ミナミコメツキガニ

甲殻類・軟体動物

ミナミコメツキガニは、奄美大島や沖縄などの干潟に住む、青みを帯びた球形の体の小さなカニです。潮が引くと大群で前向きに歩いて砂の中の餌を食べ、人が近づくと体を回転させて砂に潜ります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目 Decapoda
  • 下目:短尾下目(カニ下目) Brachyura
  • 科:ミナミコメツキガニ科 Mictyridae
  • 属:ミナミコメツキガニ属 Mictyris
  • 種:ミナミコメツキガニ Mictyris guinotae Davie, Shih & Chan, 2010

和名・英名

  • 和名:ミナミコメツキガニ
  • 英名:Soldier crab(兵隊ガニ)

2010年に分けられた琉球列島の固有種

琉球列島のミナミコメツキガニは、長く台湾や香港、東南アジアのものと同じ Mictyris brevidactylus とされてきました。2010年、体の形と遺伝子の違いから、琉球列島のものが新種 Mictyris guinotae として分けられました。

名前も見た目もコメツキガニに似ていますが、分類は科の段階から違います。コメツキガニはコメツキガニ科(かつてはスナガニ科の一部とされた)、本種は独自のミナミコメツキガニ科に入ります。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ成熟した個体の甲羅の長さはオス8〜16mm、メス6〜14mm(小指の爪から1円玉ほど)
分布琉球列島の固有種。種子島を北限に、奄美大島・沖縄島・宮古島・石垣島・西表島など
生息環境マングローブ林の発達した河口近くの、砂や砂泥の干潟
食べ物砂や泥に含まれる有機物
保全状況IUCN:未評価(NE)

青い球形の体と、フォークのようなはさみ

淡い青から濃い青まで

体は丸みの強い球形で、甲羅の長さは幅よりわずかに大きくなります。甲羅の背中の中央には、浅いU字型の溝があります。色は淡い青から濃い青まで幅があり、若い個体ほど濃く、成長するにつれて淡くなる傾向があります。まれに、淡いピンク色の個体も見られます。

砂をすくうためのはさみと長い脚

左右のはさみは同じ大きさで、先が細く二又に分かれたフォークのような形をしています。この形は、砂をすくうのに適しています。細長い脚は甲羅の幅よりも長く、体を高く持ち上げて歩けます。口は体の割に大きく、半球形の顎脚(がっきゃく)という口の周りの脚に覆われています。

潮が引いた干潟を前向きに行進する大群

水際に沿ってできる数万の群れ

昼間の干潮時、干潟が現れ始めると、甲羅の長さ8mm以上の個体が地上へ出て波打ち際へ移動します。下がっていく水際に合わせて歩きながら餌を食べるため、群れは水際に沿って長く伸びます。最も潮が引いたときには、数百から数万の大きな群れがいくつもできます。こうした群れは、冬と荒天の日を除けば、ほぼ一年中見られます。

横でなく前へ歩くカニ

多くのカニは横に歩きますが、ミナミコメツキガニは前へ歩きます。脚で体を持ち上げた高い姿勢のまま、多数の個体がそろって進みます。集団で前へ進む様子が軍隊の隊列に似ていることから、英語では Soldier crab(兵隊ガニ)と呼ばれます。

1匹では避ける水たまりを群れで渡る

ミナミコメツキガニは、湿って柔らかい砂泥のある水たまりの近くに多く集まりますが、普段は水の中に入りません。水際に多くの個体が密集したときだけ、それまで避けていた水の中へ進み始めます。群れは連なるようにして、水たまりを渡っていきます。

西表島の個体を使った実験では、移動中のカニが他の個体に付いていくことが確かめられました。この性質のおかげで、群れはばらばらにならずに保たれます。多くの個体が集まることで、1匹ずつの行動の決まりが変わる例と考えられています。

群れを使った計算の実験

ミナミコメツキガニの群れは、動き方に決まった傾向があります。この性質を使い、コンピューターの計算の基本になる仕組み(論理回路)の一部を、カニの群れで表す実験が行われました。

実験では、最大40匹の群れを、天敵の鳥の影を映した映像で通路へ追い込みました。通路の形によって2つの群れが出会うと、群れは一定の動き方で合流し、その働きを再現しました。

砂団子を残して食べる

砂の中の有機物をこし取る

歩きながらはさみで砂泥をつまみ、口へ運びます。砂泥に含まれる生き物の遺骸のかけら(デトリタス)やプランクトンをこし取って食べ、残った砂は丸めて足下へ捨てます。群れが通り過ぎた後の干潟には、小さな砂の団子がたくさん残ります。

ねじのように回って砂に潜る

決まった巣穴を持たない暮らし

コメツキガニと違い、決まった巣穴を持ちません。敵が近づくと、脚で砂泥をかきながら自分の体をねじのように回転させ、足下の砂泥へ素早く潜り込みます。満潮の前にも砂の中へ潜り、次の干潮までそこで過ごします。

主な捕食者は鳥

天敵には、フエダイやオオウナギなどの魚や、アシハラガニやベニツケガニのような大型のカニもいます。中でも主な捕食者はサギ・シギ・チドリなどの鳥で、カニは鳥の影にも敏感です。

よく発達した目(複眼)で周り360度を見渡せますが、奥行きは感じ取れないとされます。鳥に気付くと一斉に砂へ潜るため、群れはたちまち消えます。危険が去ると、再び地上へ出て餌を食べ始めます。

シオマネキ
シオマネキはオスの片方のはさみだけが甲羅ほど大きくなる干潟のカニ。潮を招くように見えるウェービング(求愛)、右利き左利き、満潮線の巣穴、絶滅危惧種としての現状まで。

冬の繁殖と黒潮による幼生の移動

約30日の抱卵から、干潟にたどり着くまで

成熟したメスは約30日間卵を抱え、かえったゾエア幼生(親とは似ていない、水中を漂う幼生)を海へ放します。幼生は数週間、海中を漂います。その後、メガロパ幼生(カニに近い形になった最後の幼生)となって、育つのに適した干潟へたどり着きます。

繁殖期は冬で、沖縄島では11月から3月、西表島では12月から2月です。奄美大島も、沖縄島と同じ11月から3月と考えられています。若い個体は2月から4月に現れ、寿命は1〜2年とされます。

北限の種子島の集団

種子島と奄美大島の間にあるトカラ列島には、住むのに適した干潟が見つかっていません。そのため種子島の集団は、南の島々から離れた飛び地になっています。

2020年2月の調査では、種子島の2つの川で合わせて7匹が見つかり、そのうち2匹は卵を抱えたメスでした。どれも甲羅の長さ10mmを超える大きな個体で、新しく干潟に加わったばかりの小さな個体は見つかっていません。南の島々から黒潮に乗って幼生が運ばれてくる可能性があり、その経路を調べる研究も行われています。

よく似た近縁種・同じ属の仲間

台湾などの近縁種は脚に赤い帯

台湾や香港などに住む近縁の Mictyris brevidactylus は、ミナミコメツキガニとよく似ています。どちらも甲羅は淡い青色ですが、ミナミコメツキガニの方が小さく、脚に赤い帯がありません。オスの交尾器の形や遺伝子にも違いがあります。

次の写真は、台湾で撮影された M. brevidactylus です。脚の赤い帯が、ミナミコメツキガニとの違いです。

台湾の近縁種 Mictyris brevidactylus を前から見た姿。脚に赤い帯がある
Chen-Pan Liao, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

世界に8種いる同じ属の仲間

ミナミコメツキガニ属には、この種の他に7種が知られています。多くはオーストラリアに住み、干潟で大きな群れを作ります。次の写真は、オーストラリアのモートン島の干潟に集まった、同じ属の別種の群れです。

オーストラリアのモートン島の干潟に集まる近縁種の大群
Karchi78, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
カニ【総合】
横歩きや大きなはさみで知られるカニの仲間を、まとめて紹介します。10本のあし・エラ呼吸・脱皮などの体のしくみから、カラッパ・ワタリガニ・シオマネキなど科ごとの代表種、タラバガニがヤドカリの仲間である話まで、日本のカニを図鑑としてまとめます。

参考

画像出典

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