ニホントカゲは、近畿以西の本州から四国・九州・大隅諸島までに分布する全長16〜25cmほどのトカゲです。1864年に長崎で記載された古い種で、金属光沢のある鱗と幼体の青いしっぽで知られる姿は、ヒガシニホントカゲやオカダトカゲとほぼ同じ形をしています。2003年にオカダトカゲ、2012年にヒガシニホントカゲが順に別種として分けられ、今は「日本のトカゲ属3種」のうち西側を担う一種として扱われます。分布境界はおおむね若狭湾から琵琶湖、和歌山にかけての中央構造線沿い。八丈島には九州から人為的に持ち込まれた集団が定着し、在来のオカダトカゲとの交雑・競合が懸念されている、身近ながら分類が動き続けてきたトカゲです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:有鱗目 Squamata
- 科:トカゲ科 Scincidae
- 属:トカゲ属 Plestiodon(旧 Eumeces)
- 種:ニホントカゲ Plestiodon japonicus(Peters, 1864)
和名・英名
- 和名:ニホントカゲ(日本蜥蜴)
- 英名:Japanese five-lined skink
- 模式標本の産地(タイプ産地):長崎
種小名は「日本の」
種小名 japonicus はラテン語で「日本の」の意味です。ドイツの動物学者ヴィルヘルム・ペータースが1864年、長崎で採集された標本をもとに Eumeces quinquelineatus var. Japonicus として記載したのが最初の学術記録で、和名の「日本蜥蜴」もこの命名の系譜を引き継いだものです。「日本を代表するトカゲ」という位置づけがそのまま名前になった格好で、今もその名前は西日本の集団に残り続けています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 16〜25cm(うちしっぽが約半分)/体重 5〜15g |
|---|---|
| 分布 | 本州西部(近畿以西)・四国・九州・大隅諸島/八丈島にも九州系集団が移入定着 |
| 生息環境 | 日当たりの良い斜面・石垣・墓地・河原の礫地・山地 |
| 寿命 | 野生でおよそ5〜6年 |
| 保全状況 | IUCN:LC(低危険種) |
姿と体のつくり

光る鱗と青いしっぽ
ニホントカゲの鱗は滑らかで光沢が強く、光の当たり方によって金属のように輝きます。幼体は黒地に5本の細い縦縞と鮮やかな青いしっぽを持ち、成体になるとオスは全身が褐色に、体側面に太い茶褐色の縦縞が入ります。メスは幼体の色彩を残したまま成熟することが多く、青い尾のまま卵を抱えている個体もいます。姉妹種のヒガシニホントカゲとは肉眼ではほぼ区別がつかず、実際の分類の決め手は分子系統解析や体列鱗数の細かな違いに置かれています。
ヒガシニホントカゲとの見分け
ニホントカゲとヒガシニホントカゲは、外見からの区別が非常に難しい姉妹種です。目安のひとつは、胴体中央部の斜め列の鱗数(体列鱗数)です。ニホントカゲは26、ヒガシニホントカゲは28前後と、平均値にわずかな差があるとされます。とはいえ個体差の重なりが大きく、確実な鑑定は分子系統に頼るのが現状です。現場では「捕まえた場所が中央構造線の東か西か」で判断するのが実務的です。カナヘビとの見分けについては、鱗の光沢と尾の長さで簡単に区別できます。

分類の変遷 ―1864年から2012年まで

「latiscutatus」問題 ―伊豆のトカゲは別種だった
2003年、オカダトカゲが分離
長らく本種の学名として、下田(伊豆半島)を模式産地とする Eumeces latiscutatus が使われてきました。ところが2003年、アロザイム分析の系統推定で、伊豆半島個体群と思われていた集団が伊豆諸島のみに分布するオカダトカゲそのものだったと判明します。E. latiscutatus はオカダトカゲの学名として引き継がれ、日本本土の集団には長崎を模式産地とする Eumeces japonicus が学名として復活しました。長年「本種の学名」と信じられていたものが、別種の名前だったと判明した珍しい事例です。
2006年、Eumecesから Plestiodonへ
続く2006年には、疋田努による論文でトカゲ属の学名が Eumeces から Plestiodon へと変更されました。DNA系統解析でトカゲ科の分類が組み替えられた結果で、日本のトカゲ属の学名も現在の Plestiodon japonicus に統一されました。教科書や図鑑では、この時期を境に旧属名 Eumeces と新属名 Plestiodon の両方が併存する時期がしばらく続き、今も古い資料では旧属名が残っていることがあります。
2012年、ヒガシニホントカゲが分離
そしてもう一段の変化が、2012年の岡本卓・疋田努によるヒガシニホントカゲ Plestiodon finitimus の記載です。ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子と形態の比較から、それまで単一種とされていた日本のニホントカゲが2種に分けられました。東日本+北海道+ロシア沿海地方の集団がヒガシニホントカゲ、近畿以西+大隅諸島の集団が従来のニホントカゲに整理された経緯です。「ニホントカゲ」という名前が実質的に西日本の集団だけを指す現在の形になったのは、この2012年からのことです。
中央構造線を境に東西 ―分布の境界

若狭湾から和歌山までの境界ライン
若狭湾→琵琶湖→和歌山を結ぶライン
ニホントカゲの分布は、日本列島を東西に分ける明瞭な境界を持ちます。具体的には、若狭湾から琵琶湖を通り、三重県内で中央構造線沿いに西へ折れて和歌山県まで抜けるラインです。このラインを境に西側がニホントカゲ、東側がヒガシニホントカゲの分布域になります。
中央構造線に沿った線引き
両種はほとんど分布が重ならず、境界地帯でも交雑個体はごく限られているとされます。中央構造線のような地質構造が生物の分布境界と一致する例として、日本の生物地理学のなかでも印象的な線引きになっています。西日本の丘陵地帯や瀬戸内海沿岸の集団はすべて本種で、東への移動は境界を越えづらいと考えられています。
大隅諸島まで届く西日本の主
境界の西側では、本州の紀伊半島から四国・九州・大隅諸島(種子島・屋久島など)までがニホントカゲの自然分布です。日本の在来トカゲとしては南限を担うグループで、屋久島など温暖な島の集団も本種として扱われています。長崎の模式産地から南へ広がるこの分布は、名前どおり「日本の代表トカゲ」の姿を今もとどめる範囲だといえます。
八丈島の九州系集団
九州から持ち込まれ野生化
例外的な事例が、伊豆諸島の八丈島に定着している集団です。ここには九州方面から人為的に持ち込まれたニホントカゲの集団が野生化しており、国立環境研究所の侵入生物データベースにも「国内外来種」として登録されています。もともと本種の自然分布ではない伊豆諸島に、姉妹種としては最東端の集団が生まれた形です。
オカダトカゲとの競合と交雑
八丈島には近縁のオカダトカゲ Plestiodon latiscutatus が在来として分布しており、移入されたニホントカゲとの競合や交雑が懸念される状況にあります。姉妹種同士がぶつかり合う現代的な保全課題として、伊豆諸島の爬虫類保全のなかで注目されている論点です。
夏の水中に潜るトカゲ
爬虫類のなかでは珍しい行動として、2007年に日本爬虫両棲類学会報に「水中に潜っていたニホントカゲ」の観察例が報告されました。真夏の炎天下、体温上昇を避けるためか、水中にとどまって涼をとる姿が確認されたというものです。乾いた岩場を好むトカゲが水に潜るという珍しい一面を示す記録として、日本の爬虫類の研究史のなかで引用されています。ニホントカゲは基本的に日光浴で体温を高めながら暮らしますが、体温が上がりすぎるとかえって危険で、水中はその極端な逃げ場のひとつとされます。ふだん見かけるトカゲの暮らしにも、まだ知られていない行動が残っている例です。
食性と暮らし
食性は肉食性で、昆虫・クモ・ミミズを中心に、時折果実も口にします。日中は日光浴で体温を上げ、餌をとり、夕方には石や倒木の下に潜って眠る昼行性の暮らしぶりです。冬は日当たりの良い斜面の地中や石垣の隙間で冬眠します。姉妹種のヒガシニホントカゲと同じく、母が卵を守る繁殖・青い尾の自切・石垣好みといった生態的な特徴は共通しています。これらの詳しい生態はヒガシニホントカゲの記事にまとめていますので、興味のある方はそちらを合わせて参照してください。
関連する生きもの


参考
- Peters, W. 1864. Eumeces quinquelineatus var. Japonicus(長崎産模式標本による原記載)
- 疋田努「トカゲ属の学名変更〜EumecesからPlestiodonへ〜」爬虫両棲類学会報 2006(2), 2006
- Okamoto, T. & Hikida, T. 2012. A new cryptic species allied to Plestiodon japonicus. Zootaxa 3436: 1-23
- 荒尾一樹「水中に潜っていたニホントカゲ」爬虫両棲類学会報 2007(2), 2007
- 国立環境研究所 侵入生物データベース:ニホントカゲ(八丈島の移入集団)/Wikipedia(日本語版):ニホントカゲ


