アカエイ

軟骨魚類

アカエイは、日本の内湾や河口でよく見られる大型のエイです。体盤幅は成長すると1m前後、大きなものでは1.5mに達し、砂泥底に浅く潜って獲物を待ちます。尾には返しつきの長い毒棘があり、刺されると激痛が数週間続くこともあります。一方で身は「エイのなかで最も美味」と評され、煮付けや刺身、練り物の原料として古くから利用されてきました。アイヌの矢毒に使われた歴史や、テレビ司会者スティーブ・アーウィンが同じ仲間の棘で命を落とした逸話まで、人との関わりが濃い日本近海の魚です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:軟骨魚綱 Chondrichthyes
  • 目:トビエイ目 Myliobatiformes
  • 科:アカエイ科 Dasyatidae
  • 属:Hemitrygon
  • 種:アカエイ Hemitrygon akajei(Müller & Henle, 1841)

和名・英名

  • 和名:アカエイ(赤鱏/赤鱝)
  • 英名:Red stingray
  • 旧学名:Trygon akajei / Dasyatis akajei

名前の由来

和名の「アカエイ」は、腹側や鰭の縁が赤みを帯びるところに由来します。背中は地味な褐色ですが、ひっくり返すと腹の縁や尾の付け根が鮮やかな橙色に染まる姿から名づけられました。学名の種小名 akajei は、そのまま和名の「アカエイ」をラテン語のつづりに写した命名で、日本近海が本種の基準産地であることを示しています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体盤幅 通常60cm前後、最大約1.5m/全長 最大2m/体重 記録10.7kg
分布日本全域から朝鮮半島・中国沿岸・東南アジアまで、東アジアの沿岸域。フィジーやツバルでの記録もあります
生息環境浅い海の砂泥底が主。河口などの汽水域にも入ります
寿命詳しい野生寿命は不明ですが、性成熟までに数年、その後10年以上生きるとされています
保全状況IUCN:NT(準絶滅危惧)/漁獲量は1950年頃の約2万トンから近年は5千トン前後まで減少

姿と体のつくり

水槽で横向きに構えるアカエイ
Sarah-Rose, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

菱形の体盤とオレンジの縁

座布団のような胸鰭

体は上下に押しつぶされたように平たく、大きく張り出した左右の胸鰭が菱形の「体盤」を作ります。吻はやや尖り、目は小さめで、その後ろにひとまわり大きな噴水孔(呼吸のための水を取り込む穴)があります。腹側に鼻孔・口・5対の鰓裂と総排出腔が並び、目と噴水孔だけが背側に開くのが軟骨魚類の底生タイプに共通する作りです。

背は褐色、腹と縁は橙色

背中は赤褐色〜灰褐色で砂泥底に紛れる色合いです。一方で腹は白く、体盤の縁や尾の付け根が鮮やかな黄色〜橙色に染まります。この「腹と縁のオレンジ」が近縁種との見分けの目安になり、和名の「アカ」の由来にもなっています。目の前や噴水孔の後ろにも橙のパッチが入る個体もいます。まれに色素を欠くアルビノ個体も知られ、韓国の水族館では飴色〜白い姿で泳ぐ個体が観察されています。

アカエイのアルビノ個体(COEX Aquarium, ソウル)
bobbsled, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(アルビノ個体・COEX Aquarium)

鞭のような尾と毒棘

尾は細長い鞭状で、体盤幅の1〜1.5倍の長さがあります。尾の背側には短い棘が並び、尾の中ほどに数センチ〜10cmほどの長い毒棘が1〜2本並んで生えています。この長い棘には毒腺があり、鋸歯状の返しが付いているため、一度刺さると抜けにくいのが特徴です。

沿岸砂泥底に暮らす

砂底に潜んで尾を伸ばすアカエイ
Izuzuki, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

砂に潜って獲物を待つ

浅い海の砂泥底が主な生息場所で、東京湾のように干潟や砂浜がつづく浅い内湾を好みます。普段は砂に浅く潜り、目と噴水孔、そして尾の先だけを表に出しています。泳ぐときは左右の胸鰭を波打たせ、海底近くを羽ばたくように移動するのが特徴です。河口などの汽水域にも入り、真水混じりの環境にもある程度耐える性質を持ちます。

沿岸生態系の頂点捕食者

甲殻類が主軸の底生食性

食性は肉食で、貝類・頭足類・ゴカイなど多毛類・甲殻類・小型魚類まで底生生物を幅広く捕食します。とくに甲殻類が主軸となる獲物です。東京湾を対象とした調査では、オスがクロエビ・メスがシャコ・幼魚がアミ類を主な餌としていることが知られています。魚類ではマイワシがもっとも多く、次いでアナゴが挙げられ、沿岸砂泥底の食物網で頂点捕食者として機能する種です。

アサリ漁場での食害

個体数が多い内湾では、アサリなど二枚貝の漁場でアカエイの食害が問題となる場面もあります。潮干狩り場のアサリを大量に食べる姿から漁業者に嫌われる一方、貝類の個体数調整という点では沿岸生態系の一員として重要な役割を担っている魚です。

尾の毒棘 ―アイヌの矢毒とアーウィン事件

浅瀬を泳ぐアカエイと鞭状の尾
小野 優太, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

刺されると数週間の激痛

抜けにくい返しつきの棘

アカエイの毒棘は骨のような硬い組織でできており、まわりを毒腺入りの鞘が覆っています。刺されると激しい痛みが走り、数週間にわたって痛みが続く場合もあります。棘には鋸歯状の返しが並び、一度刺さると抜けにくい形状です。アレルギー体質の人はアナフィラキシーショックを起こし、命を落とす例も報告されています。棘の毒は生体が死んだあとも失われず、砂浜に打ち上げられた個体でも危険性を保ちます。

海水浴で踏まれる事故

アカエイは臆病な性質で、こちらから襲うことはありません。ただし砂に浅く潜って隠れる習性のため、浅瀬で気づかず踏んでしまう事故が多くの海水浴場で報告されています。触ったり踏んだりしなければ人を刺さない魚である一方、視認しにくい環境で人と接触しやすい種としても知られています。

矢毒とアーウィン事件

この毒棘は、アイヌの人々のあいだで槍先や矢毒として利用された歴史が知られています。棘を切り取って乾かし、毒を保ったまま武器に用いていました。近年ではオーストラリアの野生動物番組の司会者スティーブ・アーウィンが2006年、水中撮影中にアカエイ科のエイの棘で心臓を貫かれ命を落とした事件がよく知られており、大型のエイの毒棘が危険な武器になりうることを世界に示す出来事となりました。

近縁のエイとの見分け

腹側の橙色の縁と口・鰓裂
Brian Jeffery Beggerly, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ホシエイとの違い

アカエイと混同されやすいのが同じアカエイ科のホシエイです。ホシエイは背面に白い斑点が散らばる点でアカエイと区別でき、アカエイの背中はほぼ無地の褐色です。両者とも尾に毒棘を持ち、体盤の形もよく似ています。腹の縁の橙色が鮮やかに出るのはアカエイの側で、ホシエイの腹は白っぽくなるのが見分けの目安です。

ナルトビエイ・シビレエイなど

アサリを食い荒らす害魚として知られるナルトビエイ(トビエイ科)は、頭が丸く前方に突き出し、尾の付け根に短い棘を持つ別グループです。感電させるシビレエイはトビエイの仲間ではなく、頭部に発電器官を備えた別の分類群にあたります。同じ「エイ」でも科レベルで異なる系統が身近な沿岸に混ざって暮らしています。

卵胎生 ―母の体内で育つ子

1〜10匹を産み落とす

アカエイは卵胎生の一種で、メスの体内で卵から孵った幼魚がそのまま母体に守られ、成長してから外に出てきます。1回の出産数は1匹から10匹ほどまで幅があります。生まれた稚魚は、はじめから小さなアカエイの姿をしており、体盤幅は10cmほどです。

求愛と性成熟

繁殖期にはオスがメスのあとを追いかけ、尖った歯でメスの胸鰭盤の縁を噛んで交尾姿勢を取ります。オスの歯は年齢と共に鋭くとがり、メスや幼魚の歯が丸い臼歯状であるのと対照的です。性成熟の目安は体盤幅でオス35〜40cm、メス50〜55cmとされ、メスの方がひとまわり大きく育ちます。

天敵はシュモクザメ

成体のアカエイに対する天敵は主にサメ類で、なかでもシュモクザメがよく狙います。シュモクザメの餌の分析からは、アカエイをはじめとするエイ類が主要な獲物のひとつになっていることが知られています。エイの毒棘もT字型の頭で獲物を海底に押さえつけて処理するシュモクザメの捕食スタイルにはあまり効かないようで、棘を刺されながらもアカエイを食べたとみられる個体が観察されてきました。

食用と漁獲の歴史

江戸時代のアカエイの水彩画
川原 慶賀(シーボルト・コレクション), Public domain, via Wikimedia Commons

東京湾の秋冬の味

煮付けと肝が旬

アカエイは古くから食用として利用されてきました。日本では特に東京湾周辺で秋から冬にかけて味わわれ、刺身・湯引き・煮付け・煮こごり・味噌汁・唐揚げと料理の幅が広い魚です。脂肪が少なく繊維の強い身は、エイのなかで最も美味と評される種で、肝も濃厚な味わいから珍重されます。

ヒレは干物と練り物の原料

鰭の軟骨は乾燥させて「エイひれ」の干物として使われ、酒の肴として親しまれる素材です。細かく叩いた身は魚肉練り製品(かまぼこ・はんぺん)の原料にもなり、市場での流通は身の直販よりも加工品向けの割合が大きくなっています。

漁獲量の激減とNT指定

アカエイは沿岸の底引き網や刺し網、定置網で漁獲されますが、多くはヒラメなどを狙った漁業の混獲物として市場に出ています。日本の漁獲量は1950年頃の年間約20,000トンから、1997〜2004年の平均で年3,959〜5,388トンにまで減少しました。エイは成長がゆっくりで多くの子を残さない繁殖戦略のため、こうした減少は個体群にとって重荷になります。IUCNレッドリストでは準絶滅危惧(NT)に指定されており、身近な魚でありながら緩やかな減少傾向が続いている状況です。

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