カッショクハイエナは、南部アフリカの砂漠や海岸に暮らす、全身が長い茶色の毛におおわれたハイエナです。ナミブ砂漠の海岸ではアザラシの死がいをあさって歩くことで知られ、ハイエナの仲間でいちばん数が少ない、めずらしい種でもあります。
分類と学名
- 界:動物界
- 門:脊索動物門(せきさくどうぶつもん)
- 綱:哺乳綱(ほにゅうこう)
- 目:食肉目(ネコ目)
- 科:ハイエナ科
- 属:カッショクハイエナ属(Parahyaena)
- 種:カッショクハイエナ
学名は Parahyaena brunnea(パラヒアエナ・ブルンネア)、英名は Brown Hyena(ブラウン・ハイエナ)です。日本語では「ブラウンハイエナ」とよばれることもあります。ハイエナ科は全部で4種いますが、カッショクハイエナはこの1種だけで「カッショクハイエナ属」という自分だけの属をつくっています。
名前の「カッショク(褐色)」は茶色のことで、全身をおおう茶色い長い毛からきています。学名の brunnea も「茶色の」という意味で、和名も学名も毛の色をそのまま名前にしています。
基本データ
| 体長(頭からおしり) | 約1.1〜1.4m |
| 体重 | オス約40〜44kg/メス約38〜40kg |
| 分布 | ナミビア・ボツワナ・南アフリカなど南部アフリカ |
| すみか | 砂漠・半さばく・草原・海岸 |
| 食べもの | 死んだ動物の肉が中心。果実・卵・昆虫も |
| 暮らし | 4〜6頭のクラン(家族の群れ)。えささがしは単独 |
| 保全状況 | 準絶滅危惧(NT/IUCN) |
オスとメスで体の大きさはあまり変わりません。ブチハイエナ(40〜80kg級)よりはやや小さく、シマハイエナと近いくらいの大きさです。
見た目と特徴

長いぼさぼさの毛と、首のえり毛
カッショクハイエナのいちばんの特徴は、全身をおおう長くぼさぼさした濃い茶色の毛です。背中の毛はとくに長く、いちばん長いものは30cmほどにもなります。この毛を立てると体がふくらんで見え、相手をおどすのに役立ちます。
首のまわりだけは色が違い、クリーム色の毛が「えり巻き」のように生えています。足には茶色と白の横しまがあります。ぼさぼさの体に明るい首まわりという組み合わせが、ほかのハイエナにはない見た目です。
ほかのハイエナとの見分け方
ハイエナ4種のうち、全身が濃い茶色の長い毛でおおわれているのはカッショクハイエナだけです。しま模様や水玉もようがほとんど見えないので、そこが見分けの決め手になります。
- カッショクハイエナ…全身が濃い茶色の長い毛。首にクリーム色のえり毛。
- シマハイエナ…灰色の体に黒いしま。背中に立つたてがみ。
- ブチハイエナ…黄土色の体に黒い水玉。いちばん大きい。
- アードウルフ…いちばん小さく、シロアリを食べる細身のハイエナ。
暮らしと生態

南部アフリカの砂漠にすむ
カッショクハイエナがすむのは、ナミビア・ボツワナ・南アフリカなど、アフリカ大陸の南のはしだけです。カラハリ砂漠のようなかんそうした土地を得意とし、水をあまり飲まなくても生きていけます。ハイエナの仲間の中でも、とくにかわいた土地に強い種です。
海岸でアザラシをあさる
浜に打ち上げられたアザラシを食べる
いちばん有名なのが、ナミブ砂漠の海岸での暮らしです。この海岸にはオットセイ(ミナミアフリカオットセイ)の大きな群れがいて、弱った子や死んだ個体が浜に打ち上げられます。カッショクハイエナは夜の浜辺を歩き回り、こうしたアザラシの仲間の死がいを見つけて食べます。
海辺をパトロールする唯一のハイエナ
海辺をパトロールしながら食べものをさがすハイエナは、ほかにいません。「砂漠のそうじ屋」でありながら「海岸のそうじ屋」でもあるのが、カッショクハイエナならではの暮らしです。
死肉が中心の雑食
カッショクハイエナは、自分で大きなえものをしとめるより、死んだ動物の肉を食べる「そうじ屋(スカベンジャー)」です。ライオンやヒョウが食べ残した死がいを、じょうぶなあごで骨ごと食べてしまいます。
肉だけでなく、卵や昆虫、鳥も食べます。ツァンマメロンのような野生の果実も口にします。かんそうした土地では、こうした果実が大事な水分の代わりになります。何でも食べる雑食性が、きびしい砂漠で生きのびる力になっています。
クランで暮らし、ひとりで歩く

4〜6頭の家族の群れ
カッショクハイエナは、ペアとその子どもたちからなる4〜6頭ほどの「クラン(家族の群れ)」で暮らします。同じなわばりを仲間で守り、においを草や岩にこすりつけて「ここは自分たちの場所だよ」という目印をつけます。
おもしろいのは、群れで暮らしながらも、えさをさがすときは1頭ずつばらばらに動くことです。広い砂漠では、みんなで固まって歩くより、別々にさがした方が食べものを見つけやすいからだと考えられています。
みんなで子どもを育てる
赤ちゃんは巣あなで生まれ、クランの仲間みんなで育てます。子どもの親でなくても、大人が食べものを巣あなまで運んでくることがあります。少ない食べものをうまく分け合いながら、砂漠で子どもを育て上げるための知恵です。
「ブラウンハイエナは強い?」を考える
狩りより「あさる」のが得意
ゲームなどの影響で「ブラウンハイエナは最強」というイメージを持つ人もいますが、じっさいのカッショクハイエナは、自分から大きな動物を狩る強いハンターではありません。暮らしの中心は、死んだ動物の肉をあさる「そうじ屋」です。
ただし、あごの力はとても強く、ほかの動物が食べ残す固い骨まで割って食べられます。ときにはヒョウが木の下に置いた獲物を、追いはらって横取りすることもあります。「強い」というより、きびしい環境で食べものをむだなく利用する「したたかさ」を持った動物です。
天敵はライオンとブチハイエナ
カッショクハイエナにとっていちばんこわい相手はライオンです。ライオンは食べものやなわばりをめぐって、カッショクハイエナを追いはらったり、ときには殺してしまうこともあります。同じハイエナでも体の大きなブチハイエナには力でかなわず、えものをゆずることが多いです。
こうした強い相手とまともに戦わず、夜に単独で動いて食べ残しを利用する暮らし方こそが、カッショクハイエナの生き残り作戦なのです。
人とのかかわり
ダイヤモンドの町あとにすむ
ナミブ砂漠の海岸には、かつてダイヤモンド採掘(さいくつ)でにぎわい、その後すてられた町のあとがあります。カッショクハイエナは、人がいなくなったこうした建物を休み場所やすみかに利用することが知られています。人の暮らしのあとを、さりげなく再利用しているのです。
いちばん数の少ないハイエナ
カッショクハイエナは、4種のハイエナの中でいちばん数が少ないとされています。すみかとなる自然が減ったり、家畜をおそう動物とかんちがいされてわなにかけられたりして、数はけっして多くありません。IUCN(国際自然保護連合)は保全状況を「準絶滅危惧(NT)」としています。
日本の動物園でカッショクハイエナに会えるところはとても限られています。夜行性でめずらしい種なので、見られたらかなり運がよい、貴重なハイエナといえます。
ハイエナのなかま


参考文献
- IUCN Red List「Parahyaena brunnea(Brown Hyaena)」
- Wikipedia(英語版)「Brown hyena」
- Animal Diversity Web「Parahyaena brunnea」(ミシガン大学)
画像出典
アイキャッチ画像: Bernard DUPONT from FRANCE, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(本文中の写真は各キャプションに出典を記載)


