カイツブリは、体長26cm前後・体重140〜240gの日本最小の水鳥です。学名は Tachybaptus ruficollis。カイツブリ目カイツブリ科という独立したグループに属し、カモに似た体型ですが、系統的にはカモよりむしろフラミンゴに近いことが分子系統解析で分かっています。
本州中部以南で一年中見られる留鳥で、湖沼・池・河川の淀んだ流れ・都市公園の池でよく観察できます。平均15秒・最大2m潜って小魚や水生昆虫を捕える潜水の名手で、繁殖期には水草を集めて水面に浮かぶ「浮き巣」を作り、ふ化直後のヒナを背中に乗せて泳ぐ独特な子育てで知られる種です。琵琶湖では古くから「鳰(にお)」の名で呼ばれ、琵琶湖の別名「鳰の海」の由来にもなった鳥で、滋賀県の県の鳥に指定されています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:カイツブリ目 Podicipediformes
- 科:カイツブリ科 Podicipedidae
- 属:カイツブリ属 Tachybaptus
- 種:カイツブリ Tachybaptus ruficollis
和名・英名
- 和名:カイツブリ(鳰/鸊鷉)
- 古名:鳰(にお・にほ)
- 英名:Little grebe(リトル・グリーブ)
別名と名前の由来
- 和名「カイツブリ」:語源は諸説あり、水を「掻いて(かい)潜る(つぶり)」が転じたとする説と、潜る時の水音「ツブリ」に由来するとする説が有力です。「掻き潜り」→「かいつぶり」の音変化と考えられています。
- 古名「鳰(にお)」:万葉集の時代からの古い呼び名。カイツブリを1文字で表す漢字「鳰」は日本で作られた国字(和字)で、鳥+入で「水に入る鳥」を表します。
- 英名「Little grebe」:「小さなカイツブリ」の意味。grebe はヨーロッパの古い言葉でカイツブリ類を指します。
- 属名 Tachybaptus:ギリシャ語で「速い(tachy-)+潜る者(-baptes)」の意味。潜水の速さに由来する属名です。
- 種小名 ruficollis:ラテン語で「赤い(rufi-)+首(-collis)」の意味。夏羽のオスの頬から首にかけての赤褐色にちなむ命名です。
大きさ・生息などの基本データ
| 大きさ | 全長 約25〜29cm(日本最小の水鳥)/翼開長 約40〜45cm/体重 約130〜240g |
|---|---|
| 体色 | 夏羽:頭上と後首が黒褐色/頬と側首が鮮やかな赤褐色/体は暗褐色/嘴の付け根に黄色斑/冬羽:全体が淡色になり、頭上〜背が暗褐色/喉〜腹が淡褐色 |
| 分布 | ユーラシア大陸中緯度以南/アフリカ大陸/日本では本州中部以南で留鳥/北日本では夏鳥 |
| 生息環境 | 流れの緩やかな河川/湖沼/池/湿原/都市公園の池/餌となる小魚と水草の生える淡水環境 |
| 食性 | 動物食が中心/小魚・水生昆虫・甲殻類・貝類・オタマジャクシ/潜水して捕食 |
| 繁殖 | 4〜9月に繁殖/水草で「浮き巣」を作る/1腹4〜6個の卵/雌雄で抱卵(約20日)/ヒナは早成性で孵化直後から泳ぐ |
| 鳴き声 | 「キリッ/キリッ/キリリリ」と鋭く連続する声/繁殖期には雌雄で鳴き交わす |
| 寿命 | 野生で約5〜10年 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念)/日本では全国的に安定/滋賀県の県の鳥 |

日本最小の水鳥─夏羽と冬羽で変わる姿
夏羽は頬が赤褐色に染まる
種小名「ruficollis=赤い首」の由来
春から夏の繁殖羽(夏羽)では、頭のてっぺんから後首にかけて黒褐色、頬と首の側面が鮮やかな赤褐色(レンガ色)に染まります。学名の種小名 ruficollis(赤い首)はこの夏羽の姿にちなむ命名です。嘴の付け根には黄色い斑があり、これも夏羽の識別点になります。
冬羽は淡褐色に変わる
秋から冬の非繁殖羽(冬羽)では、頬の赤褐色が消えて全身が淡い褐色に変わります。頭上と背が暗褐色・喉から腹が白っぽい淡褐色になり、夏羽とは別種のような地味な姿に変化します。冬の公園の池で見かける「小さな茶色い水鳥」の多くは、この冬羽のカイツブリです。

潜水の名手─平均15秒潜って餌を捕る
速く潜り、水中を秒速2mで泳ぐ
1回の潜水は平均15秒・最大2m深
カイツブリは水面から瞬時に潜水し、水中で餌を捕える能力に優れます。1回の潜水時間は平均15秒前後、最大で2m程度の深さまで潜ります。水中を秒速約2mで泳ぐ速さは、体長26cmの水鳥としては速く、小魚を追いかけて捕えるのに十分な速度です。属名 Tachybaptus(速く潜る者)はこの能力に由来しています。
足は体の後方に付いている
潜水に適応した結果、カイツブリの足は体のほぼ後端に付いています。この位置なら水中で強く水を蹴ることができ、推進力が高まります。ただし陸上では体を垂直に立てて歩くしかなく、上手に歩けないという弱点もあります。基本的に一生を水上で過ごし、陸に上がるのは繁殖期の巣作りと産卵のときだけです。

水草で作る「浮き巣」─水面に浮かぶ子育て
水生植物を組み合わせた逆円錐状の巣
雌雄で水草を集めて作る
カイツブリの繁殖の最大の特徴は、水面に浮かぶ「浮き巣」を作ることです。雌雄で水生植物の葉や茎を集めて、逆円錐状の巣を水面に組み立てます。巣は水草や葦にゆるく固定される構造で、水位の変化に合わせて上下に動く仕組みです。冠水しやすい池や湖でも卵を安全に守る、水鳥ならではの適応です。
1腹4〜6個の卵
1腹に4〜6個の白い卵を産みます。抱卵は雌雄が交替で行い、約20日で孵化します。親が巣を離れるときは、卵を水草で覆って隠す習性があり、外敵から卵を守る工夫として観察されています。産卵は繁殖期を通じて複数回行うことがあり、条件が良い年には2〜3回の繁殖に成功する個体もいます。

ヒナを背中に乗せて泳ぐ子育て
「背中乗り」で保温と保護
カイツブリの子育てで特徴的なのが、ヒナを親の背中に乗せて泳ぐ「背中乗り」の行動です。ふ化直後のヒナは早成性で、生まれてすぐ水に浮かんで泳げるものの、体温維持と外敵からの防御はまだ不十分な段階です。親はヒナを背中に乗せて水面を移動し、保温と保護を同時に行います。
雌雄そろって世話をする
ヒナを背中に乗せるのは雌雄ともに行います。片方の親が背中に乗せているあいだ、もう片方の親が潜って餌を捕り、ヒナに与える連携プレーが知られています。ヒナは背中の羽毛の間に隠れ、頭だけを出して外の様子をうかがう姿が観察できます。親が急に潜水する場合、ヒナは背中から水面に投げ出されて泳ぐことになりますが、すぐに親のもとへ戻ります。この背中乗り行動はカイツブリ科に共通の子育て様式として知られています。
琵琶湖と「鳰の海」─滋賀県の県鳥
古名「鳰(にお)」と琵琶湖の別名
カイツブリは万葉集の時代から「鳰(にお)」の名で呼ばれ、日本文化に古くから登場する鳥です。とくに琵琶湖はカイツブリが多く生息した湖として知られ、古くから「鳰の海(にほのうみ)」の別名で呼ばれてきました。琵琶湖の湖岸に立つと、現在でもカイツブリが水面に浮かぶ姿がよく見られ、この鳥と湖の結びつきの深さがうかがえます。
滋賀県の県の鳥
この歴史的なつながりから、カイツブリは滋賀県の県の鳥に指定されています。琵琶湖の環境保全のシンボルとして、地元の学校教育や環境イベントでも取り上げられ、県内の観光施設・水族館でも展示や解説の対象となっています。滋賀県立琵琶湖博物館では琵琶湖の水鳥コーナーの主役の1種として、生態や浮き巣の再現が展示されています。
主な生息地と鳴き声
主な観察地
カイツブリは本州中部以南で留鳥として一年中見られ、水辺があれば全国の広い範囲で観察できます。
- 都市公園の池(皇居のお堀・不忍池・大阪城公園など)
- 湖沼(琵琶湖・霞ヶ浦・宍道湖・諏訪湖など)
- 河川の緩流部・河口
- ため池・農業用貯水池
- 湿原・沼地
鳴き声で見つける
「キリッ/キリッ/キリリリ」
カイツブリの発見は姿より鳴き声を手がかりに行われることが多い種です。「キリッ/キリッ/キリリリ」と鋭く連続する声を出し、繁殖期には雌雄で鳴き交わす様子が観察されます。この声は他の水鳥にはない特徴的な響きで、公園の池でこの声が聞こえた場合はカイツブリの可能性が高いと判別できます。冬の非繁殖期はあまり鳴かず、静かに水面を漂う姿での発見が中心になります。
「かいつぶり饅頭」は無関係
ちなみに検索候補に出てくる「かいつぶり饅頭」は、鳥のカイツブリとは直接関係のない滋賀県の和菓子です。琵琶湖にちなんだ商品名として鳥の名前を借りているもので、材料に鳥を使うわけではありません。琵琶湖の観光土産として売られている郷土菓子の1つで、価格は店舗により異なります。
関連



参考
- Wikipedia日本語版: カイツブリ
- IUCN Red List: Tachybaptus ruficollis (LC)
- eBird: Little Grebe Tachybaptus ruficollis
- 滋賀県: 県の鳥 カイツブリ


