ツグミ

小型陸鳥

ツグミは、シベリアで繁殖して日本には冬に渡ってくる中型の陸鳥です。冬の田畑や河川敷で地面をトンと跳ねて採餌する姿がよく見られます。日本の冬季にはさえずらず「クワッ」という短い地鳴きだけを発することが、和名「ツグミ(口をつぐむ)」の由来のひとつとされます。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 科:ツグミ科 Turdidae
  • 属:ツグミ属 Turdus
  • 種:ツグミ Turdus eunomus(Temminck, 1831)

和名・英名

  • 和名:ツグミ(鶫)
  • 英名:Dusky Thrush
  • 近縁種:ハチジョウツグミ(Turdus naumanni)はかつて本種と同種として扱われ、亜種として区別された時代もある

学名の由来

属名 Turdus はラテン語で「ツグミ類」を指す古い名前で、ヨーロッパのクロウタドリ(Turdus merula)と同じ属に含まれます。種小名 eunomus はギリシア語で「よく秩序だった」の意で、羽の細かい模様や規則的な渡りに重ねて解釈されます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約24cm/翼開長 約39cm(ムクドリより一回り大きい)
繁殖地シベリア中部〜南部(オビ川流域からカムチャツカにかけて)
越冬地中国南部〜東南アジア北部・朝鮮半島・日本列島
日本での時期10月下旬〜4月上旬。冬鳥として全国で見られる
生息環境平地から山地の農耕地・草原・河川敷・雑木林・都市部の公園
食性雑食(昆虫類・ミミズ・果実・木の実)。冬季は植物質が中心
寿命標識調査で5年以上の生存個体が確認されている
保全状況IUCNレッドリスト:LC(軽度懸念)

名前の由来と「口をつぐむ鳥」

ツグミの成鳥(側面)
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

名前の由来にはいくつかの説があり、いずれもツグミの冬鳥としての性質と結びついています。

冬鳥として渡ってくる

ツグミは日本で繁殖せず、シベリアで繁殖した個体が10月下旬から日本列島へ渡来し、4月上旬までに繁殖地へ帰っていきます。夏の間は日本にいないため、日本の野外で耳にする声は冬季の「クワッ」という短い地鳴きに限られます。繁殖期のさえずりを日本で聞ける機会はほぼありません。

名前の由来の諸説

「つぐむ」説

もっとも広く紹介されているのが、日本の冬にツグミがさえずらないことに由来するという説です。「口をつぐむ鳥」→「つぐみ」と転じたと考えられています。実際にはシベリアの繁殖地では明るくさえずるため、「日本に来ている間だけ黙る鳥」という理解が背景にあります。

地鳴きに由来する説

もう一つの説は、冬に発する「クワッ、クワッ」あるいは「ツクツク」といった地鳴きが「つぐみ」と聞きなされたというものです。名前の由来としては複数の説が併存しており、確定はしていません。いずれの説も冬鳥としてのツグミの特徴に根ざしている点は共通しています。

姿と見分け方

胸のうろこ模様が見えるツグミ
Lip Kee Yap, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

ツグミは中型のスズメ目としては大柄で、ムクドリより一回り大きく、細長い体形をしています。冬の田畑で地面を歩き回るツグミは、体形と胸元の模様で他の中型陸鳥と識別できます。

体色と模様

頭と背の褐色

頭頂から後頭部にかけては黒褐色、背中は褐色で、翼と尾羽は黒褐色の地に赤褐色の羽縁が入ります。目の上には白い眉のような過眼線が走り、顔にはっきりとした表情を作ります。嘴は黒く下嘴の付け根が黄色く、脚はピンクがかった褐色です。雌雄でほぼ同じ姿をしており、フィールドでの見分けは容易ではありません。

胸元のうろこ模様

ツグミを他種と分ける最大の特徴は、胸から腹にかけて広がる黒褐色のうろこ模様です。淡黄色から白の地に、黒褐色の羽縁がうろこ状に重なり、胸から下腹まで縞模様のような紋様を作ります。近くで見るとこの模様が非常に細かく整っており、種小名 eunomus(よく秩序だった)が示す規則性は姿にも現れています。

冬に混同されやすい陸鳥3種との識別

冬の平地でツグミと混同されやすいのはヒヨドリ・ムクドリ・アカハラの3種で、全長・体色・行動パターンにそれぞれ特徴があります。

全長/体色/特徴
ツグミ約24cm/頭黒褐・背褐色・胸うろこ模様/地面を歩き白い眉が目立つ
ヒヨドリ約28cm/全身青灰色・耳羽が茶色/木の上で騒がしく飛び回る
ムクドリ約24cm/全身黒褐色・頬に白斑・嘴と足が橙色/群れで市街地に集まる
アカハラ約23cm/頭黒褐・腹面が明るい赤褐色/うろこ模様なし

群れて越冬する

草地を歩くツグミ
Friedemann Arndt, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ツグミは越冬期にはゆるやかな群れを作り、農耕地や河川敷を移動しながら過ごします。ムクドリのように何百羽もの塊にはならず、数羽から数十羽の緩い集まりで行動することが多い鳥です。

農耕地や河川敷の群れ

刈り取り後の田んぼ・畑の畝間・河原の草地・雑木林の落葉層など、地面の見える開けた環境が主な採餌場となります。数羽ずつが離れて歩き、危険を感じると近くの木や電線に一斉に飛び上がり、警戒がとけると再び地面に降りるという行動を繰り返します。特に真冬の朝、霜の降りた田んぼで単独〜数羽で静かに歩く姿はツグミの代表的な光景です。

春の集団移動

3月末から4月上旬にかけての帰路では、冬の間は分散していた個体が集まり、数十羽〜百羽規模の群れになって北へ向かいます。この時期の群れは「渡り前の集合」と呼ばれ、地域の桜の開花時期と重なるためバードウォッチングの対象にもなっています。

食性と暮らし

地面で採餌するツグミ(日本)
Jerry Gunner from Lincoln, UK, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ツグミは雑食性で、季節と場所に応じて食べるものを大きく変えます。渡来直後は果実・真冬は落葉層の昆虫やミミズ・春先は再び果実というふうに、地面の見える環境と樹上の環境を行き来します。

昆虫食から果実食へ

繁殖地のシベリアではミミズや昆虫の幼虫を主に食べ、雛にも同じものを与えて育てます。日本の冬に到着した直後の10月〜11月には、ピラカンサ・ナンテン・カキ・ヤマグワなどの木の実を集中的に食べる姿がよく観察されています。真冬に果実が減ると、落葉の下や耕された土の中から昆虫の幼虫やミミズを掘り出す採餌に切り替わります。

地面を歩いて採餌

ツグミの採餌でよく知られているのが、地面をトンッと数歩跳ねては立ち止まって周囲を見渡すという、独特のリズムある動き方です。この動きは近縁のクロウタドリなど欧州のツグミ類とも共通で、ツグミ属に共通した採餌スタイルです。跳ねる合間に頭を傾け、地面の音や動きを感じ取っているとの観察もあります。

かつての霞網猟と保全

木の枝にとまるツグミ
Friedemann Arndt, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ツグミは古くから日本で食用にされてきた歴史があり、その捕獲方法として「霞網(かすみあみ)猟」が知られています。現在は狩猟対象から外れて保護されていますが、地域の食文化としての記憶は残っています。

岐阜東濃の伝統食

霞網猟の実態

霞網は目の細かい網を樹木の間に張り、渡り途中の鳥を絡めて捕獲する漁具で、岐阜県東濃地方(中津川・恵那周辺)で特に伝統的に用いられていました。渡来直後の11月ごろに大量に捕獲され、焼き鳥や串焼きとして食されていたとの記録があります。同じ手法は長野県南部でも行われていました。

現代の禁止

霞網はツグミ以外の非狩猟鳥まで無差別に捕獲する問題があり、1947年に鳥獣保護法で全面禁止となりました。ツグミ自体も現在は狩猟鳥獣から外され、捕獲は禁止されています。それでも密猟の取り締まりは続いており、東濃地方など旧来の狩猟地では現在も注意喚起が行われています。

現代の保全状況

IUCNレッドリストではLC(軽度懸念)で、種としての絶滅の危険は今のところ低いと評価されています。ただし越冬地の東アジアの水田・河川敷が農地転用や河川改修で減少しつつあることは、ツグミを含む冬鳥の採餌場の縮小として関連づけて指摘されるようになりました。ツグミが日本の冬の風物として続くためには、渡りのルートと採餌地の両方の保全が欠かせません。

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参考

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