ミゾレウミウシ

ミゾレウミウシの正面からの姿・淡青色と黒3本の縦線 ウミウシ類

ミゾレウミウシは、体長2cm前後の西太平洋の裸鰓類です。淡青色の外套膜に3本の黒い縦線が走り、触角と二次鰓が半透明の褐色に白い斑点を散らす小さな姿は、和名「霙(みぞれ)」の由来になっています。学名は Chromodoris willani。1982年にオーストラリアの裸鰓類研究者ウィリアム・ルドマンがバヌアツの個体をもとに記載し、種小名 willani はイギリス出身の裸鰓類分類学者リチャード・C・ウィランに献名されました。日本では沖縄・奄美・伊豆・小笠原などのサンゴ礁で観察され、カイメンを食べて暮らします。よく似たレイドラーウミウシ Chromodoris lochi との見分けが観察のポイントとして知られる種です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:イロウミウシ科 Chromodorididae
  • 属:ミスジアオイロウミウシ属 Chromodoris
  • 種:ミゾレウミウシ Chromodoris willani

和名・英名

  • 和名:ミゾレウミウシ(霙ウミウシ)
  • 英名:Willan’s chromodoris

別名と名前の由来

和名の「ミゾレ(霙)」は、触角と二次鰓に散る白い斑点が空から降る霙のように見えることに由来する呼び名です。属名 Chromodoris はギリシャ語の chroma(色)と doris(海の女神)を組み合わせた語で「彩り豊かなドーリス」の意、種小名 willani はイギリス出身でオーストラリアのノーザンテリトリー博物館・美術館(MAGNT・ダーウィン)を本拠に活動する裸鰓類分類学者リチャード・C・ウィラン(Richard C. Willan)博士に献名されたものです。ウィラン博士は本種のタイプ標本を含む多数の Chromodoris 属を提供した貢献により学名に名前が刻まれました。1982年、オーストラリアの裸鰓類研究者ウィリアム・B・ルドマン(William B. Rudman)がバヌアツで採集された個体をもとに記載しました。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約2〜3cm(最大30mm程度/タイプ標本は14mm)
体色淡青色〜半透明の白の外套膜/外縁を細い白い帯と黒い縁で縁取る/背面に3本の黒縦線(中央線は途切れがち)
触角・鰓半透明の褐色地に白い斑点と帯を散らす/二次鰓は6〜8本の羽状で馬蹄形に並ぶ
分布西太平洋/バヌアツ(タイプ産地)/インドネシア/フィリピン/マレーシア/グアム/日本(沖縄・奄美・伊豆・小笠原など)
生息環境サンゴ礁の礁縁・礁斜面/水深18〜30m前後(浅場5m〜でも観察例あり)
食性カイメン食(主に Cacospongia mycofijiensis や Semitaspongia など Thorectidae 科の海綿)
繁殖雌雄同体。白いリボン状の螺旋卵塊を岩やカイメンに産みつける
寿命約1年(イロウミウシ類全般)
保全状況IUCN未評価。西太平洋のサンゴ礁に広く分布し、個体数は安定と見られる
ミゾレウミウシの上からの俯瞰・淡青色と3本の黒縦線
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

淡青色に黒3本、鰓と触角の白斑が霙のよう

淡青色〜半透明の外套膜と3本の黒縦線

青の濃さは個体差が大きい

外套膜の地色は淡い青から半透明の白まで、個体によってかなり幅があります。深場や成体では青みが強く、浅場や若い個体では透明感が高い傾向があるとされています。同じダイビングポイントでも、青が濃い個体と白っぽい個体が近くに見られるほど変化に富む種類です。

中央線は途切れ、両側線は連続する

背面には頭部から尾部にかけて縦に走る太い黒線が3本並びます。中央の1本は途中で途切れがちで、鰓の直前でいったん消えてしまう個体も少なくありません。両側の2本は連続して尾部まで走り、外縁の細い黒線と合わせて4本の縦縞が並ぶように見える構造です。

触角と鰓の白斑が「ミゾレ」の由来

半透明の褐色に白い粒が散る

背面から突き出る一対の触角(rhinophore)と、後方に開く二次鰓はいずれも半透明の褐色で、表面に白い斑点と帯が散らばります。この白い粒が、黒褐色の空から降る霙(みぞれ)を思わせることが和名「ミゾレウミウシ」の直接の由来です。触角は半透明の褐色地に白斑と帯を散らし、名前の由来となる霙のような色柄そのままに、褶葉のひだで水中の匂いを感じ取る感覚器官として働きます。

二次鰓は6〜8本が馬蹄形に開く

二次鰓は6〜8本の羽状で、後方に馬蹄形(U字形)に開きます。他のミスジアオイロウミウシ属より鰓の数がやや少ない傾向があり、この馬蹄形の配置も本種の識別に使えます。危険を感じるとすばやく体内に引き込める構造で、外敵から呼吸器官を守る仕組みになっています。

ミゾレウミウシの側面・触角と鰓の白斑
Rickard Zerpe, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

そっくりのレイドラーウミウシとの見分け方

本種と最も混同されやすいのが、同じイロウミウシ科のレイドラーウミウシ Chromodoris lochi です。両種とも淡青色の外套膜に黒縦線を持ちますが、次の3点で区別できます。①外套膜の形はミゾレウミウシが細長い卵形なのに対し、レイドラーウミウシは後方が丸く広がるへら形です。②触角と二次鰓の色はミゾレウミウシが半透明の褐色に白斑、レイドラーウミウシは橙色〜黄色の単色になります。③歯舌の中央歯の大きさはミゾレウミウシが著しく大きく、顕微鏡での識別に使われます。ダイビングで観察するときは、触角と鰓の色が最も分かりやすい見分けポイントになります。

ミゾレウミウシの全身・淡青と黒線
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

Thorectidae 科のカイメンを食べる

特定の海綿を選んで食べる偏食家

ミゾレウミウシはサンゴ礁のカイメン食性で、主に Thorectidae 科の海綿(Cacospongia mycofijiensis、Semitaspongia など)を選んで食べます。餌の種類が限られる偏食家として知られ、決まった種のカイメンの上で見つかることが多い種です。日本近海では海綿ラブロイテス属(Rhabdastrella globostellata)など他属を食べる観察例も報告されており、地域による餌の切り替えがあると考えられています。

体色は化学防御を知らせる警戒色

ミゾレウミウシは餌の Cacospongia などのカイメンから取り込んだ二次代謝物質などの二次代謝物質を蓄え、淡青地に3本の黒縦線という色柄で捕食者に「食べても味が悪い」と伝えます。ミゾレウミウシの派手な淡青色と黒線のパターンも、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と考えられているためです。実際、本種が魚類に襲われる場面はほとんど観察されていません。

ミゾレウミウシが赤いカイメンに載る姿
Alexander R. Jenner, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

雌雄同体で白い螺旋卵塊を産む

裸鰓類の例にもれず、ミゾレウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時にはミゾレウミウシも幅数mm前後の白いリボンを産み、Cacospongia など Thorectidae 科のカイメンが張り付く岩肌に螺旋状に固定します。孵化したベリジャー幼生は西太平洋の広い海域を数週間漂った後、Cacospongia などの Thorectidae 科カイメンが確認できる礁縁で着底し、名前の由来となる白斑の霙模様を成長とともに獲得していきます。寿命は約1年で、産卵をピークに急速に老化して死ぬのがイロウミウシ類の典型的なライフサイクルです。

ミゾレウミウシの側面・別角度
Rickard Zerpe, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

沖縄・奄美から伊豆まで、水深18〜30mが中心

タイプ産地バヌアツから日本まで広がる

ミゾレウミウシはタイプ産地のバヌアツを中心に、インドネシア・フィリピン・マレーシア・グアム・日本と西太平洋のサンゴ礁域に広く分布します。日本では沖縄・奄美諸島・小笠原諸島などの亜熱帯〜熱帯海域が主な観察地で、伊豆半島や紀伊半島など本州南岸の温帯域でも夏〜秋にかけて観察例があります。黒潮に乗って北上した個体が越夏していると考えられているためです。

ミゾレウミウシの分布図・西太平洋のサンゴ礁域
I naturen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(分布図)

ダイビングで人気の小型ウミウシ

体長2cmと小型でマクロ被写体

体長2cm前後と小型のため、ダイビングではマクロレンズでの撮影対象として親しまれる種です。淡青色の外套膜と鰓の白斑のコントラストが写真映えするため、水中写真愛好家に人気があります。ガイドが指差してくれないと通り過ぎてしまうサイズなので、事前にポイントの情報を聞いてから潜るのが定石になっています。

水深18〜30mの礁斜面が定位置

タイプ標本の採集水深18〜30mが主な観察範囲ですが、日本近海では水深5m前後の浅場でも見つかる例があります。餌のカイメンが張り付く岩の下面やオーバーハングの壁面など、影になる場所を好みます。奄美大島や慶良間諸島のダイビングポイントでは複数個体が同じ岩に集まる様子が観察されることも珍しくない光景です。

ミゾレウミウシがサンゴ礁の岩に載る(Wakatobi)
Christian Gloor, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(Wakatobi)

約20種を擁するインド太平洋のミスジアオイロウミウシ属

ミスジアオイロウミウシ属(Chromodoris 属)はインド太平洋を中心に約20種が知られる大きなグループです。ミゾレウミウシは種小名で著名分類学者に献名された1種で、同じ属にはシライトウミウシ(Chromodoris magnifica)/アンナウミウシ(Chromodoris annae)/レイドラーウミウシ(Chromodoris lochi)/タイヘイヨウイロウミウシ(Chromodoris quadricolor)などが含まれる大きな属の一員です。すべて西太平洋を主な生息地とし、カイメン食で似た化学防御戦略を持ちますが、体色パターンと触角・鰓の色で種ごとに区別できます。

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参考

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