ハイイロギツネは、北アメリカから中央アメリカにかけて住むイヌ科の動物です。木の幹を垂直に登れる数少ないイヌ科の一つで、背は灰色、脇は赤茶色をしています。果実もよく食べる雑食のキツネです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:イヌ科 Canidae
- 属:ハイイロギツネ属 Urocyon
- 種:ハイイロギツネ Urocyon cinereoargenteus
和名・英名
- 和名:ハイイロギツネ
- 英名:Gray fox(グレーフォックス)
別名・学名の由来
属名の Urocyon はギリシャ語の「尾」と「犬」から、種小名の cinereoargenteus はラテン語で「灰色がかった銀色」を意味します。名前に「キツネ」と付きますが、アカギツネなどの真正キツネ(キツネ属 Vulpes)とは別の系統です。ハイイロギツネ属には、本種と、島に住むシマハイイロギツネの二種だけが含まれます。英語では、木に登る性質から「tree fox(木のキツネ)」と呼ばれることもあります。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 約50〜75cm/尾長 約30〜40cm |
|---|---|
| 体重 | 約3〜6kg |
| 分布 | 北アメリカ南部から中央アメリカ、南アメリカ北部 |
| 生息環境 | 森林・低木地・岩場など、身を隠せる場所の多い土地 |
| 食べ物 | ネズミ・ウサギ・鳥・昆虫などの動物質と、果実・木の実(雑食) |
| 寿命 | 野生でおよそ6〜8年/飼育下で10年以上 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念) |
※ IUCNレッドリストとは、世界の野生生物の絶滅のおそれを評価した国際的なリストです。LC(軽度懸念)は、今のところ絶滅の危険が低いと判断された区分です。

木に登るキツネ
ハイイロギツネで目を引くのは、木に登れることです。木の幹を垂直に登れる動物は、ネコやリスなどに限られます。イヌの仲間でこれができるのは、ごくわずか。イヌ科の多くは地面で暮らし、木の幹を垂直に登ることはできません。ハイイロギツネは、その数少ない例外です。かなり高い枝の上まで登り、木の上で長い時間を過ごすこともあります。
どうやって登るのか
半分引っ込む鉤爪
ハイイロギツネの爪は、ネコのように途中まで引っ込められます。この曲がった鉤爪(かぎづめ)を幹に引っかけて、体を支えます。ネコと同じように、必要なときだけ立てられる爪です。ふつうのイヌ科の爪は出しっぱなしで、木登りには向いていません。
前足で幹を抱える
前足を内側に回すことができ、幹を抱えるように登ります。太い枝の上では、体を低くして歩いたり、枝から枝へ飛び移ったりすることもあるとされます。降りるときは、後ろ向きに、または頭から一気に駆け下りることもあります。
なぜ木に登るのか
敵から逃げる
木登りは、身を守る手段になります。地上でコヨーテやイヌに追われると、木に登って難を逃れます。地面だけで暮らすアカギツネにはできない逃げ方です。
餌をとる・休む
木の上でも餌を探します。実った果実を食べたり、鳥の巣を狙ったりします。日中は、木のうろや高い枝の上で休むこともあります。木の上は、地上の敵から離れて休める場所になります。

灰色の毛と見分け方
ハイイロギツネの名前は、背中の灰色の毛からきています。一本一本の毛に黒と白の帯が入り、全体として白っぽい灰色に見えます。首すじや脇、脚には赤茶色がまじり、アカギツネと見まちがえられることもあります。体の大きさは中型のネコより少し大きいくらいで、細身の体つき。顔には、目のまわりから口もとにかけて黒っぽい模様が入ります。

アカギツネとの見分け
赤茶色がまじるため紛らわしいものの、いくつかの点で見分けられます。ハイイロギツネは背が灰色で、尾の上に黒い筋が走り、尾の先が黒くなります。アカギツネは全身が赤茶色で、尾の先は白いことが多い点が違います。
| ハイイロギツネ | 背は灰色。尾の上に黒い筋、尾の先も黒い。木に登れる |
|---|---|
| アカギツネ | 全身が赤茶色。尾の先は白いことが多い。木には登らない |



果実も好む雑食
ハイイロギツネは、動物も植物も食べる雑食です。多くのキツネは肉を主に食べますが、本種は果実を食べる割合が高いとされます。熟した果実は消化しやすく、水分もとれます。乾いた時期には、水分の補給にもなります。
季節で変わる食べ物
春から秋は果実が増える
暖かい季節には、果実や木の実がよく実ります。この時期には、食べ物の多くを果実が占めるようになり、地域や年によっては七割ほどにのぼることもあるとされます。野生のブドウや木の実、どんぐりのような実まで、幅広く口にします。木に登れることも、果実をとるのに役立っていると考えられています。
動物質の獲物
果実が少ない時期には、動物質の餌が中心になります。ネズミ・ウサギ・鳥・昆虫などを捕らえて食べます。死んだ動物の肉を口にすることもあります。植物と動物の両方を使い分けられることが、さまざまな環境で暮らせる理由の一つとされます。
北アメリカの暮らしと子育て
ハイイロギツネが好むのは、森や低木地・岩場のような、身を隠せる場所の多い土地とされます。夜からうす明かりの時間帯にかけて活動し、昼は茂みや木のうろで休みます。餌を探すときは単独で動くことが多く、広いなわばりの中を歩き回るとされます。鳴き声は多くありませんが、仲間や子とのやり取りには声も使います。

巣とつがい
巣には、木のうろ・岩のすきま・ほかの動物が掘った穴などを使います。ふだんは雌雄のつがいで、同じなわばりを長く共にすることが多いとされています。子育ての時期には、こうした巣で子を産み育てます。
子の成長
春には、一度の出産でおよそ3〜5頭の子が生まれるとされます。子育てには父親も加わり、両親で餌を運びます。生まれたばかりの子は目が開いておらず、しばらくは母親の乳で育ちます。子は夏のあいだに狩りや木登りを覚え、秋には親のもとを離れて独り立ちしていきます。
古い系統のキツネ
ハイイロギツネは、系統のうえで古い位置にあります。研究によると、ハイイロギツネ属は現在生きているイヌ科のなかで、もっとも早く枝分かれしたグループの一つとされています。アカギツネやオオカミよりも早く分かれた、古い系統にあたります。同じ属の仲間は、カリフォルニアの島だけに住むシマハイイロギツネしかいません。長い時間をかけて、木登りという暮らしを保ってきた仲間です。
人との関わりと保全
ハイイロギツネはIUCNのレッドリストで軽度懸念(LC)とされ、広い範囲に住んでいます。毛皮のための狩りの対象になることや、車との事故で命を落とすこともありますが、種全体としては安定しているとされています。森と開けた土地が入りまじった環境を好むため、人の暮らす地域の近くで見かけることもあります。近年は、分布を北へ広げている地域があるとも報告されています。木の幹を垂直に登れるイヌ科は、ハイイロギツネのほかにはほとんど知られていません。
参考
- IUCN Red List: Urocyon cinereoargenteus(Gray Fox)評価ページ
- Fritzell, E. K. & Haroldson, K. J., “Urocyon cinereoargenteus”, Mammalian Species(American Society of Mammalogists)
- Animal Diversity Web(ミシガン大学): Urocyon cinereoargenteus の解説


