ヌートリア

齧歯類(ネズミ・リス)

ヌートリアは、南米原産の大型の水辺のげっ歯類です。日本には第二次大戦中の毛皮生産のために持ち込まれ、戦後の放逐で野生化しました。カピバラに似た姿とオレンジ色の門歯が特徴で、現在は特定外来生物に指定されています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:齧歯目(ネズミ目)Rodentia
  • 科:ヌートリア科 Myocastoridae(アメリカトゲネズミ科 Echimyidae に含める分類もあり)
  • 属:ヌートリア属 Myocastor
  • 種:ヌートリア Myocastor coypus(Molina, 1782)

和名・英名

  • 和名:ヌートリア(沼狸、海狸鼠とも書かれた)
  • 英名:Coypu/Nutria

名前の由来

「ヌートリア」はスペイン語 nutria からきていますが、この語はもともとカワウソを意味します。実際の南米での原語は、先住民マプチェ族の語に由来する coypu だといわれ、英語ではこの coypu と nutria の両方が使われます。日本には毛皮商が「ヌートリア」の名で持ち込んだため、本来はカワウソを指す語が本種の名前として定着することになりました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ頭胴長 40〜60cm/尾長 30〜45cm/体重 5〜9kg
原産地南米(パラグアイ・ウルグアイ・ボリビア・アルゼンチン・チリ)
日本での分布岡山県を中心に西日本(広島・兵庫・京都・大阪・島根・鳥取・香川など)/東海(岐阜・愛知)にも定着。近年は関東への拡大の兆しも
生息環境河川・湖沼・用水路・水田周辺。冬に完全結氷する地域では定着しにくい
食性草食寄りの雑食(マコモ・ホテイアオイ等の水生植物が主/イネ・オオムギ等の農作物も食害)
寿命野生で3〜6年/飼育下で約10年
保全状況(原産地)IUCNレッドリスト:LC(軽度懸念)
日本での指定特定外来生物(2005年6月/外来生物法)、日本の侵略的外来種ワースト100、世界の侵略的外来種ワースト100

「カワウソ」と呼ばれた大型ネズミ

水面を泳ぐヌートリア。丸い尾が水面に浮かぶ
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

日本の水辺で、カワウソやカピバラに見間違えられやすい大型のげっ歯類がヌートリアです。湿った毛並み・全長1mに近い体・水面を静かに横切る泳ぎ方が、いずれの動物とも重なって見えることが混同の背景にあります。

カピバラ・カワウソとの違い

尾の形が最大の見分け

最大の決め手は尾の形です。ヌートリアの尾は長さ30〜45cmで、断面が丸く、鱗状の皮膚に覆われた「ネズミの尾」を大きくしたような姿をしています。カワウソの尾は根元から太く先細りの「棒状」、カピバラの尾は退化してほとんど見えません。北米のマスクラットも似ていますが、こちらは尾の断面が縦に平たい点でヌートリアと区別できます。

黄色い門歯と水かき

ヌートリアの一対の門歯(前歯)はエナメル質が鉄分を含んでいるため、鮮やかなオレンジ色をしています。頬をぬぐって前歯が見える瞬間は、他の水辺動物とははっきり違う特徴です。後ろ足の第1〜4指のあいだには水かきが張り、水中で推進力を生み出します。カピバラの足指も水かきがありますが、ヌートリアほど発達したものではありません。

比較表

体重/尾/原産・現況
ヌートリア5〜9kg/長く丸い・鱗状/南米原産・日本では特定外来生物
カピバラ35〜65kg/ほぼ無し/南米原産・日本の野外には定着せず
ニホンカワウソ約6〜9kg/太い棒状/日本固有種・2012年に環境省が絶滅と判定
マスクラット0.6〜2kg/縦扁平/北米原産・日本では東京湾岸で定着例

軍用毛皮として渡ってきた歴史

ヌートリアの毛皮で作られた男性用コート(1987年ドイツ)
Kürschner, Public domain, via Wikimedia Commons

日本に定着したヌートリアの起源をたどると、20世紀前半の毛皮産業に行き着きます。「西日本を中心に野生化」という現在の分布も、この時期の飼育場所と直接つながっているとされます。

上野動物園から軍用毛皮まで

1907年、動物園への渡来

ヌートリアが日本に最初に渡来したのは1907年で、ドイツからの動物商により上野動物園に持ち込まれた記録が残ります。この時期は展示動物としての扱いにとどまり、飼育業として広がることはありませんでした。

1939年、軍用毛皮としての本格導入

本格的な導入は1939年で、フランスから150頭が輸入されました。狙いは第二次大戦中の軍用毛皮の生産で、パイロットや将校の防寒具を国内で確保することが目的だったとされます。1944年ごろには全国で約4万頭が飼育されるまでに増え、飼育場所も西日本の温暖な地域に集中しました。

終戦後の放逐と野生化

終戦とともに軍用毛皮の需要は消失し、飼育業者の多くが個体を野に放ちました。1950年代には民生用の毛皮ブームで一時再興しましたが、化学繊維の普及と毛皮価格の暴落で商業養殖はふたたび廃業が相次ぎ、そのたびに放逐される個体が増えていきました。もともと温暖な西日本に集中していた飼育場所が野生化のスタート地点となり、岡山・広島・兵庫を中心に定着してきたと考えられています。

水辺での暮らしと食性

水草を食べるヌートリア
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ヌートリアは半水生の動物で、川岸・池・用水路の水際を巣穴と採餌場にしています。夜行性の傾向が強く、明け方と夕方に水面をゆっくり泳いで移動する姿がよく観察されます。

草食寄りの雑食

基本は草食で、水生植物のマコモやホテイアオイ・周辺のヨシやガマの新芽・根茎を大量に食べます。水中に潜れる時間は5〜10分程度で、水底のヒシの根やクレソン・藻類も採餌の対象になります。堤防を越えて水田や畑に入り、イネ・オオムギ・ダイコン・ニンジンといった農作物を食害することが日本各地で問題になっています。動物質はまれで、貝類やザリガニを食べることもあると報告されていますが、あくまで例外的な行動です。

水辺に掘る巣穴

河岸や堤防に、直径20cm前後・長さ数mに及ぶ横穴を掘って巣にします。奥に休息用の広い空間を作り、複数の出入口を設けることもあります。この巣穴が堤防や水田の畦を弱らせ、集中豪雨のときに崩れの起点となることが、農業被害とは別の深刻な問題として指摘されています。

繁殖と成長

河岸の枝の上で身づくろいするヌートリア
Basile Morin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ヌートリアは繁殖力の高い動物で、年間を通じて繁殖できるとされます。日本の野生下では春と秋に出産のピークがあり、暖かい西日本では冬でも出産する例が観察されています。

周年繁殖と一度に生まれる子の数

妊娠期間は123〜150日、1回の出産で2〜11匹(平均5匹前後)の子を産みます。母親の乳首は背中側に近い位置についていて、水面に半身を出したままでも子に授乳できる構造になっています。生まれた仔は開眼しており、体重は約225gと大きく、生後数日で泳ぎ始めます。性成熟は約半年と早く、雌は年に2〜3回の出産が可能とされます。この繁殖力の高さが、日本の野外での分布拡大を支えていると考えられています。

特定外来生物としての被害と駆除

半凍結の川岸のヌートリア
Petar Milošević, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ヌートリアはIUCNレッドリストでは原産地で LC(軽度懸念)ですが、日本を含む定着先の各国では侵略的外来種として扱われています。日本では2005年6月に特定外来生物に指定され、国と自治体による防除の対象となっています。

農業と生態系への影響

農作物と水利施設への被害

2005年度の兵庫・島根・岡山3県だけで農作物被害額は4,500万円を超え、同年度の駆除数は約3,000頭に上ったと報告されています。イネの新芽や実の食害・水田の畦や堤防の掘り崩し・漁網の破損など、被害は農業と水利施設の両面に及びます。

希少種の生息地への圧力

水生植物を短期間で食べ尽くしてしまうため、絶滅危惧のトンボ類(例:ベッコウトンボ)や淡水貝類の生息地が失われるといった生態系への影響も報告されています。日本ではもともとカワウソが担っていた大型水辺哺乳類のニッチが空いていたことも、定着を後押しした要因の一つとされます。

駆除の現状と国外の根絶事例

個体の捕獲は狩猟免許と自治体の許可が必要で、飼育・運搬・譲渡は特定外来生物法により禁止されています。イギリスでは1920年代に導入されたヌートリアが1950年代に20万頭を超えたのち、集中的な駆除により1989年に根絶が達成されました。日本では分布が広く在来環境も多様で、根絶の実現性については見方が分かれるところとされます。北欧では厳しい冬の凍傷による感染で、放逐された個体群が自然に絶えたという事例も知られます。

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参考

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