コブシメ

コブシメ・バリ島の生体正面 イカ・タコ類(頭足類)

コブシメは、沖縄や八重山諸島のサンゴ礁に暮らす大型のコウイカ類です。外套長は50cm、体重は10kgにも達し、オーストラリアの巨大コウイカ Sepia apama に次いで世界で2番目に大きなコウイカ類とされています。体色をリズミカルに流して獲物を惑わせる狩り方や産卵期に見せる派手な求愛の色変化、稚仔がマングローブの葉に擬態する姿など、頭足類のなかでも視覚的な演出に長けた種として知られてきました。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 目:コウイカ目 Sepiida
  • 科:コウイカ科 Sepiidae
  • 属:Ascarosepion 属
  • 種:コブシメ Ascarosepion latimanus(旧 Sepia latimanus

和名・英名

  • 和名:コブシメ(甲武士目・こぶしめ)
  • 英名:Broadclub cuttlefish(幅広の棍棒コウイカ)

別名と名前の由来

学名 Ascarosepion latimanus は、フランスの博物学者ジャン・ルネ・コンスタン・クワとジョゼフ・ポール・ゲメールが1832年にニューギニアで採集した個体をもとに記載しました。長らくコウイカ属 Sepia latimanus として扱われてきましたが、2023年の分類再編でトビイカ類・巨大コウイカ・ハナイカ類などとともに Ascarosepion 属へ移されました。種小名 latimanus はラテン語で「幅広い手」を意味し、英名 broadclub(幅広の棍棒)と同じく、腕を伸ばしたときの姿にちなんだ呼び名です。日本語の「コブシメ」の由来は諸説あり、殻に「拳(こぶし)」ほどの厚みがある大型コウイカを表す名という説などが伝えられています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ外套長 約50cm、体重 最大10kg(世界2位のコウイカ類)
分布インド・西太平洋(東アフリカ・アンダマン海〜南アジア〜日本南部〜北オーストラリア〜フィジー)
生息環境沿岸のサンゴ礁。水深30m以浅の浅場を主戦場に
寿命約1〜2年(一回繁殖型・産卵後に死亡)
保全状況IUCN: DD(情報不足)

「Broadclub」の由来と大きさ

コブシメ・フィリピン アニラオ沖のサンゴ礁の個体
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

世界で2番目に大きなコウイカ類

コブシメは、オーストラリア南岸に暮らす巨大コウイカ Sepia apama に次いで、世界で2番目に大きなコウイカ類として知られています。外套長は50cm、体重は10kgに達し、日本産のコウイカ類のなかでは間違いなく最大の種にあたります。同じインド・西太平洋に分布するトラフコウイカやカミナリイカと比べても、成体の存在感はひときわ大きく、ダイバーにとってはサンゴ礁で出会う大型の主として親しまれてきました。

「幅広い棍棒」の腕

英名の broadclub(幅広の棍棒)と学名 latimanus(幅広い手)は、いずれも本種の腕の形にちなむとされます。オスは特に第3腕を左右に伸ばしたときに幅広く旗のように見え、腕には縦に走る白い帯が数本並び、広げると大きな白い斑となって目立ちます。求愛や威嚇の場面ではこの腕を大きく張って相手に見せつけるように使い、名前どおりの「幅広い棍棒」らしい姿を演じます。

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見た目と体のつくり

コブシメ・タンザニア ザンジバル沖の個体
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

体色変化のバリエーション

素早い暗色→白色の切り替え

コブシメ・暗色相から白色に変わる直前の個体
Nhobgood Nick Hobgood, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

普段の体色は淡い褐色から黄褐色を基調に、白いまだら模様が散らばります。刺激や気分に応じて体色を素早く切り替え、暗褐色から一瞬で真っ白へと変わる姿がダイビング動画などでよく撮影されてきました。皮膚の色素胞(クロマトフォア)を筋肉で瞬時に開閉する頭足類共通の仕組みですが、大型のコブシメが体全体で見せる変化の幅は特に大きく、数秒のうちに別の姿へと切り替わる様子が繰り返し観察されています。

求愛期のオスの暗褐色

繁殖期のオスは、産卵場所となるサンゴ塊(多くはハマサンゴ属 Porites)の周辺で暗褐色の派手な色相を長時間見せ、他のオスに対して縄張り主張のディスプレイを行います。オスどうしが向き合ってこの色相を交互にちらつかせ、儀式化された威嚇のやり取りが延々と続きます。求愛から交尾までの一連の行動は非常に儀式的で、同じ組み合わせのパターンが繰り返し記録されている点も本種の特徴です。

大きな腕と菱形の頭

体形は縦に長い菱形で、外套膜の両側にはコウイカ類らしい細長い鰭が全長にわたって張り出します。頭部には大きな目が並び、瞳孔はコウイカ類共通のW字型で、視野が広く獲物との距離を正確に測ります。付属肢は10本で、8本の腕と2本の触腕から構成され、触腕は普段は袋にしまわれています。オスの左第4腕は交接腕(ヘクトコティルス)として変形しており、雌の口の周りの膜へ精莢を渡す仕組みが備わっています。

生態と行動

サンゴ礁に暮らす昼行性

コブシメはインド・西太平洋のサンゴ礁のなかでも、最も普通に見られる大型コウイカ類として知られています。生息水深は30m以浅と浅く、日中に活動する昼行性で、サンゴの上をゆっくりホバリングしながら獲物を探し回ります。日本では沖縄・鹿児島・小笠原など亜熱帯以南のサンゴ礁が主な出現域で、本州以北の海域ではほとんど姿を見せません。

体色で獲物を惑わせる狩り

リズミカルなバンドを流す

コブシメの狩りでもっとも有名なのは、体色を使った獲物のかく乱です。獲物に近づくとき、体の側面や頭部に沿って暗色のバンドを繰り返し流し、獲物にとって視覚的な錯覚が起きるような表示を続けます。小魚や甲殻類はこのバンドを目で追ううちに体の位置感覚を失うようで、触腕の射程に入ったところで一瞬で獲物をとらえられる、と観察されています。まるで「催眠術」のように語られてきた狩り方です。

モーションカモフラージュ(2025年の研究)

2025年に Science Advances 誌で発表された研究は、コブシメがカニを狙う際に「モーションカモフラージュ(動きの偽装)」を使っていることを実験的に示しました。コブシメはカニに向かって直進する際、頭部を白く染めて8本の腕のうち6本を前方の錐状にまとめ、残る2本を左右に大きく広げます。同時に頭部と腕には「通り過ぎる縞」(passing-stripe)を下方向に流し続けるという。カニは通常、迫ってくる捕食者が「大きく見えていく」動きから接近を検知するとされます。この縞の流れが加わるとその視覚手がかりが弱められることが実験で示されています。狩りの成功率を上げるために、体色そのものを錯覚の道具として使う頭足類の代表例と言えます。

産卵と成長

コブシメ・インド洋で撮影された交尾・産卵行動
Jerome Paillet (IFREMER), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

頭対頭の交尾

沖縄やグアム沖では、1月から5月にかけての浅場の産卵が知られています。オスは Porites 属のハマサンゴ塊を縄張りとして守り、そこに雌を招き入れます。求愛のあと、オスとメスは頭を突き合わせる「頭対頭」の姿勢で交尾し、オスはメスの口の周りの膜へ精莢を渡す独特の受け渡し方が観察されています。メスは受け取った精莢を使ってサンゴの隙間に一粒ずつ卵を産み付けていくという。産み付けられた卵は数日でサンゴにしっかりと固着し、外れにくくなるという特徴を持ちます。

稚仔はマングローブの葉に擬態

卵は38〜40日ほどで孵化し、生まれたばかりの稚仔はサンゴ礁の岩陰や瓦礫のあいだに身を潜めます。この時期の稚仔は体色と姿勢をマングローブの落葉に似せた擬態を行うのが特徴です。体の中央に「葉の主脈」のような線を持ち、周囲には黒い点を散らして水中を漂う枯葉のように振る舞います。捕食者の多い浅場のサンゴ礁で、生まれてすぐの小さな個体が生き延びるための工夫として、頭足類のなかでも特徴的な擬態のひとつです。

沖縄との関わり

コブシメ・アニラオ沖の別カット
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

沖縄の食材としてのコブシメ

沖縄では古くから、コブシメは冬から春にかけての重要な食材として扱われてきました。産卵のために浅場に集まる季節にモリ突きや網で捕獲され、身は分厚くねっとりとした甘みがあり、コウイカ類の中でも上位の食味を持つとされます。刺身・寿司ネタ・しゃぶしゃぶ・天ぷら・イカ墨汁の材料として幅広く使われ、特に沖縄料理の「イカ墨汁(イカスミジル)」ではコブシメの墨が定番の材料になっています。産卵期の雌は卵嚢を持つ「子持ち」の状態で扱われることもあります。

ダイビングでの人気種

沖縄本島や慶良間諸島、八重山諸島のダイビングポイントでは、コブシメは春の産卵期に姿を見せる名物種として親しまれています。ハマサンゴの周辺でオスが縄張りを守り、雌が卵を産み付けていく様子は、ダイバーからも間近で観察できる貴重な機会です。世界のサンゴ礁ダイビングでも、フィリピン・インドネシア・オーストラリア北岸などで本種が観察対象になっており、大きな体と派手な体色変化が観光価値の高い種として扱われています。

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参考

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