ニホンアマガエルは、日本でいちばん身近な小さな緑のカエルです。指先の吸盤で木や草、ガラスの壁まで登り、まわりに合わせて体の色を緑や灰色に変えます。雨が近づくと鳴きだす習性から「雨蛙(あまがえる)」の名がつきました。皮膚には弱い毒があり、目や口をこすると激しい痛みを起こす一面もあります。2025年には、関西より東の集団が別種「ヒガシニホンアマガエル」として新種記載され、身近な姿の奥にはまだ知られていない発見も残っているカエルです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:両生綱 Amphibia
- 目:無尾目 Anura
- 科:アマガエル科 Hylidae
- 属:アマガエル属 Dryophytes(旧 Hyla)
- 種:ニホンアマガエル Dryophytes japonicus
和名・英名
- 和名:ニホンアマガエル(日本雨蛙)
- 英名:Japanese tree frog
別名・学名の由来
和名の「雨蛙」は、雨が降りそうになると鳴きだす習性からきています。英名の Japanese tree frog(日本の木のカエル)は、木の上で暮らす樹上性を表した名前です。種小名の japonicus は「日本の」という意味を持ちます。かつてはアマガエル属を Hyla として扱ってきましたが、近年は Dryophytes という属に分けるのが主流とされます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 2〜4.5cm(メスが大きい・小型) |
|---|---|
| 分布 | 日本(関西以西〜九州の本州、四国、九州など)・朝鮮半島・中国東部/関東〜東北・北海道・樺太はヒガシニホンアマガエル |
| 生息環境 | 水田・草地・林など。木の上で暮らす樹上性 |
| 食べもの | 小さな昆虫やクモ(肉食) |
| 寿命 | 野生で6年前後 |
| 保全状況 | IUCN: LC(軽度懸念)。今も普通に見られる |
見た目と見分け方

小さな緑と、目の横の茶色い帯
体長は2〜4.5cmほどで、日本のカエルのなかでも小さな部類です。いちばんの目印は、鼻の先から目を通って耳のあたりまでのびる、茶色い太い帯です。指先はすべて丸い吸盤になっていて、枝から枝へ飛び移ったり、ガラスの垂直な面に張りついたりできます。おなか側は白く、背中は明るい黄緑色をしています。
まわりに合わせて体の色を変える
ニホンアマガエルは、まわりの色や明るさ・温度に合わせて体の色を変え、黄緑色から灰褐色まで広い範囲で変化します。灰色っぽくなったときは、黒っぽいまだら模様も浮かびます。皮膚の色素細胞を膨らませたり縮めたりして起こる変化で、敵から身を隠す保護色になります。緑の葉の上では緑に、木の幹や土の上では茶色にと、居場所に合わせて色を変えていきます。

シュレーゲル・モリアオとの見分け
同じ緑色のカエルでも、シュレーゲルアオガエルやモリアオガエルとは区別できます。決め手は、やはり目の横の茶色い帯です。この帯があるのがアマガエルで、シュレーゲルやモリアオにはありません。さらにアマガエルはひとまわり小さく、灰色に変わったときのまだら模様も手がかりになります。
暮らしと生態
木も、かべも、ガラスも登る
カエルは水辺に住むものと思われがちですが、ニホンアマガエルは木の上の暮らしが得意です。発達した吸盤のおかげで、草や木はもちろん、家の窓ガラスや壁も自由に登ります。ある程度の乾燥にも強く、田んぼや草むらだけでなく、都会の公園や庭先でも姿を見かけます。春から秋まで活動し、冬は温度差の少ない土の中で冬眠して越します。
動くものだけを食べる
食べものは、小さな昆虫やクモです。動いているものにしか反応せず、死んだ虫や止まっているものは食べません。夜になると、家の窓や自動販売機の明かりの前に集まり、光に寄ってくる虫を狙う姿もよく見られます。大きな獲物を飲みこむときは、目玉をぐっと引っこめ、その目玉の裏側で口の中の獲物をのどの奥へ押しこみます。カエルが食事のときに目をつぶるのは、この動きに合わせた反応とされます。
卵からカエルへ
春の田んぼで卵を産む
春になると、成体は水田や池などの静かな水辺に集まります。オスの鳴き声を手がかりにメスがやってくると、オスはメスの背中に抱きつきます。つがいは水面を泳ぎながら、逆立ちするような姿勢で産卵と放精をおこないます。卵は細い寒天のようなひもで数個ずつつながり、水面をただよって水草の茎などに絡みつきます。1回で340〜1500個ほどの卵が産みつけられます。
オタマジャクシから子ガエルへ
卵は2〜3日ほどで孵ります。オタマジャクシは全身が褐色で、薄いまだら模様があり、全身が黒いヒキガエルのオタマジャクシと見分けられます。小さな口にはヤスリのような歯があり、藻や生きものの死骸を削りとって食べ、大きいものでは全長5cmほどまで育ちます。1か月ほどかけてゆっくり変態し、後ろ足と前足が生えそろうと、褐色だった体は黄緑色に変わります。しっぽが短くなったころに陸へ上がり、思い思いの方向へ散っていきます。
「雨蛙」の名は鳴き声から

鳴くのはオスだけ
「ゲッゲッゲッ」「クワックワッ」という鳴き声を出すのは、すべてオスです。オスの喉には鳴嚢(めいのう)という袋があり、ここで声を響かせ、体のわりに大きな声を出しています。春の繁殖期、夜の田んぼに響く大合唱は、オスがメスに自分の居場所を知らせる「広告音」と呼ばれます。鳴いているのはオスだけなので、喉が膨らむかどうかは、オスとメスを見分ける手がかりにもなります。
雨が近いと鳴く「雨鳴き」
ふつうのカエルは繁殖期の夜に鳴きますが、ニホンアマガエルは雨が降りそうになると、繁殖期でなくても昼間でも鳴きだします。この鳴き方は「雨鳴き(あまなき)」や「レインコール」と呼ばれ、繁殖期の広告音とは区別されます。「雨蛙」という名前は、この習性からつけられたとされます。空気の湿り気の変化を感じ取っていると考えられていますが、詳しい仕組みはまだ解明されていません。
隣どうしのオスは半拍ずらして鳴く
大合唱に聞こえる鳴き声も、詳しく調べると隣り合ったオスは声がかぶらないように半拍ずらして鳴いていることが分かっています。メスから見て個々の鳴き声を聞き分けやすくする工夫と考えられ、生物学と物理学の境目の題材にもなっている性質です。田んぼの合唱は無秩序に聞こえながらも、オス同士のタイミングの譲り合いで組み立てられています。
皮膚の毒 ―粘膜への刺激
ニホンアマガエルの皮膚からは、弱い毒がにじみ出ています。手でそっとさわる分にはほぼ影響がないとされますが、その手で目や口・傷口をこすると激しい痛みを起こします。とくに目に入ると危険で、角膜を傷めて失明に至った例も報告されています。犬や猫がくわえた場合も、口の粘膜が刺激されてよだれや嘔吐が出ることがあり、動物病院での処置が必要になった例も知られます。アマガエルに触れたあとに手を洗うのが、身近な生きものとして安全に付き合ってきた作法とされてきました。
極寒と宇宙 ―アマガエルの特別な耐性
-30℃で120日を生き延びる
体液が凍らない工夫
ニホンアマガエル(およびヒガシニホンアマガエル)は、ロシア極東やサハリンなど、氷点下の厳しい冬を持つ地域にも分布しています。冬の間は体内でグルコースや糖アルコールを蓄え、体液が凍りきらないように調整しているとされます。実験では-30℃で最大120日間の耐寒が確認されており、両生類の中でもトップクラスの耐寒力を持つ種として知られます。
樹皮や落葉の下で冬眠
寒冷地の個体は、樹皮の隙間や落葉の下、地中の空洞でじっと冬を越します。春先の気温が上がってくると自発的に冬眠から目覚めますが、雪解けが遅い地域では、田起こしの農機の振動で目覚めるといった報告もあります。目覚めた直後は気温がまだ低いこともあり、雨鳴きに似た甲高い声が突然聞こえてくる年もあります。
宇宙に旅立ったアマガエル
首を反らし、うしろ向きに歩く
1990年代、日本の宇宙生物学の研究でニホンアマガエルは宇宙にも運ばれました。無重力の中では首を後ろに反らす姿勢や、うしろ向きに歩くしぐさが観察されています。餌を口に入れても飲みこめない場面もあり、地上と同じ動きが難しくなる様子が記録されました。
無重力に慣れて着地を再開
実験の終盤には無重力に慣れて、ジャンプや止まり木への着地を再開する個体も報告されました。地上に戻ってから数時間で通常の行動に戻り、両生類の適応能力の高さを示す例として資料に残されています。
東日本の集団は新種ヒガシニホンアマガエルへ
500万年前に分かれた東西
長いあいだ、ニホンアマガエルは日本全国に1種類だけいると考えられてきました。2016年に東西で遺伝的な違いがある可能性が指摘され、2025年には、関西より東と樺太に分布する集団が別種として記載されました。分けられた新種の学名は Dryophytes leopardus、和名は「ヒガシニホンアマガエル」です。2つの集団は500万年ほど前に分かれたと推定されており、身近な緑のカエルにも、まだ新しい発見が残っていました。
太腿の豹柄が新種の名の由来
見た目は、両者を並べてもほとんど区別がつきません。決め手になるのは太腿の内側の斑紋で、東の集団では豹柄のような黒い斑がくっきり出る傾向があります。学名の leopardus はラテン語で「豹」を意味し、この斑紋にちなむとされます。ただし個体差も大きく、斑紋だけで100%見分けるのは難しいとされ、実際には分布境界(関西のあたり)で東西を判断する方式が一般的です。
境界域では雑種も
境界にあたる大阪府北部や和歌山県北部では、2種のあいだの雑種と見られる個体群も確認されています。一方、境界から離れた地域では雑種は見つかっておらず、東西の集団同士の行き来はかなり限定的だったと考えられています。ふだん「アマガエル」と呼んでいる緑のカエルが、住んでいる場所で別種に分かれ得る、というのが2025年以降の見方です。
アマガエルの小話
空色のアマガエルがいる
ときどき、体が空色や水色をしたアマガエルが見つかり、話題になります。これは珍しい病気ではなく、色素の組み合わせによる自然な現象です。アマガエルの緑色は、黄色の色素と青い光の組み合わせでできています。生まれつき黄色の色素が欠けた個体では青い部分だけが残り、きれいな空色に見えます。生涯にわたって青いままの個体もあれば、成長にともなって緑に戻る例も記録されています。
関連ページ

参考
- IUCN Red List:Dryophytes japonicus の評価(保全状況・分布)
- Dufresnes et al. 2016. Phylogeography reveals an ancient cryptic radiation in East-Asian tree frogs(東西2系統・500万年前分岐)
- 2025年 Dryophytes leopardus 新種記載(太腿の斑紋・遺伝子解析)
- Wikipedia(日本語版)「ニホンアマガエル」(形態・体色変化・鳴き声・生態・毒性)/Wikipedia (English): Japanese tree frog(-30℃耐寒・宇宙実験・swarmalators)


