ゴイサギ

ゴイサギ Nycticorax nycticorax 鳥類

ゴイサギは、日本の河川や池・都市部の水辺でも普通に見られる中型のサギです。夜行性で昼間は樹上にじっと止まり、日が沈むと魚や両生類を狙って水辺に降りてきます。頭のてっぺんが黒く背は暗い青灰色、目は鮮やかな赤。醍醐天皇から「五位」の位を賜ったという『平家物語』の故事が和名の由来で、日本文化とも縁の深い鳥です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:ペリカン目 Pelecaniformes
  • 科:サギ科 Ardeidae
  • 属:ゴイサギ属 Nycticorax
  • 種:ゴイサギ Nycticorax nycticorax

和名・英名

  • 和名:ゴイサギ(五位鷺)/幼鳥はホシゴイ(星五位)
  • 英名:ブラッククラウンド・ナイトヘロン(Black-crowned night heron・黒い頭の夜サギ)

学名の意味「夜のカラス」

学名の Nycticorax(ニクティコラクス)はギリシャ語で「夜のカラス」の意味です。nux(夜)と korax(カラス)を組み合わせた古い呼び名で、古代ギリシャの博物学者アリストテレスが「夜に鳴く不吉な鳥」に使った語が原型とされます。16世紀のスイスの博物学者コンラート・ゲスナーがゴイサギを指してこの名を用いたのが後代に定着し、リンネの学名として正式に採用されました。夜行性で「クワッ」と大きく鳴く姿を、闇の中のカラスに重ねた古い時代の呼び名が学名に残されています。

「五位鷺」の名と『平家物語』

和名の「五位鷺」は、平安時代の醍醐天皇の宣旨によって捕らえられたときに正五位の位を授かったという故事に由来します。この逸話は『平家物語』巻第五「朝敵揃(ちょうてきぞろえ)」に記されており、能楽の演目「鷺(さぎ)」もこの五位鷺伝説を題材にしています。位を賜ったサギとして格の高い鳥の扱いを受けたことが、和名に残されました。日本文化のなかで最も官位づけされた身近な鳥のひとつです。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 58~65cm/翼開長 105~112cm/体重 0.4~0.8kg
分布世界の温帯~熱帯(ユーラシア・アフリカ・南北アメリカ・マダガスカル・日本)
日本での位置づけ東北南部以南は留鳥/東北北部・北海道は夏鳥
生息環境河川・湖・池沼・湿原・水田・海岸・都市の池
食性動物食(魚・両生類・昆虫・甲殻類・鳥の雛や卵)
活動時間夜行性(昼は樹上で休む)
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/日本では2022年に狩猟対象から解除

見た目の特徴

ゴイサギの成鳥(標準的な立ち姿)
Calibas, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

成鳥の羽色と赤い目

上面の暗灰色と下面の白

成鳥は上面が青みがかった暗灰色、下面は白い羽衣で覆われます。頭のてっぺんから背中の一部にかけて黒い羽が広がるため、英名にも「Black-crowned(黒い頭の)」と付けられました。上下でコントラストが強いため、他のサギ類とは一目で区別できます。

赤い目と黒い嘴

目は鮮やかな赤で、遠目にも印象に残る特徴です。目の前(眼先)は羽毛がなく、青みがかった灰色の皮膚が露出しています。嘴は黒く、脚は黄色に色づきます。赤い虹彩はサギ類の中でも珍しい形質で、種の見分けの決め手にもなります。

幼鳥「ホシゴイ」

幼鳥のゴイサギ「ホシゴイ」(大阪天王寺公園)
Laitche, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

星のような模様の由来

幼鳥は成鳥とは全く違う姿で、上面が褐色の羽毛に黄褐色の斑点が散らばります。この斑点が星のように見えることから「ホシゴイ(星五位)」の別名を持ちます。下面は汚白色で虹彩は黄色みがかったオレンジ色、眼先の皮膚は黄緑色。成鳥とはあまりに違うため、別種と誤解されることもあります。

成鳥への換羽

2歳ほどで成鳥の羽色に換羽し、幼鳥の姿は限られた期間だけ見られる形態です。換羽の途中には成鳥と幼鳥の中間的な羽衣を持つ個体も観察され、頭は黒くなりかけているが体には星模様が残る過渡期の姿も見られます。

繁殖期の白い冠羽

繁殖期の成鳥は、後頭に細長い白い飾り羽が3本ほど伸びます。これを「冠羽(かんう)」と呼び、風になびく姿は繁殖期の雄と雌を見分けるうえで目印になります。同時期には脚の色も普段の黄色から赤みを帯び、繁殖のサインとして色彩の変化を全身に見せます。

似た鳥との見分け方

アオサギとの違い

アオサギは全長93cm前後と大型で、首が長く胴もスリムに伸びます。ゴイサギは全長60cm前後でずんぐりした体形と短めの首が特徴です。ゴイサギは首を縮めて丸まった姿勢で止まる時間が長く、アオサギの直立した立ち姿とは印象が大きく異なります。色調もアオサギは全体が青灰色で頭に黒い飾り羽があるのに対し、ゴイサギは頭頂の黒と背の暗灰と下面の白の3色対比がはっきりしています。

ササゴイ・ミゾゴイとの見分け

ササゴイはゴイサギとほぼ同じ大きさですが、体色が青みがかった灰色で、背に細長い羽が並ぶ「笹の葉」を思わせる模様が入ります。ミゾゴイは全体が赤褐色で薄暗い森の中に暮らす別属の希少種で、都市の水辺で見られるゴイサギとは生息環境が明確に分かれます。ゴイサギはもっとも身近なゴイサギ属で、平地の水辺で見かける「夜に鳴く中型のサギ」はほぼこの種に当てはまります。

夜行性の狩人

大阪天王寺公園のゴイサギ成鳥
Laitche, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

「クワッ」と鳴く夜の声

ゴイサギは飛翔中や着地時に「クワッ」「グァッ」と短い大きな声で鳴きます。夜間の住宅街や公園の上空を通過する個体の声を聞いて驚く人も多く、鳴き声だけで「うるさい」と印象づけられる鳥の一つです。姿を見ずに声だけで存在を知る場面が多いのも、この鳥の夜行性を反映した特徴です。学名の「夜のカラス」の由来も、この特徴的な鳴き声と夜の活動に重なります。

水辺での採食

水辺のゴイサギ成鳥
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

食性は動物食で、魚・両生類・昆虫・クモ・甲殻類・トカゲなどを幅広く食べます。夜間に水辺をゆっくり歩きながら獲物を探し、首を縮めた姿勢から瞬間的に伸ばして獲物を捕らえます。魚を狙うときは水面の反射を利用して身を潜める行動も観察されています。

カルガモの雛を襲うことも

ゴイサギは他の鳥の卵や雛を襲うこともあり、都市の池でカルガモの雛を捕食した観察例が報告されています。体格差でみれば小型の雛は狩りの対象になり、水面に浮かぶ雛を素早く捕らえる姿は目撃者に強い印象を残します。他のサギ類より広い食性を持つ雑食寄りの捕食者と位置づけられます。

集団繁殖地(コロニー)と子育て

ゴイサギの成鳥(自然公園)
Skot, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

雄が枝を運び雌が組む

繁殖は集団で行われ、サギ科の他種と混じった集団繁殖地(コロニー)を作ります。樹上に雄が枝を運び、雌がそれを組んで巣を作る役割分担で営巣します。同じ木に複数のサギ類が同時に営巣するため、繁殖期の樹上は多数の個体の鳴き声と大量の糞が集中する場になります。

抱卵から独立まで

日本では4~8月に3~6個の卵を年に1~2回に分けて産み、雌雄が交代で21~22日抱卵します。育雛は雌雄共同で、雛は孵化してから20~25日で巣を離れ、40~50日で飛べるようになって独立します。性成熟は生後1~2年です。

都市部での「招かれざる客」

飛翔中のゴイサギ
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

民家の池・養魚場での被害

ゴイサギは夜間に月明かりの下で民家の池や養魚場に現れ、金魚や鯉を漁ることがあります。魚の飼育者や養殖業者にとっては悩ましい存在で、都市部の生活圏に入り込む野鳥のひとつです。東京動物園協会の東京ズーネットでも「招かれざる客」として紹介された経緯があり、身近さゆえの摩擦が生まれています。

動物園ペンギン餌の掠め取り

全国の動物園や水族館のペンギンコーナーに侵入し、飼育員が与えた魚を掠め取る様子が繰り返し目撃されています。ペンギンは捕食者以外に興味を示さないため、ゴイサギはすんなり群れに紛れ込みます。背丈と羽の配色がペンギンに似ているので、来園者から「ペンギンが逃げている」と勘違いされる場面もあるほどです。恩賜上野動物園では園内で繁殖して数が増えすぎたため、ペンギンコーナーにネットを張る対策がとられています。

世界の亜種とハワイの個体群

ゴイサギは世界に4つの亜種が知られる広分布種で、ユーラシア・アフリカ・南北アメリカ・マダガスカル・日本・フィリピンを含む温帯から熱帯にまたがります。北米大陸から南米北部に分布する亜種 hoactli(ホアクトリ)はハワイ諸島にも定着していて、ハワイでも身近な水鳥として観察されます。オーストラリアには近縁のナンキンゴイサギ(Nankeen night heron)が分布し、両種の分布が接する地域では交雑も報告されています。サギ科の中でも屈指の広い分布を持つ種で、世界各地の水辺に同じ姿の鳥がいる珍しい例です。

2022年の狩猟対象からの解除

ゴイサギは長年、狩猟対象鳥獣48種のうちの1種に指定されていました。2016年から2021年にかけて実施された全国鳥類繁殖分布調査で個体数の減少が判明し、環境省での審議を経て2022年9月にバンとともに狩猟鳥獣の指定が解除されました。都市部で身近に見られる一方、繁殖地の湿地環境の減少や人為的な影響で全国的な個体数は減少傾向にあり、身近さと保全課題を併せ持つ状況です。

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参考

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