アズマヒキガエル

両生類

アズマヒキガエルは、東日本の野山や庭先に住む大型のカエルです。「ガマガエル」の名前でも呼ばれ、跳ねずにのっそりと歩きます。目のうしろの腺から毒を出し、春には水辺に集まって産卵します。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:両生綱 Amphibia
  • 目:無尾目 Anura
  • 科:ヒキガエル科 Bufonidae
  • 属:ヒキガエル属 Bufo
  • 種:アズマヒキガエル Bufo formosus Boulenger, 1883

和名・英名

  • 和名:アズマヒキガエル(東蟇蛙)
  • 別名:ガマガエル・ガマ(蝦蟇)・イボガエル
  • 英名:Eastern Japanese common toad

舌で「引き寄せる」から来た名前

「ヒキガエル」という名前は、餌の取り方から来ています。長い舌を伸ばし、離れた昆虫を引き寄せて食べるためです。国土交通省天竜川上流河川事務所の解説では、ここから「引き」と呼ばれたとされます。「アズマ(東)」は、主に東日本に分布することにちなみます。

別名の「ガマ(蝦蟇)」は、精選版日本国語大辞典ではヒキガエルの俗称と説明されています。同じ解説は、刺激を与えると乳白色の液を出すことにも触れています。背中のイボから毒を出す姿を昔の人が神秘的に感じ、怪談や小説に登場する「ガマ」になったとも言われます。イボだらけの皮膚からは「イボガエル」とも呼ばれます。同じ「イボガエル」の名で呼ばれるカエルに、水辺に住むツチガエルがいます。

ツチガエル
ツチガエルは、日本の水田・湿地・渓流など水辺全般に暮らす小型のカエルです。背中に並ぶ大小のイボ状突起から「イボガエル」の俗称でも知られ、灰褐色の体色と地味な佇まいで水辺に溶け込みます。低く小さな「ギュー・ギュー」という鳴き声や、幼生(オタマ...

2022年に独立した種となった学名

学名の扱いは、この20年ほどで動きました。1984年には、ニホンヒキガエルの亜種 Bufo japonicus formosus とされました。2022年の研究をもとに、独立した種 Bufo formosus へ格上げされています。日本爬虫両棲類学会の標準和名リストも、アズマヒキガエルとニホンヒキガエルを別々の種として載せています。

官公庁の資料では、今も亜種名の Bufo japonicus formosus が使われることがあります。北海道のページがその例です。2023年には、アズマヒキガエルと西日本の個体群が交ざり合う地帯の報告も出ています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長(頭胴長)43〜162mm。メスのほうがやや大きい
体重6〜450g。神奈川県の繁殖個体ではオス100〜400g、メス150〜400g
分布本州東部。北海道の南部には人の手で持ち込まれた
生息環境森林・草地・人家の庭。産卵期は池や水たまりに集まる
食べ物昆虫・ミミズなどの小動物
活動夜行性。気温が6℃を下回るころ地中で冬眠する
繁殖2〜5月(地域差あり)。紐状の卵を1,500〜14,000個ほど産む
寿命野生で3〜4年、最高8年。飼育下では10年前後
毒耳腺と皮膚のイボからブファジエノライドを出す

体長16cmに達する、日本最大級のカエル

オスよりメスが大きい体

国立環境研究所と北海道の資料は、体長(頭胴長)を43〜162mmとしています。16cmは、大人の手のひらに乗りきらない大きさです。名古屋市の資料ではオスの平均が121mm、メスの平均が126mmで、メスのほうがやや大きくなります。

神奈川県山北町の繁殖地で測られた個体は、さらに大きめです。オスは平均130mmほど、メスは平均140mm弱でした。体重はオスが100〜400g、メスが150〜400gで、メスは産卵前に重くなります。

正面から見たアズマヒキガエル。ずんぐりした体つきと大きな目が分かる
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

北の個体群は体長6〜9cmにとどまる

体の大きさは、住む場所によってかなり変わります。緯度の低い南ほど大型で、北や高地ほど小型になると報告されています。北海道に持ち込まれた個体群や東北の山地では、体長6〜9cmほどにとどまります。

それでも在来のカエルと比べれば大きい体です。北海道の在来種エゾアカガエルは体長46〜72mmで、アズマヒキガエルの上限の半分に届きません。

全身のイボと、目のうしろの耳腺

体の色は褐色や黄褐色、赤褐色などで、全身が大小のイボに覆われています。鼓膜の上にある縦長の大きなイボが耳腺で、ここから毒を出します。体の横に赤っぽい斑点が入る個体も多く見られます。

横から見たアズマヒキガエル。背中のイボと、目のうしろの大きな耳腺が見える
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

鼓膜の大きさは、西日本のニホンヒキガエルと見分ける手掛かりです。国立環境研究所と名古屋市の資料によると、鼓膜の長径は目と鼓膜の距離の2倍以上になることが多くなります。目と鼓膜の間よりも、鼓膜のほうが明らかに大きく見えます。

夜に歩いて虫を集める暮らし

昼は石や落ち葉の下で休む

アズマヒキガエルは夜行性で、昼間は石や倒木、落ち葉の下でじっとしています。森林や草地のほか、人家の庭にも入りこみます。ほかのカエルのように跳ねることは少なく、地面をのっそりと歩いて移動します。

木にはあまり登らず、一生のほとんどを地面の上で過ごす地上性のカエルです。動きは緩慢で、人が近づいてもゆっくり草むらへ移動します。

落ち葉と苔の上にいるアズマヒキガエル。背中に大小のイボが並ぶ
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

舌を伸ばして引き寄せる食べ方

餌は昆虫やミミズなどの小さな動物です。獲物を見つけると、長い舌をすばやく伸ばして口へ引き寄せます。この食べ方が「ヒキガエル」という名前のもとになったとされます。

気温6℃を下回るころ土にもぐる冬眠

秋が深まると、地中にもぐって冬眠します。気温がおよそ6℃を下回るころが目安です。国立科学博物館の自然教育園(東京都港区)では、例年11月中旬から下旬に姿が見えなくなります。その時期は、気温も地温も最低が8℃以下になる日が多くなります。

どれくらいの深さで冬を越すのかは、同じ調査でも分かっていません。春は、冬眠場所の地温が上がると目を覚まし、産卵場所へ向かいます。長野県では地温が6℃前後になるころに動き出します。

春の蛙合戦と、紐のような卵

数日の間に池へ集まる

繁殖期になると、たくさんの個体が短い間に同じ池や水たまりへ集まります。この光景は「蛙合戦(かえるがっせん)」や「ガマ合戦」と呼ばれてきました。時期には地域差があり、東京では通常2〜3月、京都府では3〜5月とされます。

井の頭自然文化園では、2011年に2月26日の産卵が記録されています。神奈川県大井町の寺の池では、毎年3月上旬に山から下りてきた個体が集まります。

浅い水たまりに集まったアズマヒキガエル
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

メスにしがみつくオスの抱接

オスはメスの背中に抱きつき、この姿勢は抱接(ほうせつ)と呼ばれます。このときのオスは動くものに次々としがみつき、1匹のメスに何匹ものオスが群がることもあります。

紐に数珠つなぎになった卵

1本の紐に1,500〜14,000個

卵は、長い紐のような寒天につつまれた形で産まれます。1本の卵紐に入る卵の数は、資料によって1,500〜8,000個、1,500〜14,000個などと幅があります。大きなメスほど多く産みます。

黒くかたまって泳ぐオタマジャクシ

かえったオタマジャクシは全身が黒く、かたまって泳ぐため遠くからでも目立ちます。1〜3か月ほどで変態し、小さな子ガエルになって陸へ上がります。

水中に産みつけられた、アズマヒキガエルの長い紐状の卵
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

耳腺から出す毒と、犬の中毒

心臓に効くブファジエノライド

耳腺と皮膚のイボから出る毒は、ブファジエノライドと呼ばれる成分を含みます。心臓の筋肉の収縮を強める働きがあり、植物のジギタリスの成分と構造がよく似ています。身を守るための毒です。

自治体の資料は、見つけても素手で触らないよう呼びかけています。毒が付いた手で目や口をこすると、激しい痛みが出ます。触ってしまった場合は、よく手を洗うようにとされています。

犬がくわえると中毒を起こす

危険が大きいのは、犬がカエルをくわえた場合です。日本獣医師会雑誌に載った1991年の実験では、健康な犬9頭に野生のヒキガエルを食べさせたり噛ませたりしました。食べた犬は約60分後に2頭、10〜12時間後には9頭すべてで症状が出ています。

解剖では、9頭中8頭に小腸の炎症が見つかっています。動物病院の解説では、よだれ・嘔吐・下痢のほか、呼吸困難やけいれんに進むことがあると説明されています。

ヤマカガシは毒を奪って使う

毒に強いヘビのヤマカガシは、このカエルを平気で食べます。しかも取りこんだブファジエノライドを、首の後ろの頸腺にためて自分の武器にします。

この仕組みは、ヒキガエルのいない宮城県の金華山で確かめられました。島で捕らえたヤマカガシの頸腺からは毒が検出されず、飼育してヒキガエルを与えると毒がたまりました。

ニホンヒキガエル・ウシガエルとの見分け

鼓膜の大きさと、見つけた場所

いちばん似ているのは、西日本に住むニホンヒキガエルです。見た目はよく似ていますが、鼓膜の大きさに差があります。見つけた場所も手掛かりで、東日本ならアズマヒキガエルの可能性が高くなります。

種体長見分けの目印分布
アズマヒキガエル43〜162mm鼓膜の長径が、目と鼓膜の距離の2倍以上になることが多い本州東部(北海道南部に移入)
ニホンヒキガエルほぼ同じ鼓膜が小さい西日本
ウシガエル111〜183mm皮膚がなめらかでイボが少ない。水辺から離れない国内各地に移入
オオヒキガエル9〜15cm(24.1cmの記録あり)鼻から目にかけて骨質の隆起がある。耳腺は菱形で巨大南西諸島や小笠原に移入

水辺から離れないウシガエル

ウシガエルはアカガエル科で、科からして別の仲間です。池や沼の水辺で暮らし、5〜9月に6,000〜40,000個の卵をシート状に産みます。陸を歩き回るアズマヒキガエルとは、見つかる場所が違います。

南西諸島などに持ち込まれたオオヒキガエルは、特定外来生物です。産卵数も桁違いに多く、8,000〜25,000個とされます。

ガマの油と「四六のガマ」

筑波山の口上に残る薬

時代劇に出てくる「ガマの油売り」は、筑波山の口上で知られます。大坂の陣に従軍した筑波山の僧が持っていた陣中薬が評判になった、という話が伝わります。実際に傷薬として使われたのは別のものだったという説もあり、油の正体ははっきりしません。

一方で、ヒキガエルの毒を乾かした生薬は実在します。蟾酥(せんそ)と呼ばれ、心臓の薬に配合されてきました。ただし原料は中国のシナヒキガエルなどで、日本のアズマヒキガエルではありません。

6本目の指に見える突起

口上に出てくる「四六のガマ」は、前足の指が4本、後足が6本という意味です。カエルの指は前足4本・後足5本が基本で、6本はありません。

大阪市立自然史博物館の解説によると、後足の第1指の内側に、指のような突起があります。中には骨も入っていて、そのため6本指のように見えます。

北海道では駆除される国内外来種

本州から持ち込まれて広がった

アズマヒキガエルは東日本の在来種ですが、北海道にはもともといませんでした。人の手で持ち込まれたものが野生化し、国内外来種として問題になっています。北海道は2017年に指定外来種とし、飼育や移動、野外に放すことを規制しています。

広がり方は調査でも裏づけられています。北海道大学などは、水に混じった生き物のDNAを調べる環境DNA調査を行いました。石狩川水系の12河川32地点で、このカエルのDNAが見つかっています。そのうち21地点では、近くで姿が目撃されていませんでした。

エゾアカガエルが受ける被害

北海道には、この毒に耐性のあるヤマカガシがいません。天敵が少ないまま数を増やしやすい環境です。在来のエゾアカガエルのオタマジャクシが、アズマヒキガエルの幼生を食べると死んでしまうことも分かっています。

都市では逆に姿を消している

本来の分布域では、むしろ減っている地域があります。なごや生物多様性センターなどの調査では、かつて名古屋市の全16区にいたものが、確認される区が減っていました。産卵できる水辺が埋め立てや護岸で失われたことが背景にあります。

カエル【総合】
カエルは、水辺と陸をいったりきたりして暮らす両生類のなかまです。世界に7,000種以上、日本にも40種以上が知られています。おたまじゃくしから姿を変える「変態」や、種によってさまざまな鳴き声・毒・子育てで知られる、両生類のなかでもとくに多様...

参考

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