アードウルフは、ハイエナの仲間なのに大きな動物を襲わず、シロアリばかりを食べて暮らす小さな動物です。細長い顔と大きな耳を持ち、一晩でおよそ30万匹ものシロアリを、長いねばねばの舌でなめとります。ハイエナ科でいちばん小さく、いちばん変わった食べ方をする種です。
分類と学名
- 界:動物界
- 門:脊索動物門(せきさくどうぶつもん)
- 綱:哺乳綱(ほにゅうこう)
- 目:食肉目(ネコ目)
- 科:ハイエナ科
- 属:アードウルフ属(Proteles)
- 種:アードウルフ
学名は Proteles cristatus(プロテレス・クリスタトゥス)、英名は Aardwolf(アードウルフ)です。「アードウルフ」はアフリカーンス語やオランダ語で「土のオオカミ(earth-wolf)」という意味で、地面の巣穴で休む姿からこの名がついたとされています。オオカミという名前ですが、イヌの仲間ではなくハイエナの仲間です。
現地では「マーンハーレヤッカルス(たてがみのあるジャッカル)」や「シロアリ食いのハイエナ」とも呼ばれます。ハイエナ科は全部で4種いますが、アードウルフはその中でただ1種だけ「アードウルフ属」という自分だけの属に分けられています。シロアリを主食にするという、ほかのハイエナとまったく違う暮らしをしているためです。
基本データ
| 体長(頭からおしり) | 約55〜80cm(しっぽは別に20〜30cm) |
| 体重 | 約8〜12kg |
| 分布 | 東アフリカと南部アフリカ(2つの地域に分かれる) |
| すみか | 草原・低木林などの開けた土地 |
| 食べもの | ほぼシロアリだけ(1晩で約25万〜30万匹) |
| 活動時間 | 夜行性。昼は巣穴で休む(冬は昼に出ることも) |
| 保全状況 | 低危険種(LC/IUCN) |
体重は8〜12kgほどで、中くらいのイヌや大きめのキツネくらいの大きさです。ブチハイエナ(40〜80kg級)とくらべると、いかにアードウルフが小さいかがわかります。
ハイエナなのにシロアリを食べる

ハイエナ科でいちばん小さい
アードウルフは、ハイエナ科4種の中でいちばん小さな種です。ほかの3種(ブチ・シマ・カッショク)は死んだ動物の肉をあさる「そうじ屋」ですが、アードウルフだけは肉をほとんど食べません。骨をかみ砕くための大きな歯もなく、シロアリだけを食べる道へと進化しました。
一晩で30万匹のシロアリ
じょうぶな舌でなめとる
アードウルフの主食は、ほぼシロアリだけです。とくにテルミテス(Trinervitermes)というシロアリを好んで食べます。長くてねばねばした舌でシロアリをなめとり、その数は一晩で25万〜30万匹にもなります。舌はシロアリの兵隊にかまれても平気なように、じょうぶにできています。
音とにおいでシロアリを探す
シロアリのいる場所は、地面を歩く音や、兵隊シロアリが出すにおいを手がかりに探し当てます。大きな耳と鼻が、小さなえものを見つけるためのセンサーになっているのです。
巣を壊さず、地面をなめる
アリクイのようにシロアリの巣を壊すのかと思いきや、アードウルフは巣をこわしません。夜に地面へ出てくるシロアリを、地表からそっとなめとるだけです。巣を壊さないので、同じ場所で何度もシロアリをとることができます。畑や草原を荒らさないため、人にとってもありがたい食べ方です。
好むシロアリの種類は季節で変わります。昼間に活動するタイプ(ハーベスターtermite)を探すときは、アードウルフも昼に出てくることがあります。えものの都合に合わせて、活動する時間を変える柔軟さを持っています。
肉は食べない
ハイエナの仲間なので肉を食べると思われがちですが、アードウルフは肉をほとんど食べません。まれに動物の死がいのそばにいることがありますが、それは肉ではなく、死がいに集まったウジや甲虫(こうちゅう)を食べているのです。あくまで虫を専門に食べる動物です。
見た目と特徴

ジャッカルのような細身の体
アードウルフは、ジャッカルやキツネのようにほっそりした体つきをしています。毛は黄色っぽい茶色で、体には黒いたての線が入り、足にも横しまがあります。顔は細長く、耳は大きくとがっています。この大きな耳で、地面を歩くシロアリの小さな音を聞き分けているといわれます。
小さな歯とするどい犬歯

やわらかいシロアリばかりを食べるため、かむための奥歯は小さな突起のように退化しています。いっぽうで、するどい犬歯(けんし)は残っています。この犬歯はえものをかむためではなく、なわばりをめぐって仲間と争うときに使われます。食べ方と武器で、歯の役割が分かれているのです。
威嚇では毛を立てて大きく見せる
アードウルフは体が小さく、力も強くありません。そこで敵におそわれそうになると、背中のたてがみをぶわっと立てます。毛を立てると体が2倍近くにもふくらんで見え、相手に「自分は大きくて強いぞ」と思わせることができます。
それでも危ないときは、おしりの近くのにおい袋から、くさい分泌物(ぶんぴつぶつ)を出して身を守ります。走って逃げるときも、急に向きを変えて追手をまくのが得意です。戦って追いはらうのではなく、大きく見せたり、においやすばやさでかわしたりするのがアードウルフの生き方です。
暮らしと生態

夜行性で巣穴に休む
アードウルフは基本的に夜行性で、昼のあいだは地面の巣穴でじっと休んでいます。巣穴は自分で掘ることもありますが、ツチブタやトビウサギなど、ほかの動物が掘ってすてた穴を利用することも多いです。ただし真冬の寒い時期には、夜の冷えをさけて昼に活動することもあります。

なわばりと「共同トイレ」
アードウルフはなわばりを持って暮らします。ひとつのなわばりの中には、休むための巣穴が10個ほどと、フンをするための決まった場所(共同トイレ)がいくつもあります。フンをしたあとは、小さな穴を掘って砂でうめておく、きれい好きな一面もあります。
なわばりの境目には、おしりのにおい袋から出した分泌物を草にこすりつけて、においの目印をつけます。この「においづけ」は、相手のなわばりに入り込んでまで行うこともあります。声ではなく、フンやにおいで情報をやりとりする動物なのです。
オスも協力する子育て
ふだんは1頭で行動しますが、繁殖の季節になるとオスとメスがペアになります。約3か月(89〜92日)の妊娠のあと、巣穴でふつう2〜5頭(多くは2頭)の赤ちゃんが生まれます。メスがシロアリをさがしに出ているあいだ、オスが巣穴のそばで子どもを見守ることもあります。オスも子育てに協力するのは、アードウルフのやさしい一面です。
ハイエナの見分け方と、ふしぎな分類

シマハイエナとの見分け方
アードウルフは、体にしま模様があるのでシマハイエナと似て見えます。けれども大きさがまるで違い、シマハイエナ(25〜45kg)に対してアードウルフは8〜12kgと、ずっと小がらです。顔も細く、耳も大きくとがっています。「小さくて細身、シロアリを食べる」のがアードウルフだと覚えると見分けやすくなります。
かつては「別の科」と思われていた
あまりにほかのハイエナと違う暮らしをするため、昔の研究者はアードウルフを「シマハイエナに似せているだけの別の動物」と考え、独立した科(プロテリダエ)に分けた時期もありました。その後の遺伝子の研究で、アードウルフはまぎれもなくハイエナ科の一員だとわかっています。
東と南で別種かもしれない
アードウルフは、東アフリカと南部アフリカの2つの地域に分かれてすんでいます。近年の研究では、この2つのグループに見た目や遺伝子の差が見つかりました。じつは別々の種に分けられるかもしれない、と考える専門家もいます。分類がまだ動いている、研究の進行中の動物でもあるのです。

人とのかかわり

畑を守ってくれる益獣
アードウルフは大量のシロアリを食べるため、農作物を食べる害虫を減らしてくれる「益獣(えきじゅう)」として役立っています。ところが、家畜をおそう動物とかんちがいされて追われたり、シロアリ退治の毒えさで数を減らしたりすることもあります。じつは人の畑を助けてくれる、味方のような動物なのです。
数は多く、心配は少ない
ハイエナ科のほかの3種と違い、アードウルフは今のところ数が比較的多く、IUCN(国際自然保護連合)の保全状況は「低危険種(LC)」とされています。すみかとえさ(シロアリ)が広く残っていることが、その理由と考えられます。
動物園やアニメで人気
日本でも、一部の動物園でアードウルフを見ることができます。アニメなどにも登場して人気があり、大きな耳とやさしい顔つきから「かわいい」と親しまれています。夜行性なので、昼間は寝ていることが多い動物です。
ハイエナのなかま


参考文献
- IUCN Red List「Proteles cristatus(Aardwolf)」
- Wikipedia(英語版)「Aardwolf」
- Animal Diversity Web「Proteles cristata」(ミシガン大学)
画像出典
アイキャッチ画像: Ltshears, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(本文中の写真は各キャプションに出典を記載)


