ジャイアントモアは、かつてニュージーランドにすんでいた、世界でいちばん背の高い鳥です。翼が一枚もない、鳥の中でもとても変わった姿をしていました。メスは頭を上げると3.6mもの高さの葉に届き、体重は250kgにもなったと考えられています。ところが、人間がこの島にやってきてから、わずか100〜150年ほどの狩りによって絶滅しました。ニュージーランドの森を代表した巨鳥は、いまでは骨や卵の標本でしか、その姿を知ることができません。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:モア目 Dinornithiformes
- 科:モア科(ディノルニス科)Dinornithidae
- 属:ディノルニス属 Dinornis
- 種:ジャイアントモア(南島 Dinornis robustus/北島 Dinornis novaezealandiae)
和名・英名
- 和名:ジャイアントモア
- 英名:Giant moa(ジャイアント・モア)
名前の由来
「モア(moa)」は、ニュージーランドの先住民マオリの言葉で、大きな鳥をあらわします。その中でもとくに大きい種が「ジャイアント(巨大な)モア」と呼ばれます。属の名前 Dinornis は「恐ろしい鳥」という意味で、その巨大さから名づけられました。モアの仲間は全部で9種ほどいましたが、ジャイアントモアはその中でいちばん背の高いグループです。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 背の高さ 約2m・頭を上げると約3.6m・体重 最大約250kg(世界一背が高い鳥) |
|---|---|
| 分布 | ニュージーランド(固有種)※絶滅 |
| 生息環境 | 森・低木林・草原 |
| 食べ物 | 葉・小枝・果実・種など(胃石で消化) |
| 絶滅した時期 | 1400〜1450年ごろ(人間の到来から150年以内) |
| 絶滅の原因 | 人間による狩猟と、森の焼き払い |
世界一背の高い鳥

頭を上げると3.6mの高さ
ジャイアントモアは、いまも昔もふくめて、世界でいちばん背の高い鳥です。背中の高さは約2mですが、長い首をのばして頭を上げると、3.6mもの高さの葉に届きました。体重は大きいもので250kgにもなります。ただし、ふだんは首をまっすぐ上に立てるのではなく、前へゆるやかに構えて歩いていたと考えられています。ダチョウやエミューよりもさらに大きな、まさに巨鳥でした。
メスがオスよりずっと大きい
ジャイアントモアのおもしろい特徴が、メスとオスの大きさの違いです。この鳥はメスがオスよりもはるかに大きく、高さで約1.5倍、体重では2倍以上もありました。鳥の中でも、これほど差の大きい例はめずらしいものです。あまりに差が大きかったため、昔はオスとメスが別々の種としてまちがえられていたほどでした。のちのDNA研究で、同じ種のオスとメスだったことがわかっています。
翼が一枚もない、唯一の鳥
モアの仲間は、鳥の中で唯一、翼の骨がまったくない鳥でした。ダチョウやエミューなどの飛べない鳥も、小さな翼の骨だけは残しています。ところがモアには、その痕跡すらありません。長い進化の中で、翼を完全に手ばなしてしまったのです。そのぶん脚は太くがんじょうで、大きな体をしっかり支えていました。
骨と、残された姿


たくさんの骨や、卵が見つかっている
ジャイアントモアの絶滅は比較的あたらしいため、たくさんの手がかりが残っています。ニュージーランド各地の洞くつや泥炭地からは、状態のよい骨が大量に見つかりました。中には、大きな卵がまるごと残っている例もあります。卵は長さ20cmをこえるものもあり、両親が交代で温めたと考えられています。これらの骨や卵は、いまも博物館で見ることができます。
羽や皮まで残ったミイラも
おどろくことに、乾いた洞くつからは、羽や皮までのこった「ミイラ」状の標本も見つかっています。これらから、モアの羽の色が、淡い茶色から灰色っぽい色だったことがわかりました。飛べないため、飛ぶための羽はなく、全身がふさふさとした羽毛でおおわれていたようです。ふつう絶滅した鳥では骨しか残りませんが、モアは羽の色まで分かる、めずらしい例です。
森の巨鳥の暮らし

葉や果実を食べ、胃石で消化
ジャイアントモアは、森や草原で植物を食べて暮らす草食の鳥でした。見つかった胃の内容物から、葉・小枝・果実・種など、いろいろな植物を食べていたことがわかっています。歯のない鳥がかたい植物を消化するために役立ったのが、飲みこんだ小石「胃石」です。胃の中でこの石が食べ物をすりつぶしました。これは、いまのダチョウやヒクイドリと同じ工夫です。
天敵は、巨大なワシ
人間が来る前のニュージーランドには、けものの天敵がいませんでした。かわりにモアをおそったのが、空から来る巨大な「ハーストイーグル」です。これは、いまも昔もふくめて世界最大級のワシで、なんと大人のモアさえも襲うことができました。モアが絶滅すると、獲物を失ったこのワシもまた絶滅しています。二つの巨鳥は、たがいに深く結びついていたのです。
進化と、意外な親せき
走鳥類のなかま
ジャイアントモアは、ダチョウ・エミュー・ヒクイドリ・レアなどと同じ「走鳥類(そうちょうるい)」という、飛べない大きな鳥のグループに入ります。走鳥類は、飛ぶことをやめて地上で大きく育った鳥たちです。その中でもモアは、翼を完全になくし、極端な性差を持つなど独特の進化をとげました。ニュージーランドという、けものの天敵がいない島だからこそ生まれた姿です。
いちばん近いのは、飛べる南米の鳥
意外なことに、モアにいちばん近いいま生きている鳥は、同じニュージーランドのキーウィではありません。DNAの研究によって、南アメリカにすむ「シギダチョウ」という、空を飛べる小さな鳥がもっとも近い仲間だとわかりました。飛べる鳥が近縁というのは、少しふしぎに思えます。これは、モアの祖先がもともと飛べる鳥だったことを示しています。島にたどり着いてから飛ぶ力を失い、大きくなっていったのです。
人間とのかかわり ― 狩りと絶滅の歴史

ポリネシア人の到来(13世紀ごろ)
ニュージーランドは、人間が最後にたどり着いた大きな島の一つでした。ポリネシア系の人々(のちのマオリ)がこの島にやってきたのは、1300年ごろとされています。それまで、モアにとっての天敵は空のワシだけでした。地上を歩く人間という新しい敵に、モアはまったく慣れていなかったのです。
「モア狩り人」の時代
島にやってきた人々にとって、大きくて飛べないモアは、またとない食料でした。初期のマオリは、モアをさかんに狩ったことから「モア・ハンター(モア狩り人)」とも呼ばれます。海辺や川ぞいには、モアを解体して調理した大きなキャンプの跡が、いくつも残っています。そこからは焼かれた大量のモアの骨が見つかっており、モアが日々の食料だったことを物語っています。
さまざまな狩りの方法
わなと、追い立て
マオリの伝承には、モアの狩り方がいくつも伝えられています。
- 輪なわ(わな)で足をからめとる
- 湖に追いこんで、カヌーから仕留める
- 大勢で追い立てて、疲れさせる
- 落とし穴に落とす
飛べないモアを捕らえるため、さまざまな工夫があったようです。一羽でたくさんの肉がとれるモアは、それだけ大切な獲物でした。
焼けた石を飲ませる?
ちょっとおどろく言い伝えもあります。モアはふだん、消化を助けるために小石を飲みこむ習性がありました。その習性を逆手にとった、という言い伝えです。焼けた小石を飲みこませ、体の中からやけどをさせて弱らせた、というのです。ただし、これは言い伝えであり、本当に行われたのかは分かっていません。
むだなく使われたモア
狩ったモアは、肉だけでなく、体じゅうがむだなく使われました。大きな卵は食べられ、じょうぶな殻は水を運ぶ入れ物にもなりました。がんじょうな骨は、釣り針・針・道具や、首かざりなどの装飾品に加工されます。羽毛はマントやかざりに使われました。モアは、マオリの人々の暮らしを、まるごと支える存在だったのです。
150年たらずで、姿を消した
モアは、卵をわずかしか産まず、大きく育つのに時間がかかる鳥でした。そのため、いちど数が減ると、なかなか回復できません。狩りにくわえて、森を焼き払う開拓や、人が持ちこんだ犬・ネズミによる卵やヒナの捕食も打撃になりました。人間が到来してからわずか100〜150年ほど、西暦1400〜1450年ごろには、ジャイアントモアはほぼ絶滅したと考えられています。これほど短い間に大型動物が滅んだ例として、モアはしばしば取り上げられます。
研究の歴史と、復活の話
巨大な骨からわかった、絶滅鳥
ヨーロッパ人がニュージーランドを探検したころ、モアはすでに絶滅していました。しかし1840年代に、地元の人が見つけた巨大な骨がヨーロッパへ送られます。これを調べたイギリスの学者リチャード・オーウェンが、かつていた巨大な絶滅鳥だと見ぬきました。ここからモアの研究が本格的に始まり、いまでは全身の骨格が博物館にならんでいます。
モアをよみがえらせる?
近年、絶滅した動物をよみがえらせる「脱絶滅(だつぜつめつ)」の話題で、ジャイアントモアが注目されています。2025年には、映画監督のピーター・ジャクソンらが出資して南島のジャイアントモアを復活させる計画が発表され、大きな話題になりました。ただし、残されたDNAはとぎれとぎれで、いたみも進んでいます。専門家からは、完全な復元はとてもむずかしいという声もあがりました。「よみがえらせられるのか」「よみがえらせるべきか」の両方が、いま議論されています。
神話・文化の中のモア
マオリの伝承に残る巨鳥
マオリの人々の言い伝えには、大きな鳥にまつわる物語がいくつか残っています。すべてがモアを指すとは限りませんが、かつて実在した巨鳥の記憶が、伝説の中に生きているのかもしれません。モアの骨や羽は、道具やかざりにも使われました。この鳥は、ニュージーランドの人々の暮らしと、深く結びついていたのです。
恐竜ではなく、羽毛の鳥
ジャイアントモアは、その巨大さから「恐竜のような鳥」と紹介されることがあります。しかしモアは恐竜ではなく、全身を羽毛でおおわれた、れっきとした現代の鳥の仲間です。恐竜の時代よりずっとあとに、鳥として進化した生き物なのです。巨大でありながら、やさしい草食の鳥だったモア。その姿は、島の自然が生み出した進化の不思議を、いまに伝えています。



参考
- New Zealand Birds Online「South Island giant moa」(世界一背の高い鳥=メスは背丈約2m・頭を上げると3.6m・最大250kg/人の到来から150年以内に乱獲で絶滅/最近縁は飛べる南米のシギダチョウ/残存DNAは断片的で復元は困難)
- Te Ara: The Encyclopedia of New Zealand「Moa」(モア類は9種・モア目Dinornithiformes・翼が完全に無い唯一の鳥・胃石で消化・天敵はハーストイーグル)
- Wikipedia「Moa」英語版(9種6属/首をのばすと約3.6m・約230kg/ポリネシア人到達1300年ごろから100年以内に絶滅/メスがオスより極端に大きい)


