ハヤブサは、急降下で時速300kmをこえる、世界最速の動物として知られる鳥です。南極やニュージーランドをのぞくほぼ全世界にすみ、猛禽のなかでもっとも広く分布します。近ごろは都市の高いビルにも巣をつくり、街なかで見られることも増えました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:ハヤブサ目 Falconiformes
- 科:ハヤブサ科 Falconidae
- 属:ハヤブサ属 Falco
- 種:ハヤブサ Falco peregrinus
和名・英名
- 和名:ハヤブサ(漢字で「隼」)
- 英名:Peregrine falcon(さすらいのハヤブサ、の意味)
名前の由来
「ハヤブサ」という名前は、その速さにちなむとされています。「速い」ことを表す言葉から来た、と考えられています。英名の「ペレグリン(peregrine)」は、「さすらいの」「旅する」という意味です。北の地域にすむものが、季節ごとに遠くへ渡ることにちなみます。学名の peregrinus も、同じ「旅する」という意味です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 オス38〜45cm・メス46〜51cm(カラスほど) |
|---|---|
| 分布 | 南極とニュージーランドをのぞく、ほぼ全世界 |
| 生息環境 | 海岸や山の断崖、近年は都市の高い建物 |
| 食べもの | 肉食(おもに中型の鳥。地上の小動物も) |
| 寿命 | 野生でおよそ10〜15年 |
| 保全状況 | IUCN: LC(軽度懸念)/環境省: 絶滅危惧II類(VU) |
世界最速の動物

急降下で時速300kmをこえる
ハヤブサは、獲物をしとめるとき、空高くから一気に急降下します。翼をすぼめて、弾丸のように落ちていきます。その速さは、時速300kmをこえるとされます。これは、地球上でもっとも速い動物のひとつです。ただし、これは自分から落ちる「急降下」の速さです。羽ばたいて水平に飛ぶときは、ここまでの速さは出ません。
「390km/h」の記録と、慎重な見方
もっとも有名な記録は、時速389kmというものです。2005年に、訓練されたハヤブサをスカイダイバーと一緒に落下させて計ったとされます。いっぽうで、この数字には慎重な見方もあります。レーダーで確実に計れた速さは、時速180kmほどが最高だという指摘もあるのです。とても速いことは確かですが、「何km出るか」は、計り方によって幅があります。
高速でも壊れない体のしくみ

時速300kmもの速さで落ちれば、体には大きな負担がかかります。ハヤブサの体には、それに耐えるためのしくみがそなわっていると考えられています。
落下に耐える、二つの工夫
鼻のこぶで、空気の流れをそらす
高速で落ちると、鼻から強い空気が入りこみ、肺をいためるおそれがあります。ハヤブサの鼻の穴には、小さな骨のこぶがあります。このこぶが、入ってくる空気の流れをうまくそらすと考えられています。空気の勢いをやわらげ、急降下中でも息をしやすくするしくみだとみられています。ジェット機の空気取り入れ口に、よく例えられます。
透明なまぶたで、目を守る
ハヤブサには、ふつうのまぶたのほかに、「瞬膜(しゅんまく)」という透明な第三のまぶたがあります。急降下のあいだ、この瞬膜をとじて、目を守ります。瞬膜は涙を広げてゴミを取りのぞき、目をきれいに保ちます。透明なので、とじたままでも前を見つづけられます。高速で飛びながら、しっかり獲物をねらえるのです。
狩りのしかたと、食べもの
高く上がって、一気に落ちる
ハヤブサの狩りは、空中がおもな舞台です。まず、飛んでいる鳥よりも高いところまで上がります。そこから狙いをさだめ、翼をすぼめて急降下します。落ちる勢いのまま、獲物を足で強くたたき落とします。自分がケガをしないよう、獲物の片方の翼をねらって当たるとされます。
えものは、ほとんどが鳥
ハヤブサの食べものは、そのほとんどが飛んでいる鳥です。ハト・ムクドリ・ヒヨドリ・カモなど、体重1.8kg以下の鳥をよくとらえます。都市では、たくさんいるドバト(カワラバト)が大切なえさになっています。鳥のほかに、地上のネズミや小さな爬虫類、ときには昆虫も食べます。
くちばしの「歯」でしとめる
ハヤブサの上のくちばしには、小さな出っぱりがあります。「歯」のようなこの出っぱりは、獲物の首の骨を断つのに使われるとされます。急降下でたたき落としたあと、この歯でとどめをさします。速さだけでなく、しとめる道具もそなえた狩人です。
メスのほうが大きい

カラスくらいの大きさ
ハヤブサの大きさは、カラスと同じくらいです。背中は青みがかった灰色で、腹には細い横しまがあります。頭は黒く、ほおには「口ひげ」と呼ばれる黒い模様があります。この口ひげ模様は、ハヤブサを見分ける大きな手がかりになります。翼は細くとがっていて、速く飛ぶのに向いた形です。
メスがオスより、ひとまわり大きい
ハヤブサは、メスのほうがオスより大きい鳥です。メスはオスより、最大で3割ほど大きくなります。これは、多くの猛禽に共通する特徴です。ふつうの動物ではオスが大きいことが多いので、これは「逆の関係」といえます。なぜメスが大きいのか、はっきりした理由はまだ分かっていません。卵やひなを守る役目と関わりがある、という考えもあります。
世界でいちばん広く分布する猛禽

南極とニュージーランド以外、どこにでも
ハヤブサは、世界のほとんどの場所にすんでいます。すんでいないのは、南極などの極地・高すぎる山・深い熱帯雨林くらいです。大きな陸地でまったくいないのは、ニュージーランドだけとされます。これほど広く分布する野生の鳥は、ほかにあまりいません。ハヤブサは、世界でもっとも広く分布する猛禽なのです。
崖から、都市のビルへ
ハヤブサは、もともと海岸や山の断崖に巣をつくる鳥です。近ごろは、都市の高いビルや橋を、崖のかわりに使うようになりました。高いビルは見晴らしがよく、えさになるドバトもたくさんいます。ハヤブサにとって、都市は住みやすい新しい「崖」なのです。海外では、ビルの巣を映すライブカメラも人気を集めています。
日本のハヤブサ
九州より北に、一年じゅう
日本にも、ハヤブサはすんでいます。九州より北の地域では、一年をとおして見られます(留鳥)。冬になると、北から渡ってくるものも各地で見られます。海岸の断崖などで暮らし、飛んでいる海鳥などをとらえます。数は多くなく、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類(VU)とされています。
断崖の窪みに、3〜4個の卵
日本のハヤブサは、3月から4月ごろに卵を産みます。巣は作りこまず、断崖の窪みに、そのまま3〜4個の卵を産みます。おもにメスが卵をあたため、29〜32日ほどでひなが生まれます。ひなは孵化してから35〜42日ほどで、巣立ちをむかえます。生まれて2年ほどで大人になり、同じ相手と長くつがいをつづけます。
似た鳥との見分け方

「隼に似た鳥」を見分けるには、いくつかのコツがあります。よく間違われる鳥と、見分けの手がかりをまとめます。
- チョウゲンボウ……同じハヤブサ科ですが、ひとまわり小さく、背は茶色です。空中で羽ばたいて止まる「停空飛翔(ホバリング)」をよくします。ハヤブサは、この止まり方をあまりしません。
- タカ・ワシのなかま……翼の先が丸みをおびるものが多く、ハヤブサの翼は細くとがります。ほおの黒い「口ひげ模様」も、ハヤブサを見分ける目印です。
- 幼鳥どうし……ハヤブサの幼鳥は、成鳥より茶色っぽく、腹のしまが横でなく縦になります。若い個体は、いっそう見分けがむずかしくなります。
ツバメより速い? 新幹線「はやぶさ」との関係
「ハヤブサは、ツバメより速いの?」と、よく聞かれます。答えは、比べ方によって変わります。ハヤブサの時速300km超は、あくまで自分から落ちる急降下の速さです。羽ばたいて水平に飛ぶ速さでは、アマツバメのなかまなど、負けない鳥もいます。つまり「まっすぐ飛ぶ競争」なら、ハヤブサが一番とはかぎりません。それでも、急降下をふくめた速さでは、やはりハヤブサが群をぬいています。新幹線の「はやぶさ」も、この鳥の速さにちなんで名づけられました。
絶滅の危機からの復活
ハヤブサは、20世紀の半ばに、世界の多くの地域で数を大きく減らしました。原因は、DDTという農薬でした。DDTは獲物の鳥の体にたまり、それを食べるハヤブサの体にも濃くたまります。すると卵のからが薄くなり、うまくかえらなくなってしまったのです。1970年代のはじめにDDTが禁止されると、数は少しずつ回復しました。巣の保護や、育てた個体を野に放す活動も、これを支えました。今では多くの地域で数をもどした、保全の成功例のひとつです。
参考
- Wikipedia(英語版)「Peregrine falcon」(速度・急降下・鼻孔のこぶ・瞬膜・分布・DDT)
- Wikipedia(日本語版)「ハヤブサ」(国内の分布・繁殖・亜種・環境省RL)
- IUCN Red List:Falco peregrinus(保全状況 LC)/環境省レッドリスト(絶滅危惧II類)


