タンチョウ

水鳥類

タンチョウは、日本で「鶴(つる)」といえばまず思い浮かべる、頭のてっぺんが赤い大型のツルです。北海道東部の湿原を中心に暮らし、明治期には日本での絶滅が疑われました。しかし1924年の再発見と冬季の給餌活動を経て、現在は道東を中心に約1,850羽までゆるやかに回復しています。国の特別天然記念物にも指定されている、日本の縁起と文化に深く結びついた鳥です。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:ツル目 Gruiformes
  • 科:ツル科 Gruidae
  • 属:ツル属 Grus
  • 種:タンチョウ Grus japonensis(Müller, 1766)

和名・英名・アイヌ語名

  • 和名:タンチョウ(丹頂)、タンチョウヅル
  • 英名:Red-crowned crane(別名 Japanese crane、Manchurian crane)
  • アイヌ語:サロルンカムイ(「葦原の神」の意)

名前の由来

和名の「丹頂」は、頭のてっぺんが赤い(丹色の頂)ことに由来します。学名の種小名 japonensis は「日本産の」を意味し、日本の代表的な種として名付けられたことが分かります。英名 Red-crowned crane も「赤い頂をもつツル」の意で、和名と英名が同じ特徴を捉えた例です。アイヌ語の「サロルンカムイ」は「葦原の神」の意で、道東の湿原に暮らす姿への畏敬が込められた呼び名だといえます。

草地に立つタンチョウの側面
KongFu Wang, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約140cm、翼開長 約240cm。体重 オス7〜10kg、メス6〜8kg
分布ロシア極東・中国北東部・朝鮮半島。日本では北海道東部(道東)が中心
生息環境湿原・湖沼・河川。北海道では釧路湿原周辺が代表的
寿命飼育下で平均およそ30年、最長46歳6か月の記録あり
保全状況IUCN:VU(危急)/環境省レッドリスト:絶滅危惧II類(VU)/特別天然記念物/ワシントン条約 附属書I

姿の特徴と鳴き声

「丹頂」は羽根ではなく地肌

頭頂の赤は皮膚が透けた色

タンチョウの体は、大部分が真っ白な羽で覆われ、首と風切羽の一部が黒く縁取られる姿をしています。もっとも特徴的な頭頂の赤い部分は羽ではなく、皮膚の表面に近い血管が透けて見える地肌の色です。興奮したときには血流が増えて赤みが濃くなり、感情や状態を反映する部位でもあります。

頭頂の赤い皮膚と黒い風切羽が見えるタンチョウの近影
Musicaline, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

大きな体と長い脚

全長約140cm、翼を広げると2.4mに達する日本最大級の鳥です。飛ぶときには長い首をまっすぐ前に伸ばし、脚を後ろへ揃えた姿で、ゆったりとした羽ばたきで空を進みます。日本のサギ類が飛ぶときに首をS字に縮めるのとは大きな違いです。

雪原で餌を探すタンチョウ
Isiwal, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

オスとメスの鳴き交わし

タンチョウの鳴き声は、遠くまで響く力強い声です。つがいで鳴き交わすときには、先にオスが「クォー」と鳴き、メスが「カッカッ」と続けて応える二重奏のような形で声を重ねます。この鳴き交わしは「ユニゾンコール」と呼ばれ、つがいの結束や縄張りの主張として使われる行動です。生まれたばかりの雛の気管はまだ未発達で、成長にともなって気管が胸骨のなかへ入り込み、1歳前後で大きな声を出せるようになります。

翼を広げて求愛の姿勢をとるタンチョウ
Christoph Moning, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

一度は絶滅したと考えられた鳥

明治期の乱獲と1924年の再発見

タンチョウはかつて、日本列島の広い範囲に分布していたと考えられています。ところが明治期の乱獲などによって姿を消し、一時は日本での絶滅が疑われました。1924年になって釧路湿原で十数羽が再発見され、日本のタンチョウはいったん途絶えたわけではないことが確かめられます。北海道庁は早くも1889年にはタンチョウの狩猟を禁じており、これらの取り組みが再発見された個体群を支える下地となったと考えられています。

給餌活動で1,500羽超まで回復

冬季の穀物給餌が転機に

1935年に始まった冬季の餌付けが大きな転機になりました。厳しい冬の食糧不足で越冬が難しかったところに穀物を配る取り組みが広がり、1952年に33羽だった北海道の生息数は年を追って回復しました。1962年に172羽・1988年に424羽・2021年には飼育下を含めて1,516羽と増え、2023年には約1,850羽に達しています。とくに1952年に阿寒村・鶴居村で成功した餌付けが、その後の全道的な保護の起点になりました。

特別天然記念物への指定

タンチョウは1935年に繁殖地とともに国の天然記念物、1952年に「釧路のタンチョウ」として特別天然記念物、1967年には地域を定めず種として特別天然記念物に指定されました。1993年には種の保存法にもとづく国内希少野生動植物種にも指定され、法的にも手厚く守られる鳥として位置づけられています。

湿原の縄張りと家族群

強い縄張り意識

春から秋の繁殖期には、湿原に1〜7平方kmほどの縄張りをつがいごとに広く構えます。縄張り意識は非常に強く、侵入した別の個体を嘴で激しく攻撃することが知られています。嘴が相手の脳を貫通するほどの攻撃で死亡事故が起きた記録もあり、優美な姿の裏に強い攻撃性ももつ鳥です。

冬は家族群で集まる

家族単位の越冬集団

非繁殖期には家族単位や、複数の家族が合流した群れをつくって過ごします。冬の給餌場に集まる姿は道東の風物詩となっており、雪原に立つ白い姿と赤い頭頂の対比が、多くの写真家や観察者を惹きつける光景です。

北海道の湿地に集まるタンチョウの家族群
Alastair Rae, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(北海道)

北海道と大陸で違う移動距離

北海道の個体群は繁殖地と越冬地の距離が150km以内におさまる場合が多い一方、大陸の個体群は700〜2,300kmを移動する渡りをおこないます。アムール川流域で繁殖した個体が江蘇省沿岸や朝鮮半島まで南下して越冬する例も知られており、同じ種でも地域によって暮らし方が大きく変わる鳥だといえます。

繁殖と成長

皿状の大きな巣と1〜2個の卵

巣は湿原や浅瀬に、草や木の枝を積み上げた皿状の形で作られます。直径は約150cm、高さは30cmに達する立派な作りで、鳥類の巣としても大型の部類に入るとされます。日本では2月下旬から4月下旬にかけて1〜2個の卵を産み、雌雄が交代で31〜36日ほど抱卵します。近年は大規模な湿原の減少にともなって、河川改修でできた三日月湖や上流の小さな湿地でも繁殖する例が増えているとされています。

100日で飛べるようになる雛

雛は孵化から約100日で飛翔できるまで育ちます。生まれてすぐの雛は気管の発達が未熟で、成長にともなって気管が胸骨のなかへ入り込んでいき、およそ1歳で親と同じような太い声を出せるようになります。幼鳥は最初のうちは頭頂の赤みも薄く、体全体に淡い茶色みが残る姿だとされます。成鳥の白と黒のコントラストが完成するまでには数年をかけて羽が入れ替わっていきます。

「鶴は千年」の縁起と文化

江戸時代から縁起物として愛された

日本語で「鶴」と言えば、多くの場合本種を指します。江戸時代の本草書『訓蒙図彙』(1666年)でも鶴の代表的な種として描かれ、「丹頂」の呼び名は18世紀の書物に登場します。「鶴は千年」の言葉や、松の枝にとまる姿を描いた「松上の鶴」のモチーフはよく知られています。ただしツル類は本来樹上にはとまらず、この構図はコウノトリと混同されて生まれた造形だとする説もあります。

花札の「松に鶴」もタンチョウ

お正月遊びでおなじみの花札にも、タンチョウが描かれています。花札は1月から12月までの12種類の植物に分かれており、1月の札は「松(まつ)」。その光札(もっとも点数の高い札)に描かれる「松に鶴」の絵柄が、頭頂の赤・白い体・黒い風切羽をもったタンチョウの姿です。赤い日輪を背に立つ鶴の姿は、正月の縁起物としての鶴=タンチョウの象徴が凝縮された図案だといえます。

花札の1月「松に鶴」の光札
花札1月「松に鶴」の光札(Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons)

ただし本文で触れたとおり、実際のタンチョウは松の枝に止まりません。花札の「松に鶴」も「鶴は千年、松も千年」という縁起の組み合わせが優先された、伝統的な様式のなかで生まれた造形です。姿の特徴=タンチョウを、行動=樹上に止まる別の鳥のイメージにあてはめた、日本の造形文化ならではの一枚だとも見られています。

アイヌ語で「葦原の神」

アイヌ語ではタンチョウを「サロルンカムイ」と呼び、「葦原の神」の意をもちます。道東の湿原に舞い降りる姿は、古くから神聖な存在として受け止められてきたようです。江戸時代には食用より飼育や観賞の対象として重んじられ、岡山県の後楽園では宝永元年(1704年)ごろからタンチョウが飼われていた記録があり、飼育の歴史はきわめて長い鳥だとされます。

現代の課題と保全

電線衝突と交通事故

個体数が回復した一方で、飛ぶ速度が遅く体の大きなタンチョウは、電線や自動車との衝突事故に遭いやすい鳥でもあります。1960年代には電線衝突による事故死が生息数の1割ほどに達した年もあり、近年は自動車との事故が問題になっています。2024年度には20羽が交通事故で保護収容されるなど、道内の道路横断中の事故が過去最多を記録しました。釧路市動物園などはドライバーへの減速呼びかけを続けています。

給餌への依存と過密化

冬季の給餌はタンチョウの復活を支えました。ただし給餌場への依存が進むと、感染症の広がりやすさや給餌場周辺での個体どうしの争いなどの問題が生まれます。近年は環境省が給餌量を段階的に減らす方針を示しており、増え続ける個体数を自然環境のなかにどう戻していくかが、これからの保全の焦点だといえます。

参考

  • BirdLife International 2016. Grus japonensis. The IUCN Red List of Threatened Species 2016(危急種指定と個体数動向)
  • 百瀬邦和「タンチョウ」『レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物 2 鳥類』環境省・ぎょうせい、2014年(日本の分布・保全の一次資料)
  • 正富宏之「タンチョウ」『日本動物大百科 3 鳥類I』平凡社、1996年(生態・繁殖の総説)
  • 武田浩平「タンチョウ」Bird Research News Vol.14 No.8、NPO法人バードリサーチ、2017年(近年の生息状況と保全課題)

関連する生きもの

同じ水辺で暮らす日本の大型の鳥として、灰青色の体でこちらも日本の川辺に広く分布するアオサギも本サイトで紹介しています。飛ぶときに首を伸ばすタンチョウと、S字に縮めるサギ類との違いも比べてみると面白い比較になります。

アオサギ
アオサギは、日本に住むサギのなかで最も大きな鳥です。翼を広げると2m近くにもなる灰色の大きな体は田んぼや川、都市の水辺までさまざまな場所で見かけ、身近な「巨大な水辺の鳥」として知られています。夜に響く低くうねるような鳴き声は、かつて妖怪「青...

画像出典

タイトルとURLをコピーしました