ミナミトビハゼ

硬骨魚類

ミナミトビハゼは、南西諸島のマングローブや干潟に暮らす両生類のような姿のハゼです。胸鰭で泥の上を這い、体を「つ」の字型に曲げて1mも跳躍します。トビハゼによく似ますが、第1背鰭の先端が尖って暗色で縁取られる点などで区別され、沖縄では「トントンミー」の方言名で親しまれています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:条鰭綱 Actinopterygii
  • 目:ハゼ目 Gobiiformes
  • 科:オクスデルクス科 Oxudercidae
  • 亜科:オクスデルクス亜科 Oxudercinae
  • 属:トビハゼ属 Periophthalmus
  • 種:ミナミトビハゼ Periophthalmus argentilineatus

和名・英名

  • 和名:ミナミトビハゼ/方言名:トントンミー(沖縄)
  • 英名:Barred mudskipper

「トントンミー」の名

本種は南西諸島で「トントンミー」の方言名でも呼ばれます。沖縄では近縁のトビハゼと区別せず両種をこの名で呼ぶ習慣があります。田島征彦の絵本『とんとんみーときじむなー』ではキジムナーの友として登場するなど、地域の文化にも登場する魚です。

属名 Periophthalmus はギリシャ語で「周囲」+「眼」を意味し、頭頂に突き出た大きな眼球にちなみます。種小名 argentilineatus は「銀色の縞のある」の意で、体側の淡色斑や条線に由来します。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長 約9cm
分布日本では奄美大島以南の琉球列島。国外では西太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布
生息環境河口のマングローブ帯を中心に、海岸・汽水性の泥湿地。まれに淡水域にも
食性動物食。泥干潟の甲殻類・多毛類などを捕食
繁殖オスが干潟に巣穴を掘り、産卵室に空気を運んで泥壁に産卵させる
保全状況IUCN:LC(低危険種)。日本の環境省RLに指定なし

姿と体のつくり

両生類のような姿

干潟のミナミトビハゼの全身
Bernard DUPONT from FRANCE, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

体長は約9cmで、姿はハゼの標準的な形をしていますが、顔や胸鰭の様子はどこか両生類を思わせます。頭部は太く、体は褐色地に小さな斑点や縞模様が入ります。水の中にいるより、干潟の上に姿を現している時間のほうが長い魚です。

突出する眼球と「瞬き」

ミナミトビハゼの姿・眼球が頭頂に突き出す
Daiju Azuma, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

もっとも目立つ特徴が、頭頂に突き出た2つの眼球です。両眼が背面から高く盛り上がり、平坦な干潟の上で周囲を広く見渡せる位置にあります。驚いたときには眼球が下のくぼみへ収納され、その動きが「瞬き」のように見えます。

この収納の際、下眼瞼と呼ばれる半透明で半月型の膜が下まぶたのように振る舞います。魚類でありながら「まぶた」に近い構造で眼球を守る、陸上に適応した姿です。

胸鰭は前足のように

胸鰭で泥の上を這うミナミトビハゼ
via Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0

胸鰭は基部が太くて長く、先端の軟条部が横向きにつくため、まるで前足のように動かせます。この胸鰭で泥の上を左右同時に掻くように動かして這うのが、ミナミトビハゼの独特の移動法です。背鰭は前後2つに分かれ、第1背鰭の前端は先が突出して、その縁に沿って暗い帯が出ます。

トビハゼとの見分け方

本種はトビハゼ(P. modestus)と外見がよく似た同属種です。分布と体の細部に違いがあり、両種の識別は本種を観察するうえでの要点のひとつになります。

背鰭の形

ミナミトビハゼ ―先端が突出+暗色縁

ミナミトビハゼの第1背鰭は、前端がとがるように突出し、その縁に沿って暗色部が入ります。横から見たときの識別点として明瞭で、写真からも判別できる特徴です。

トビハゼ ―先端は突出しない

トビハゼの第1背鰭は前端が突出せず、輪郭が丸みを帯びます。暗色縁も明瞭ではありません。背鰭の形だけで両種はほぼ確実に区別できます。

腹鰭の形

ハゼ類の左右の腹鰭は融合して「吸盤」を作る種が多く、トビハゼでは腹鰭が膜蓋と癒合膜で繋がっています。ミナミトビハゼでは、そのように繋がっていません。両種を採集して比べたときの決め手のひとつです。

分布で分ける ―沖縄本島の重なり

分布も見分けの手がかりになります。ミナミトビハゼは奄美大島以南、トビハゼは沖縄本島以北で、沖縄本島は両種の分布が重なる地域です。ただし沖縄本島で主に見られるのは本種で、トビハゼの分布はあちこちにあるものの範囲は限られ、個体数も少ないとされます。

干潟の暮らし ―満潮と干潮のリズム

満潮時は木の根に登り、干潮時は干潟を這う

満潮時 ―岩や木の根で休む

岩や礫の上に登るミナミトビハゼ
Charles J. Sharp / Bernard DUPONT, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

ミナミトビハゼの生活は潮の満ち引きに合わせています。満潮時には水面上の岩や木の根本などに登って休息します。

干潮時 ―干潟を這い回る

干潮時には餌の多い干潟へ降りて活発に這い回ります。マングローブの根や、コンクリート護岸に見られることもあります。

這う・跳ねる

胸鰭で左右同時に掻いて進む

ゆっくり移動するときには、身体をまっすぐに伸ばして左右の胸鰭を同時に掻き、這うように進みます。四足歩行の動物のような動きで、地上での歩行を思わせる姿です。

「つ」の字型で1mジャンプ

泥の上のミナミトビハゼ
Bernard DUPONT from FRANCE, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

驚いたときには胸鰭は使わず、体を「つ」の字型に大きく曲げ、それを強く振り出して跳躍します。1回で1mほど飛ぶことができ、それを連続して行うこともあります。カエルのように連続跳躍で逃げるため、追いつかまえるのは骨の折れる魚です。

巣穴と「空気卵」―独特の子育て

オスが掘る産卵室

繁殖期にはオスが干潟に巣穴を掘り、そこにメスを誘導します。巣穴の奥には産卵室があり、この部屋の壁の上(泥壁の表面)に卵が産みつけられます。

産卵室に空気を運び込む

本種に特徴的な点として、オスは産卵室に空気を運び込みます。卵は水中ではなく空気中に晒された状態で発生します。酸素の少ない干潟の地中で発生する卵の生存率を上げる仕組みと考えられています。ふつうの魚には見られない、干潟という環境に特化した繁殖戦略です。

孵化した仔魚は巣穴からすぐに出て、周囲の海域に分散すると考えられています。

陸上に適応した呼吸のしくみ

皮膚呼吸で長時間の陸上活動

通常の魚類は鰓(えら)呼吸を行いますが、水の外では呼吸が続けられません。トビハゼ属は皮膚呼吸の能力が高く、湿らせた体表から酸素を取り込むことで陸上での長時間の活動が可能になっています。

アンモニアをアミノ酸に変換

加えて、通常の魚では代謝で発生するアンモニアが空気中では体内に蓄積して神経障害の原因になります。トビハゼ属はこれをアミノ酸に変換して溜め込む能力を持ち、この生化学的な工夫も陸上活動を支えていると報告されています。ミナミトビハゼも同じトビハゼ属の生理を共有しています。

人との関わり ―沖縄の愛嬌者

食用と暮らしのなかの姿

沖縄では食用にされることもありましたが、量的には重視されない魚で、それ以上に海岸の愛嬌者として親しまれています。焼き物では箸置きの意匠にも用いられ、地域の暮らしの題材として登場します。

絵本とテレビCM

先述の田島征彦『とんとんみーときじむなー』(1987年)では、キジムナーと友として遊ぶ姿が描かれ、地元の子どもが泥まみれで追いかけまわす思い出も語られています。プレサンスコーポレーションのオカヤドカリが踊る有名なテレビCMにも、本種が登場しています。

保全状況

IUCNレッドリストではLC(低危険種)で、種としての絶滅懸念は低いとされます。日本の環境省レッドリストにも指定はありませんが、鹿児島県レッドリストでは「分布特性上重要」として掲載されています。干潟やマングローブの環境変化に依存する種であり、生息環境の保全が保全上の課題として指摘されています。

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参考

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