イガグリウミウシ

イガグリウミウシの上からの姿・黄色地に白突起とピンク先端 ウミウシ類

イガグリウミウシは、体長35mmになる熱帯・亜熱帯インド太平洋の裸鰓類です。半透明の白色〜黄色の体地に、楕円状の白い突起を全身にびっしりと生やし、突起の先端が赤やピンクに染まる姿を秋の毬栗(イガグリ)に見立てた小型のイロウミウシになります。学名は Cadlinella ornatissima。1928年にフランスの海洋生物学者ジャン・リスベック(Jean Risbec)がニューカレドニアの裸鰓類を包括的に記載した研究の中で新種として発表しました。種小名 ornatissima はラテン語で「もっとも飾られた」を意味する最上級表現で、突起で飾り立てた見た目に由来する命名です。日本では本州南岸から沖縄まで温帯〜亜熱帯の沿岸で観察され、内湾の泥地で見つかる機会が多い種です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:イロウミウシ科 Chromodorididae
  • 属:イガグリウミウシ属 Cadlinella
  • 種:イガグリウミウシ Cadlinella ornatissima

和名・英名

  • 和名:イガグリウミウシ(毬栗海牛)
  • 英名:学名 Cadlinella ornatissima で呼ばれることが多い

別名と名前の由来

和名の「イガグリ(毬栗)」は、背面全体に生える楕円状の白い突起の姿を、秋に木から落ちる毬栗のトゲに見立てた命名です。突起は先端が赤やピンクに染まる個体が多く、色つきの毬栗のような形状の印象を与えます。学名の種小名 ornatissima はラテン語 ornatus(飾られた)の最上級で「もっとも飾り立てられた」の意、突起で全身を装飾したような見た目に由来する命名です。属名 Cadlinella は同じく突起を持つ Cadlina 属(イロウミウシ科の別属)に由来する縮小形で、Cadlina に近い小型種を表す属名です。1928年、フランスの海洋生物学者ジャン・リスベックがニューカレドニアの裸鰓類を包括的にまとめた研究の中で新種として記載しました。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約2〜3.5cm(最大35mm)
体色半透明の白色地/背面は黄色〜淡黄色/全身に楕円状の白い突起が並ぶ/突起の先端は赤〜ピンク(個体差あり)
触角・鰓触角(rhinophore)は白色で長い/二次鰓も白色の羽状
分布インド太平洋/ニューカレドニア(タイプ産地)/オーストラリア/ニュージーランド/インドネシア/フィリピン/日本(本州南岸〜沖縄)
生息環境サンゴ礁や岩礁の礁縁/内湾の泥地/水深10〜20m前後(水温25℃前後)
食性ザラカイメン属のカイメン食
寿命数か月〜約1年(イロウミウシ科全般)
保全状況IUCN未評価。インド太平洋に広く分布し、個体数は安定と見られる
イガグリウミウシの側面(スリランカ)
S Kahlbrock / N Yonow, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons(スリランカ)

楕円状の白い突起がびっしり並ぶ背中

突起は先端が赤やピンクに染まる

背中一面に並ぶ楕円状の突起

イガグリウミウシの最大の特徴は、背中全体を覆う楕円状の白い突起です。突起の1本1本は数mmほどの短い柱状で、これが背面に密に並ぶことで栗のイガのような立体感を作ります。他のイロウミウシ科の平らな外套膜とは大きく異なる質感で、一目で本属と分かる識別点です。

突起の先端が赤〜ピンクに色づく

突起の先端は赤色からピンク色に染まる個体が多く、白い突起と赤い先端のコントラストが本種の識別点です。ただし体色には個体差があり、突起部分だけ白い個体/全体的に白い個体/突起先端がピンクの個体などバリエーションに富みます。同じ海域でも色合いの異なる個体が並んで観察されることがあります。

体地色は淡黄から濃い黄色まで

背面の地色は淡い黄色から濃い黄色まで個体差があり、突起の白と対比してよく目立ちます。若い個体は淡黄色、成長した個体は濃い黄色を帯びる傾向があり、栗の実の黄褐色を思わせる色調です。

体の周縁は白く縁取られる

外套膜の最外周には細い白色の縁取りがあり、背面の黄色と足底の白色をつなぐ役割を果たします。この白い縁が突起の白色と連続することで、体全体が装飾的な白の枠に収まった印象を作ります。

白い触角と二次鰓のシンプルな配色

触角は白色で細長く伸びる

頭部から立ち上がる1対の触角(rhinophore)は白色で細長く、体長のわりに長く伸びるのが特徴です。触角(rhinophore)は白色で体長のわりに長く伸び、イガグリ状の突起の間から立ち上がって水中の化学物質を広範囲に捉える感覚器官として働きます。突起で装飾された背面に対し、触角は白一色で対照的な配色を作ります。

二次鰓も白色の羽状

体の後方に開く二次鰓(gill)も白色で、羽状に開く葉が背面の突起の間から立ち上がります。危険を感じるとすばやく体内に引き込める構造で、突起に紛れて目立たないように見せる効果もあります。触角と鰓が白一色なのは、突起で装飾された背面との対比で本種の見た目を整える要素です。

イガグリウミウシの上からの姿(オーストラリア Lizard Is)
Ingo Burghardt, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons(オーストラリア Lizard Is)

ザラカイメン属を選んで食べる

イガグリウミウシはサンゴ礁や岩礁のカイメン食性で、日本近海ではザラカイメン属(Callyspongia など)の1種を主食にする観察例が報告されています。イガグリウミウシもザラカイメン属から二次代謝物質を取り込んで体内に蓄え、白と赤ピンクの突起で「危険な餌」を捕食者に印象づける化学防御を持ちます。赤〜ピンクの突起先端も、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と考えられる配色です。突起は物理的にも捕食者の口内に刺さりにくくする防御を兼ねている可能性があります。

内湾の泥地で会う機会が多い

本種はサンゴ礁の岩の側面や礁斜面よりも、むしろ内湾の泥地のダイビングポイントで見つかる機会が多い種です。奄美大島や沖縄本島などの内湾ポイントでは、砂泥底に散在する餌のカイメンの周辺で観察例が報告されています。水温25℃前後の温暖な海を好み、水深10〜20mの浅場が主な観察範囲です。シュノーケリングでは届きにくい水深に生息します。

雌雄同体で白い螺旋卵塊を産む

裸鰓類の例にもれず、イガグリウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には餌のザラカイメン属のそばに小さな白いリボン状の卵塊を貼り付け、内湾の泥地でも岩礁でも観察される汎用的な繁殖場所を選びます。孵化したベリジャー幼生は数週間の浮遊期を経てザラカイメン属の付着する岩礁や内湾の泥地に着底し、稚ウミウシは背面のイガグリ状突起がまばらな半透明の姿から少しずつ成熟していきます。寿命は短く、餌のザラカイメン属が繁茂する水温25℃前後の時期に集中して繁殖するのがイガグリウミウシの生活史です。

本州南岸から沖縄までの温帯〜亜熱帯に分布

伊豆半島から沖縄まで観察例が広がる

日本近海では静岡県の沼津市(大瀬崎など)を含む伊豆半島から沖縄本島・八重山諸島までの太平洋岸に広く分布し、紀伊半島/四国/九州/奄美大島でも観察例が報告されています。海外ではオーストラリア/ニュージーランド/インドネシア/フィリピンなどインド太平洋の各地から観察例が報告されている汎存種です。イロウミウシ科の中でも小型で目立たない位置に隠れることが多く、餌のカイメンをよく知るガイドと潜ることで見つかる機会が増える種です。

近縁のニセイガグリウミウシとの見分け方

イガグリウミウシ属(Cadlinella 属)にはインド太平洋を中心に数種が知られ、日本近海には近縁のニセイガグリウミウシ Cadlinella subornatissima(馬場菊太郎が1996年に記載)が分布します。ニセイガグリウミウシは突起の数がやや少なく、突起先端の色が黄色寄りである点で本種と区別できます。同じ属のもう1種 Cadlinella sagamiensis(サガミ〜相模)も日本近海の種で、いずれも背面に突起を持つ小型のイロウミウシ科の裸鰓類です。

イガグリウミウシ(静岡県伊豆の観察例)
Izuzuki Diver, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons(静岡県伊豆)

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