オカヤドカリは、熱帯から亜熱帯の海岸で陸上生活をするヤドカリの仲間です。日本では小笠原諸島と南西諸島を中心に7種が確認されており、そのすべてが国の天然記念物に指定されています。貝殻の中に水をためて陸で呼吸するという、ヤドカリの中でも変わった暮らし方をします。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 亜門:甲殻亜門 Crustacea
- 綱:軟甲綱(エビ綱) Malacostraca
- 目:十脚目(エビ目) Decapoda
- 下目:ヤドカリ下目(異尾下目) Anomura
- 科:オカヤドカリ科 Coenobitidae
- 属:オカヤドカリ属 Coenobita
和名・英名
- 和名:オカヤドカリ(陸宿借・陸寄居虫)
- 英名:Terrestrial Hermit Crab
オカヤドカリ科にはオカヤドカリ属のほかにヤシガニが属します。ヤシガニは1属1種で、貝殻を背負わない方向へ進んだ種です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 日本産は甲長(頭胸部の長さ)数cm程度。種によって差がある |
|---|---|
| 分布 | 世界では台湾以南のインド太平洋。日本は小笠原諸島・南西諸島が中心で、九州南部や四国南部にも |
| 生息環境 | 海岸に近い陸上。アダンなど海浜植物の群落付近や、内陸の森林 |
| 食べ物 | 雑食。打ち上げられた魚介類やアダンの実など。植物質を比較的好む |
| 寿命 | 25〜30年といわれる |
| 種数 | 世界におよそ15種、日本に7種 |
| 保全状況 | 日本産の全種が国の天然記念物(1970年指定) |
貝殻に水をためて陸で呼吸する
貝殻の中の水と、陸上での鰓呼吸
オカヤドカリは背負った貝殻の中に、ごく少量の水をためています。この水が柔らかい腹部の乾燥を防ぎ、陸上でも鰓(えら)での呼吸を可能にします。ただし水は定期的に補給しなければならず、水辺から遠く離れることはできません。
飼育に海水と真水の両方が要るとされる背景には、この体の作りがあります。
15度を下回ると動けなくなる
熱帯の気候に適応しているため、冬に気温が下がる地域では生きられません。気温が15度を下回ると活動が鈍り、冬眠のような状態になるとされます。この状態が長く続くと死んでしまうため、生息地は亜熱帯までの海岸沿いに限られます。
木に登る脚
脚とハサミは他のヤドカリより太く頑丈で、この作りは同じ科のヤシガニにも通じます。体の大きさに比べて高い木まで登ることがあります。宿にする貝殻も幅広く、陸生のカタツムリの殻から海産の巻貝まで使い、沖縄県などでは外来種のアフリカマイマイの殻も利用します。
「オカヤドカリ」が指す2つのもの
この名前は2つの意味で使われます。ひとつはオカヤドカリ属 Coenobita に属するヤドカリの総称です。もうひとつは、その中の1種 Coenobita cavipes に与えられた和名です。
ペットショップで売られている個体の正体
ペットショップで「オカヤドカリ」として売られている個体は、多くの場合ムラサキオカヤドカリやナキオカヤドカリなど、属のいずれかの種を指します。種としてのオカヤドカリと同じとは限りません。
天然記念物の指定も属をまとめて受けており、この総称としての使い方が前提になっています。
日本にいる7種
世界ではおよそ15種が知られ、そのうち日本で確認されているのは次の7種です。
- オオナキオカヤドカリ Coenobita brevimanus
- オカヤドカリ Coenobita cavipes
- コムラサキオカヤドカリ Coenobita violascens
- サキシマオカヤドカリ Coenobita perlatus
- ナキオカヤドカリ Coenobita rugosus
- ムラサキオカヤドカリ Coenobita purpureus
- オオトゲオカヤドカリ Coenobita spinosus


名前に「鳴く」が入る種
ナキオカヤドカリとオオナキオカヤドカリは、名前のとおり音を出します。声帯にあたる器官はなく、貝殻の内側を脚でひっかいてギチギチ、ギュイギュイという音を立てます。何のために音を出すのかは、まだ分かっていません。
貝殻を捨てた近い仲間、ヤシガニ
同じオカヤドカリ科には、貝殻を背負わなくなったヤシガニがいます。陸上で暮らす節足動物としては世界最大で、体つきはオカヤドカリ属とよく似ています。

陸で交尾し、海へ幼生を放つ一生
大潮の夕方に行われる放幼
繁殖期は5月から8月ごろです。初期に陸上で交尾し、メスは数百から数千個の卵を腹の脚(腹肢)にぶら下げて持ち運びます。卵はメスの殻の内部で孵化寸前まで育ちます。
大潮前後の夕方になると、メスは波打ち際で海水につかり、孵化したばかりのゾエア幼生を海へ放ちます。これを放幼といいます。卵ではなく、孵化した直後の子を海へ送り出す形です。
貝殻に潜りこんで上陸する
ゾエアは海中を漂いながらプランクトンなどを食べて育ちます。およそ1か月の間に数回の脱皮を経て、メガロパと呼ばれる形になります。もう一度脱皮すると、小さいながら成体と同じ体つきになります。
この時期に体へ合う巻貝の殻を見つけて潜りこみ、陸へ上がります。以後は一生を陸で過ごします。飼育下での繁殖が難しいとされるのは、幼生が海でプランクトン生活を送るというこの性質のためです。
脱皮のたびに大きくなる
脱皮の間隔は2週間から数か月に一度とされ、幼い個体ほど短くなります。脱皮の前には砂に潜ったり穴に隠れたりして身を守り、直後の1週間ほどは体が柔らかいままじっとしています。脱ぎ捨てた殻は自分で食べ、新しい外骨格を作る材料にします。
全種が天然記念物という位置づけ
1970年の指定と、その後の経緯
1970年、小笠原諸島でのオカヤドカリの減少を受けて、国の天然記念物に指定されました。ただしこの経緯については、本州にほとんど生息していない物珍しさによる指定ではなかったかという指摘もあります。
1972年に沖縄が本土復帰すると、南西諸島のオカヤドカリも指定の対象になりました。当時の沖縄ではどこにでもいるありふれた生き物として扱われ、釣り餌として人気がありました。専門の捕獲業者も存在していました。厳格に保護するほど個体数が少ないわけではないという事情もあり、一部地域の指定業者に限って量を決めた捕獲が認められています。
業者を通じた販売と、砂浜での採取の違い
業者を通じた流通は違法ではない
2020年時点で、オカヤドカリは観賞魚の販売業者などを通じてペットとして購入できます。流通しているのはほとんどが指定業者の捕獲した個体です。許可を得た業者の捕獲も、小売業者による販売も、消費者の購入も違法ではありません。
砂浜から持ち帰ると文化財保護法違反
一方で、旅行者が南西諸島や小笠原諸島の砂浜から直接持ち帰る行為は文化財保護法の違反にあたります。天然記念物の現状変更に当たるためです。
奄美大島では違法な採取と持ち出しが摘発の対象になっています。押収されたあと自然へ戻す時点で、すでに死んでいる個体も多く出ています。
※ 天然記念物には、種そのものを指定する場合と、生息地を指定する場合があります。オカヤドカリは前者にあたり、日本にいる全種がまとめて対象です。
環境省レッドリストに載る3種
天然記念物の指定とは別に、絶滅のおそれについての評価もあります。環境省レッドリストでは、サキシマオカヤドカリが絶滅危惧II類、オオナキオカヤドカリとコムラサキオカヤドカリが準絶滅危惧とされています。
光合成をやめた植物の種を運ぶ
2026年、神戸大学の末次健司教授がオカヤドカリと植物の関係について報告しました。リュウキュウツチトリモチという植物の種子を運んでいるという内容です。
リュウキュウツチトリモチはほかの植物の根に寄生して栄養を得る、ツチトリモチ科の植物です。自分では光合成をしません。実る果実は長さ約0.3mmしかなく、ほこりのような大きさです。暗く風通しの悪い林の地面で、どう運ばれているのかは分かっていませんでした。
石垣島での観察で分かったこと
貝殻に100個以上つく果実
末次教授は石垣島の森林で、昼夜にわたって直接観察し、インターバルカメラでも記録しました。果実を主に食べていたのはオカヤドカリで、そのハサミや体の表面、背負った貝殻には多数の果実が付着していました。果実の中には種子が入っています。果実を食べている個体には平均で数十個、多い個体では100個以上が付いていたといいます。
糞から出てくる生きた種子
親となる植物から5m以上離れた場所でも、果実を付けた個体が見つかりました。さらに糞からは無傷の種子が出てきており、その一部は消化管を通ったあとも生きる力を保っていました。
体や貝殻に付けて運ぶ経路と、食べたあとに糞とともに運ぶ経路。この2つで種子散布に関わっていることが示されました。オカヤドカリが植物の種子を運ぶ役割を果たすと実証されたのは、これが世界で初めてとされます。
関連ページ

参考
- 神戸大学「オカヤドカリは『光合成をやめた植物』の種子の運び屋さん!?」(2026年8月11日・末次健司教授。石垣島での観察と国際誌 Ecology 掲載の成果)
- Wikipedia「オカヤドカリ」(日本産7種の一覧・陸上適応・生活史・天然記念物指定の経緯)
- 日本のレッドデータ検索システム(オカヤドカリ属各種の指定状況)


