リュウキュウカジカガエルは、奄美群島から沖縄諸島・トカラ列島に分布する小型のカエルです。全長3cmほどの体で、水温が40°Cを超える温泉の中で幼生を育てられる、世界でも珍しい高温耐性のカエルとして知られています。2020年には八重山列島の個体群が別種として独立し、日本のカジカガエル類の全体像が塗り替えられつつあります。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:両生綱 Amphibia
- 目:無尾目 Anura
- 科:アオガエル科 Rhacophoridae
- 属:カジカガエル属 Buergeria
- 種:リュウキュウカジカガエル Buergeria japonica(Hallowell, 1861)
和名・英名
- 和名:リュウキュウカジカガエル(琉球河鹿蛙)
- 英名:Ryukyu Kajika Frog(Japanese Kajika Frog)
- 近縁種:カジカガエル(Buergeria buergeri、本州以南)
名前の由来
「カジカ」は本州の河川に棲む魚のカジカ(鰍)に由来せず、シカが繁殖期に発する「カジカ」の声にちなんだ和名です。本州のカジカガエルが清流で「フィフィ」という美声を発するのに対し、リュウキュウカジカガエルは短めの高い声で鳴くとされます。属名 Buergeria は19世紀の博物学者ハインリヒ・ビュルガーへの献名です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 2.5〜3.5cm(雌が雄よりやや大型) |
|---|---|
| 体色 | 灰褐色〜黄褐色。背に「X」字状の暗色斑が入る個体が多い。後肢に暗色の横縞 |
| 分布 | 日本の南西諸島(奄美群島・沖縄諸島・トカラ列島)に固有。八重山列島の個体群は2020年に別種 Buergeria choui として独立し、本種の分布からは除外された |
| 生息環境 | 低地から山地の草原・森林・河川・水田・水たまり・排水溝・タイドプール・温泉に至るまで幅広い |
| 食性 | 昆虫類・節足動物などの小動物 |
| 繁殖 | 池沼・水溜り・排水溝・タイドプール・温泉水にも産卵。幼生は2〜3か月で変態 |
| 保全状況 | IUCNレッドリスト:LC(軽度懸念) |
小さな体と地味な色合い

全長は成体でも3cm前後にとどまり、南西諸島のカエル類のなかでも小型の部類に入ります。目立たない体色と斑紋は、地面や落葉、岩の隙間に紛れる隠蔽色として機能します。
X字の斑紋と個体差
背中を横切るX字模様
背中には黒褐色の「X」字状の斑紋が入ることが多く、これが本種の特徴として図鑑で紹介されます。X字は前肢の付け根から後肢の付け根へ交差する対角線として現れ、隠蔽色の中にはっきりした模様の輪郭を作っています。この斑紋の入り方は個体で微妙に異なり、位置と太さで個体識別に使える場合もあるとされます。
灰褐色から黄褐色までの体色
体色は灰褐色から黄褐色まで幅があり、斑紋が薄い個体も少なくありません。生息地の地面や落葉の色に近づくことで隠蔽色として機能し、同じ島の中でも地表色が異なれば個体の体色も微妙に変わっています。後肢には暗色の横縞が入り、水に浮いているときや跳ねているときにこの縞がストロボのように見えることがあります。
「カジカ」の名を持つ声
雄は繁殖期に「キュルルル」「ピーッ」と高めの声で鳴き、水辺のあちこちから同時に響くと合唱のように聞こえます。本州のカジカガエルほど清流の風情ある「フィフィ」ではないですが、南西諸島の雨のあと林道の水たまりで一斉に鳴き始める光景は、島の夜を彩る音のひとつです。カジカという名前は、シカの声に例えた両生類共通の連想からきています。
42°Cの温泉に生きるカエル

リュウキュウカジカガエルを他のカエル類から際立たせる生態が、湯温40°Cを超える温泉の水たまりに幼生を産みつけ、そこで正常に成長できる点です。湯の中のオタマジャクシ。カエル類のなかで屈指のこの高温耐性は、2016年に「最も高温に耐えるカエル」としてギネス世界記録に登録されました。
トカラ列島・口之島の温泉個体群
オタマジャクシの高温耐性
鹿児島県・トカラ列島の口之島には水温41.5〜46.1°Cの噴湯があり、そのすぐ脇の水たまりでオタマジャクシが泳ぐ姿が見つかっています。実験研究ではオタマジャクシは水温42°C付近まで生存でき、これは両生類全体でも例外的な高い温度耐性です。ただし37°Cを大きく超える温泉には積極的には入らず、42°Cはあくまで生存できる上限として位置づけられます。
温泉での通年繁殖
台湾北部の温泉個体群では、水温が常に温かいために繁殖の時期が季節に縛られず、一年を通じて卵を産む姿が観察されています。冬でも水温が高く保たれる環境は、幼生の成長を早める利点があるとされ、他のカエル類との競合を避ける形で温泉というニッチを利用してきたと考えられています。
高温耐性の生態的意義
高温の水域は多くの水生動物にとって生きられない環境ですが、リュウキュウカジカガエルは天敵や競争相手の少ないこの空間に幼生を託すことで、卵と幼生の生存率を上げる戦略を採っているとされます。温泉水の高い温度は幼生の代謝を上げて変態を早める作用もあり、変態完了までの2〜3か月を短縮する助けになっているとの見方があります。
分布と2020年の新種独立

本種の分布はかつて「日本の南西諸島・大東諸島・小笠原諸島・台湾」と広く扱われていましたが、2020年に八重山列島と台湾北部の個体群が独立種として分離され、現在の分布はやや狭く定義し直されています。
奄美・沖縄・トカラの分布
現在のリュウキュウカジカガエル(Buergeria japonica)は、奄美群島・沖縄本島とその周辺離島(慶良間諸島など)・トカラ列島に分布します。八重山列島(石垣島・西表島など)はもはや本種の分布には含まれません。大東諸島・小笠原諸島に導入された個体群は本種と考えられていますが、分類学的な精査が続いています。
八重山個体群が Buergeria choui として独立
遺伝子解析による識別
2020年の遺伝子解析で、八重山列島と台湾北部の個体群が奄美・沖縄の個体群と遺伝的に大きく異なることが示されました。形態の差は小さいものの、遺伝的な距離と鳴き声の違いから、別種として扱うのが妥当と判断されました。学名は Buergeria choui(Ota’s Kajika Frog)です。
分布記録の見直し
この分類の変更により、かつて「リュウキュウカジカガエルの分布」として記されてきた文献や地図が、2020年以降は書き換えを迫られています。図鑑や研究論文でも本種と Buergeria choui の区別が徹底されるようになり、八重山産のカエルとしての位置づけは今後独立して整理される見込みです。
暮らしと繁殖

リュウキュウカジカガエルは水辺と陸地を行き来する典型的な樹上性ではないカジカガエル科の暮らし方をします。夜行性の傾向が強く、雨のあとや湿度の高い夜に活動的になります。
夜行性の地表暮らし
アオガエル科に分類されるものの、リュウキュウカジカガエルは樹上性というより地表・水辺性の生活を送ります。日中は落葉の下・石の隙間・排水溝の内側などに潜んでおり、夜になると水辺の岩や地面に出てきて昆虫を捕らえています。手や足の吸盤は他のアオガエル科ほど発達せず、垂直な木を登る場面は少ないとされます。
産卵とオタマジャクシ
繁殖期は春から夏にかけてで、地域や水温によって幅があります。池沼・水たまり・排水溝・海岸のタイドプール・温泉水にまで卵を産み、他のカエル類ほど産卵場所にこだわりません。卵はゼリー状のかたまりで水中の物体に付着し、2〜3か月で変態した幼生(オタマジャクシ)が上陸していく姿が観察されています。温泉水などの高温環境では、この期間がさらに短くなるとの報告もあります。
本州のカジカガエルとの違い

同じカジカガエル属には本州以南に分布するカジカガエル(Buergeria buergeri)がいて、名前と属は近いものの、分布・生息環境・鳴き声にはっきりした違いがあります。
分布と生息環境の違い
カジカガエルは本州・四国・九州の澄んだ渓流に生息する種で、水温が低く流れの速い岩場の環境を好みます。一方リュウキュウカジカガエルは南西諸島に固有で、渓流はもちろん水田・水たまり・温泉水まで幅広い環境に姿を見せます。両種の分布は屋久島とトカラ列島の間で切れており、日本国内で両者が同じ場所にいる場面はありません。
鳴き声と大きさの違い
カジカガエルは全長4〜7cmとやや大型で、清流で発する澄んだ「フィフィフィ」の声は日本三大鳴き声の一つに数えられます。リュウキュウカジカガエルは全長3cm前後と小型で、鳴き声も「キュルル」「ピーッ」と本州のカジカガエルほど風情のある声ではありません。両種は生態的なニッチの違いにより異なる方向に進化してきたと考えられています。
関連ページ



参考
- IUCN Red List Buergeria japonica(LC評価・分布と生息環境)
- Wikipedia (ja)「リュウキュウカジカガエル」(温泉個体群・ギネス記録・分布)
- Wikipedia (en)「Buergeria japonica」(Buergeria choui の独立と温泉繁殖)
- AmphibiaWeb Buergeria japonica(形態・幼生の高温耐性)


