キビタキ

鳥類

キビタキは、オスの黒×黄橙×白のあざやかな配色で知られるスズメ大の夏鳥です。日本の山地の広葉樹林で繁殖し、冬にはフィリピンやボルネオへ渡って越冬します。「ピッコロロ ピッコロロ」と美しい声で歌い、時にはツクツクボウシのセミの声を真似ることでも知られます。オスとメスの色差が大きい種で、褐色のメスは同じ種と気づかれにくいほど姿が異なります。福島県の県鳥にも指定されている、日本の初夏を象徴する鳥のひとつです。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 科:ヒタキ科 Muscicapidae
  • 属:キビタキ属 Ficedula
  • 種:キビタキ Ficedula narcissina

和名・英名

  • 和名:キビタキ(黄鶲)
  • 英名:Narcissus Flycatcher

名前の由来

和名の「黄鶲(きびたき)」は、オスの喉と眉斑・腹部・腰を彩る鮮やかな黄橙色に由来します。「鶲(ヒタキ)」は、キビタキの仲間が「火焚(ヒタキ)」のように尾羽をふるわせる動作を見せることに由来する古い呼び名で、ヒタキ科全体を指す語として使われてきました。英名 Narcissus Flycatcher(ナルシサス・フライキャッチャー)の Narcissus はスイセンの意味で、多くのスイセンの品種に見られる鮮やかな黄色にオスの体色を重ねた呼び名です。学名の種小名 narcissina も同じくスイセン由来で、命名者テミンクが1836年にこの黄色を強調して名づけました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約13〜14cm(スズメよりやや小さい)
繁殖分布樺太〜九州以北の日本列島。夏鳥として山間部で普通
越冬地フィリピン・ボルネオ島などの東南アジア
生息環境山地の明るい落葉広葉樹林・混交林
食性昆虫類・節足動物。フライキャッチングで空中の虫も捕らえる
渡り5月上旬に東南アジアから渡来、オスがメスに先立ち到着
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)

姿と体のつくり

オスの黒×黄橙×白

キビタキのオス(成鳥)
Ik T from Kanagawa, Japan, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

オスの繁殖羽は、多くの野鳥の中でもとりわけ鮮やかな配色を持つとされます。頭から背中・翼・尾は光沢のある黒で、額の上に細い黄橙色の眉斑が入り、そのまま黒の頭部に強いコントラストを与えます。喉から胸の上部は鮮やかな橙黄色で、腹部と腰も黄色く染まります。翼には目立つ白い斑が入り、飛翔時にもよく見えます。全長は13〜14cmでスズメよりやや小さい鳥ですが、色の対比で実物以上に大きく見えることもあります。

メスと幼鳥の褐色

キビタキのメス
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

メスはオスと全く異なり、上面はくすんだ褐色、下面は褐色がかった白色です。翼には赤みを帯びた「錆色」の羽が現れ、目の周りには二色のリング(アイリング)が入ります。同じ種とは気づきにくいほどオスと姿が違い、後述の性差の大きさは本種の特徴のひとつです。

非繁殖期のオスは黄色が薄い

越冬期に入るとオスの黄色は退色して薄くなり、部分的にメスに似た地味な色合いへ変化します。日本で見られる5月〜9月の繁殖期は、オスがもっとも鮮やかな羽を持つ時期にあたります。

オス・メス・幼鳥の見分け

キビタキはオスとメス・幼鳥で姿がまったく異なります。派手なオスに対してメスや幼鳥は褐色系の地味な体色で、林の中で出会うと同じ種と気づきにくい姿をしています。

成鳥オスの派手な三色

成鳥オスは黒・黄橙・白の三色対比で、林の暗がりでも遠目からよく目立ちます。喉の鮮橙色と眉斑の細い黄橙・翼の白斑がそろえば、他の日本産スズメ目と混同することはまずありません。

メスと幼鳥は褐色系

オリーブ褐色の上面と淡い下面

メスの上面はオリーブがかった褐色で、腰と尾筒に淡い黄色が残る個体もあります。喉から胸は淡い褐色で、腹側にかけて白っぽく抜けます。オスの幼鳥もこの褐色型に近く、生まれた年の秋にはメスと非常によく似た姿になります。

オスの幼鳥はメスと見分けが困難

野外でメスとオス幼鳥を確実に見分けるのは困難とされます。オスの幼鳥は最初の冬までメスに似た地味な色合いを保ち、2〜3年目にかけて徐々に黒と黄橙の成鳥羽へ入れ替わっていきます。山道で見られる地味な褐色のキビタキには、メスと若いオスの双方が含まれるとされます。

渡り ―夏鳥として日本の山地へ

5月上旬に到着するオスが先

キビタキは5月上旬に東南アジアの越冬地から日本へ渡来します。まずオスが先に到着してさえずりで縄張りを確保し、良好な巣穴の候補を押さえたうえで、遅れて到着するメスを迎え入れます。年長のオスほど早く到着する傾向があるとされ、渡りの経験が繁殖成功に効いていると考えられています。

フィリピン・ボルネオでの越冬

フィリピンで越冬するキビタキ
Luke Marcos Imbong, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

秋になると南下し、フィリピン諸島・ボルネオ島・ベトナムなどの東南アジアで越冬します。渡りの範囲は広く、迷鳥としてアラスカのアリューシャン列島で観察された記録もあります。日本で初夏に山道を歩いて出会うキビタキは、この長い渡りを毎年繰り返して来ている個体たちにあたります。

さえずり ―「ピッコロロ」とセミの物真似

さえずるキビタキのオス
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

変化に富む「ピッコロロ ピッコロロ」

オスは繁殖期の5月から6月にかけて盛んにさえずります。「ピッコロロ ピッコロロ」と口語的に表現される澄んだ声で、林内でよく通り、姿を見つける前に声で存在に気づかれることが多いとされます。さえずりは大変変化に富み、同じ個体でもフレーズを次々に変えていくため、聴いていて飽きない歌い手として知られてきました。

ツクツクボウシの鳴き真似

「オーシツクツク」とセミの声を織り込む

キビタキは他の鳥類や虫の声を真似ることもあります。特に有名なのが、セミのツクツクボウシの声「オーシツクツク」をさえずりの中に織り込む例で、実際に聞いた人にはセミそっくりに聞こえるほどです。ツクツクボウシは晩夏から初秋に鳴くセミであるため、初夏の山でこの声が響けば、多くの場合キビタキの物真似だとされます。

地域差と個体差

さえずりのパターンは生息地域によっても違いがあり、同じ「ピッコロロ」型でも地域ごとに独自のフレーズが混ざります。学習によって親や周囲の個体からさえずりを取り込む鳥は少なくなく、キビタキの物真似能力もこの学習が背景にあると考えられています。

食性と行動 ―空中で虫を捕らえる

キビタキは肉食性が強く、昆虫類・節足動物を主食としています。名前どおり「フライキャッチャー(虫捕り)」型の採食を得意とし、樹の枝先にとまって獲物を待ち、飛んできた虫を空中で捕らえて元の枝へ戻る「フライキャッチング」がお決まりの動作です。

フライキャッチングと待ち伏せ採食

枝先から空中の虫へ飛び出す

飛翔するキビタキ
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

枝先の見張り位置から空中の虫めがけて飛び出し、獲物を捕らえて同じ枝へ戻る動きを何度も繰り返します。同じヒタキ科の他種と共通する採食スタイルですが、キビタキは繰り返しの頻度が高く、比較的短い間隔で飛び出しては戻ってきます。

地上採食も行う

時には地上に降りて落ち葉の下の虫を拾い、翼の下や足元に隠れた小さな節足動物を追いかけることもあります。空中採食が主軸ですが、餌が乏しい時期や幼鳥期には地上採食の割合が増えるとされます。

広葉樹林の中〜下層

キビタキの主な生活の場は、標高数百メートルから1,500mほどの明るい落葉広葉樹林や、針葉樹との混交林です。林の中〜下層の枝を頻繁に動き回り、地上に降りることは比較的少ないとされます。都市近郊の低山や大きな公園の緑地でも渡り途中に立ち寄る個体が観察され、東京都心の公園でも春秋の渡りの時期に姿を見せることがあります。

繁殖

樹洞や木のうろに営巣

5月に到着したオスがさえずりで縄張りを固めると、迎え入れたメスとつがいになって営巣に入ります。巣は樹洞や木の割れ目に作られ、コケや苔・獣毛などを敷いて内側を整えます。まれに巣箱を利用する例も報告されています。

抱卵はメス・給餌はオスも

ヒタキ科の他種と同じく、卵は白地に淡い斑のある淡色卵で、メスがおもに抱卵します。孵化した雛にはオスも積極的に餌を運び、繁殖後半には両親で頻繁に虫を運ぶ姿が観察されます。渡り性の鳥として繁殖サイクルは短く、7月下旬から8月には繁殖を終え、秋の南下渡りに備えて体を整えていきます。

天敵

成鳥を狙う小型のタカ

飛翔中の成鳥にとっての主な脅威は、樹林を狩り場とする小型のタカ類です。ツミやハイタカが林縁で小鳥を襲うことがあり、キビタキも例外ではありません。オスの鮮やかな体色は繁殖のためのシグナルであると同時に、天敵に見つかりやすいというコストも伴うとされます。

樹洞の巣を襲うヘビと哺乳類

樹洞に営巣する種にとって、抱卵から巣立ちまでの期間は捕食の危険がとくに高くなります。木登りが得意なアオダイショウなどのヘビ類、樹上性のテンやイタチなどの中型食肉類、樹洞をのぞき込むハシブトガラスが巣の卵や雛を襲うとされます。繁殖に失敗したつがいが同じシーズン内で再繁殖を試みる例も報告されています。

分類の見直し ―元3亜種は今3種に

キビタキは以前、日本の亜種のほかに南西諸島のリュウキュウキビタキ・中国北部のキムネビタキを含む多亜種の広い種と考えられていました。しかし2010年代の遺伝学と鳴き声比較の研究で、それぞれが別種として分けられました。

リュウキュウキビタキ ―別種化

南西諸島に生息していた個体群は、以前は亜種リュウキュウキビタキ(F. n. owstoni)と扱われていました。2010年代に別種Ficedula owstoni(Ryukyu flycatcher)として独立させる分類が主要チェックリストで採用され、現在は日本産のみで2種が並び立つ状態にあります。

キムネビタキ ―中国北部の別種

中国北部で繁殖していた個体群も、以前は亜種キムネビタキ(F. n. elisae)と呼ばれていましたが、2010年代に別種Ficedula elisae(Green-backed flycatcher)として分けられました。同じ属で近縁ながら、羽色・鳴き声・分布に違いがあることが決め手となっています。

福島県の県鳥

キビタキは福島県の「県鳥」として指定されています。福島県の山地は本種にとって代表的な繁殖地のひとつで、初夏には磐梯山周辺・裏磐梯や阿武隈高地の広葉樹林でその鳴き声を聞くことができます。県内の自然や初夏の風物として親しまれてきました。

保全状況

IUCNレッドリストではLC(軽度懸念)に評価されており、種としての存続に大きな脅威はないとされています。ただし本種は山地の広葉樹林に依存する種でもあり、里山林や落葉広葉樹林の減少・単純化は繁殖地の質に長期的な影響を与えます。渡り経路や東南アジアの越冬地の生息環境も含めた、広域での保全が今後の課題として指摘されてきました。

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