タゴガエルは日本の山の渓流沿いに住むカエルです。岩の下を流れる伏流水(ふくりゅうすい)の中に卵を産むため、姿が見えないまま声だけが地上へ届きます。オタマジャクシは餌をほとんど取らずに育ちます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:両生綱 Amphibia
- 目:無尾目 Anura
- 科:アカガエル科 Ranidae
- 属:アカガエル属 Rana
- 種:タゴガエル Rana tagoi
- 亜種:タゴガエル R. t. tagoi / オキタゴガエル R. t. okiensis / ヤクシマタゴガエル R. t. yakushimensis
和名・英名
- 和名:タゴガエル(田子蛙)
- 英名:Tago’s brown frog
人の名前がそのまま学名になった
種小名の tagoi と和名の「タゴ」は、どちらも動物学者の田子勝彌(たご かつや)に由来します。両生類などを研究した人物で、1877年から1943年まで生きました。学名を付けるときに特定の人物へささげることを献名といい、この種はその一例にあたります。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 雄3.5〜4.5cm/雌4.5〜5cm。大人の親指ほどで、雌のほうが大きい |
|---|---|
| 分布 | 日本固有種。本州・四国・九州とその周辺の島 |
| 生息環境 | 低山地の森林から標高2,000mあたりまで。渓流の周辺 |
| 食べ物 | 動物食。昆虫・クモ・陸で暮らす巻貝など |
| 繁殖 | 岩の下などを流れる伏流水の中に60〜110個の卵を産む |
| 分類上の扱い | 資料によって、亜種のままとするか種として分けるかが割れている |
卵を産む場所が地面の下

ほかのカエルと違う産卵場所
多くのカエルは池や田んぼのような開けた水面に卵を産みます。この種が選ぶのは岩の下や湿地の地下を緩く流れる水です。地表に出ていない、この水の流れを伏流水といいます。小川や用水路の落ち葉や石の間に産むこともあります。
産む卵は60個から110個です。繁殖の時期は1月から6月にわたりますが、多くの地域では4月と5月に集中します。標高や周りの環境によって前後します。
産卵の時期だけの見た目
繁殖の時期になると、雄は体の側面の皮膚がひだ状に緩み、普段とは違う姿になります。
オタマジャクシは餌を食べない

卵黄だけで足りる幼生期
オタマジャクシは幼生とも呼ばれます。この種の幼生は、カエルの姿へ変わる(変態する)まで、体内に持っている卵黄という栄養だけで育ちます。
親のほうは動物食で、昆虫やクモ、陸で暮らす巻貝などを食べます。餌を取らないのは幼生の時期だけです。
泥だけは口に入っている
卵黄だけで変態まで到達できることと、実際に何も口にしていないかどうかは別です。野外で採集した幼生の消化管からは、泥状の物質が見つかっています。まったく食べていないとまでは言えません。
声だけが地上に届く
姿の見えない求愛
雄は伏流水の中で鳴いて雌を呼びます。春の終わりになると、その声が地上まで聞こえてきます。声のするほうを探しても、水の流れは岩や土の下なので姿は見えません。鳴いている場所そのものが、地表からは見えない位置にあります。
似すぎていて声では決まらない
鳴き声は近い仲間を分ける手がかりにもなっています。中部地方の個体群は、鳴き声と染色体の数の違いからネバタゴガエルとして別種にされました。
ただしネバタゴガエルが最初に記載された産地の周辺には、非常に近い声を出すタゴガエルもいます。遺伝的な違いも小さく、声だけで見分けるのは簡単ではありません。
アカガエル属のなかでの見分け

ニホンアカガエルとヤマアカガエル
同じアカガエル属のニホンアカガエルやヤマアカガエルとよく似ています。
寸胴な体と丸い鼻先
この種は両方と比べて寸胴で、体に対して手足が太くなります。鼻先も尖らず丸みを帯びます。背中は赤褐色から茶褐色で、黒や灰色の斑が入ることもあり、個体による差が大きく出ます。のどには白地に黒い斑模様が入ります。
鼓膜との位置関係で分かれる隆条
より確かな手がかりは背中の両側を走る細い隆起の形にあります。背側線隆条(はいそくせんりゅうじょう)といい、耳にあたる鼓膜との位置関係が3種で違います。
- タゴガエル:鼓膜の後ろで曲がる
- ニホンアカガエル:曲がらず真っ直ぐ
- ヤマアカガエル:鼓膜の手前から曲がり始める
隣り合っても混ざらない近縁種
渓流に多いナガレタゴガエルとの差は、後肢の水かきに出ます。ナガレタゴガエルの水かきは第4指を除いて指先近くまで発達しますが、この種は指先まで届きません。繁殖期を外れた時期に差がはっきりします。
この2種は本州の中西部で同じ地域に分布します。それでも交雑はせず、繁殖する場所と時期が違うことで完全に分かれているとされています。姿が似ていて生活圏も重なるのに、卵を産む条件が交わりません。
ヒメタゴガエルは一回り小さい
近畿地方では、ヒメタゴガエルと同じ場所で見つかることがあります。名前のとおりヒメタゴガエルのほうが小さく、タゴガエルは明らかに体長が大きくなります。鳴き声が違うほか、水かきはタゴガエルのほうがよく発達します。
分かれつつある仲間

DNAが示した2つの系統
江藤らは2012年と2014年に、全国のタゴガエルとナガレタゴガエルのDNAを解析しました。細胞の中の2か所、ミトコンドリアと核のDNAをそれぞれ調べています。その結果、これらは十数の集団に分かれ、大きくは2つの系統にまとまることが示されました。同じ祖先から分かれてきたつながりを系統といいます。
この結果を受けて、別の種に分ける動きが続いています。2014年には長野県根羽村付近の個体群がネバタゴガエルとして分けられました。2023年には五島列島のものがゴトウタゴガエルになりました。
隠岐と屋久島の位置づけ
種の下にもう一段の区分を置くとき、その区分を亜種と呼びます。この種で基準になるのは R. t. tagoi です。そのほかに隠岐諸島のオキタゴガエルと屋久島のヤクシマタゴガエルが、亜種として立てられてきました。
日本語版と英語版のウィキペディアは、どちらもこの2つを亜種として挙げています。ただし最初に記載されたときの標本には問題が残っています。ウィキペディアとWeb両爬図鑑の双方がこれを指摘しています。タゴガエルの標本は帝国大学理科大学、いまの東京大学に保管されていましたが、現在どこにあるか分かっていません。ヤクシマタゴガエルにいたっては標本の指定そのものがありません。
種へ分けたとする資料
一方、専門データベースのWeb両爬図鑑は、2つとも2023年に種へ格上げされたとしています。英語版のウィキペディアも、種として扱えるかもしれないと書き添えています。
GBIFにはまだ入っていない
世界の生物多様性データベースであるGBIFにも、2023年の変更はまだ入っていません。本ページは亜種として扱いますが、決着していない論点です。
どこで会える

水辺から離れずに暮らす
山の渓流の近くが生活の場です。落ち葉の下や、流れの中の石の下に潜んでいます。低山地の森林から、富士山の中腹にあたる標高2,000mあたりまでで暮らします。それより高い場所で見つかることもあります。
関連ページ





