園と共同研究を続けています。

園内で生まれた子どもたち

2023年1月3日には、園内で子どもが1頭生まれました。母親のティーアは2012年に同園で生まれた個体で、これが2度目の出産です。父親のヒッチコックはアメリカ生まれで、2011年に上野へ来ました。

この子を含めて、同園の飼育数は10頭になりました。飼育下での繁殖は通算19回です(いずれも2023年1月時点)。

関連記事

ニホンザル
ニホンザルは、日本にだけ住む固有のサルです。世界で最も北に住むサルとして知られ、雪の中で温泉に入る姿は海外でも人気を集めています。メスを中心とした群れで暮らし、毛づくろいで仲間との絆を深めます。顔とお尻が赤く、寒さに強い厚い毛をまとった、日...
ゴリラ【総合】
ゴリラは、アフリカの森にすむ、今いるサルの仲間で最大の動物です。強そうな見た目とは違い、主に植物を食べ、背中が銀色のオス「シルバーバック」が群れを率います。人間に近い動物としても知られ、大きくニシゴリラとヒガシゴリラの2種に分けられます。分...

参考

画像出典

タイトルとURLをコピーしました