サワガニは、日本の川に住む小さなカニです。海に下りることなく、一生を淡水で過ごす日本固有のカニです。赤や青など体の色が変わることや、きれいな水の目印になることで知られます。水辺で見つけやすく、飼いやすいカニでもあります。
分類と学名
サワガニは、エビやカニと同じ十脚目のなかの、サワガニ科に含まれます。カニのグループである「カニ下目(かにかもく)」に属する、正真正銘のカニの仲間です。日本に住むカニの多くは海とつながって暮らしますが、サワガニは川だけで一生を送ります。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 下目:カニ下目 Brachyura
- 科:サワガニ科 Potamidae
- 種:サワガニ Geothelphusa dehaani
和名・英名
- 和名:サワガニ(沢蟹)
- 英名:Japanese Freshwater Crab
名前の由来
「サワ」は、山あいを流れる小さな川「沢(さわ)」からきています。その名のとおり、きれいな沢に住むカニです。学名の dehaani は、日本の甲殻類の分類に力をつくしたオランダの学者デ・ハーンにちなみます。地方によっては、タンガネ(田蟹)やヒメガニなど、別の呼び名でも親しまれています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の幅2〜3cm、脚を入れた幅5〜7cmほど |
|---|---|
| 分布 | 北海道南部からトカラ列島まで(日本固有種) |
| 生息環境 | 川の上流から中流のきれいな水(渓流・小川) |
| 食べ物 | 藻・水生昆虫・ミミズ・カタツムリなど(雑食) |
| 寿命 | 数年〜10年ほど |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念) |
一生を海に下りないカニ
サワガニのいちばんの特徴は、その育ち方にあります。多くのカニは、卵からかえった幼生を海で育てますが、サワガニは違います。生まれてから死ぬまで、海と関わることなく淡水だけで暮らします。

稚ガニの姿で生まれる
大きな卵を少なく産む
サワガニは、春から初夏にかけて交尾をし、メスが卵を産みます。卵の直径は2mmほどで、ほかのカニの卵に比べるととても大きいのが特徴です。そのぶん数は少なく、一度に産むのは数十個ほどです。大きな卵の中で、幼生はカニの姿になるまで育ちます。
母ガニが子を守る
産んだ卵を、メスは腹の下に抱えて守ります。卵は海へ放たれることなく、母ガニのもとで守られたまま育つとされます。かえるときには、すでに小さなカニの姿をしています。生まれたばかりの稚ガニも、しばらくは母ガニの腹の下で過ごします。この育て方なら、幼生が海で流されて死ぬ心配がありません。そのかわり、産む卵の数が少なく、遠くへ分布を広げにくいという面もあります。
地域ごとに分かれる
幼生が海を漂う時期をもたないため、サワガニは遠くへ移動する力に欠けます。そのため、川ごと、地域ごとに集団が分かれて暮らしています。長いあいだ行き来のない集団どうしは、遺伝子のレベルでも少しずつ違いが生まれています。同じサワガニでも、地域によって体つきや色が異なるのはこのためです。
南の島の仲間たち
サワガニは北海道南部からトカラ列島までに住み、それより南の南西諸島にはいません。かわりに、屋久島・奄美大島・沖縄などには、近い仲間のサワガニ類が数多く分布します。海を渡れない性質から、島や半島ごとに別々の種へと分かれていったと考えられています。ただし、これらの多くは住む範囲がせまく、絶滅が心配される種となっています。
さまざまな体の色
サワガニは、体の色がいろいろあることでも知られます。同じ種でありながら、赤っぽいもの・青白いもの・茶色いものなどが見られます。

赤・青・茶の色変わり
もっともよく見られるのは、甲が黒っぽく、脚が朱色をした個体です。いっぽうで、全身が青白いものは、地方によって「シミズガニ」とも呼ばれます。生まれたばかりの子は、みな淡い黄褐色をしていて、育つにつれて色が変わっていきます。どの色になるかは、光の当たり方・餌・川底の色などが関わると考えられていますが、まだよく分かっていません。
体色と土地との関わりを示す例も知られています。鹿児島県で行われた調査では、赤色型と青色型が住む地域の境目が、およそ6300年前の大きな噴火でできた地層の広がりと重なっていたと報告されました。長い時間をかけて、土地の成り立ちと体の色が結びついてきた可能性がうかがえます。
川での暮らし
サワガニは、山あいのきれいな川で暮らしています。水の汚れに弱く、その姿は水のきれいさを知る手がかりにもなります。

きれいな水に住む
水のきれいさの目印
サワガニは、川の上流から中流の、きれいな水を好みます。汚れた水には住めないため、サワガニがいることは水がきれいな証拠になります。このような生き物は「指標生物」と呼ばれ、川の水質を調べる目安に使われます。学校の調べ学習で取り上げられることも多いカニです。山あいの沢や小川では、石の下によく見られます。梅雨の時期には、雨のなかを歩く姿が道ばたで見られることもあります。
夜に動き冬は眠る
日中は石の下などに潜み、夜になると出てきて活動する夜行性です。雨の日には、昼でも動き回り、川を離れて近くの森や道に出てくることもあります。活動するのは春から秋までで、寒くなると川の近くの岩陰などで冬眠します。冬のあいだは、じっと動かずに春を待ちます。
何でも食べる雑食
サワガニは、藻・水生昆虫・ミミズ・カタツムリなど、いろいろなものを食べる雑食です。落ち葉や生き物の死がいも食べ、川の掃除屋の役目もはたします。いっぽうで、サワガニ自身も多くの生き物に食べられます。カワセミ・サギ・イタチ・イワナなど、天敵は水辺の内外に数多くいます。
人とのかかわり
サワガニは、昔から食用として、また身近な生き物として人と関わってきました。飼うのも比較的やさしく、身近なペットとしても親しまれています。
身近なペット
サワガニは純淡水に住み、何でも食べるため、家庭でも比較的飼いやすいカニとして知られます。低めの水温ときれいな水が保たれていれば、長く生きられます。餌になるのは、ミミズやキャベツなど幅広い食べ物です。なわばりを意識するため、せまい水そうに何匹も入れると争うことがあります。砂が敷かれ、石や草などの隠れ場所があると落ち着くとされます。
また、いくつかの地域には、サワガニを使った古い民間療法が伝わっています。漆(うるし)でかぶれた皮膚に、潰したサワガニの汁を当てるというもので、石川県や神奈川県の一部に残っています。効き目がたしかめられたものではありませんが、身近な生き物として暮らしに関わってきたことがうかがえます。
食べるときの注意
唐揚げや佃煮で食べる
サワガニは、丸ごと唐揚げや佃煮にして食べられます。和食では、皿の彩りや酒のさかなとしても使われます。殻ごと食べられるので、丸ごと味わえるのが持ち味です。養殖もされていて、食料品店で売られていることもあります。小さいながら、昔から親しまれてきた食材です。
肺吸虫に注意する
ただし、サワガニを食べるときには注意が必要です。サワガニは、肺に寄生する「肺吸虫(はいきゅうちゅう)」という寄生虫の中間宿主になっています。生のままや、火の通りが足りないまま食べると、感染して肺の病気を起こすことがあります。感染した例も報告されており、食用にする際には十分な加熱が必要とされます。同じく川に住むモクズガニも、同じ寄生虫の宿主として知られます。
関連ページ


参考
- サワガニ(ja.wikipedia.org)分類・分布・生態・体色・利用・寄生虫
- Geothelphusa dehaani(IUCN Red List)保全状況・分布
- Geothelphusa dehaani(en.wikipedia.org)分布・生活史


