ケヅメリクガメ

爬虫類

ケヅメリクガメは、アフリカのサヘル地帯に住む大型のリクガメです。オスは100kgを超えることもあり、アフリカでは最大、世界では3番目の大きさに数えられます。飼育しやすいペットとして幼体が流通する一方、成長すると数十kgに達するため飼いきれずに手放される「里親問題」の代表格でもあります。地中に最深15mもの巣穴を掘って乾季を乗り切る生態や、映画「ガメラ」のモデルにもなった逸話が知られています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:爬虫綱 Reptilia
  • 目:カメ目 Testudines
  • 亜目:潜頸亜目 Cryptodira
  • 科:リクガメ科 Testudinidae
  • 属:Centrochelys
  • 種:ケヅメリクガメ Centrochelys sulcata(Miller, 1779)

和名・英名

  • 和名:ケヅメリクガメ(蹴爪陸亀)
  • 英名:African spurred tortoise
  • 別名:スルカタリクガメ(学名の sulcata に由来)

名前の由来

和名の「蹴爪(けづめ)」は、後ろ肢の付け根に並ぶ大きな円錐形のうろこを「蹴爪」に見立てた名前です。英名の spurred も同じ意味で、種小名 sulcata もラテン語で「溝のある」を意味し、こちらは甲羅の各盾板を縁取る成長線の溝を指しています。旧属 Geochelone に置かれていた時期もあり、古い図鑑では Geochelone sulcata の学名で見つかることもあります。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ甲長 オス約86cm(曲甲長101cm)/メス約58cm。体重 オス平均約81kg、最大120kg超の記録
分布アフリカ大陸のサハラ砂漠周辺とサヘル地帯(セネガル・マリ・チャド・スーダン・エチオピアなど13か国程度)
生息環境半乾燥の草原・サバンナ・棘の低木林。丘や砂丘、川辺の周辺
寿命飼育下で約54年、野生では75年以上と考えられています
保全状況IUCN:EN(絶滅危惧IB類)/ワシントン条約:附属書II(野生個体の輸出割当は0頭)

姿と体のつくり

ケヅメリクガメの正面全身と同心円状の甲羅
NasserHalaweh, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

甲羅と後ろ肢の「蹴爪」

厚く隆起した黄褐色の甲羅

甲羅は黄褐色から灰褐色で、各盾板が同心円状の成長線でくぼんで見えるのが特徴です。背甲は厚く重く、盾板ごとの中央がわずかに盛り上がります。年齢を重ねた個体ほど盾板の縁の溝が深くなり、砂漠の風雨に磨かれてなめらかになった個体もいます。腹甲は厚く平らで、乾いた砂地の上でも体を支えられる作りです。

和名の由来になった「蹴爪」

後ろ肢の腿の付け根には、円錐形の大きなうろこが2〜3個並びます。これが和名の「蹴爪(けづめ)」と英名 spurred の由来で、乾いた砂地を掘るときの足がかりになると考えられています。首は太く、頭部にはかぎ状の角質のくちばしがあり、繊維質の草をちぎり取るのに向いた形です。

雌雄の特徴

体格には明らかな雌雄差があります。オスの直甲長は約86cm、メスは約58cmと、オスがひとまわり大きく育ちます。オスは腹甲がV字にへこみ、繁殖期には他のオスと甲羅をぶつけ合って争います。この争いは体を持ち上げて相手を裏返そうとする形で行われ、負けた個体が起き上がれずに命を落とすことも珍しくないとされています。

サヘルの半乾燥地帯を選ぶ暮らし

砂地で首を伸ばすケヅメリクガメ
Bernard DUPONT, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

サハラ砂漠の南縁に沿って

分布の中心はアフリカのサヘル地帯で、サハラ砂漠と熱帯サバンナの間に広がる半乾燥草原です。セネガル・マリ・ブルキナファソ・チャド・スーダン・エチオピア・エリトリア・ナイジェリア・モーリタニアなど、アフリカ大陸を横断する帯状の分布を持ちます。乾季と雨季の差が大きく、日中の地表温度が50度近くに達する厳しい環境で暮らす種です。

薄明薄暮性の活動

活動は主に朝夕の涼しい時間帯に集中する薄明薄暮性です。日中の暑い時間と夜間の冷え込みは自分で掘った巣穴の中で過ごし、体を高温や乾燥からしのぎます。雨季には草木が茂って餌が豊富になり、乾季には巣穴に籠って夏眠(aestivation)する個体も知られています。他の動物が掘った巣穴を拡張して住むこともあります。

最深15m ―地下トンネルの暮らし

地中に水分を求めて

15m×30mの地下トンネル

ケヅメリクガメの生態でよく知られているのが、地面を掘り進めて長大な巣穴を作る習性です。乾燥の厳しい地域では最深15m、水平距離で30mにも達する巣穴の記録があります。深く掘るのは、砂漠地帯でも地下では湿度が保たれるためで、暑さと乾燥から逃れる避難所として使われます。

ミニ・オアシスとしての巣穴

巣穴の周辺は湿度が保たれるため、雨が降ると草や多肉植物が生えやすくなります。ケヅメリクガメの糞が土壌に栄養を返し、そこに植物が育ち、また本種の餌になるという小さな循環が観察されています。乾季に別の生きものが巣穴に一時的に避難することもあり、地下に「ミニ・オアシス」を作り出す存在といえます。

草食+死肉 ―幅広い食性

芝生で野菜を食べるケヅメリクガメ
Baseballchck02 (Melissa Mitchell), CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

繊維の多い草が主食

主な餌はイネ科の草やサボテンなどの多肉植物、乾いた干し草です。繊維質が多くタンパク質の少ない食事が体に合っており、飼育下で高タンパクな餌を与えると成長が早すぎて代謝性骨疾患(甲羅や骨の変形)を起こすことが知られています。花やエンダイブ、タンポポの葉、濃緑の葉野菜も食べます。

ときには動物の死骸も

草食が中心の種ですが、野外では動物の死骸を食べる姿も観察されてきました。雨季に上流から流れてきたヤギやシマウマの死体を利用することがあり、川辺で暮らす個体ほど機会が多いようです。人の集落が近い場所では、ゴミを漁って残飯を食べる個体も報告されており、乾燥地帯を生き抜くための柔軟な採食が見られます。

繁殖と成長

大きさの違うケヅメリクガメ2個体
ShajiA, Public domain, via Wikimedia Commons

40gから100kgへ

孵化直後の幼体はわずか44mm・40g程度で、直径5cmほどの小さな亀です。成長は早く、最初の数年で甲長15〜25cmに達します。雨量の多い年ほど成長が速く、乾燥した年は緩やかになる傾向が観察されています。性成熟までは10〜15年と長く、そこから徐々に大人のサイズへと近づいていく息の長い成長曲線です。

卵と幼体の天敵

体重30kgを超えた成体には、これといった天敵はほぼいないとされています。一方で卵と幼体は別で、大型トカゲやマングースなどが卵を狙います。野外で成体が命を落とす原因は、雄同士のケンカで裏返しになって起き上がれないケースが多いと報告されており、体の大きさが逆に弱点として働く場面です。

アフリカ最大・世界3位の陸ガメ

島のゾウガメに次ぐ大きさ

ケヅメリクガメは、大陸に住むリクガメとしては世界最大の種です。より大きなのはガラパゴスゾウガメとアルダブラゾウガメの2種だけで、いずれも隔絶された島で独自に大型化したグループ。大陸で肉食獣に囲まれながらこの大きさに達したのはケヅメリクガメだけで、堅い甲羅と大きな体重(30kgを超えれば天敵はほとんどいない)がその適応と考えられています。

映画「ガメラ」のモデル

2006年の映画『小さき勇者たち〜ガメラ〜』では、本種が撮影に使われました。撮影に協力したアメリカのワシントン州立大学(プルマン)の獣医学部が治療していた個体は、この映画にちなんで「Gamera」の名で登録されており、本種が「ガメラ」のイメージソースの一つになった逸話が知られています。

ペットとしての人気と里親問題

柵のある放飼場を歩くケヅメリクガメ
EgorovaSvetlana, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

温厚で懐きやすい

温厚な性格と表情豊かな動きから、リクガメのなかでも人気が高い種です。攻撃性はほとんどなく、縄張り意識も薄めで、飼い主に近づいてくる姿から「懐く」と表現されることも多い種類です。一方でストレスに弱く、頻繁に持ち上げられると排泄や甲羅への引っ込みを見せ、体調を崩す原因になります。

大きくなりすぎて手放される問題

幼体は数千円、成体は室内飼育不可能

ペットショップで幼体が数千円から流通する一方、10年ほどで甲長が数十cm、体重が数十kgに達します。屋外に穴を掘れる広い放飼場と、寒い時期を越すためのヒーター、10〜15年で性成熟したのちの終生70年の付き合いが必要になります。想定外の大型化に飼いきれなくなり、里親募集や保護施設への持ち込みが後を絶たない状況が続いています。

放棄・逸出のリスク

日本の気候ではケヅメリクガメが野外に定着する可能性は低いものの、放棄された個体が河川敷などで発見された事例も報告されています。CITESの記録では1990〜2010年の20年間だけで約9,132頭が野生から捕獲されペット取引に回っており、これは記録上の数字にすぎず実態はさらに大きいと考えられています。

保全 ―絶滅危惧ENとワシントン条約

野生では激減している

ケヅメリクガメの野生個体は激減しており、IUCNレッドリストでは絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。減少要因はサヘル地帯の乾燥化と野焼き、開発による生息地の破壊、そして食用およびペット目的の乱獲が挙げられます。2000年の推定では野生の生息数は18,000〜20,000頭にまで減っており、原産地の多くの地域で「ほとんど見られなくなった」と報告される深刻な状況です。

ワシントン条約と輸出割当0頭

国際取引はワシントン条約附属書IIで規制されており、2000年にはフランスの提案で野生個体の輸出割当が0頭とされました。国際市場に出せるのは飼育下繁殖された個体だけで、ペット市場に並ぶ幼体は原則として繁殖業者由来です。生息国での保護区設定や再導入プロジェクトも一部で進んでいますが、乾燥化そのものへの対応は依然として難題として残っています。

参考

画像出典

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