ヤマガラは、頭部の黒と明色斑・橙褐色の下面が目を引く、スズメ大の小鳥です。日本ではおなじみのシジュウカラ科の留鳥で、他のカラ類と混群を作って身近な林や公園を渡り歩きます。エゴノキの毒を持つ実をほとんど唯一食べる鳥として知られ、江戸時代から昭和期にかけては神社の境内でおみくじを引く「芸ヤマガラ」の姿が広く親しまれてきました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:スズメ目 Passeriformes
- 科:シジュウカラ科 Paridae
- 属:ヤマガラ属 Sittiparus
- 種:ヤマガラ Sittiparus varius
和名・英名
- 和名:ヤマガラ(山雀)
- 英名:Varied tit
名前の由来
和名の「山雀(やまがら)」は、山地に暮らす雀の意味です。ただし実際には標高1,500m以下の常緑広葉樹林から平地の公園まで幅広く生息し、名前ほど「山の鳥」ではありません。属名 Sittiparus はゴジュウカラ属 Sitta とシジュウカラ属 Parus を合わせた造語で、両者の特徴を持つ位置づけを反映しています。種小名 varius はラテン語で「多彩な・変化に富む」を意味し、頭部の黒と明色斑・背中や下面の橙褐色といった鮮やかな配色に由来します。英名 Varied tit も同じ意味です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約13〜15cm(スズメ大) |
|---|---|
| 分布 | 日本(北海道〜九州・伊豆諸島・南西諸島)・朝鮮半島 |
| 生息環境 | 標高1,500m以下の常緑広葉樹林・落葉広葉樹林。庭園や公園でも見られる留鳥 |
| 食性 | 雑食。夏は昆虫・クモ、冬は木の実。エゴノキの実をよく食べ貯食する |
| 繁殖 | 3〜6月、樹洞にコケや獣毛で皿状の巣。3〜8個産卵、抱卵12〜14日、巣立ち18〜20日 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念)/島嶼亜種にENやNT、ダイトウヤマガラは絶滅 |
姿と体のつくり
橙と黒と白の対比

全長13〜15cmでほぼスズメ大の小鳥です。頭部は黒い羽毛で覆われ、額から頬・後頸部にかけて黄褐色の明色斑が入ります。下嘴の付け根(腮)から胸部にかけて黒い帯模様が縦に走り、背中と下面は橙褐色の羽毛で覆われます。翼の初列風切・次列風切は黒褐色で、雨覆や三列風切は青みがかった灰色です。頭の白斑と胸の黒帯・下面の橙色という三色の対比が、遠目にもよく目立ちます。
黒い嘴と灰色の脚
嘴の色は黒く、脚は青みがかった灰色です。雌雄はほぼ同色で、外見での区別は難しいとされます。卵は白い殻に淡褐色や青みがかった灰色の斑点が入り、樹洞のコケや獣毛の中に産みつけられます。
亜種で色の濃さが変わる
南に分布する亜種ほど色味が濃くなる傾向があります。伊豆諸島のナミエヤマガラは頭部の明色斑が淡黄色、八丈島などのオーストンヤマガラは最大亜種で下面が赤褐色に染まり、頭部の明色斑は細く赤褐色になります。西表島のオリイヤマガラは頭部の明色斑が赤褐色で背中が灰褐色、下面は赤褐色です。色の濃さは餌や光環境と関係するとされ、島ごとに独自の色型が保たれてきました。
生息環境と混群
平地から標高1,500mまで
ヤマガラは常緑広葉樹林と落葉広葉樹林の両方に住み、標高1,500m以下を中心に山地から平地まで広く生息します。標高1,000m以上に住む個体は、冬になると標高の低い場所へ降りて越冬するとされます。渡りはせず、日本国内では留鳥として一年中同じ地域にとどまり暮らします。
シジュウカラ・エナガとの混群
非繁殖期には、同じシジュウカラ科のシジュウカラやコガラ・ヒガラ、それにエナガやメジロ・コゲラなど別科の小鳥と混じり合う「混群」を作ります。混群を作ることで警戒範囲と餌探しの効率がともに高まり、単独では気づけない捕食者の接近を仲間の警戒声で共有できるとされます。ヤマガラは混群の中で餌の見つけ方や貯食場所を通じて生態的な役割を果たしていると考えられています。
似た鳥との聞き分け・見分け
混群を作る他のカラ類との違いは、鳴き声と下面の色でおおむね見分けられます。
| 種 | 下面の色/目立つ模様 | さえずり |
|---|---|---|
| ヤマガラ | 橙褐色。頭は黒+黄褐色の明色斑 | ゆったりした「ツーピー ツーピー」 |
| シジュウカラ | 白+胸腹に黒い縦帯(ネクタイ) | やや速い「ツピー ツピー」 |
| コガラ | 薄黄褐色。頭は黒くベレー帽状 | 細く高い「フィーフィー」 |
| ヒガラ | 白+淡灰。頭は黒く後頭に短い羽冠 | 速い「ツピツピツピ」 |
下面が橙褐色ではっきり色づいて見えるカラ類は本種だけです。頭部を左右に振り、脚指で餌を挟んで割る動作もヤマガラの特徴で、遠目でも動作から気づかれることがあります。
エゴノキの実を食べる唯一に近い鳥

ヤマガラを語るとき欠かせないのが、エゴノキとの結びつきです。エゴノキの果皮には有毒なサポニンが多量に含まれ、多くの動物や鳥はこの実を口にしません。ところがヤマガラは、鳥類のなかでほとんど唯一この実を食べる種として知られます。
サポニン耐性の仮説
ヤマガラがサポニンの影響を受けない仕組みは、まだ十分にはわかっていません。仮説としては次のようなものが並んでいる段階です。
- 体内で毒成分を分解しているのではないか
- そもそも消化管への影響が出にくい体質を持つのではないか
- 果皮を取り除いて種子だけを選んで食べているのではないか
有毒な実を食べられる鳥がほぼ本種に限られるため、エゴノキ側から見ると種子の運び手が限定される特殊な関係になります。
脚指で挟んで嘴でこじ開ける
脚指で実を固定する採食動作
エゴノキのような堅い果実は、細長い脚指で実を強く挟み、嘴で少しずつこじ開けて中身を食べます。多くのシジュウカラ科の鳥に共通する採食動作ですが、堅い果皮を扱うヤマガラでは特に目立ちます。
器用さと芸の仕込みやすさ
脚と嘴を器用に使い分ける様子は、飼育下でヤマガラに芸を仕込みやすい理由のひとつだったとも言われます。細かな動作を段階的に覚えられる知能と、道具を扱えるほどの手先の器用さが両立している点が、後述の芸ヤマガラ文化を支えました。
貯食が種子の発芽を助ける可能性
樹皮や地中に隠す

ヤマガラは食べきれない実を、樹皮の隙間や地中に隠して蓄える「貯食」を行います。エゴノキの実を食べる際にも、果皮を取り除いた種子を土中に埋める行動が観察されており、掘り出し忘れた種子はそのまま発芽の機会を得ます。
山形大学2006年の研究
山形大学の2006年の研究では、ヤマガラの貯蔵散布がエゴノキの発芽率にプラスに働く可能性が示されました。毒のある実を食べる代わりに、エゴノキに種子分散という利益を返している関係とも読み取れます。
餌台のひまわりの種と人との距離
ヤマガラはカラ類の中でも人によく馴れる鳥で、公園や庭先の餌台にも姿を見せます。「ひまわりの種」を好んで食べることで知られ、餌台に置いたヒマワリの種を1粒くわえて枝に持ち帰り、脚指で挟んで嘴で殻を割る様子が観察されます。
ヒマワリの種を1粒ずつ運ぶ
餌台のヒマワリの種は、ヤマガラにとって栄養価の高い冬の主食のひとつになります。1粒ずつくわえて枝や樹皮の隙間へ運び、脚指で押さえながら嘴で殻を割って中身を食べます。食べきれなかった分は樹皮のすき間や苔の中に隠しておく貯食行動が観察され、餌台で餌をもらった直後に近くの木へ運ぶ姿はよく見られます。
手のひらの餌にも寄る個体差
個体によっては人の手のひらに乗ってヒマワリの種を取っていくほど警戒心が薄れた例もあり、公園などで観察されています。ヒマワリの種のほかに、ピーナッツや脂身(スエット)も好んで利用します。ただし人の手から餌を与える給餌は、鳥の警戒心を下げすぎて猛禽やネコの被害を招くこともあり、餌台の利用にとどめる考え方が広まっています。
天敵
小型で樹上に暮らすヤマガラには、飛翔中と巣穴の中で異なる天敵が待ち構えます。
空からの脅威 ―ツミとハイタカ
飛翔中の成鳥にとって最大の敵は、小鳥を専門に狩る小型のタカ類です。ツミやハイタカ・モズなどが樹林の周辺で本種を捕食します。混群の中で見張り役となる仲間が天敵の接近を察知すると、短く鋭い警戒声を上げて群れ全体が身を潜めます。
樹洞の巣を襲う哺乳類とヘビ
樹洞に営巣する本種にとって、抱卵中・育雛中は特に危険な時期です。木登りが得意なヘビ類(アオダイショウなど)、テン・イタチなどの中型食肉類、樹洞を覗き込むハシブトガラスなどが巣を襲うとされます。卵や雛を失った親鳥は同じシーズンに再繁殖を試みることもあります。
繁殖 ―樹洞にコケと獣毛の巣
樹洞に皿状の巣を作る

ヤマガラの繁殖形態は卵生で、樹洞(木のうろ)にコケなどを組み合わせて皿状の巣を作ります。巣の内側にはリスやネズミなど哺乳類の獣毛を敷いて保温性を高めます。人が用意した巣箱もよく利用し、人家の庭の巣箱で営巣する例も多く報告されています。
3〜6月に3〜8個の卵
12〜14日の抱卵はメス担当
3月から6月にかけて、白地に淡褐色や青みがかった灰色の斑のある卵を3〜8個産みます。抱卵はメスが担当し、12〜14日で孵化します。オスは抱卵中のメスに餌を運び、孵化後は雛への給餌にも参加します。
18〜20日で巣立ち
雛は孵化から18〜20日で巣立ちます。巣立ち後もしばらくは親から餌をもらいながら周辺で暮らし、やがて独立してその年の秋の混群へ加わっていきます。
おみくじを引く小鳥 ―芸ヤマガラの歴史

かつての日本では、神社の境内でおみくじを引くヤマガラの姿が広く知られていました。学習能力の高さから昔から芸を仕込みやすい鳥とされ、日本のヤマガラは、芸を仕込むために特定の種を選んで飼育してきた世界でも類例のない歴史を持ちます。
平安時代の「ヤマガラかご」
ヤマガラの飼育は平安時代の文献にすでに登場します。本種専用の「ヤマガラかご」を使った飼育記録が遺されており、江戸時代には芸を仕込んで見せる文化として盛んになりました。学習能力が高く人によく馴れるため、他の野鳥にはない多彩な芸が仕込めたとされます。
おみくじ引きと5つの代表芸
戦後に流行したおみくじ芸
もっとも有名な芸が「おみくじ引き」です。神社の境内で小さな鳥居や社の前に立ったヤマガラが、参拝客の求めに応じて引き出しからおみくじを取り出してくれる姿は、1980年ごろまで日本各地で見られました。おみくじ芸そのものは戦後になってから流行して発展したもので、それ以前は別の芸が中心だった時代もあります。
つるべ上げ・鐘つき・かるたとり
1945年以降に消滅するまでの代表的な芸には、次のようなものがあったとされます。
- つるべ上げ:小さな井戸から桶を引き上げる
- 鐘つき:吊り鐘を撞く
- かるたとり:札を選び取る
- 那須の与一:小さな弓で扇の的を落とす
- 輪抜け:小さな輪をくぐる
1990年ごろに完全消滅
これらの芸は次の3つの要因で次第に姿を消していきました。
- 鳥獣保護法の制定による野鳥捕獲の禁止
- 自然保護運動の高まり
- セキセイインコなど別の愛玩鳥の普及
1990年ごろには芸ヤマガラは完全に姿を消し、現在の神社境内ではまず見ることができません。芸を仕込むために特定の種を選んで飼育し続けてきた例は、日本のヤマガラ以外に世界で確認されておらず、日本独特の鳥文化として記録に残されています。
日本固有の島嶼亜種たち
ヤマガラには複数の亜種が知られ、なかでも日本の島嶼には固有亜種が集中しています。近年の遺伝学ではいくつかの亜種が独立種へと分けられる動きもあり、分類は流動的な状態です。
ナミエ・オーストン・オリイ
伊豆諸島の神津島・新島・利島にはナミエヤマガラ(S. v. namiyei)が住み、八丈島・御蔵島・三宅島にはオーストンヤマガラ(S. v. owstoni)が分布します。西表島にはオリイヤマガラ(S. olivaceus)が固有で、これは現在独立種として扱われる例が多くなっています。オーストンヤマガラも主要な鳥類チェックリストでは独立種としての扱いが増えました。台湾に住むタイワンヤマガラ(S. castaneoventris)はすでに別種として分離しました。
絶滅したダイトウヤマガラ
大東諸島に固有だったダイトウヤマガラ(S. v. orii)は、1922年に採集されて以来発見例がなく、絶滅したと考えられています。環境省レッドリストでもEX(絶滅)に指定されました。他の島嶼亜種も次のとおり厳しい状況にあります。
- ナミエヤマガラ:絶滅危惧IB類(EN)
- オーストンヤマガラ:絶滅危惧IB類(EN)
- オリイヤマガラ:準絶滅危惧(NT)
鳴き声
ヤマガラの地鳴きは「ニーニー」「ジージー」のように濁った短い声で表現されます。さえずりはよく通る「ツーピー ツーピー」で、シジュウカラの「ツピー ツピー」に似ますが、ヤマガラのほうがゆったりと落ち着いた調子です。混群の中でも地鳴きが目立つ種で、姿を見つける手がかりになりやすいとされます。繁殖期にはオスがさえずりで縄張りを主張し、警戒時にはさらに短く鋭い声を出します。
保全状況
基亜種を含めた種としてのヤマガラは、IUCNレッドリストでLC(軽度懸念)に評価されています。開発による生息地の破壊などから減少傾向にあるとの指摘もあり、島嶼亜種では前述のように絶滅危惧種に指定されているものが複数あります。函館市・赤平市を筆頭に、東北から四国までの複数の市町村が「市の鳥」「町の鳥」として選定されています。
関連する生きもの




画像出典
- Laitche, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ)
- Yasuo Hamashima, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Yasuo Hamashima, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Yasuo Hamashima, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Ken Ishigaki, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
参考
- BirdLife International 2024. Sittiparus varius. IUCN Red List(LC評価)
- McKay, B.D. et al. (2014) “Incorporating color into integrative taxonomy: analysis of the Varied Tit (Sittiparus varius) complex in East Asia.” Systematic Biology 63(4): 505–517(亜種分化と独立種化)
- 山形大学「ヤマガラによる貯蔵散布がエゴノキ種子の発芽に及ぼす影響」(2006年)
- 小山幸子『ヤマガラの芸』法政大学出版局、1999年(ISBN 4-588-30203-5、芸ヤマガラ史の一次資料)
- 環境省「鳥類レッドリスト(第4次)」(2012年、ナミエ・オーストン・オリイ・ダイトウの評価)
- Wikipedia “Varied tit”(分布・亜種構成)
- ウィキペディア「ヤマガラ」(生態・芸の歴史・亜種)


