イソヒヨドリ

イソヒヨドリのオス・青とレンガ色の二色配色 小型陸鳥

イソヒヨドリは、体長23cm前後の日本各地でみられるスズメ目ヒタキ科の鳥です。オスは頭から背中が濃い青色、胸から腹がレンガ色というはっきりした二色の配色で目立ち、メスは全身が茶褐色にうろこ模様が入る地味な色をしています。名前に「ヒヨドリ」とありますが、実際はヒヨドリ科ではなくヒタキ科に分類される、名前と分類がずれためずらしい鳥です。学名は Monticola solitarius。もともとは海岸の磯や岩場に暮らす鳥でした。1980年頃から内陸の地方都市で繁殖が確認されるようになり、いまでは駅前や住宅街のビル屋上でもさえずる姿が観察される、都市進出が進んだ種として知られます。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 科:ヒタキ科 Muscicapidae
  • 属:イソヒヨドリ属 Monticola
  • 種:イソヒヨドリ Monticola solitarius

和名・英名

  • 和名:イソヒヨドリ(磯鵯)
  • 英名:Blue rock thrush(ブルーロック・スラッシュ)

別名と名前の由来

和名の「イソヒヨドリ」は「磯(いそ)に住むヒヨドリ」という意味です。もともとは海岸の岩場や磯に多くみられる鳥で、体の大きさや飛び方がヒヨドリに似ていることから、この名前がつけられました。ただし、あとで述べるように分類学上はヒヨドリ科ではなくヒタキ科の鳥で、名前と実際のなかまがずれています。英名の Blue rock thrush(青い岩場のツグミ)は、オスの青い体色と岩場に住む習性、そしてツグミ類に近い姿からきています。属名 Monticola はラテン語で「山に住む者」を意味し、本来は岩場の多い山や崖に暮らす鳥のグループを指します。学名は Monticola solitarius で、種小名 solitarius は「単独で暮らす」を意味し、群れをつくらず1羽か少数で過ごす習性を反映した命名です。1758年、スウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネが『自然の体系』第10版で新種として記載しました。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ全長 約23cm(ヒヨドリよりやや小さい)/翼を広げると35〜40cmほど
体色オス=頭から胸・背中は暗い青色/腹から脇はレンガ色(赤褐色)/翼は黒/メス=全身が茶褐色に薄い水色が混じり細かなうろこ模様
分布ユーラシア大陸中部以南(地中海沿岸から東アジアまで)/日本は分布の東端で、本州・四国・九州・南西諸島に留鳥として一年中生息
生息環境本来は海岸の磯・岩場・断崖/1980年代以降は内陸の市街地・駅前・住宅街のビル屋上・工場のコンクリート壁など人工建造物にも進出
食性肉食中心。甲殻類(フナムシなど)/昆虫類(バッタ・カメムシ)/トカゲ/小型両生類。人間の食べ残しも利用
繁殖本州では4〜7月/岩の隙間・ビルの通気口や壁の隙間に営巣/1回に5〜6個の卵/抱卵約2週間・巣立ちまで約2週間
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/日本国内では普通種として全国的に増加傾向
イソヒヨドリのオス・青とレンガ色の二色が鮮やか
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(三重県・志摩)

名前は「ヒヨドリ」でもヒタキ科の鳥

ヒヨドリ科ではなくヒタキ科に分類される

和名の「イソヒヨドリ」から連想されるヒヨドリ科ではなく、分類学上はまったく別の科であるヒタキ科に入る鳥です。ヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis)はヒヨドリ科(Pycnonotidae)に属するのに対し、イソヒヨドリはヒタキ科(Muscicapidae)に分類されます。同じスズメ目でも科レベルで別のグループで、遺伝的にはむしろルリビタキやジョウビタキ、ツグミ類などのほうにずっと近い鳥です。姿かたちや大きさが似ていること、そして磯にいるヒヨドリのように見えたことから、あとから見た目でつけられた和名が実際の分類とずれてしまった典型例といえます。

「名前と実の分類がずれる」和鳥の代表格

日本の野鳥にはこうした「名前が別種のグループを指しているが、分類は違う」例がいくつかあり、イソヒヨドリはその代表格として鳥類図鑑や野鳥観察の入門書によく取り上げられます。同じような例としては「ヨタカ」がタカ類ではなくヨタカ目に属することや、「ヤブサメ」がサメでもタカでもなくウグイス科の小鳥であることなどが知られます。姿を見ただけで名づけられた和名は、DNA解析による近年の分類の見直しで「別のグループに属する」と判明する例が少なくありません。

オスは青×レンガ色、メスは茶褐色のうろこ模様

オスの鮮やかな二色の配色

頭から胸・背中は暗い青色

オスは頭のてっぺんから喉、胸、そして背中までが濃い青色(ラピスラズリのような深い青)で覆われます。光の角度によっては黒っぽく見え、直射日光のもとで初めて澄んだ青が浮き上がる、玉虫色に近い発色をします。この青色は羽の色素そのものではなく、羽の微細な構造で光を反射する「構造色」で生まれることが多いとされ、角度による色の変化が生じます。

腹から脇はレンガ色(赤褐色)

胸のうしろから腹・脇・尾の下面まで、レンガ色(赤褐色)で染まります。青とレンガ色のコントラストは日本の他の野鳥にはあまりない配色で、水中の他種と比べても際立ちます。この「腹がレンガ色」の特徴は東アジアに分布する亜種 M. s. philippensis の識別点で、地中海周辺に住む基亜種 M. s. solitarius は腹も背中と同じ青色で全身青一色です。日本で見られるのはこの東アジア亜種になります。

メスは全身が茶褐色のうずら模様

メスは全身が茶褐色を基調に、細かなうろこ状の斑(うずら模様)が全体に散った姿で、オスとはまるで別種のように見えます。よく見ると背中にほのかな青みがかかっているのが分かりますが、遠目には地味な色合いで、岩場や磯の背景に紛れる保護色として働きます。オスとメスで色柄がここまで違う「性的二形(せいてきにけい)」が、イソヒヨドリの識別上の特徴です。若いオスは成長の途中でメスに似た茶褐色の羽から、成鳥の青とレンガ色へと段階的に換羽していきます。

イソヒヨドリのメス・茶褐色にうろこ模様、磯で餌を捕える
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(静岡県・大瀬崎)

磯の岩場から都市部へ─1980年代からの内陸進出

本来は海岸の岩場・断崖の鳥

和名「イソヒヨドリ」の通り、本種はもともと海岸の磯・岩場・断崖に暮らす鳥でした。日本では長らく、房総半島・伊豆・志摩・南紀・山陰の断崖などで観察される「海辺の鳥」として知られ、内陸の平野部で見かけることはほとんどありませんでした。海外でも地中海沿岸の石灰岩の崖や、南欧の古い教会の尖塔など、岩肌や石造建築の隙間を好んで営巣する種として記録されてきました。

1980年代から都市に進出、駅前でもさえずる鳥に

ところが日本では1980年頃から、内陸の地方都市でイソヒヨドリの繁殖が確認されるようになりました。ビルのコンクリート壁や工場の高い煙突/駅舎の屋上/マンションの通気口といった人工建造物が、本種にとっての「岩場・断崖」の代わりになると考えられています。繁殖に適した隙間さえあれば海から遠い内陸でも定着できることが分かってきました。2000年代以降にはさらに増加し、いまでは大都市圏でも珍しくない鳥になり、東京駅前や大阪駅前でオスがさえずる姿もふつうに見られるようになっています。日本の野鳥のなかで、都市進出がもっとも顕著に進んだ種の一つとされます。

春に響く複雑なさえずりと、警戒の「ケケケ」

オスの高音・多彩なさえずり

一羽で20〜30種類のフレーズを持つ

イソヒヨドリのオスは、春から初夏にかけて複雑な旋律のさえずりを響かせます。「ピー・ピュールリー・ピーリピー」のような澄んだ高音を組み合わせて歌います。一羽で20〜30種類以上のフレーズを持つ個体もいるとされ、日本の野鳥のなかでもさえずりのレパートリーが多い種として知られます。都市部ではビルの屋上や電柱の上をさえずり場に選び、朝方から夕方まで長時間鳴き続ける姿がよく観察されます。

警戒時は「ケケケケ」の濁った早口

一方、警戒したり威嚇したりするときは、カエルの鳴き声にも似た「ケケケケケ」という濁った早口の声を発します。この警戒声は繁殖期に巣の近くを人が通りかかったときにもよく聞かれ、さえずりとの対比が印象的です。よく聞かれるのは巣立ち直後の若鳥を守る親個体で、屋根や電線のうえから執拗に鳴き続けることがあります。

1回に5〜6個の卵と、雛への熱心な給餌

岩の隙間や建物の隙間に営巣

ビルの通気口や戸袋の中にも巣を作る

繁殖期は本州で4月から7月ごろ。営巣場所は岩の隙間・断崖のくぼみ・洞穴、都市部ではビルの通気口・室外機の裏・雨戸の戸袋の中など、暗くて奥まった隙間を選びます。巣は枯れ草や細い根を組んで椀型に作られ、外敵から見つかりにくい構造の隙間を選ぶことで安全性を確保しています。

5〜6個の青緑色の卵と2週間の抱卵

1回の産卵で5〜6個の淡い青緑色の卵を産みます。抱卵は主にメスが担当し、約2週間で孵化するとされます。ふ化後は雌雄そろって雛への給餌にあたり、およそ2週間で巣立ちを迎えます。巣立ち後もしばらくは親が餌を運び、若鳥は成鳥のような鮮やかな青にはまだならず、茶褐色のうずら模様の姿で親のあとを追う姿が観察されています。

一年中同じ地域にとどまる留鳥・肉食中心の食性

年中同じ地域にとどまる留鳥

イソヒヨドリは日本では留鳥として一年中同じ地域にとどまり、渡りをしません。観察例の多い地域は、以前は房総半島・伊豆・志摩・南紀・山陰などの海岸が中心でした。現在は内陸の駅前や住宅街のビル屋上でも観察例が多く報告されます。オスがさえずるのは主に朝と夕方で、電柱・ビル屋上・鉄塔などの高い場所を選ぶ習性があります。

肉食中心で人間の食べ残しも利用

食性は肉食が中心です。磯ではフナムシや小さな甲殻類/内陸では昆虫(バッタ・カメムシ・幼虫)やトカゲ/時には小型の両生類なども捕えます。人間の食べ残しも利用するため、駅前や飲食店の周辺で採餌する姿もよく観察されます。餌の幅が広いことが都市進出を支えている要因の1つとされます。

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参考

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