クリオネ

貝類(巻貝・二枚貝)

クリオネは、透きとおった体で冷たい海を漂う、小さな巻貝の仲間です。氷とともに現れる姿から「流氷の天使」と呼ばれますが、実際には頭から触手を突き出して獲物を捕らえる、肉食のハンターでもあります。和名はハダカカメガイといい、成長すると殻を失う変わった生きものです。日本の海には、よく似た複数の種類が暮らしています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸殻翼足目 Gymnosomata
  • 科:ハダカカメガイ科 Clionidae
  • 属:ハダカカメガイ属 Clione
  • 種:ハダカカメガイ Clione elegantissima(日本近海の代表種)

和名・英名

  • 和名:ハダカカメガイ(クリオネ)
  • 英名:Sea angel

名前の由来と「何類」なのか

クリオネという呼び名は、属名の Clione に由来します。これはギリシャ神話の女神ムーサの一柱、クレイオーの名にちなむとされ、1774年に命名されました。分類のうえでは、クラゲでもウミウシでもなく、巻貝と同じ腹足綱の軟体動物です。海を漂って暮らす巻貝の仲間は翼足類と呼ばれ、クリオネもそのひとつにあたります。

和名の「ハダカカメガイ」は、殻を持たない姿に由来します。殻をかぶった翼足類のカメガイに対して、「裸のカメガイ」と名づけられました。日本で親しまれてきた「クリオネ」も、もとは世界共通の一種という扱いでした。しかし近年の研究で、日本近海のものは別の種として区別されるようになっています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長 約1〜3cm(種によって数mm〜数cmと差が大きい)
分布北極海・北太平洋・北大西洋の冷たい海(日本ではオホーツク海・日本海など)
生息環境冷たい海の中層を漂う(冬は流氷とともに現れる)
食べもの肉食(おもにミジンウキマイマイという巻貝/幼いころは植物プランクトン)
寿命およそ1〜2年
保全状況IUCN: 評価なし(種による)

透きとおった体と翼で泳ぐ姿

透きとおったクリオネの体
Matt Wilson/Jay Clark, NOAA NMFS AFSC, Public domain, via Wikimedia Commons

内臓が透ける体

殻を失った巻貝

クリオネの体は、ゼリーのように透きとおっています。生まれてまもないころは小さな巻き貝の殻を持っていますが、成長する途中でこれを失います。おとなになると殻も、はうための足も、貝らしい姿もなくなります。同じ巻貝の仲間とは思えないほど、育つあいだに姿を大きく変える生きものです。

赤く見えるのは生殖腺と内臓

透明な体の中で、赤やだいだい色に見える部分がよく目立ちます。これはおもに、生殖腺と中腸腺(消化にかかわる内臓)の色です。心臓が動くようすや、食べたものが消化管を移っていくようすも、外から透けて見えます。中身がそのまま見える体は、クリオネが人気を集める理由の一つになっています。

翼のような足で泳ぐ

足が翼に変わった

クリオネは、体の左右にある2枚の小さな翼を羽ばたかせて泳ぎます。この翼は、巻貝がはうときに使う「足」が変化したものです。上下にゆっくり動かして泳ぐ姿から、「流氷の天使」や「氷の妖精」と呼ばれます。泳ぐ速さはとてもゆるやかで、みずから遠くへ移動する力は強くありません。

光るという話は本当か

透明で目立つ見た目から、クリオネが光ると思われることがあります。しかし、クリオネ自身が光を放つという確かな報告はありません。水槽でよく見える青白い輝きは、照明が透明な体に反射したものです。天使のように見えるのは、あくまで澄んだ体と、羽ばたく泳ぎ方によるものです。

「天使」の正体、バッカルコーン

獲物をねらうクリオネ
Olivier Dugornay (IFREMER), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

6本の触手で獲物をつかむ

頭が割れて現れる

獲物を見つけると、クリオネの頭がぱっと割れるように開きます。中から「バッカルコーン」と呼ばれる6本の触手が、勢いよく飛び出します。ふだんの穏やかな姿からは想像しにくい、大きな変わりようです。この6本の触手を持つことが、クリオネの仲間を見分ける手がかりにもなっています。

殻から中身を引き出す

飛び出した触手は、獲物をしっかりと抱え込んで逃がしません。続いて口の中から、かぎ状の器官を伸ばして獲物の体をとらえます。殻を持つ相手からは、中身だけを器用に引きずり出して食べます。ひとたび捕らえてから食べ終えるまで、じっくりと時間をかけることもあります。

獲物はほぼミジンウキマイマイだけ

幼いころは植物プランクトンを食べる

クリオネは、一生を通して同じものを食べるわけではありません。ふ化してまもない幼いころは、植物プランクトンをこして食べて育ちます。成長するにつれて肉食に変わり、ほかの生きものを襲うようになります。食べるものが育ちとともに大きく変わる点も、この生きものの特徴です。

えり好みの激しい狩人

おとなの獲物は、ほぼミジンウキマイマイという小さな巻貝に限られます。この貝も、殻を背負って海を漂う翼足類の仲間です。えり好みが激しく、この獲物がいないと食べないとされます。クリオネとこの貝は、冷たい海の食物連鎖で切れないつながりを持っています。

1年の絶食にも耐える

クリオネは、餌がなくても長いあいだ生きられることで知られます。体に蓄えた脂を使い、1年近く絶食に耐えた例も報告されています。獲物のミジンウキマイマイは、いつでも豊富にいるわけではありません。獲物の少ない冷たい海で生き抜くための、省エネな体です。

日本のクリオネと世界の仲間

群れで泳ぐクリオネ
Olivier Dugornay (IFREMER), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

日本近海の複数の種

ハダカカメガイとダルマハダカカメガイ

日本で見られるクリオネには、いくつかの種があります。もっともよく知られるハダカカメガイは、体長1〜3cmほどで、オホーツク海などに現れます。この種は長く大西洋の種と同じものとされましたが、遺伝子の研究で別の種と分かりました。オホーツク海には、体長8mmほどと小さなダルマハダカカメガイも暮らしています。

世界最小のニホンハダカカメガイ

2016年には、富山湾でニホンハダカカメガイが初めて捕らえられました。体長は最大でも5mmほどと、クリオネの仲間で世界最小とされます。見つかったばかりの新しい種ですが、その将来はすでに心配されています。生息する海の環境の変化が、早くも数を脅かすと見られているためです。

南極にもいる「天使」

クリオネの仲間は、北の海だけでなく南極の海にも暮らします。南極のクリオネは、体の中に敵の嫌う物質を持つことでよく知られています。北と南の冷たい海で、それぞれによく似た透明な天使が漂っています。両極の海に、それぞれ別の種が広がっているわけです。

暮らしと保全、飼育

身を守る仕組み

柔らかく無防備に見えるクリオネですが、天敵にはあまり食べられません。体の中に、外敵が嫌う特別な物質を持っていると考えられています。この物質のおかげで、透明で目立つ体でも狙われにくいとされます。北の海には、この性質を利用するために、クリオネを背負って泳ぐ小さな甲殻類も知られています。

海洋酸性化という脅威

クリオネの暮らしは、地球規模の変化ともつながっています。海に二酸化炭素が溶け込む海洋酸性化が進むと、貝の殻はつくられにくくなります。獲物のミジンウキマイマイの殻がもろくなれば、それを食べるクリオネにも影響がおよびます。冷たい海の小さな天使は、気候変動の影響を受けやすい生きものの一つとされます。

飼うのが難しい理由

クリオネは、家庭で飼い続けるのが難しい生きものです。餌がミジンウキマイマイにほぼ限られ、それを用意し続けるのが困難なためです。冷たい水を保つ必要もあり、水温の管理にも手間がかかります。北海道の水族館などでは、絶食に耐える性質をいかし、餌を与えずに冬のあいだ展示することもあります。

参考

  • Wikipedia(英語版)「Clione limacina」― 分類・形態・捕食(バッカルコーン)・絶食耐性の各節
  • Wikipedia(日本語版)「ハダカカメガイ属」ほか― 日本近海の複数種・分類の見直し・海洋酸性化
  • 各水族館の解説資料― クリオネの生態・飼育・流氷との関わり

画像出典

サムネイル画像: 不明, Public domain, via Wikimedia Commons

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